壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる 作:邪悪なトリカス
始まりは5年ほど前、中学の頃。
”俺”は生まれ変わって銃で撃たれてもそうそう死なない体を手に入れたが、それでも前世の感覚が抜けきらず。
この世界で10年以上過ごしたあとでも銃や爆弾が怖くて仕方がなかった。
園児のケンカで手榴弾が飛び交うキヴォトスでは、そんな”俺”が誰かと接するなどまともにできるはずもなく、ろくに友達も作れずに一人寂しく自室と学校を往復するだけの日々を送っていた。
そしていつも一人で歩いてるトリニティ自治区の中学生なんて不良からすれば狩りやすい獲物でしかなく。
ある日私は下校中、数人の不良グループの手で路地裏に引きずり込まれた。
逃げようとしたものの、耳元で銃声を聞かされただけで足は傷一つ負っていないくせに硬直してその役目を放棄し、動きが止まったところを拘束されてしまった。
ずいぶん嘲笑されたが、そんなことを気に留める余裕はなく。ただ震え続ける私の肩に手を置いた不良は大人しくしていれば痛い目に遭うことは無い、と告げる。
ほっとして油断したところを一発撃たれた。名目は確か、逃げようとした罰だったか。
痛みと恐怖で泣き出した私を見て不良たちはまた笑った。
縮こまって泣いていることしかできない状態でも聴覚は仕事を続けており、不良たちがどこかへ電話を掛けているのに気づいた。トリニティへ身代金でも要求しているのかと会話に注意を向ければどうやらそのようで、すぐに不良は満足げに電話を切った。
「よかったな、高等部の
本当に助かるのか不安ではあったが最早その言葉にすがるしかなく、私は学校で形だけ教わった祈りを居るのかどうかも分からない上位者へ捧げた。キリエがどうのこうのと、意味も分かっていないソレをブツブツ繰り返す私の姿は実に滑稽だったようで不良たちの嘲笑は最高潮に達する。
「やあやあ! ずいぶん楽しそうだね!」
銃声だけでなく笑い声まで”俺”のトラウマに加えられるのではないかと感じ始めたとき、それらをかき消すように大きな声が響き渡り、全員の視線が発生源へと殺到する。
路地の影が途切れるちょうど境目。夕日に照らされながらその人物は立っていた。
黒いセーラー服と、血のように赤いヘイロー、長い黒髪、黒い羽。そして手にしたスナイパーライフル。
ゲームの中でもこの世界で聞いた話でも大勢が共有しているその特徴は”彼女”が正義実現委員会のメンバーであることを示していた。
「何モンだてめえ」
「
「はぁ? まだ電話してからそんなに経ってねえぞ?」
「善は急げってね、爆速全開で来た! ……んだけど。おかげで肝心の身代金を持っているメンバーを置いてきちゃった。まあ話でもして待とうよ! はっはっは!」
「ふざけてんのかコイツ……」
最後の不良の台詞には私も同感だった。
だが当の本人は堪えた様子も無く、いたって真面目な顔になって続けた。
「それじゃあ、ふざけてない話なんだけどさ……こんなことやめない?」
「は?」
不良がその日出会ってからそれまでで一番低い声を出した。
「他のメンバーが来るまでもうちょっとかかるし、今すぐそのコにごめんなさいして逃げれば”半分イタズラ電話だったみたいです”で済むんじゃないかなーって思ってさ」
「やっぱふざけてんだろ、お前」
「……ダメ?」
「はっ、トリニティのお嬢様には分からねえだろうけどな、アタシら退学組は今日生きてく金すら困ってんだよ! 逃げてどうなる。ここまでやって今更退けるか!」
「……バイトとか」
「退学になった奴なんざ、どこも門前払いよ」
”彼女”は表情を変えなかったが、わずかに影が差したように見えた。
「そう、なんだ……うーん」
「わかったら引っ込んでな! さもないとこいつを……!」
不良たちの銃が一斉に、再び私の方を向いた。
「……こいつ? 誰のこと?」
「うぇ?」
しかし次の瞬間には、不良たちが慌てて周囲を見回すのを、私は”彼女”の腕の中から見ていた。一体どうやったのか分からなかったが、悲鳴を上げる間もなく不良たちの包囲から助け出されたのだと気づいたとき、ずいぶん間抜けな声を上げてしまったのをよく覚えている。
「さて、人質確保! ……逃げるなら今が最後のチャンスだと思うよ?」
「ほざけぇ!」
怒号と共に鳴り響くいくつもの銃声に再び抗い難い恐怖が襲い掛かってきた。”彼女”はそんな私の頭にそっと手を乗せた後、優しく微笑んだ。
「大丈夫、絶対守るから」
そう言われてすぐに気づいた、銃声は途切れることなく続いているというのに、一発も私に当たっていないことに。
「発砲されちゃあ仕方ない……いくよ! 正義全開!」
”彼女”の持つスナイパーライフルの銃口が火を吹いた。
あろうことか、一発の弾丸が纏った眩い光がまるで質量を持っているかの如く地面を抉りながら突き進み、敵陣のど真ん中で大爆発。不良たちを全員まとめて空高く吹き飛ばしてしまった。
……この記憶は流石に私の”憧れ”で補正されているかもしれない。そう思ってしまうほど鮮烈な光景だった。
気づけばあれほど恐ろしく、見るのも嫌だったはずの銃から、目が離せなくなっていた。
「もう安心だよ」
これが、私の憧れの始まった日の記憶だ。
本編とは全く関係ない話ですが助けてくれた”彼女”の夢は駄菓子屋か喫茶店のマスターだったそうです。
ちなみに当時の戦闘力は例えるなら”クソ真面目に訓練を積んだミカ”レベル。なんだこのバケモノ!?
盛りすぎた……まあ今後出番ないしええやろ。
一般生徒の分際でこんなのに憧れるから挫折するんだぞ鳩!