咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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パラディンさんもこの場にいられたらどんなに良かったか……

 天気は曇りなれど馬場は「良」、1番人気は当然凱旋門賞ウマ娘のスズシロナズナ先輩… ではなく、凱旋門賞2着のルミエルシュプリームさん。次いで天皇賞春秋連覇を果たしたスメラギレインボー生徒会長、アルデーティーさん、ブラックリリィ先輩、バラタックさんと続く。

 

 ナズナ先輩はまさかの6番人気。というのも「スズシロナズナは雨の日にしか勝てない」というジンクスがあるせいだ。

 

 過去彼女が勝ってきた、凱旋門賞を含む4つのGⅠ全て「雨天」という実績から導き出されたデータだが、今回はどうなるのか全く予想がつかない……。

 

 まだこの他にもパッションオレンジ先輩や、ブラッドハーレー先輩といった強豪古参勢も居るのだ。物凄く熱いレースになるのは間違い無いだろう……。

 

 更にここにメジロパラディンさんが居れば、私としては理想的なレースだった。返す返すも残念で仕方ない。

 

「パラディンさんもこの場にいられたらどんなに良かったか……」

 

 思わず独り言がこぼれ出る。

 

「本当にそうですね……」

 

 まさか北野トレーナーが戻って来ていたとは気付かずに、驚きで「ひゃっ!」と変な声を出してしまう。あぅ、恥ずかしいなぁ……。

 

 北野トレーナーは私の隣に座り、買ってきたお茶とサンドウィッチを提供してくれた。

 

 ☆

 

 北野トレーナーはこれまでパラディンさんの体調を完璧に管理して、レースに臨んできた。

 

 その管理術は私の担当である新代トレーナーですら「教わりたい」と評する物で、今回のパラディンさんの怪我が北野トレーナーのせいとは到底思えない。

 

 ただ、今回のパラディンさんに『全てのメジロの夢』が集約している以上、「運が悪かったね」だけで済む話では無く、誰かが責任を取る必要があるのは子供の私でも理解できる。

 

 私もパラディンさんも北野トレーナーの素晴らしさを知っているからこそ、そのままパラディンさんの専属トレーナーとして続けてほしいと願っているが、恐らくはそうはならないだろう。

 

 その結果が見えているからこそ、パラディンさんも北野トレーナーと上手く向き合えずに、私にレース観戦を譲って、いや押し付けてきたのではなかろうか?

 

 私に2人のフォローが出来れば良いのだけれど、何の策も思いつかないまま今に至ってしまっている。

 

「北野さん、私、もしこの場にパラディンさんが出走していたと想定して、シミュレーションしながら観戦しようと思います」

 

「ほぉ、良いですね。では私もその様に。後で着順の答え合わせでもしましょうか…」

 

 北野トレーナーはそう言って珍しく微笑みを見せた。とても寂しそうではあったけれど……。

 

 ☆

 

 レースが始まった。先頭を取ったのはスメラギ会長、次いでアバロン。3番手にバラタックさんが続く。

 

 少し離れてロードアンドホークさん、ナズナ先輩、ハーレー先輩。間がなくフォーゲル、ハピネスちゃん、リリィ先輩となる。

 

 私の見立てでは、パラディンさんが位置取るとしたら、今のナズナ先輩のポジション辺りを狙うと思う。私だったらリリィ先輩のポジションかな?

 

 欧州の刺客たるルミエルさんとアルデーティーさんは、リリィ先輩の後ろに不気味に控えている。『世界レベルの差し脚』とやらを勉強させてもらおうと思う。

 

 レースは第2コーナーを回って向こう正面に。ここでパッション先輩が早く仕掛けた。

 10番手くらいに控えていたパッション先輩、がロングスパートで3番手に上がってくる。

 

 第3コーナーまで来て先頭は未だにスメラギ会長とアバロンの2人で競り合い、その下にパッション先輩が続いている。

 

 そして東京レース場名物の大欅を越えた第4コーナーで全員が動き始める。

 ナズナ先輩はまだ7番手程に居て、ハピネスちゃんとフォーゲルも同じくらい。

 

