壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる 作:邪悪なトリカス
「……勝てた?」
”正義の味方”に遭遇したあの日から数か月後。
中学2年生に進級したのを機に銃を持つようになった”俺”は不良によるトリニティの中学生を狙った襲撃にふたたび遭遇。無抵抗に震えるしかできなかった前回とは違い”抵抗”を試みた。
その時点では勝てるとは思っていなかったが、それでも嘲笑しか返ってこない祈りに縋るよりずっといいと思えた。
その結果は足元でうずくまる不良たちによって示され、この出来事が私に自身の力を自覚させた。
騒ぎを聞きつけてやってきた正義実現委員会はその光景を見て驚いていたが、ずいぶん讃えてくれたのを覚えている。そして無茶をするなとお叱りをいただいたことも。
この時、助けてくれたあとで忽然と姿を消した”彼女”は居ないのかと訊いてみたが、そんな人物は知らないと言われた。
正義実現委員会と似た制服を着ていただけだったのか……ティーパーティがどうのと言っていたはずなのでその線は薄そうだが。単に訊き方が悪くて伝わらなかったのか。あの時既に3年生でもう卒業してしまったのか。
もう会えないのだろうかと寂しい思いを抱いたが、会ってどうするのかと言えば何も思いつかず。話はそこで終わった。
完璧な生き物など居ない。あの”彼女”だってなにかしらの弱さを持っていただろう。だがそれを知る機会は失われ。
幸か不幸か、思い出の中の完璧な”正義の味方”のイメージは揺らがないものになった。
折れてしまった今ならそれが不幸だったと思えるが、当時の私は憧れのままに突き進んだ。中学の残り2年間を”慣れる”訓練に費やした。
自分の強みは何だろう、と考えた結果、大きな羽を自在に動かせるようにする訓練に特に力を入れた。飛行こそできなかったが跳んだ時の滞空時間を延ばすことは出来たし、そうでなくても手足が合計6本あるようなもので、銃を両手で抱えたまま左右に打撃を放つ、射撃時は地面につけて姿勢安定など構造上できそうなことは片っ端から試して練習した。
”憧れ”からスナイパーライフルを選択した関係で近接戦闘の機会はそうないのではないか、と気づいた後も、できないよりはいいだろうと続けた。
これが後にあまり喜べない形で功を奏することになる。遠くのものを撃てなくなるからだ。
そうして迎えた高等部への進学の日、私は迷わず正義実現委員会への加入届を提出した。
1年目は押収品の管理など後方の仕事が多かったものの、時々連れ出される鎮圧任務では訓練が一定の成果を出していたことを実感できた。
ここでツルギちゃんと、当時まだそれほど
二人とはすぐ仲良くなって、予定が空いた日は一緒に甘味を求めて街を練り歩いたりした。特にハスミちゃんは同じスナイパーライフルを使っていることもあり、気が合ってよく言葉を交わした。正義の味方に憧れていることは結構早い段階で話したと思う。応援してくれたのがとても嬉しかった。
そして2年目。
後輩も出来て、私はより一層張り切って職務に臨んだ……と言えば聞こえはいいが、はっきり言って調子に乗っていた。鍛えただけ成果が出て、着実にあの日の”彼女”には及ばないまでもその影を追って進むことができているという実感は私の口角を釣り上げ、降伏勧告に従わず撃ってきた不良の頭を順番に撃ち抜いてみせた時に後輩たちから向けられるキラキラと輝く視線は私の鼻柱を伸ばした。
いつの間にか職務中はハスミちゃんの丁寧語が
今思えばこの頃には既に”彼女”の背中を追いかけることに限界を感じ始めていたのだろう。及ばないまでも確かに強くなっているが、所詮は及ばないのだと。このまま卒業まで過ごしても”彼女”の足元にもたどり着けないと、無意識ながら感じ取ってしまっていたのだろう。
だから他の優秀な相手の真似をし始めた。自分一人で具体的なビジョンも無く突っ走るよりはずっと楽で、しかも劇的に
調子に乗っていたのも成長を心のどこかで諦め、せめて手に入れた物を誇りたかったからなのかもしれない。
無自覚に挫折一歩手前の日々を送っていた私に、決定的な失敗の時が訪れた。
大量の爆発物と人質を引っ提げて立てこもった不良生徒の制圧任務。
そう珍しくもない事件――などと言える辺りこの世界の治安は最悪だ――だった。
犯人だけを狙撃し速やかに制圧するという提案を私は受け入れてしまった。
スナイパーライフルを向ける。犯人はこっちを向いておらず隙だらけで、そのまま引き金を引けば終わる。そのはずだった。
だがこちらを向いていた人質が私に気づき、大声で助けを求めてきた。追い詰められて冷静な判断ができなかったのであろうことは分かる。かつての私があの場所に居たら同じことをしたかもしれない。
「マズイ――っ!」
当然犯人も私に気づき、起爆装置に手を掛けて振り返った。目が合う。
その顔を怒りに歪めた犯人が装置を操作する一瞬前、私は引き金を引いた。
「……あ」
喉が塞がったのではないかと錯覚する。息ができなかった。目の前の景色がゆがむ。ライフルが地面に落ちる音がやけに大きく聞こえた。
弾は、飛び出してきた人質に当たった。
そうなれば無傷の犯人は止まらない。現場は爆炎に呑まれて更地になり、犯人も人質も、私を信頼して接近していた正義実現委員会の仲間も、まとめて救護騎士団に連れていかれることになった。
目が良いことをそれまでの人生で一番呪ったのがこの瞬間だ。冷や汗を流しつつも外したことを嘲る犯人の顔が、弾が当たった瞬間、何が起こったのか分からないという顔で倒れ込んだ人質の顔が、緊急離脱しようとして間に合わなかった仲間たちの絶望する顔が。すべてハッキリと脳裏に焼き付けられた。
これが、スナイパーとしての私が
凸スナ鳩誕生までの軌跡でした