壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる 作:邪悪なトリカス
今までの追体験とは。嫌な夢を見た。
どうせなら2年生まではそれなりにあったはずの、楽しかった日の夢を見たかったが……いや、止そう。どうせもう戻れないのに、トリニティに未練を抱くだけだ。
喫茶店を飛び出してから数日。少しずつだが正義実現委員会との最後の戦いに向けた準備も進んでいる。
銃弾を買える店などは見張られており、せっかくもらったバイト代は活かしきれていないが、四六時中私だけを警戒して見張っていられるほど暇な組織ではない。いずれ準備は終わるだろう。
それ以外でも、ある程度の資金がある事実は逮捕前の逃亡生活と違って食糧に困らないという点で非常に助かっている。
あの時は空腹になりすぎて冗談でもなんでもなく死ぬかと思った。矯正局で食事を運んできてくれたヴァルキューレ生が女神かなにかに見えたくらいだ。
ふとスマホを見ると不在着信のあとにメッセージが残されていた。着信音は切っていたので気づかなかったらしい。
発信者は先生。
内容は私の体調を気遣うものと、アビドスで一度遭難したが”俺”の助言に従って準備をしてから行ったので人が来るまで倒れずに済んだというものだった。
それなら砂ウルフとの間接キスやおんぶは回避されたのだろうか。
あの妖怪からアビドスへの被害を抑えられたと見ればいいのか、あれも最終決戦に向けた絆を育む日々のひと幕だと思えばするべきではない邪魔をしてしまったのか。
これも止そう。考えればキリがない。
結局、友達として話せという助言は無駄にしてしまったな。
溜息を吐き、首を振って思考を掃うと、見張られていない店を探して歩き出した。
「ここがよさそうか……」
しばらく探していると、見張りの人員のまばらな地区にたどり着く。
おまけに何か通報があったようで店に待機していた委員も慌ててどこかへ去ってしまった。入店するなら今だろう。
「確保――――!」
「!?」
そう思っていたが、甘かったらしい。銃弾を始めとする消耗品を買い込んで店を出た私を、どこかへ去ったはずの後輩を含む委員たちが一瞬で取り囲んだ。
あのとき私をすでに発見していて、こうして集結するまでの時間を稼ぎつつ油断させるために立ち去ったフリを……やるようになった、と成長を喜ぶ暇もなく全方位から後輩たちが組みついて来る。
羽を使えば簡単に振り払えただろうが、どうにも動いてくれず、私はあっさりと団子状に固まった謎集団の中心に据えられてしまった。気分はミツバチに蒸し殺されるスズメバチだ。
「捕まえた! もう逃がしませんよエミリ先輩!」
「急にいなくなったと思ったら
「ハスミ先輩、時々ひとりでこっそり泣いてるんですからね!?」
「ツルギ委員長も突然奇声上げる回数が明らかに増えましたし! 早く帰ってきてください!!」
揉みくちゃにされながら矢継ぎ早に投げかけられる言葉が耳に痛い。
私が対応に困っている間にも組みつきに参加していない後輩がどこかへ連絡を入れている。
多分さほど時間もかからずハスミちゃんかツルギちゃんのどちらかが飛んでくることになるのだろう。
「あの、暴れないので離れてもらえませんか……?」
「……もう逃げません?」
「はい」
流石に暑苦しいし今の体勢の維持も普通に辛いので頼んでみるとひっついてきていた後輩たちは私を円形に取り囲む形に離れた。
逃げようと思ったら飛び越えるか、誰かを突き飛ばすかしなければならない。
造作もないが、そんなことはしないと確信している表情を向けられると動けなくなる。
悪として倒されると決めた奴の姿とは思えない。
それでもせめて決めたことくらいはやり遂げて見せるか。準備は万全とはいえないが、
やがて連絡を受けたトップ2人がそろって現場に到着した。
後輩に囲まれて大人しくしている私を見ると一瞬だけほっとしたような顔をしたがすぐに表情を引き締めて歩み寄ってくる。
「エミリ……」
「
「……」
後輩たちの前だとどうにも硬くなってしまう。喫茶店では友達口調で話せていただけに、あちらの表情がわずかに翳った。
構わず続ける。
「あなたに決闘を申し込みます」
「!? 何を……」
「あなたに倒されて捕まったのなら、もう脱獄はしないと誓いましょう」
ハスミちゃんだけでなくその場の全員が困惑の表情を浮かべる。
しかしすぐにこちらの表情を見て本気で言っていると分かったのか後輩たちがざわつき始める。
「……あなたが勝った場合は?」
「そのまま捕まえてくれて結構ですよ。ただしどんな手を使ってでも、もう一度脱獄します」
「
気づいたツルギちゃんに頷いて見せると、一歩、ハスミちゃんが後ずさりする。それに合わせて私も一歩近づく。
私を囲んでいた後輩は慌てて道を空けてくれた。その表情は先程までとは違い不安げに揺れている。
「ちょっと待ってよ先輩! なんでそんなこと……!」
「お前が待て。気持ちは分かるが」
「う……」
捕獲班の中に紛れていたコハルが飛び出してきたが、ツルギちゃんに制止され立ち止まる。
「ハスミ、やれるか?」
「……ええ。友人として、苦しみに気づいていながら肩を貸すことすらできず。それどころかあなたの心を踏みにじる真似までして。本当に、どう謝ればいいのか……謝って済む話ではありませんね。ですがせめてあなたをそうまでしてしまった責任を……
しばらく俯いた後ですっと上げられたハスミちゃんの顔は、あの時見た
あらゆる感情が凝縮された無表情。私には絶対にできない、正義の味方の表情を。
その表情のまま、後ずさりをやめて一歩踏み出した。
「……私が、あなたを止めます」
私も歩み寄る。鏡が無いので自分の表情が分からない。それでも口角が上がっているのは何となく自覚できた。