咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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凄く良いと思います。素敵です!

 朝、教室に入ったら、私の席に近いとある場所で(ウマ)だかりが出来ていた。どうやら誰かが泣いているらしく、皆で慰めている構図だ。

 

「おはよコスモス。実は委員長(アバロンヒル)が荒れててねぇ…」

 

 久々登場のブロークンギアが、頭上に『?』マークを作っていた私に状況を教えてくれた。

 

「アバロンが…? いつも明るくて元気なあの子が珍しいね…」

 

 アバロンは委員長らしく明るくクラスを引っ張っていくタイプで、塞ぎ込むだなんてこれまで見た事が無い。

 

 きっとアバロンに余程の事があったのだろう。怪我をしたとか身内に不幸があったとかで無ければ良いのだけれども、心配だねぇ……。

 

「ほら有記念のファン投票、アバロンは期待していたけど選外になっちゃったでしょ? それで昨日から泣きっぱなしなんだって」

 

 あー、そっちかぁ。アバロンも昨年の朝日杯フューチュリティステークスの勝者だし、今年のレースも頑張っていたから有記念を走りたかったんだろうなと思う。

 

 気の毒だとは思うけど、私が代わってあげる訳にもいかないし、仮に私が出走を取り消しても、順位的に有記念に繰り上がり出走するのは、アバロンでは無く別のウマ娘だ。

 

「まぁコスモスは八つ当たりされる可能性があるから、今日はアバロンの前に出ない方が良いかもよ?」

 

 ギアが冗談めかして楽しそうに笑う。もちろんアバロンはそんな娘じゃないのは知っているけど、私の顔が嫌な事を思い出させるならギアの言う通り大人しくしていようかな…?

 

「おはようコスモス。やっと君と公式戦で(たたか)えるな。有記念、今から楽しみで仕方ないぞ」

 

 少し遅れて登場したのは私と同じく有記念の出走を決めた今年のダービーウマ娘、フォーゲルフライ。元々空気の読めない娘だけど、今の状況であからさまに有記念の事を言われるのは間が悪いにも程がある。

 

 アバロンを気にして慌てる私とギアを尻目に、事情を知らないフォーゲルは涼しげに綺麗なかつ能天気な顔で微笑んでいる。

 

「フォーゲル、コスモス…」

 

 後ろから少し震えた声で名を呼ばれて、怯えながら振り向くと、そこには目を真っ赤に腫らしたアバロンが立っていた。

 

「2人とも、有記念の出走おめでとう! 私の分まで走りきって、良いレースを見せてちょうだいね!」

 

 アバロンは彼女なりに精一杯明るく振る舞って、それだけ言うと「顔を洗ってくるわ」と教室から小走りで去っていった。

 

 有記念… グランプリへの想い。私はアバロンだけじゃなく、メジロパラディンさんの気持ちも乗せて私は走らなければいけない。

 

 もちろんそれだけではなく、私の背中には新代トレーナーやチーム〈ミザール〉の皆さん、故郷の親や友達や先生、そして私を応援してくれるファンの人達の想いも託されている。

 

 重いなぁ… でもこれはGⅠを走る様なウマ娘なら全員が背負って、そして逆に力に変えていかないといけない物だ。気合い入れないとね!

 

「アバロンはどうしたんだ? 花粉症か…?」

 

 とまぁフォーゲルのいつものオトボケでオチが着いた訳だが。

 

 ☆

 

「コスモス、またペースが早いぞ! ペースを守らないと有記念の2500は、後半バテて走りきれないからな!」

 

 午後のトレーニング、コース脇の新代トレーナーにまた怒られる。

 

 どうにも色んな人の期待に応えたくて焦ってしまい、無意識にスピードを上げてしまっている。

 息を整え200mをキッチリ12秒で走り、それを身体に馴染ませる。早すぎても遅すぎてもダメ。

 

 まずこのペースを習得して、そこからレース毎の臨機応変でスピードを調節する。トレセン学園の娘なら全員デビュー前から教わるやり方だ。

 

 デビュー前からやっているにも関わらず、今の私は入れ込みすぎてスピードを出し、その結果無駄にスタミナを減らしている。これじゃレースには勝てない。分かってはいる、いるのよ……。

