壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる 作:邪悪なトリカス
決闘の場は正義実現委員会の側で用意してくれた。
買い込んだ銃弾その他を引っ提げて私が踏み込んだのはトリニティ自治区の訓練場の一角。
やたらと多い遮蔽物、これらの内どれかの向こう側にハスミちゃんが潜んでいるはずだ。
1対1の勝負だからと言って、向かい合ってヨーイドンという訳にはいかない。お互い目も当てられないことになるのは明らかで、この場でお互い隠れたまま、外からの合図で戦闘開始という運びとなった。
勝敗はどちらかが降参するか気絶することで決する。
私は周囲を警戒しつつ遮蔽物の一つに身を潜めた。
一つ深呼吸してライフルの発射準備をする。
そして周囲の遮蔽物の配置をできる限り確認しておく。
狙撃ができず近づくしかない私には、いかにあちらに気づかれず移動できるかが重要になる。それは狙撃側だってそうだが、私は特に、だ。
見つかった状態ではこちらの射程に相手が入るまで何発撃たれるか分かったものではない。
どう動くかシミュレーションしつつしばらく待っていると会場の外から緊張した様子の後輩の声が響いた。
「双方準備はよろしいですね? 開始の合図は信号弾で行います。これを打ち上げた瞬間からスタートです」
ふと、後輩の声に違和感を覚える。緊張というよりは、
「それでは打ち上げます。3、2、1……」
急に悪寒が襲ってくる。
逆らわず、合図の音と同時にその場を飛び退いた。
次の瞬間、私が背を預けていた遮蔽物が派手な音とともに砕け散った。そして付近の地面から土が派手に舞い上がる様子から、高威力の弾丸が飛来したことを理解する。
すでに居所がバレていて、ずっとこちらに照準を合わせて合図を待っていたらしい。
砕けた位置からして、もし飛び退いていなかったら後頭部を撃ち抜かれて開始1秒で負けていただろう。
何故最初からバレた? 影が伸びていたのを見られたのか、それとも……少なくとも、
考えつつも、すぐに別の遮蔽物に飛び込む。そしてすぐにもう一度飛び退く。
案の定、それを繰り返すたび遮蔽物は撃ち抜かれてバラバラになっていった。
弾の飛んで来た方向を観察するも、こちらからはハスミちゃんの姿はどこにも見えない。
あちらから見えているならこちらからも見えるはず。おそらく顔を出さずに隙間から撃ってきている。
……なら、音だ。
開始前の静けさの中で、呑気にライフルのレバーなんて操作していたから、その音を聞かれたんだ。
一度バレてしまえば、あとは飛び退いたことでどうしても大きくなる足音を追い続けるだけで良い。
それでここまで正確に狙えるのは精度が狂っているとしか言いようがない。
あの
本当に、
こう何度も撃たれ続ければ流石に位置も大体分かってくる。もう気づかれないようになんて言っていられない。移動される前に、そこを中心に旋回するように弾を避け続けながら突進する。
「見つけたぁ!」
何発かの弾を全身で受け止めながらも勢いを緩めず進み、流石に移動しようとしていたらしいハスミちゃんを射程内に捕えた。
引き金を引くが、どういう訳かこの距離でも手が震えて弾は外れた。
ハスミちゃんは被弾を覚悟していたのか意外そうな顔をしつつもすぐ冷静に遮蔽物の影に隠れる。
逃がさない。
私もそれに続いてレバーを引きつつ遮蔽物を飛び越えて銃口をその先へ向ける。
「居ない……!?」
慌てて左右に視線を彷徨わせると、こちらへ銃口を向けるハスミちゃんと目が合った。一瞬で音も無く隣の遮蔽物に移ったのか? 足が遅いくせにこういう瞬発力はある!
咄嗟に防御態勢を取った私は、そこへ至近距離で
散々撃たれながらようやく接近して得られたものがダメージだけとは何ともやりきれない。
だというのに、私は口角が上がりっぱなしだ。
「あはっ」
アレは本気だ。本気で私を
接近されても慌てず冷静に返り討ちにして見せる。あれだけ私を心配してくれていても、悪であるなら狙いは揺らがず、攻撃もためらわない。
私にはできないことも、できなくなったことも、今のハスミちゃんなら、全部できる。
「あっははは!」
笑いながら、取り出した球体を足元にたたきつける。その瞬間、緑色の光が全身を包んで傷をいくらか癒してくれた。
コハルも使っている特殊手榴弾だ。範囲内の味方を癒し、敵にはダメージを与える。どういう理屈なのか全くわからないが、使えるのだからいいだろう。
この音と光は私の居場所を教えるようなものだが、それで構わない。どうせあちらから撃ってもらわなければ居場所を特定できない。耐えてもう一度接近するための回復だ。
羽を持ち上げ、弾をできるだけ防ぎながら、飛んできた方向へ一直線に突っ走る。
一直線に、だ。もう回避のための旋回なんてしない。格上相手に同じことをやっても結果は変わらない。
走りながら取り出した閃光弾を銃弾の飛んでくる方向へ投げる。投擲であっても狙いがブレるが、閃光弾のそれなりに広い効果範囲は誤差を埋めてくれる。
目を腕で覆って強い光を防いでいると、遮蔽物の向こうからうめき声が聞こえた。
無事に光を見てくれたらしい。
いくら音で判断して撃っていると言っても、唐突に視界を奪われるショックを完全に無視できるものではない。
勝負開始から今までで初めて、回避するまでもなく弾が外れた。
「そらぁっ!」
「くっ!」
遮蔽物を飛び越え引き金を引く。ようやく被弾したハスミちゃんが距離を取るのを、着地して追いかけようとする。
その瞬間、
それはそうだ。相手が接近して来ると分かってるならそれくらいはする。撃ちながら設置を間に合わせたのは流石だ。
ハスミちゃんは体勢を崩した私に素早く銃口を向け直し、引き金を引いた。
眉間にすさまじい衝撃が加わり、無様に地面に転がされる。平衡感覚が狂って自分が上下どちらを向いて倒れているのかも分からない。
めちゃくちゃにもがいていると、何とか両手を地面につくことができた。
羽も動員して無理矢理に体を起こす。
まだだ。次に撃ってくるまでは時間がかかるはず。それまでにどうにか組み付いて接近戦に。
そう思って姿を探せば、手に例の特殊手榴弾を持ち、振りかぶった状態のハスミちゃんと目が合った。
地雷を踏んだ時に落としたらしい。他にもいくつか落ちている。
立つのもやっとな今、回避は間に合わない。防御しても耐えられない。接触と同時に起爆するだろうから、投げ返すこともできない。
ならせめて、と、地面に転がっていた同じものを羽で掬い上げて投擲する。羽の動かし方は散々訓練した甲斐あって、後出しだというのに、両者が手榴弾を投げ終わるのはほとんど同時だった。
ここだけは勝てている部分か。負けが確定したというのに、そんなことを考えながら、私は迫ってくる手榴弾をじっと見つめていた。
翌朝、クロノス報道部は独善の鳩の再逮捕を報じた。
所属組織のNo.2に本気出されて勝てるわけないだろ!