咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
91 もちろん応援するする!
「お久しぶりですコスモス先輩。エリザベス女王杯は惜しかったですね」
12月のとあるランチ時、カフェテリアで空席を探していた私を「こっちで一緒に食べましょうよ」と誘ってくれる声があった。
この娘は後輩のウィッシュブリンガーちゃん。デビュー戦を勝ってすぐGⅡのデイリー杯ジュニアステークスに挑み、そこでも優勝しているという天才ウマ娘ちゃんだ。
そんな天才ちゃんが何故か「コスモス先輩の走りに感銘を受けた」とかで、私みたいな平凡なウマ娘に懐いてくれているのだが、何だか裏がありそうで少し構えてしまっているのが現状だ。
「ウィッシュちゃんもご無沙汰様。遅ればせながらGⅡ勝利おめでとう。私なんて去年の今頃はデビューから4連敗してたのに…」
「それでも今は『秋華賞ウマ娘』じゃないですか。GⅠ獲ってるんですよ? もっと胸張って下さいよ!」
「うん… ウィッシュちゃんが応援してくれたおかげだよ。GⅠと言えばウィッシュちゃんも…?」
「ハイ。来週の『阪神ジュベナイルフィリーズ』に出ますよ。応援してくださいね先輩!」
「もちろん応援するする! 現場には行けないと思うけど、学園で応援するからね!」
などというやり取りをした。12月にはダート最速王を決定する『チャンピオンズカップ』があり、そこから『阪神ジュベナイルフィリーズ』、「朝日杯フューチュリティステークス」と続き最後に今年の総決算である『有馬記念』が開催されて1年が終わる。
もちろん有馬記念の後も、地方レースの『東京大賞典』やジュニア級の中距離チャンピオンを決める『ホープフルステークス』が残ってはいるが、世間の認識は「トゥインクルシリーズの締めは『有馬記念』」で間違いないだろう。
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年が明けるとトゥインクルシリーズは小休止モードになり、代わりに『ドリームトロフィー』の『ウインタードリームトロフィー』のリーグ戦が2ヶ月に渡って行われる。
言うまでもなく『ドリームトロフィー』はトゥインクルシリーズを引退した大先輩ウマ娘によるレースで、トゥインクルシリーズの穴を埋める様に2月と8月に大きな大会が行われる。
そしてこのドリームトロフィーに進む為には多大なる功績を残さなければならない。その条件ははっきり明言はされていないが、一説には「GⅠを1勝以上、それに加えてGⅢ以上の重賞を1勝以上」と伝え聞いている。
来年からドリームトロフィーへ進む事を宣言していたオオエドカルチャー先輩は、ティアラ2冠なので「GⅠ (GⅢ以上)を2回 勝っている」として条件クリアとなる。
つまり仮に私がドリームトロフィーへの加入を希望した場合、勝った秋華賞 (GⅠ)以外に何かもう1つでも重賞を勝たないと加入が認められない事になる。
そんな伝説級のウマ娘が揃い、華やかな人達ばかりのレースなのだけれども、カルチャー先輩は「才能の枯れた奴らの集まる見世物小屋」と言い放っていた。
さすがに言い過ぎだとは思うけど、確かにレースのレコードだけ比べたら、トゥインクルシリーズの方が平均的に早いタイムを出している。
実際皆さんピークアウトしたからこそ
年明け一番に行われる芝のGⅠは3月末の『大阪杯』なので、年明けからの2ヶ月間、レースの大きな話題はドリームトロフィーが担う事になる。
例えピークアウトして最盛期を逃したとしても、やはりウマ娘たる者「走る仕事」でお客さんを魅せられるなら最高なんじゃないかな? という気はする。カルチャー先輩は「お金の為」とも言っていたけど……。
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という訳で日曜日、ウィッシュちゃんの走る阪神JFが開催される。
その日、私は休養日だったので、同じく休養日だったトッカンクイーン先輩と一緒に、寮のキッチンを借りてのお菓子作りにチャレンジしていた。
今回、トッカン先輩が「エリザベス女王杯のお礼を皆にしたい」という事で、これまでまとまった調理時間が取れずに着手出来なかったが、ようやくの休みで一気に大量のクッキーを焼いて周りに配るつもりらしい。
そう言えば、トッカン先輩は私の初勝利の時にリンゴタルトを焼いてくれたんだよね。あれは格別だったなぁ、ふと思い出したよ。
とまぁ私もエリザベス女王杯では周囲のサポートがあってこそ好走出来た訳で、お世話になった諸々に感謝の気持ちを伝えたい事情は同じだ。
そこですかさずトッカン先輩の企画に便乗させてもらって、自分の目的も果たしてしまおう、といういささか姑息な作戦でもあるのだ。
「コスモスちゃん、そろそろレースの時間じゃない?」
「あ、ハイ。じゃあ少し抜けさせてもらいますね」
午後の3時すぎ、ウィッシュちゃんの出走レースの時間。トッカン先輩に促されて、私は寮のロビーにある大型テレビに向かった。
☆
テレビの前はレース参観に来た栗東寮の娘達が大勢集まってレースの始まりを楽しみにしている。
阪神JFはジュニア級のレースの為、集まっている娘もジュニア級や未デビューが多いのかな? 少なくともすぐ分かる範囲には私の同期の娘はいない。
パドック紹介でウィッシュちゃんが映ると、テレビの前の娘達も一気に盛り上がった。
テレビで見るパドックのウィッシュちゃんは調子も良さそうで気合も十分に見える。
デビューから2戦目で既にGⅡを勝っているウィッシュちゃんはダントツの1番人気。寮のテレビの前でも1番歓声が大きい。
やっぱり凄い娘なんだな、と改めて驚かされる。そんな娘に私なんかが懐かれているのも何とも不思議で落ち着かない。やっぱりドッキリとかそういう系だよね…?
レースが始まった。ウィッシュちゃんは『逃げ』脚質で、最初からグングン飛ばして後続を大きく引き離す。
「あんなに飛ばしてラストの坂までスタミナ保つの?」
なんて声も聞こえてくる。私も同感だけど、ウィッシュちゃんとそのトレーナーさんも考え無しに走っている訳では無いだろう。
心配はあるが、可愛い後輩に勝って欲しい気持ちは多分にある。頑張れウィッシュちゃん。
そして最終コーナーからの長い直線、高低差1.8mの急坂。
その全てをウィッシュちゃんは颯爽と先頭で駆け抜け、終始他の追随を許さぬままに圧勝した。
2着との最終的な着差は3馬身半。私の心配なんてどこ吹く風で、ウィッシュちゃんは華麗かつ豪快にGⅠ勝利を掴み取ったのだ。
寮のロビーは喝采を叫ぶ者、呆然とする者、信じられない物を見る様な顔をする者など十人十色である。かく言う私も、盛り上がるよりもウィッシュちゃんの底知れぬ実力に愕然としていた。
こんな途轍もない娘が来年のティアラを走るのか、と……。