 

「入れ込む気持ちは分かるが、今のままじゃ有記念には出せないぞ? 外周行って少し外の空気でも吸ってきなさい」

 

 そう言われて学園から追い出されてしまった。

 確かに少し頭の切り替えをしないと、本当にレース本番の日まで調子を崩したままになってしまう。

 

 極端な話、体の怪我は放っておけば治るけど、精神的な躓きはそういう訳にもいかない。

 

「よ、コスモス。どしたん不景気な顔して?」

 

 校門の所でババヤーガ先輩に声をかけられた。

 先輩も外周なのかな? 担当の林トレーナーは見当たらないけど…?

 

「ちょっと話せるかな? エドちゃんに話してもリアクション薄そうだからコスモスに聞いて欲しいんだよね…」

 

 バー先輩が折り行っての話なんて珍しい。しかも同期で親しいオオエドカルチャー先輩じゃなくて私と話したい、だなんて込み入った話なのかな…?

 

 ☆

 

「実はさぁ、今週末に重賞に挑戦しようと思っててね…」

 

 2人並んで川の土手を走りながらバー先輩がポツリポツリと呟いてくる。

 

 バー先輩はオープンクラスに上がった事で「もう進学や就職には困らないから」と、更なる上昇を辞めてしまった人だ。

 

 学園のウマ娘なら誰でも「負けたくない」「勝ちたい」というオーラに包まれている物なのだが、私の知る限りバー先輩にはそこまでの覇気は無い。

 

 過去に走りを絶望してしまう程の挫折があったのか、或いは最初からその手の覇気が薄い人なのかは私には計り知れない。

 

 そんなバー先輩が急に重賞への挑戦を表明するとは、意外すぎて頭が()いてこない。

 

「いやさぁ、林トレーナー(はるみちゃん)には散々お世話になったから、例えGⅢとかでも重賞のトロフィーを結婚祝いにしてあげられたらなぁ、とか思ってね…」

 

 なんと! そういう事か。バー先輩、意外と律儀な所もあるんですね。

 

「思ったんだけど、今更照れくさくてなかなか言い出せずにこんな年末になっちゃったんだけどさ… どうかな?」

 

「凄く良いと思います。素敵です!」

 

 なるほど確かにこんな相談をカルチャー先輩にしても「好きにすれば?」としか返ってこないだろうと確信できる。

 

「今までヘラヘラやってきて、急に重賞出たいとか言ってトレーナーに笑われたり怒られたりしないかな? って、あたしらしくもなくグヂグヂモードに入っちゃってさ…」

 

「そんな事無いですよ! 林トレーナー絶対喜びますって!」

 

 林トレーナーはバー先輩のやる気の無さに常々頭を痛めていた。だからバー先輩が重賞出たいなんて言ったら嬉しいに決まってるよ!

 

「そうかな…? んじゃ帰ったら晴美ちゃんに相談してみるよ…」

 

 ☆

 

 そして週末、バー先輩は中山レース場のターフに立っていた。メインレースのGⅢ『ターコイズステークス』だ。

 

 得意の『逃げ』で良いスタートを切ったバー先輩は、終始先頭のまま最終直線に入る。

 

 坂を上がりきった頃に後続に一度抜かれるが、最後の最後で再加速して抜き返し、見事にクビ差で重賞初勝利を上げた。

 

 あんなに必死な顔で走るバー先輩は初めて見たし、それがしっかり結果を出せたのは本当に良かった。

 

 レース後の勝利者インタビューで、バー先輩は『私の中のバー先輩像』を壊すかの様な雰囲気で、息も絶え絶えに「初めて他人の為に走りました…」と真面目な顔で語っていた。

 

 バー先輩もやっぱりトレセン学園のウマ娘なんだなぁ、と妙な感心をしたりする。

 

 とにかくバー先輩は勝利おめでとうございます。凄くカッコよかったですよ!

 

 さて… 次はいよいよ有記念だ。今日のバー先輩に応える為にも… そして物凄く複雑な心境ではあるけど新代トレーナーの結婚祝いの為にも、次は私が頑張る番だね!

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