咲き誇れ秋桜(コスモス)! byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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レースはどうなりましたか…?

 ……気が付いたら目の前の光景はどこかの天井だった。

 あれ? 私、寝てた…? レースしてたはずだったよね?

 

 確か私は有記念を走っていて、ラストの直線で「さぁ仕掛けるぞ!」という所だったんだけど、そこからの記憶が無い……。

 

 まさか有記念は夢オチだったとか…?

 いや、ボンヤリとだが思い出してきたぞ……。

 

 ☆

 

 有記念の第4コーナーを抜け、私は走りに全身全霊を込めていた。《領域(ゾーン)》のおかげもあってスピードは乗りに乗り、前を走っていたオオエドカルチャー先輩やスズシロナズナ先輩を追い抜く。目指すは群れの先頭を走るツキバミ先輩ただ一人。

 

 ツキバミ先輩と序盤で体力の削り合いをしたせいか、へリアンさんは必死に食い付こうとしていたが、既に2周目の坂に捕まりスピードと順位を共に落としている。

 

 へリアンさんを抜き、スメラギレインボー生徒会長を抜く。目の前には異常なまでの前傾姿勢で疾走するツキバミ先輩の背中、というか尻尾のみ。そして2人の距離は徐々に縮まっていく。

 

「捉えた!」

 

 坂を登り終えいよいよ今現在の段階なら私の方が速い。ゴールまではおよそ200m、いまなら行ける!

 

 かつて『かのエクリプスの再来』とまで言われた偉大なる7冠。度重なる怪我さえ無ければ、今頃は史上初の二桁GⅠ勝利すらも成し遂げていたであろう『生きた伝説』。

 

 同じレースで競う事すらも恐れ多い大先輩。そして今この場にいて同じレースを走って競っている事が、私は何よりも誉れで誇らしいです……。

 

 ツキバミ先輩… いやツキバミ! 私は今、貴女を超えます! 貴女の背中を追い越して、ここ中山の地でも咲き誇って見せます!

 

 後ろからは強烈な追い上げを見せる何人かの気配がある。振り返らなくても分かる、トッカンクイーン先輩、ブラックリリィ先輩、そしてエバシブさんだ。

 

 彼女達も私やツキバミ先輩に迫る速度で追ってきている。もうここまで来たら戦術もテクニックも関係ない。

 純粋な『速さ』だけが物を言う世界、トゥインクルシリーズの最も華やかで、かつ最も残酷な部分……。

 

 もう手を伸ばせばツキバミ先輩に触れられる場所まで迫っている。今は彼女の真後ろで、ここから左右どちらに回避するか? それがこのレースの最後の選択肢だろう。

 

 実際、どちらに動いても大きな違いは無い。私の前はツキバミ先輩だけで、その左右はどちらもスペースが空いている。単に私の足を左右どちらに踏み出すかの違いでしか無い。

 

 だがその「どちらに進もうかな?」という一瞬の思考そのものが私に不幸をもたらした。

 私の前のツキバミ先輩が、急にバランスを失って転倒したのだ。

 

 私は近すぎて回避行動も取れずに、流れてきたツキバミ先輩の体を咄嗟に両手で受け止めた。下手にステップで避けたら私自身が足首を痛める可能性もあり、更に後ろを走る誰かと衝突する可能性があったからだ。

 

 ツキバミ先輩を受け止めた私は、そのまま尻餅をつく形で止まってしまい、そんな私とツキバミ先輩を、後続のウマ娘達が避けながら前に進んで行く。

 

『一度始まったレースは何があっても止まらない』

 

 トレセン学園では常識とも言えるこの文言。

 まさにその言葉通りレースは粛々と進み、やがて観客席から勝利者を称える大歓声が響いた。

 

 最後は誰が勝ったんだろう…? ここからだと分かんないや……。

 まるで他人事であるかの様に私の頭は真っ白になっている。

 

 そして精神的なショックと《領域(ゾーン)》の疲労からだろうか、私の意識は急激に遠のいて、ツキバミ先輩を抱えたまま横に倒れて気絶してしまった……。

 

 ☆

 

「気が付いたかコスモス! 大きな怪我は無いそうだが痛む所は無いか…?」

 

 私の横には新代トレーナーが座っていた。ずっと心配して付いててくれたのかな…?

