壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる   作:邪悪なトリカス

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第13話

先生に連れられて来たのはバイトしていた喫茶店だった。

もう来られないとかなんとか言って出ていった手前わずか数日で戻ってくるのは、なんとも言えない気分になる。

あの店主は気にしないだろうという謎の信頼もあるが。

 

「おかえり」

 

第一声がコレだからな。

 

「その……戻り、ました」

「うん。あっちで皆待ってるよ」

 

店主が指し示した席の方へ進んでみる。

先生曰く私に会いたがっているとのことだったが、そこまで親しい間柄の相手は正義実現委員会以外ではほとんどいないはずだ。

内心で首を傾げつつも、私の減刑に協力してくれた恩人達に変わりはない。決して失礼のないようにしなくては。

 

”皆、エミリを連れて来たよ”

 

先生の声に最初に振り返ったのは、はっきりと覚えている、しかし思いもよらない顔だった。

 

「お久しぶりです……私のこと、覚えていらっしゃいますか?」

「! あなたは……」

 

忘れられるはずもない。あの事件で誤射した人質だ。

私が返答せずとも表情の変化のみで伝わったらしく、立ち上がって上品にお辞儀をしてくる。

 

「こうして()()、再びお会いできたことを大変うれしく思います。あの日、私が邪魔をしたせいであんなことになってしまって。しかし正義実現委員会の皆様や、あなたは気にしなくて良いと言ってくださいました。それどころか当てて申し訳ないと私などに頭まで下げて……」

「……それは」

 

どこかで聞いたような話だ。あの時の私と似たような気持ちだったのか。いっそ罵倒でもしてくれた方がまだ楽だ、というあの苦しい感覚。

そうか、吐くくらい苦しんでおきながら、全く同時に、相手に同じことをしていたのか、私は。

 

「そんな優しいあなたが、罪人の烙印を押されてトリニティを去るなど我慢できず。この集まりに参じました」

「集まり、ですか」

「はい……ああ、長々と立ち話を。すみません。こちらへどうぞ」

 

自分が原因と思っているとはいえ、撃ってきた奴を優しいと評する彼女の方がよほど優しいだろう、と思うが。口に出せばおそらく不毛な水掛け論が始まる。やめておこう。

薦められた席につけば集まりとやらのメンバーが出迎えてくれた。

メンバーの顔には全員に見覚えがあった。一緒に来たハスミちゃんと正義実現委員会の後輩、ほとんど同時に出たはずなのに先についていたセリナ、風紀委員、スケバン、ヴァルキューレ生、デカルト……

デカルト?

 

「おお、お久しぶりです!」

「????」

「おや、覚えておられませんか? 他者への恩を誇らないとは、流石、謙虚でいらっしゃる」

 

この全自動穀潰しロボ、なんだか妙に好感度高めで話しかけてきたぞ? こわい。

 

「あなたが覚えておられずとも我ら所確幸の同志を欲の皮の突っ張ったアンコウの群れからお救い頂いた事実は消えません。しかも見るからに空腹な様子でありながら、お礼のもやし弁当も固辞してそのまま去っていく高潔な無欲さ。このデカルト、忘れようはずもない!」

 

どうしよう、全く記憶にない。こいつが関わってるってことはD.U.の子ウサギ地区あたりか? 意識があるのかどうかも怪しくなってきた頃の話だな。なら覚えてないか。とりあえず無意識に攻撃してないようでよかった。

 

「本当に騒がしいなコイツは……だがこういう連中のネットワークってやつは意外とバカにできんからな。目撃証言集めでは最初のお嬢さんの次に助けられた」

 

そう言って割って入ってきたのは矯正局で看守を務めていたヴァルキューレ生。

 

「脱獄の件は本当にご迷惑を……」

「全くだ。模範囚だと思ってたんだがな……まあこっちも杜撰な取り調べで懲役まで行った手前強くは言えん。正直、調べていく内にちょっと冷や汗が出てきたよ」

 

苦笑いで頭の後ろを掻くヴァルキューレ生をジト目で見つめるスケバンへ視線を移すと、すぐに気づいて小さく頭を下げてきた。

 

「っス。この間は、どうも」

 

この間、と言うようにこのスケバンは店主からケーキをもらって公園に行った際に”加工”したグループのショットガン持ちだ。

すかさずヴァルキューレ生が

 

「最新事件の証言者だ。()()()()()()()()()()とさ。クロノスめ、そっちは一向に報道しやがらない」

 

と補足してくれた。

 

「……てっきり恨まれているかと」

「いやぁ、流石にこっちが悲鳴上げるたびにボロ泣きしながら殴られちゃ恨めねえっつうか。マジでヤなことさせてるんだなアタシら……ってなって」

「泣いて、ましたか……?」

”自覚無しかぁ……!”

