咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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今日は全力で挑ませてもらいますね

 有記念当日、ここは中山レース場の選手控室。部屋の中には私と新代トレーナーの2人きり。

 

 今ちょうど有記念の直前である第10レース『フェアウェルステークス』の本場入場が行われている頃だ。

 

 有記念本番のパドック入りにはまだ少し時間がある。レースへの緊張もあるが、新代トレーナーが直ぐ側にいる事の方がドキドキするし、何なら少し気まずくもある。

 

 初恋が破れたのは理解しているが、だからといってそれで新代トレーナーが嫌いになった訳ではない。慕情そのものはまだ私の心に燻り続けている。

 

 もちろんこれからGⅠレースなのにそんな事を気にしている暇はない。

 目を閉じてレース本番に向けてのイメージトレーニングをするが、緊張した新代トレーナーの咳払い一つで簡単に集中は途切れ、またレースの最初からやり直す事になる。それを4回繰り返した。

 

「あ〜、すまんなコスモス。大人の俺が落ち着かないとダメなのに、有の空気に()されてしまって…」

 

「大丈夫です。そんな微笑ましい新代トレーナーを見る事で、私はリラックス出来てますから…」

 

 謝罪する新代トレーナーを軽く受け流す。この返しは半分冗談で半分本気だ。逆に新代トレーナーにガッシリと構えられていた方が私はガチガチに緊張していたと思う。

 

 秋華賞やエリザベス女王杯の時ですら、少なくとも私の前では大人らしく構えてくれていた新代トレーナーが、まるで子供の様にソワソワしている。それだけ『有記念』というレースが格式の高い物だと言う事だろう。

 

「新代トレーナー… 私みたいなウマ娘をこんな大舞台まで引き上げてくれて、本当にありがとうございました。新代さんが居なかったら、私は走る事を辞めていたと思います…」

 

 トレーナーへの感謝の気持ちは前々から考えていたものでは無い。私の今の心情を無規則に言葉にした物だ。

 

 新代トレーナーが私を鍛えてくれたからこそ、私はGⅠを走るまでに成長出来た。もし仮にチームの山西チーフが私の担当だったとしても、ここまで才能開花出来たとは思えない。

 

 やっぱり新代トレーナーじゃないとダメなのだ。

 

「礼は要らないよコスモス。むしろこちらこそお礼を言わせてくれ。これまで俺の担当でGⅠを勝てた娘はコスモス(きみ)だけだ。そして君は今、グランプリの場に立っている。君は凄い娘だ! こちらこそ本当にありがとう!」

 

 新代トレーナーの目には薄っすら涙が浮いている。好きな人に涙ながらに感謝され、「頑張れ」と送り出される。こんな嬉しい事はない。

 

 私は今多分、世界で1番幸せなウマ娘だと思う。

 これほど満たされた気分で、何者にも負ける気がしない。これ以上無いくらいに気合が入りましたよ。

 

「では、行ってきます…」

 

「あぁ、悔いの無いレースを…」

 

 目が少し赤い新代トレーナーの笑顔に見送られて、私はパドックに向けて地下道を進んで行った。

 

 ☆

 

「コスモス、ようやく同じレースで戦えるね。今日は負けないからね!」

 

 パドックでのパフォーマンスを終え本場入場する。すぐに私に声をかけてきたのはハピネスシアターちゃん。彼女はクラッシック三冠路線を走っていたので、ティアラ路線の私とは競走する機会がほとんど無く、夏合宿の模擬レース以来の戦いとなる。

 

 ハピネスちゃんだって日本ダービーでフォーゲルフライを追い詰めているし、その後の宝塚記念ではシニア級の先輩を差し置いて見事に優勝した強豪だ。

 

「抜け駆けはズルいぞハピネス。コスモスに挑戦状を送るのは私が先だ」

 

 次にやってきたのはフォーゲル。フォーゲルとはドロワのデートを決める時を始め、何度もレースをしてきた。そして私が勝てたのは夏合宿の1度だけ。

 

 そんな宿敵とも言えるフォーゲルと公式レースで戦うのも今回が初めてだ。

 

「2人とも… 絶対良いレースにしようね」

 

 2人に向けて握った拳を突き出す。フォーゲルとハピネスちゃんは揃ってニヤリと拳を突き出し、3人の拳が軽く衝突した。

 

 後になって「私らしくなかったな?」とは思ったけど、まぁ気が昂ぶってもいたし問題は無いよね。

 

 ☆

 

「コスモスちゃん…」

 

「トッカン先輩…」

 

 ゲートの前に居たのは可愛らしいデザインの真っ赤な勝負服に身を纏った、尊敬する大大大好きなトッカンクイーン先輩。でも今日は不倶戴天の敵でもある。

 

 お互いに見合ったままほぼ同時に首肯する。そう、今の私達に言葉は要らない。「互いに強力な、だがしかし絶対に負けられない強敵(ライバル)」として認識し合っている。

 

 ここから先は「言葉」ではなく「脚力」で語り合うのが私達ウマ娘だ。 

 

 ☆

 

 さてゲートイン。今日の私は2枠4番。奇数番の人から先にゲートインしているので、私の隣には既に3番と5番が埋まっていてる。

 

 右隣り3番は先ほど話したハピネスちゃん。私のゲートインと同時にこちらにサムアップしてくる。

 

 左の5番には単枠で悠然と構えるブラックリリィ先輩がいた。全裸に黒い薄衣を巻き付けた様なドレス調の勝負服が眩しい。頭に被った大きな帽子とセクシーな勝負服で、物凄くオトナっぽくてカッコいい。モデルさんみたいに綺麗だなぁ……。

 

「あ、コスモスキュートちゃんだ。秋華賞とエリザベス女王杯見たよ〜。私感動して貰い泣きしちゃったんだよ〜」

 

 これまで目を閉じて集中していたように見えたリリィ先輩が、一気に表情を咲かせて私に話しかけてきた。

 

 そのクールな外面に対して、リリィ先輩はとてもお茶目な性格をしているのは噂で聞いていた。

 でも急に来られるとちょっと驚いてしまうね。

 

「あ、ありがとうございます。リリィ先輩もジャパンカップ優勝おめでとうございます。今日は全力で挑ませてもらいますから」

 

「うん! 楽しみ!」

 

 リリィ先輩は心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべ、私に大きく頷き返してきた。

 

 そして一斉にゲートが開く。年末最後の大一番、有記念のスタートだ。

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