 

「あぁ… ここは中山レース場の医務室で、今はレースが終わって小一時間、って所だ」

 

 まだ状況が飲み込めずボーッとしている私に向けて、新代トレーナーが今の状況を説明してくれる。

 

「君はツキバミの転倒に巻き込まれて倒れてしまったんだ。覚えているか…?」

 

 その辺りは覚えている、というか思い出した。

 と、なると気になる事はただ一つ……。

 

「あの、レースはどうなりましたか…?」

 

 ツキバミ先輩が転倒して、それを私が受け止めた。他の出走者が私達を追い抜いて次々とゴールしていく。

 私とツキバミ先輩はゴールラインをまたぐこと無く、その場で倒れて医務室へと運ばれたのだろう。それは分かる。

 

「優勝したのはエバシブだ。2着がブラックリリィ、3着はヴァーンズイン、4着がフォーゲルフライで5着がスメラギレインボーだった… もっと聞くか?」

 

 へぇ、エバシブさんが勝ったのかぁ。あの途轍もないメンツを前に勝てるんだから本当に凄い人なんだなぁ……。

 

 先頭5人のうち3人が同期だなんて、誇らしい気持ちと恐ろしい気持ちが同時に湧いてくる。

 来年は恐ろしい先輩、恐ろしい同期、そしてウィッシュブリンガーちゃんみたいな恐ろしい後輩が追いかけてくるのだろう。

 

「細かくは大丈夫です。あとはトッカン先輩とカルチャー先輩と… それとハピネスちゃんの順位だけ教えて下さい」

 

「エドが8着、トッカンクイーンは9着、ハピネスシアターが確か12着だったな… 皆コスモスの事を凄く心配して外で待ってくれていたんだぞ」

 

 そう言うと新代トレーナーは部屋のドアを開けて、外にいるであろう人達に目配せをする。

 すると私の目覚めを待っていたのか、外で待機していた何人ものウマ娘がドカドカと部屋に入ってきた。

 

「コスモスちゃん、大丈夫? もう心臓が止まるかと思ったよ!」

 

 トッカン先輩が涙で腫らしたのか真っ赤な目で語りかけてくる。心配かけてごめんなさい。あと最後まで勝負出来なくてごめんなさい……。

 

「ふぅん、元気そうじゃない…」

 

 カルチャー先輩もいてくれたんだ… 素っ気ない振りをしているが、心配して待っててくれたんだなぁ。やっぱりこの人は良い先輩だよね。

 

「コスモスキュートさん、無事で良かったわ…」

 

 スメラギ会長もわざわざ来てくれたのね。会長の檄があってこその有記念でした。重ねてありがとうございます。

 

「もう! 心配したんだから!」

 

 アバロンもレース場まで来てくれてたんだ… 心配かけてごめんね。

 

「本当コスモスちゃんに怪我が無くて良かったよぉ。せっかくライバル(おともだち)になれたのに、去年のナズナちゃんみたいな事になったら私泣いちゃうよ!」

 

 リリィ先輩まで来てくれたんですね。これまで全然絡みの無かった後輩を『お友達』と心配して来てくれるなんて光栄極まりない。尊とすぎて神様みたいな人だよね……。

 

 去年のナズナ先輩みたいな大規模な脳外科手術が必要な事態にはなってないと思います、多分… 精密検査はしなきゃだろうけど……。

 

「コスモス、良かった…」

 

 最後は顔中涙でグショグショにしたハピネスちゃん。そこまで泣くほど心配してくれたんだね、ありがとう。

 

 ハピネスちゃんの現トレーナーさんであるプラチナアイリスさんは、それこそ去年のナズナ先輩の事故を目の前で見ている人だ。他人事では無かったのかも知れない。

 

 …あれ? もう一人いる? 30代くらいの細身長身のインテリっぽい男性。前に会った事あるかな…? 微妙に見覚えはある気がするんだけど…?

  

「初めまして。私はツキバミのトレーナーの大橋と言います」

 

 え? ツキバミ先輩のトレーナーさん…?

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