 

後方で見守る体勢に入っていた先生が天を仰ぎながら思わずと言った様子で呟いた。スケバンも困ったように人差し指で頬を掻く。

 

「ま、まあそんなわけで。ちょっとでも詫びができたらなーって、全部話したんスよ」

「……先生、あの日いらしたのは」

”うん、ニュースじゃなくて、そこの子の証言を聞いたからだよ”

 

だから開口一番に笑顔(スマイル)なんて注文してきたのか……

 

「信じて貰えねえかも知んねえスけど、もうカツアゲとか、そういうの、絶対(ぜって)ぇしません! 仲間は足折れてて今日は来てないんでアタシから……ほんっと、すんませんでした!」

「……!」

”……だって。どうする? エミリ”

 

どう、と言われれば。例の不良の嘲笑がどうしても脳裏によぎる。あの絶望と、ドロドロした怒りが蘇る。だが、善性を信じて救ってもらった身だ。私が人の善性を信じなくてどうする。

 

「……きっと」

「?」

 

──どうせ嘘なんでしょう? 心が折れたあの日は、不良の降参宣言に対して反射的にそんな言葉が出た。

 

「きっと、本当だと信じます 信じさせてください」

「……ウス!!」

 

話が終わったタイミングを見計らい、隣の風紀委員が口を開いた。

 

「で、私がゲヘナ風紀委員会の過去資料担当です……えっと、私の事も覚えてくれてたりしますかね?」

「もちろんです……風紀委員会に入られたんですね」

 

服装は変わっているが、顔はそのまま。周りとのゲヘナへの意識の差を痛感したあの日、銃撃戦に巻き込まれていた一般ゲヘナ生だ。

正体を察したハスミちゃんが気まずそうに眼を逸らしたので思いっきり背中を抓っておいた。あの発言だけはまだ許してないからな?

 

「そうなんですよ……その、あなたに憧れて」

「え?」

「結局は、弱すぎて資料整理とかの事務に回されちゃったんですけどね……最初は悔しかったですけど、これはこれで楽しいですし、おかげでこうして多少は役に立てたみたいで、報われた気分です」

 

そう言ったあと、明るく笑う風紀委員の顔は、ずいぶんと眩しく見えた。憧れに近づく方法は、なにも対象を()()()だけじゃない。自分の得意なことで、こうして胸を張って会いに来られるような自分になればいい。私が5年かけて出せなかった答えを、たった数か月で見つけてしまったようだ。

本当にすごい。そんな人が憧れてくれていたという事実は、なんというか、顔が熱くなる。

 

「……エミリ。あなたは、大切な日々を無駄にしたと嘆いていましたが」

「……うん」

「確かに、苦しくて、悲しい結果にもなりました。ですがこれだけの人々があなたのために協力してくださったのは、まぎれもなくあなたの行動の結果です。無駄なんてことは、なかったのではないでしょうか」

「そう、かな」

 

 

対面のセリナが微笑んだ。

 

「そうですよ、後半は怪我人を増やして、自分も傷だらけになって、団長が知ったらどんな行動に出るかと困りものでしたが……それでも、あなたのおかげで()()()()()()()()()人の方が、ずっと多いはずです」

 

 

後輩が立ち上がって風紀委員の肩に手を置く。

 

「いつか言ったかもしれませんけど、エミリ先輩に憧れて正義実現委員会に入った子だって、たくさんいるんですからね! 無駄なんてとんでもない!」

 

 

スケバンが胸の前で拳をぐっと握った。

 

「ちょっとくらい自信持ってくださいよ、アンタが居なきゃ、アタシらは未だにあの辺で亡者みてぇに暮らしてたんですよ? 自分から。ぞっとしねぇや」

 

 

ヴァルキューレ生がデカルトに自分の分のケーキを押し付けながら笑った。

 

「こういう連中、元々大した犯罪は起こさなかったが……お前に助けられたって主張する奴……所確幸だったか? こういうのは自分から人助けとか始める場合もあってな。D.U.は多少()()()になった」

 

 

人質だった子が、そっと手を握ってきた。

 

「実を言えば、私は人見知りでして。こうした集まりに参じるのも、人々にお話を聞いて回るのも、少し前の私なら、躊躇していたと思います」

「……」

「ですが、緊張して喋れなくなりそうな時、私が自分で邪魔してしまったとはいえ、あの緊張感の中で私を助けようと行動してくださったあなた方の姿を思い出せば、決して少なくない勇気をもらいました」

「勇、気……」

 

私は、ハスミちゃんにあんなことをさせなくても、誰かに……

 

先生が心底嬉しそうに立ち上がる。

 

”無駄なことなんてひとつもないんだよ”

「先生……」

”うまく成果が出なかったと思う努力も、意外なところで報われることがあるし”

”自分では失敗したと思うことも、周りの誰かにとっていい影響を与えることがある”

”皆が言うように、君のこれまでの日々が、今日のこの光景を作ったんだよ”

「……」

”だから、私が先生として言うべき言葉はひとつだ”

 

頭の上に、先生の手のひらが乗せられる。

 

”よく頑張ったね、エミリ”

「……!」

 

頭を撫でる、なんてごく小さな子供をあやすような行為が、しかし私のような子供には有効だったらしい。

3年生(良い歳)になってから、何度目だろうか、泣くのは。

皆に助けてもらった礼を言わないといけないのに、嗚咽で何を言ってるのか分からなくて、ぐっだぐだになって。それでも皆嫌な顔一つせず許してくれる。

 

間違いなく、今までで一番泣いた。しかし、今までのような苦しさは欠片も無かった。




次回、エピローグです
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