壊れたフリして好きな子曇らすの楽しすぎる 作:邪悪なトリカス
事件の後、すぐに病院へ赴いた。
幸いにして
誰一人として責めてこなかったのが、逆に辛かった。例の人質など、邪魔をしたことをあちらから謝ってくる始末で、耐えきれなくなった私はトイレに駆け込んで吐いた。
その後トリニティ校舎へ戻ると正義実現委員会へのバッシングが始まっていた。
軽傷で済み入院を免れた後輩が当事者として詰め寄られている所へ割って入り頭を下げる。
私のミスが原因だと知ればターゲットはこちらに移る。
激しく罵倒されながらしばらくそれを繰り返しているうちに日が暮れ、どうにかその場は収まったが、次の日以降も、似たようなことは繰り返された。
それでも一週間経つ頃には当事者以外はそんな事件があったことすら忘れてバッシングもすっかり止んだ。
あれだけ私を糾弾していた一般生徒たちは何事もなかったかのように、朝すれ違えば笑顔で挨拶してきた。嫌味でも何でもなく。
傍から見ればその程度の事件だったということなのだろうが、それなら私達の活動は一体何なのか、と酷い息苦しさを覚えた。
3年生になった。
ツルギちゃんが委員長に、ハスミちゃんが副委員長になった。
あの事件以来、手が震えて遠くのものを撃てなくなった私は前衛に転向していた。
そのうえで武器を頑なにスナイパーライフルから変えず、相手に撃たれながら近づいてゼロ距離で反撃する私を見る後輩の目は得体の知れない何かを見る、恐怖の入り混じったものに変わっていった。
例外はあの事件の当事者と、純粋に怪我を心配して治療しようとしてくれた下江コハルくらいのものだった。
日毎に息苦しさが増していくのを感じつつも3年生になるまで続けてくるともう辞められるものでもなく。
前より強くなったことを実感しても虚しいとしか感じられなくなったが、鍛えるのを辞める口実が見つからず。
このままではいけないというのがなんとなく分かっていても、ではどうするのか、そもそも何がどういけないのか。それがわからず結局はずるずるとその状態を維持し続けてしまう。
そんな中でも誰かを助けられた時は報われた気がして嬉しかった。
しかし周りとしては
報告の際にそのことを知ったハスミちゃんは露骨に顔をしかめて「犯人ごと撃ってしまえばよかったものを」と口走った。
生まれ直した時からある程度の人格を持っていた“俺”と違って、他のトリニティ生というのは本能的にゲヘナ生を嫌う傾向があるし、ハスミちゃんも
「ゲヘナのために、あなたがそこまで傷だらけになる必要は……」
「なにそれ」
「っ! ……エミリ?」
思わずハスミちゃんの言葉を遮るように出た声は、自分でも驚くほど低いものだった。ハスミちゃんも何事かと驚いたような顔で固まる。
「……ごめん、なんでもない」
時期的にまだゲヘナの生徒会長に激怒させられていないはずの状態ですらこれなのか、と驚くと共に、自分の中で正義という言葉の形がはっきりしなくなっていくのを感じて、急に怖くなった私は慌ててその場を去った。
その日以降、体が重くなった様な感覚が抜けなくなり、任務で負う怪我が明らかに増えた。
表情も酷いものだったらしく、戦闘中はまるで化け物と出くわしたような反応をされることが多くなった。
当然そんな状態でいる者が放置されるわけもなく、ある日私は友達2人から呼び出しを受けた。ただし正義実現委員会の委員長と副委員長としての2人から。
「エミリ。少しの間、委員会を休め」
「……どうして? 私は、まだ」
「そうは見えない」
「……」
「お願いですから、これ以上無理をしないでください。酷い隈ですよ」
休んだらどうか、ではなく。休めと有無を言わせないはっきりとした口調で告げられたその言葉をしばらく噛み締めた後、せめてもの抵抗とばかりに強がってみたが2人は意見を翻すつもりは無いようで。