 直線に出たタイミングで大きく仕掛けてきたのは、ルミエルさんとアルデーティーさんの欧州コンビ。

 轟音が聞こえてきそうな激しい足遣いで、猛烈な追い上げを始めてくる。

 

 だがその『欧州最強』と呼ばれるコンビを後ろから追い上げる者がいた。

 

 リリィ先輩だ……。

 

 リリィ先輩はその「飛ぶ」と評される末脚で、「飛ぶ」というか、空中を「魚のように泳」いでいる様に見える。とても気持ち良さそうに。

 

 私なら…… 『《完成形領域(ゾーン)》』が上手く発動すれば、リリィ先輩の末脚…… 恐らくは彼女の《領域(ゾーン)》と渡り合えるかも知れない。

 

 まぁ最終直線でリリィ先輩と競り合える所まで私の実力があるという前提の話ではあるが……。

 

 スメラギ会長もアバロンもこの3人の末脚には抗いきれずにその位置を譲る。

 かろうじて位置をキープしていた前年度優勝ウマ娘のバラタックさんが抵抗してはいる。

 

 フォーゲルがリリィ先輩の真後ろにつくようにスパートを掛けるが、今からでは恐らく届かない。ハピネスちゃんもナズナ先輩も共に馬群に呑まれて上がってこれない。

 

 やがてルミエルさんとアルデーティーさんが揃ってバラタックさんを抜いた。そしてゴールまであと20mの地点で、なんとリリィ先輩がその2人を差して先頭に立つ。

 

 そして起こる大歓声。最終的にジャパンカップに攻め込んできた欧州の最強ウマ娘達を撃退したのは、凱旋門賞ウマ娘のナズナ先輩では無く、そのデビュー戦からのライバルらしいリリィ先輩であった。

 

 メモリアルシートの据え付けテレビでも実況アナウンサーの声が響いている。「世界よ見たか?! これが日本のブラックリリィだ!」と、かなり興奮しているのが分かる。

 

 確かに昨年の凱旋門賞ウマ娘と今年の英国ダービーウマ娘、更には今年の凱旋門賞ウマ娘にも堂々と勝利したリリィ先輩は、今この瞬間「世界一のウマ娘」と言っても過言ではないだろう。

 

 着順を記すと、1着がリリィ先輩で見事に昨年2着に敗れた雪辱を果たした。2着がイタリアの刺客アルデーティーさん、3着が欧州王者のルミエルシュプリームさん。

 

 次いで4着にバラタックさん、フォーゲルは追い込み足りずここ5着。6着はハナ差でロードアンドホークさん。

 スメラギ会長とアバロンは仲良く7、8着で、ハピネスちゃんが9着、ナズナ先輩はなんと10着に沈んでしまった。

 

 ナズナ先輩の惨敗に関しては、観客席の雰囲気からして「大体予想通り」といった感じで、あまり怨嗟の声は聞こえてこない。

 

「迫力のレースだったわね… どうかしらコスモスさん、もしパラディンが走っていたら何着でしたか? 私の予想はこのメモ用紙の裏に書きました」

 

 おっとそうだった。このジャパンカップをパラディンさんが走る想定でシミュレーションするという北野トレーナーとの約束があったんだった。

 途中から自分が走るシミュレーションに没頭してしまって、パラディンさんの事を失念していたよ。

 

 北野トレーナーはメモ用紙を伏せて置いている。答え合わせかぁ、真面目に考えないとな……。

 

「そうですねぇ、パラディンさんなら大欅までは先行策で理想的なポジションに付けたと思います」

 

 ここで一旦息を入れて、頂いたお茶で口を潤ませる。

 

「ただ第4コーナーから直線にかけてパラディンさんの好むコースにはナズナ先輩とハピネスちゃんが居たので、1人ならともかく2人に挟まれたらパラディンさんに脱出は難しいかなぁ… という訳で、うーん、パラディンさんは… 『8着』です!」

 

 正直それでも苦しいかも知れない。多分親友(ライバル)の贔屓目も加味してこの順位だ。

 

「ふふ、コスモスさんは優しいですね…」

 

 そう軽く微笑んだ北野トレーナーがめくったメモ用紙には「11」と書かれていた……。

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