咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
白熱したジャパンカップであったが、その反応は様々で、特に『凱旋門賞ウマ娘』であるスズシロナズナ先輩の敗因探しは、テレビやネットで大きな話題となった。
ただ話題とはなったが、特に荒れたりはせず「雨じゃなかったんだから仕方ない」というレース前の予想通りの結論で大体終わっていた。
なんでもファンの間では『スズシロナズナは雨が降ったら世界レベル、晴れた時はGⅢレベル』などと失礼な物言いも流行っているそうだ。
この辺りナズナ先輩本人はどう思っているのだろう? いつか機会があったら聞いてみたい気もする。
中には「スズシロナズナは真面目くに走っていない」などと言う意見もあったが、ウマ娘がレース、特に公式のレースで手を抜くなどある訳が無い。
もちろんその辺は世間では常識の様で、私たちウマ娘が口を出すまでもなく、ファンの皆さんによってあっさりと退けられていた。
むしろ世界の強豪相手に勝利を掴んだブラックリリィ先輩の存在が世界的に急激にクローズアップされた印象が強い。
当日の実況アナウンサーが「世界よ見たか?!」と叫んだせいかどうかは知れないが、リリィ先輩はレース後に外国の取材陣が殺到し、「来年は海外遠征」などと言う噂も流れてきた。
2人は「凱旋門賞を獲ったウマ娘と、その凱旋門賞ウマ娘に勝ったウマ娘。しかも同日デビューで多くのレースを共にしたライバル」としてマスコミに大きく取り上げられ、今のトゥインクルシリーズを代表するウマ娘として破格の扱いを受けている。
でも今のシニア級ってこの2人だけじゃない。今年『天皇賞』の春秋連覇を成し遂げたスメラギレインボー生徒会長や、芝とダートの両方でGⅠを勝っているドキュウセンカン先輩、日本最速スピードを更新したオカメハチモク先輩、他にもオオエドカルチヤー先輩やクリスタルセイバー先輩、イーグルダイブ先輩やパッションオレンジ先輩、そしてトッカンクイーン先輩と、とにかく『化け物』クラスが揃っている。
こんな人達と同期だったら、多分私はGⅠはおろか初勝利すら上げられていたかどうか怪しかっただろう。
まぁ私の同期の娘達もフォーゲルフライやエバシブさんみたいな『化け物』はいるけど、何というか「その場の空気すら変える」程の娘は居ない。いや「まだ居ない」と言うべきか。
ジャパンカップが終わるとすぐ、ファンの関心は『有馬記念』へと移っていく。
もちろんダートの年末決定戦であるチャンピオンズカップやジュニア級のGⅠも有馬記念の直前に控えてはいるけれど、やはり年を締めくくる大きな話題となるのは有馬記念にほかならない。
私も有馬記念に「出たい」気持ちは強くあるのだが、如何せん有馬記念はファン投票によって出走者が決まるシステムなので、投票すら始まっていない現段階では目標が立たずに少し居心地の悪さを味わっている。
仮に出走出来たとして、その『有馬記念』は、その『化け物』達と一同に会する訳だ。覚悟は決めたつもりだが、まだ少し胃が痛くなる。
一応有馬記念の出走を逃した場合に備えて、年明け一番の『金杯』で走ろうか、という話にはなっているが、そうならない事を願っている。
☆
「確かに『怖い』気持ちは分かります。でも『スズシロナズナ』さんや『ブラックリリィ』さんと同じレースを走った、というだけでも一生の思い出になると思いますわ。だって彼女達は絶対に『伝説』として後世に語り継がれますもの」
メジロパラディンさんのお見舞いがてら、有馬記念に対する不安などをぶちまけてみたのだが、パラディンさんは達観しているというか何というか、とても大人なご意見を賜った。
まぁ単に他人事と思っているだけかも知れないけど。
「あと今年いっぱいでりえさんとはお別れになりそうです。
ジャパンカップや有馬記念の話題が一段落した辺りの会話が空いた瞬間で、パラディンさんの言葉と涙がポツリと零れた。
「それは… 悲しいですね。北野トレーナーは本当によく頑張っていたのに報われないなんて……」
「ハイ。りえさんにはキツく『自分自身を責めるな、悪いの私なのだから』と何度も念を押されました。でも『やっぱり』って思っちゃいます……」
パラディンさんの無念が伝わってくる。とにかくこのメジロ家の事情に私は口を出す権利が無い。私に出来る事はパラディンさんの愚痴を聞いてストレス発散の一助になるしか無いのだ。
「じゃあ来年からはどうするんですか? またメジロの家から専属トレーナーを付けるんですか?」
確か聞いた話では北野トレーナー本人もメジロ家の人、それもパラディンさんより本家に近い家柄らしい。
「いえ、とりあえず怪我が治るまでメジロの保養地で療養します。その間は練習も出来ないのでトレーナーも必要ありません。なので年明けから引っ越してしばらく休学して、またトレセン学園に戻って… 来れたら良いなぁ、という感じですかね……」
寂しく笑うパラディンさん。そっか、年が明けたらしばらく会えないんだね。
この「しばらく」が「ずっと」になりそうな雰囲気、イヤだなぁ。パラディンさんとはまた絶対熱いレースをしたいのに……。
「パラディンさん、私、ずっと待ってます! この学園で、何年でも! だから絶対怪我を治して、また私と走って下さい!」
「何年でも…?」
パラディンさんが不思議そうな顔で尋ねる。まぁ学園卒業まで… いやいや、トレセン学園には大学まであるから、そこから更に数年は……。
「うふふ、本当に何年も掛かるなら、私はもうレースは出来ないでしょう。それにトレーナーも契約し直さないと… ねぇコスモスさん、私を貴女のチームに入れて下さいますか?」
さすがに4年も5年も後だとレースが出来る身体じゃないのはパラディンさんも分かっているからか、私の動揺は見抜かれていた。
それはともかく、パラディンさんがチーム〈ミザール〉に入るって、本気なのかな?
メジロ家の人ならいくらでも凄いトレーナーが… って、パラディンさんはその『GⅠに勝たねばならない』という責務から、トレーナーのなり手が居なかったと聞かされた。北野トレーナーと組むまでは……。
「あ〜、チームに関しては私の口からは何とも言えないです… でもパラディンさんと一緒に走れるなら、私は断然推薦しますよ!」
今私に言えるのはこれが精一杯だ。パラディンさんが本気だとして、私にチーム加入への権限は一切無い。もちろん山西チーフを説得するのに労は惜しまないけど、本当にそこまでだ。
「ありがとうございます… それだけでもとても心強いですわ。いつかまた走りましょう、絶対に。貴女に最大の感謝を、『コスモスキュート』……」
「ハイ! 必ずまた一緒に走ろうね、『メジロパラディン』!」
トッカン先輩との間でもなんとなくぎこちなかった『儀式』が、今すごく自然に出来た気がする。
私は必ず「もう一度メジロパラディンと走る」。これは未来への揺るぎない誓いだ。
待ってるからね、パラディンさん!