壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる 作:邪悪なトリカス
ドーモ、
減刑のため走り回ってくれた恩人たちの前で大号泣をかましてから、早いもので数週間が経った。
あの後すぐ、裁判モドキで語られていたようにシャーレの責任で”私”の保護観察がスタート。無事に毎日が当番状態となった俺は今日も喫茶店の時の制服姿でシャーレの各種業務を手伝っている。
なんで喫茶店の制服なんだよって? 先生の趣味。
……というのは冗談って事にしておいて、実際には一応停学中の身なのであまり大っぴらに”私はトリニティの生徒です”と分かる服装で他校の生徒に接すると、万が一問題起こした時にトリニティに飛び火する可能性があるからだ。
じゃあ私服でいいじゃんって? それはそう。やっぱ先生の趣味だ。徹夜で死にかけのところに追い打ちのコーヒーを持って行った時、この制服の方が露骨に元気がよくなる。
ところで、アビドス編は既に終わっている。俺がシャーレ入りした時点で既にヘルメット団の相手は終了しており、保護観察中の奴をブラックマーケットや武装企業の私有地に連れていくほど先生も対策委員会もクレイジーではなかったため、俺はほとんど
相手が主に
それは分かるし守ってくれるのは素直に嬉しかったが、やはり寂しいもので。
先生がアビドスに行っている間はなかなか気が休まらず……
恋する乙女かな?
俺は羽川が好きなんじゃなかったのか? どうも”私”の先生に対する感情が日々大きくなっていっているのを感じる。
生まれ直して以来、ほぼずっと同じ方向を見ていた関係であまり気にしてなかったが……
これが心がふたつある、という奴なのか。いや、別に二重人格を指す言葉ではないか。
そんなわけで、実は割と俺までドキドキしながら先生と接している。
”ところでエミリって、脱獄後はお風呂とかどうしてたの?”
「…………………………」
まあ、こんなふうに”私”の視線の温度が一定値を超えると、キモさでバリアを張ってくるのであまり深刻に気にする必要はないんだけどな。
この、さっきまでどうしようもなくなりかけてたドキドキがスゥっと引いて行く感じ。完全にツボというか、制御方法を把握されている。これなら間違いが起きることは永劫無いだろう。
いやそれにしたってこれは限度超えてないか? ノンデリってかセクハラでしかねえよ!? そりゃ温厚な公安局長もキレるわ!
「……喫茶店の更衣室付近にシャワーがありましたので、勤務開始前後に借りていました」
”そうなんだ! どうりでいい匂いしかしないわけ……”
「あ、こんにちはユウカさん」
急停止した後、ギギギ、と故障した仕掛けを無理やり動かすような音を立てながら先生が振り返ると、そこには無言で佇む
俺がその存在を、最近顔なじみになった早瀬ユウカだと判別できたのはこの表情になる前から視界に収めていたが故だ。それほどまでに恐ろしい変貌だった。
「先生」
”はい”
「ちょっとお時間頂けますか?」
”……はい”
頂けますか? と伺いを立てる言い方ではあったが、当然拒否権の無い強制徴収であった。先生もそれを分かっているようで”はい”しか言わない。
哀れな囚人が
なんというか、ものすごく平和だ!
「ツルギから聞きました。復学後、正義実現委員会を
「……うん」
数日後、所変わって例の喫茶店。俺は羽川と向かい合っていた。先生は別の席で居合わせたスイーツ部と戯れている。
「引き留めるわけではありませんが……理由を聞いてもいいですか?」
「そうだなぁ……まず、停学で許してもらったとはいえ、私ってもう前科者でしょ。今更正義名乗るのは、やっぱり無理があるかな、って」
「……」
「っていうのは最近ついた理由で、一番は……この間も聞いてもらったけど、苦しくなっちゃったから」
気づいていたが諦めきれず無駄にあがいて、でも無駄は所詮無駄で。いろんな人に迷惑をかけて、ようやく、どうにか、ではあるが、受け入れることができた。俺は致命的に正実、というか戦いに向いていない。
手が震えることは無くなったので今からでも戦闘力は取り戻せるだろうが、そうする気力はもうない。
「やめた後どうするのかってなると、全然思いつかないんだけど。ごめんね、こんないい加減で」
「謝らないでください。むしろ安心しました。こんなに穏やかな顔をしたあなたを見られたのは、ずいぶん久しぶりです」
持ち歩くようになった鏡を取り出し、自分の顔を見てみる。憑き物が落ちたような、やや垂れ目になった顔の女子が鏡の中から見つめ返してきていた。
これでも少々辛気臭い顔をしているな、と自分で思うが、以前と比べて相当マシになっているらしい。本当にどれだけ酷い顔をしていたのやら。
「そっか……ずっと、心配かけ続けて。悪い友達だったね」
「そう思うのでしたらこれからは、その顔が翳ることの無いよう、楽しんで生きてください。そうある限り、あなたがどんな道へ進もうと、心から応援します。そしてあなたは良き友であると、胸を張って自慢し続けます」
「ありがとう」
笑顔を交わしあい、俺たちはそっと席を立った。仕事に戻る羽川を見送り、先生とスイーツ部の駄弁っている席へ向かう。
先程羽川にも言ったが、正実をやめたとしてどんなことがしたいのか、どんな自分になりたいのか、それが思いつかない。
記憶の中の”彼女”を行動指針に据えていた時期が長すぎた。まずは自分探しが必要か。
ちょうどいい。スイーツ部の話を聞いてみるのも悪くない。先生に仲介してもらえば会話くらいはしてくれるだろう。
柚鳥ナツの目がキラリと光った。ロマンとやらについて存分に語ってくれそうだ……
”エミリ、なんだか楽しそうだね”
「はい、とても」
帰り道、先生が嬉しそうに笑う。スイーツ部との会話は思いのほか弾み、これからへの気力が湧いた、とでもいうべきか。とにかくずいぶん前向きになれた。
こんな調子でもっといろんな生徒の話を聞いてみたい。せっかくシャーレに居るんだから、他校の生徒ともっと積極的に話してみようか。
誰かが明確な答えを持っているというものでもないのだろう。それでも大勢の生徒と話していく内に見えてくる何かがあるはずだ、という確信めいたものがあった。
待ってろ羽川……どんな道へ進もうと応援するって言ったのはお前だからな? ちゃんと見てろよ? 目を逸らすなよ?
「ははは、楽しみだなぁ!」
いつかきっと、正義の味方ではなく、正義に胸を張れる自分に。それがどういう事なのかも、どうやったらそうなれるのかも、今は分からないが、きっとなって見せる。
だからその時は、また、一緒に笑ってくれ。
頼むよ、ハスミちゃん
これにて完結でございます。
本当はここでいい感じにエミリの再スタート感を出しつつ、これよりエデン条約編を開始する! と言い出す予定でしたが蛇足感ものすごいのでやめました。
ここから補習部に関わらせて曇らすのもちょっとね……
エデン編で出す予定だった設定とかを消化する番外編を追加するかもしれませんが、ひとまずはここでお別れとさせていただきます。読了ありがとうございました。