壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる   作:邪悪なトリカス

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第11話

「エミリ、もう起きていますか?」

「……来てくれたんだ」

「友人、ですから」

 

掛けられた声に、毛布を被ったまま鉄格子のところまで移動する。

朝っぱらから面会に来てくれたハスミちゃんは私が割と元気そうなのを見てほっとしたように微笑んだ。

私も笑い返す。

こんな、なんでもないようなことが今まではできなかった。そう思うと本当に、私は馬鹿なことをした。

 

あの決闘から二日経つ。

最後に投げ合った特殊手榴弾は、着弾と同時に()()()()()()()()()()

結局私たちは相手を敵と認識できず。私は苦しいのを言い訳に友達に当たり散らし、ハスミちゃんは、ただその相手をしてくれていただけだったことをようやく受け入れられて。

同時にとんでもない勘違いで友達に最悪な決断を強要したことを自覚し、立っていられなくなった私を誰かが受け止めてくれたのを最後に記憶は途切れている。そこで気を失ったらしい。

当然、結果は私の完全敗北だ。約束通り大人しく刑を受けることにする。

 

次に目を覚ました時は、ベッドの上で救護騎士団に包囲されていた。起きていないフリをして誤魔化そうかと思ったが、セリナに一発で見抜かれて、そのあとは診察結果を見た彼女らにものすごく怒られた。頑丈さに甘えて自己管理を雑にしすぎていたようで、結果は一言で言えば“論外”だったらしい。次やったら治療は1番痛い方法ですると脅された。

痛いのは慣れてる、と思ったがドアの外でチェーンソーを携えてじっとこちらを見ているハナエと目が合った瞬間私は全力で何度も頷いた。

こわかった。

 

その翌日、この牢に移されて一晩寝て過ごし今に至る。近日中に矯正局に移送されるだろう。

 

「よく眠れましたか?」

「うん、久しぶりにゆっくり……」

()()()()?」

 

ハスミちゃんの声のトーンが一段下がった。

これは失言して機嫌を損ねた時の反応だ。うっかり体重の話をしたときなど、よく()()なる。

 

「エミリ。最後にちゃんと眠ったのは、いつですか?」

「えっと……」

「正直に答えなさい」

「脱獄の前日です……」

「……救護騎士団が激怒していた理由がよくわかりました」

 

路地裏で座って寝てたからな。しかも悪夢ばっかり見るし。

 

「妙に動きが悪いと思ったら……」

 

ハスミちゃんはあの決闘で私が晒した醜態を不調によるものだと思っているらしい。

だが、違う。そんなものは言い訳にもならない。

 

「あれが、今の実力だよ」

「? 何を……」

 

一度心が折れて以来、私は話にならないほど弱くなった。あの決闘の相手が2年生の時の調子に乗った私で、さらにこちらが健康体で挑んでも結果は変わらず、せいぜいやられるまでの時間が伸びる程度のものだっただろう。

5年近くかけて少しずつ登ってきたが、手を離してしまえば転げ落ちるのは一瞬だ。

そしてもう、登り直す気力はない。

“彼女”の背を追うことに執着していた手前認めたくない気持ちがあり、見て見ぬふりをしてきたが、決闘の結果として突きつけられれば受け入れるしかない。

 

私の5年間(せいしゅん)は、全部無駄になった。

 

「エミリ、泣いているのですか?」

「……うん」

「そう、ですか……その、私でよろしければ」

「話、聞いてくれる?」

「ええ、()()()()()

「ありがとう」

 

そうして語り出す。今度はハスミちゃん達が卒業するまで出られないかもしれない。話せることは話しておきたい。

 

「私ね、正義の味方になりたかったんだ」

「ええ。時折語ってくれていましたね」

「でも途中から、だんだん苦しくなってきちゃって。そこに、あんなこと(人質誤射)が起きて……」

 

