咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
各馬一斉、ほぼ横一線にスタートする。
出遅れはエバシブさん、そう言えば彼女とも初対戦なんだよなぁ。皐月賞や菊花賞で見せた『ワープ』とも取れる様な不思議な技は、映像を分析した結果、一時的に態勢を低くしてスピードを上げる走法だと判明した。馬群に隠れて見えなくなっていたんだよね。
そして彼女の末脚なら少しの出遅れなんて誤差にしかならない。例え出遅れていても要注意人物なのは変わらない。
さて先頭争いはツキバミ先輩とヘリアンさん。2人の大逃げ合戦かと思われたが、へリアンさんを先頭にしてツキバミ先輩は2番目に付けている。
いつも大逃げ戦法のツキバミ先輩にしては珍しい展開、へリアンさんが先頭争いで挑んでくるのは容易に想像出来たから、敢えて先行させて後ろからプレッシャーをかけていく作戦なのかも知れない。真後ろにツキバミ先輩が居たらめちゃくちゃ怖いと思うし。
或いはツキバミ先輩の体調が良くないのかも。
事の真相はともかく、その2人の直後にスメラギレインボー生徒会長。更に続いてジーニアスセイント先輩。
少し遅れてフォーゲルフライ、更にスズシロナズナ先輩とブラッドハーレー先輩がトントン。
更に少し離れてハピネスシアターちゃんと私。後ろはちょっと分からないけど、オオエドカルチャー先輩、ヴァーンズインさん、そしてトッカンクイーン先輩と『怖い人たち』の
怖い人たちから逃げたい一心で、スピードを上げて突き放そうと『弱い私』が囁いてくるけど、レースはまだまだ序盤、ここはグッと我慢して終盤スパートの為のスタミナを残しておかないといけない。
有馬記念はスタートしてすぐコーナーがあり、そこを抜けると1周目の最終直線となる。ここからもう1周して最初にゴールした者が今年の『グランプリウマ娘』だ。
まだ周回を残しているのに、観客席のお客さん達はラストスパートであるかの様な、地響きを伴う大歓声を上げてくる。凄い熱量、これがグランプリなのね……。
中山の坂は短いがそのぶん急だ。まだスタミナに余裕があるから坂登りは苦ではない。だが次にこの坂に来る2分後には状況は大きく変わるだろう。
順位に大きな変動は無く、へリアンさん先頭のまま1000メートルのハロン棒を通過、ここまでのタイムは… 61.4秒。意外にも結構遅いペースだ。
逃げや先行の人達がスタミナを保ったまま終盤に入られると、抜くものも抜けなくなる。ここは早めに仕掛けた方が良いのかな…?
新代トレーナーからは事前のレース指導は仕掛けるタイミング以外に特に受けなかった。勝手知ってる中山レース場だし、コース攻略的な不安はない。問題はスタミナ配分と精神的なプレッシャーだ。
その『仕掛けるタイミング』は「何があっても2周目の第3コーナーまでは我慢しろ」という物だった。
「第3コーナーからゴールまでの約800m、その何処かで持てる力を全て振り絞って勝負をかけろ。まず2500mを走り切る事が先決で、それ以前にスタミナを浪費したら、コスモスの実力ではあの
新代さんからの指示。少し面白くない部分もあるけど、世界と渡り合える強豪達に囲まれて私が勝ち抜けるルートは限りなく細い。
だから今はまだ我慢… このまま逃げ切られる、なんて展開にはならないし、させない。
レースは第2コーナーを回って向こう正面に移る。タイムが遅かったので先行勢の逃げ切りを心配したのか、イーグルダイブ先輩が速度を上げる。それに応じてカルチャー先輩とヴァーンズインさんも上がってきた。
トッカン先輩はまだ後方で控えているし、エバシブさんも動きが見えない。
差し込み勢がスピードを上げた為に、先行勢もそれに付き合わせる。私の順位は3つほど落ちてしまっている。う〜、まだ我慢しなきゃダメなんだよね…? 大丈夫かな…?
コーナー直前、1600mでのタイムは1分34秒と平均的なものになる。
残り900mで、新代トレーナーから指示されたスパート開始ポイントまであと100m。
この時、ようやく私の《
示された矢印は内と外のちょうど中間、コースのド真ん中を突っ走れ、という物だった。
矢印の上を陣取っているのは、遙か先を走っているツキバミ先輩… つまりツキバミ先輩の蹄跡をなぞって進めって意味だよね。
「行くよ… 女は度胸!」
カルチャー先輩みたいな事を言って自分を鼓舞する。ここまで来て相手が誰とかプレッシャーがどうとか気にしていられない。
周りのウマ娘にもスイッチが入るのが感覚で分かる、ここからが本番だ。この上なくゾクゾクする、『強者』との戦いが楽しい。
私はどうしようもなく『ウマ娘』なのだと痛感する。でもこの気持ちは辞められる物でも抑えられる物でも無い。
ここで残り800m。仕掛けどころに今まで溜めに溜めてきたスタミナと鬱憤を一気に爆発させる。
私の前ではフォーゲルとハピネスちゃんが競り合っている。そこに私が並ぶと2人も負けじとスピードを上げ、第4コーナーを抜ける辺りで結果3人での競い合いとなった。
「コスモスっ、来ると思っていたぞ!」
「負けないよっ、コスモスっ!」
2人ともまるで事前に分かっていたかの様に、競走に私を迎え入れてくれる。2人とも、待たせてゴメンね。私もGⅠの舞台で皆と競える様になったよ。
そしてゴメンね。私は2人を負かさないといけない。グランプリの栄冠を掴むのはこの私なのだから。
その瞬間、《
身体の重さから解放される。脚の疲れから解放される。私の体はフォーゲルやハピネスちゃんより一歩前に出る。
ルートを誘導する矢印は消えてしまったけど、ツキバミ先輩の背中は先程までよりかなり近づいている。『最強』である彼女を捉えれば、私は勝利出来る!
さぁ、ここらからが本当の戦いだ!