咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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スメラギ会長…?

94 スメラギ会長…?

 有記念本番まであと1週間を切った。だが私の不調はまるで回復する兆しを見せない。

 基本の走行ペースを守ろうとすればするほどペースは乱れ、タイムは乱高下する。

 

 タイムが落ちるだけでなく、たまに基本より上がっているので、不調の原因がピークアウトとか故障とかでは無いのは間違いない。だからこそ余計に原因が分からずに焦ってしまう。

 

 本気でこのままでは有記念に出ても失態を晒すだけになりかねない。『何とかしないと』と思うたびに心は乱れペースも乱れる悪循環に陥ってしまっている。

 

 せっかくの有記念なのに、このままじゃ新代トレーナーを始めとする私を応援してくれる人達に申し訳が立たない。それでいて解決策も見当たらない。

 

 新代トレーナーも抜本的な解決策を見いだせずに、グラウンドの隅で渋い顔をしながら黄昏れている。

 

 これは『詰み』なのかなぁ…?

 

「コスモス! ちょっと話せる?」

 

 コースの脇から聞き慣れた声に呼び止められた。声の方を見遣ると、うちのクラスの委員長アバロンヒルが立っている。

 アバロンだけじゃない、もう1人横にいる。アバロンより少し長身で栗毛の、少し落ち着いたお姉さんっぽい感じのウマ娘……。

 

「スメラギ会長…?」

 

 そう、アバロンの横にいたのは、涼やかな優しい笑顔で私の方を見ている生徒会長のスメラギレインボー先輩だった。

 

 ☆

 

 スメラギ会長は今年の天皇賞で春秋を連覇しているスーパースターだ。そんな(ウマ)が私なんかに用事でもあるのかな? 普段絡みの無い人なので、こちらも反応に困ってしまう。

 

「こんにちはコスモスキュートさん。まずは秋華賞での優勝おめでとう。そしてエリザベス女王杯での敢闘に敬意を。どちらも歴史に残る素晴らしいレースだったわ」

 

「は、はい… ありがとうございます…」

 

 戦績を考えて当然と言えば当然だろうが、私も生徒会長に名前と顔を覚えられていた。

 本来ならスターウマ娘に覚えられて歓喜雀躍なのだろうが、今はそれが逆に不気味で仕方ない。

 

 生徒会長直々に何か怒られたりするのだろうか? 私のあまりにも情けない走りを見て、憤慨して殴り込んできたのかも知れない。

 

「やぁねぇ構えないでよコスモス。あんたが調子を崩しているみたいだから、私から会長に相談したのよ。会長こう見えてその辺のトレーナーさんより観察眼が鋭いから、コスモスも会長に見てもらえばスランプから抜け出せるんじゃないかな? ってね!」

 

 アバロンの説明で会長がここにいる理由は分かったけど、何でまた私なんかの為に…?

 

「ふふふ、これは私の個人的なお節介だからあまり気にしないで。私は『私とレースで競う娘は皆《絶好調》でいてくれないと困る』のよ。じゃないと負かした時にアレコレ言い訳されちゃうでしょ?」

 

 スメラギ会長はイタズラっぽく楽しそうに語る。

 

 確かにレースで負かした相手から、後から「調子が悪かったから」とか「お腹が痛かったから」とかの負け惜しみを言われても面白くないのは分かる。もちろん私はそんな事を言わないけど。

 

「今の貴女みたいに周りの期待に応えようと頑張りすぎて調子を崩す娘はたくさんいるわ。私もかつてそうだった…」

 

 スメラギ会長も今の私みたいに調子を崩していたのかな? そこから立ち直れたのならば、是非ともその秘訣を聞いておきたい。

 

「ね、コスモスキュートさん。『貴女が走る理由』は何?」

 

「『走る理由』、ですか…?」

 

 唐突に聞かれて少し答えに詰まる。そりゃもう一言では言い表せないくらいに『走る理由』はたんまりとある。

 

「…やっぱり『ファンの人達やチームの皆さんの期待に応えたい』ですかね…?」

 

 やっぱりコレだと思う。私みたいな鈍臭くて「持ってない」娘を支えてくれた人達に恩返しをしたい。私が勝つ事で喜びを与えられるのなら、頑張って勝ちたいと思う。

 

「ふ〜ん、優等生の答えね。そういうのも嫌いじゃないわ。…でももっと体の奥で煮えたぎるマグマみたいな衝動があるでしょ? それを教えて」

 

 今の答えじゃ落第だったみたいだ。かと言って……。

 