悪夢の中で思い出した(見た)内容をなぞるように語っていく。

要約してしまえば喫茶店で語ったこととほとんど同じ内容だ。違いは勝手に口から漏れ出てくるのではなく、聞いて欲しくて自分から語っているところ。

何より聞き手(ハスミちゃん)が動揺せずしっかりと受け止めながら聞いてくれているというところだ。

私をなんとかしなければと焦るのでもなく、聞いてどうしようというのでもなく。ただ傍で耳を傾けて、私が思ってることを共有してくれる。

 

それだけの違いで、今度は一言吐き出すたびに少しずつ体が軽くなっていく。手も震えない。同じ話をしているのに、こんなにも違うものなのかと驚いた。

こんなことになる前に、それこそ2年生の時点でやっておくべきだった。

友達として話せとはこういうことか。先生は答えを教えてくれていたのに。聞きもせず無駄に苦しんで、みんなにも余計な迷惑をかけてしまった。本当に、馬鹿みたいだ。

 

「……聞いてくれてありがとうね、もう大丈夫」

「また、いつでも言ってください」

「うん……でも、もう、いつでもは無理だよね」

「どうして?」

「だって、もう当分矯正局から出られないだろうし……トリニティだって、多分退学になる」

 

言ってしまってから、せっかく軽くなった体がまた少しだけ重くなるのを感じて後悔した。

 

「諦めるには、早いと思いますよ」

「……」

 

ハスミちゃんはそう言ってくれるが、もうとっくにセイア襲撃事件は起きている。疑心暗鬼になったナギサの目に私のような囚人がどう映るかは考えなくてもわかる。

 

数日後、牢にティーパーティーの制服を着た生徒数名が訪れた。沙汰を下すということだろう、と思っていると正解だったらしく、ミカの聴聞会があったような部屋に連行された。

予想通りナギサ、ミカを筆頭にティーパーティー、サクラコを筆頭にシスターフッド、ツルギちゃんを筆頭に正義実現委員会、団長がいないため代理なのだろう、セリナを筆頭に救護騎士団のメンバーがそれぞれ数名ずつ、席について待ち受けていた。

とんでもない面子だ。腐ってもいち生徒を他派閥の認知外で勝手に追放しては角が立つということか。

私としては公開処刑みたいで胃が縮み上がる思いだ。正直勘弁してほしい。

 

「まずはお集まりいただき感謝を……」

 

司会はナギサが務めるようで、定型文のような挨拶もそこそこに私の罪状の読み上げが開始された。

不良生徒のヘイロー破壊未遂、逃亡による公務執行妨害、脱獄、その他余罪複数。

聞いていた面々の中には眉を顰める者も少なくない。やっぱり見せしめの意図も少しくらいはあるのかもしれない。

糾弾対象のはずの私には目もくれず集まった面々に睨みを効かせながら語るナギサの様子は、エデン条約を前に妙な真似をすればこうして叩き潰すぞ、という示威行為に見える。

もちろん先入観からくる私の妄想かもしれないが。

 

「以上の理由から被告、政樹(まさき)エミリへの処分は矯正局移送に合わせての退学、および自治区からの永久追放が妥当と判断しました。異議のある方は申し立てを……」

 

結果は、予想通りだ。八囚人の母校追放は五塵の獼猴(カイ)という前例もある。災厄の狐(ワカモ)は停学で済んでるんだったか? まあ私には関係ないか。

挙げられた罪は全部事実だ。反論のしようもない。

 

見ればツルギちゃん達はなんとか庇おうとしてくれているのか必死に何かを考えている様子だが、浮かばないのか発言はない。

その気持ちだけで嬉しい。もし出所が卒業に間に合ったらD.U.辺りで会うのもいいかもしれない。だから皆でそんな申し訳なさそうな顔をしないでほしい。

 

 

……この時の私はこんな風に、完全に諦めていた。トリニティに帰れなくなった後のことばかり考えていた。

 

「異議が無いようでしたら、これにて……」

 

だから。

 

 

 

 

”異議あり!”

 

 

完全な意識の外から、部屋の扉を派手に開け放って現れたこの大人が、悔しいが、ちょっとカッコよく見えてしまった。




この妖怪がバッドエンド許すわけねえだろ!!!
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