「そんなの、ただ『走りたい』とか『勝ちたい』というだけの感情しか無いですよ… 子供じゃ無いんだからもう少し周りを見て…」

 

 私自身は否定したい気持ちも少しある答えだったが、スメラギ会長はそこで大きく頷いた。

 

「いいえ、それで良いのよ。一番強いウマ娘ってね、誰よりも『走る事が大好き』で、誰よりも強く『勝ちたい』って願った子なの。(ブラック)リリィや(スズシロ)ナズナみたいな何も考えてない能天気な娘達の方が勝っているのは貴女も見てるでしょ?」

 

 あぁ、そう言えばスメラギ会長はリリィ先輩やナズナ先輩と同期で、ジュニア級の頃から何度も熱い激戦を繰り広げてきた人だった。

 

 私はまだ数える程の数の先輩としかレースで戦っていないのでリリィ先輩やナズナ先輩の本性は知るすべも無いが、スメラギ会長の言う様に『能天気な娘が勝つ』という単純な話でも無いとは思うけど……。

 

「コスモスキュートさん、貴女はもっと強くなれる。その為にはこんがらがった頭の中身を一度リセットして、もっとウマ娘としての本能に身を任せてごらんなさい」

 

 そんな事を言われても、私はついつい余計な事を考え過ぎる性格で、『リセット』と言われても上手く出来る自信が無い。

 

「そうコスモスキュート… 貴女はもっと強くなれる。そしてその強くなった貴女を私が叩き潰すの。最高でしょ?」

 

 うへぇ、そりゃ会長にとっては最高かも知れませんけど、私にとっては最悪じゃ無いですか?

 

「という訳で、いっぺん頭を空っぽにして純粋な気持ちで勝ち負けを競ってみない? アバロンもいるから3人で」

 

「え?! わ、私も混ざって良いんですか?! 感激です!」

 

 今まで空気だったアバロンも急に話を振られて驚きと喜びが隠せない。

 アバロンが私の為に会長を呼んでくれたんだよね? 本当に優しい娘だよね……。

 

「あの… ちょっとトレーナーさんに相談してきて良いですか? 本番間近のこの時期に勝手なレースしたら怒られるので…」

 

 生徒会長じきじきの光栄なお誘いだが、さすがに私の一存で即答は出来ない。トレーナーさんの意見も聞いてこないと……。

 

「もちろん。焦らなくても逃げたりしないわ」

 

 その後新代トレーナーから「俺もその場に立ち会うなら」との条件でOKが出て、私達は3人で2500mの有記念を想定した模擬レースを行った。

 

 スメラギ会長もアバロンも『逃げ』脚質の為に、レースは最初からオーバーペース気味で進行する。

 

 これに最近の私の体調のブレにガッチリ当てはまり、2人に引っ張られる様に私は無駄に速度を上げ続け… 2000mで力尽き、脚が止まってしまった。

 

 失速した私を置き去りに走る2人。そしてラスト150mくらいでアバロンもスタミナ切れで失速、スメラギ会長が華麗に勝利を決めた。

 

 学園の模擬コースとは言え、2500mを難なく逃げ切るスメラギ会長。まずこの人に勝たないと、リリィ先輩やツキバミ先輩はさらにその先にいるんだから……。

 

 ☆

 

「まだまだ『闘争心』が足りないわ。真剣に『スメラギレインボーに勝ちたい!』って思ってない… まぁこのレースで何かを掴めたなら良いのだけど…」

 

 私にはまだまだ何もかもが足りないのは分かっている。その上で本気の走りを見せてくれたスメラギ会長、そしてアバロン。ありがとうございました。色んな意味でとても悔しいです。

 

 でも途中でヘバッたのも加えて、今回の模擬レースで体力と同時に、これまで体調不良を招いていた『悪い気』みたいな憑き物も絞り出せた気がする。

 

 何より本番レース直前にどえらい『惨敗』をした事で、私の『負けん気』が音を立てて燃えているのが分かる。

 

 スメラギ会長にもリベンジしなきゃ……。

 

 素直にスメラギ会長に「勝ちたい」と思える。

 会長だけじゃない。リリィ先輩やフォーゲルフライ、ティアラのライバルやトッカン先輩やカルチャー先輩達にだって「負けられない」よね。

 

 そしていつかのメジロパラディンさんとの再戦のためにも……。

 

 この日を境に私の体調は回復し、ペース走だけでなく、追い切りタイムの短縮も順調に成果が出るようになってきた。

 

 さぁ、いよいよ有記念だ……!

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