その日の帰り道、私は入学式以来2年ぶりに通常のトリニティ制服を着用することとなった。
休めと言われた以上は真っ直ぐ帰ってさっさと寝るべきなのだろうと、自室への道を進んだ。街灯も灯っていない時間に帰るのはずいぶん久しぶりだった。
まだ明るい周囲の景色は、例の“彼女”に助けられたあの日を思い出す。と思いながら歩いていると、あの日と同じように路地裏に引っ張り込まれた。
休めと言った2人の判断は正しかったようで、私は咄嗟に抵抗しようとしたが、うまくバランスを取ることもできずいとも簡単に引きずられた。
「大人しくしろ!」
「うまくいったな。よし、トリニティに連絡を……」
あの日と同じ、トリニティ生を狙った誘拐のようだった。5年近く経っても全く同じ手口が使われていることにも驚いたが、それ以上に私はメンバーの1人が、かつて捕えたことのある不良生徒であることに気づいて愕然とした。
「どうして……」
「あ?」
「もう悪事はしないと、あの時……」
「何を……こいつ! 正義実現委員会だ!」
「! 撃て!」
不良たち全員の銃が一斉に火を吹き、私はゴミのように地面に転がされ、押さえつけられた。
「なんだ? ずいぶん弱いが……そういえば後衛だったか? まあいい、あの時はよくもやってくれたな!」
不良は嘲笑を浮かべながら倒れた私を思い切り踏みつけた。
「もう悪事はしないって? ああ確かに言ったがな! その場しのぎの嘘に決まってんだろ、馬鹿が!」
「……!」
「素直に信じて健気に頑張ってたのか? 1人ずつでも減らしていけるって? ここらの不良はみんな1回くらい捕まったことがあるぜ? それでも懲りない連中ばかりでな」
「そん……な……っ!」
「……おい、マジか。そうか、マジなのか。ハハハハハ! 傑作だ!」
一応屋外だというのに嘲笑がやけに大きく反響して聞こえた。
したくもない呼吸の回数が急激に増えていく。
そんな私の有様を見て不良はひとしきり笑った後、そっとしゃがみ込んで肩に手を置き、わざとらしく優しい声音で告げた。
「
今度は息ができなくなった。
心の折れる音が、確かに聞こえた。
「あーあ、泣いちゃった」
「どうすんだよこれ」
「ま、トリニティ生に変わりはねえ。予定通り電話するぞ」
涙と嗚咽しか出せなくなった私から興味を無くしたように手を退けると、不良はどこかへ電話をかけはじめた。
「ところで、こいつの銃どうする?」
「一応正義実現委員会だろ? 急に抵抗されても困るし、
びくりと肩が震える。その言葉が聞こえた瞬間までは、もう何をする気力も残ってないと思っていたが。
顔を上げれば不良のひとりが地面に転がった私のスナイパーライフルのところへ歩いていくところだった。
「やめて……」
不良は止まらない。無視されたのではない。うまく息ができない状態では蚊の鳴くような声しか出ず、単に聞こえなかったのだろう。
「それは、大切な……」
この世界ではなんの変哲もないものだ。探せば個人用の装飾も含め、全く同じものが手に入るだろう。だがそれは正義の味方を目指して共に歩いてきた銃にはならない。
地面に転がっているそれだけが、唯一無二の私の銃だ。
「お願い、します……壊さないで」
不良が振り返った。途中からは聞こえていたらしい。だが振り返っただけで、すぐに鼻で笑って銃に手を伸ばす。
それを見た私の中、最後に残ったちっぽけな何かが
「さわるな」
私を押さえていた不良が羽根に投げ飛ばされて宙を舞った。呆気に取られて固まった不良を殴りつけ、銃を拾い上げる。
「てめえ!」
「クソ、撃て!」
再び私に向けて多数の銃が火を吹く。今度は転がされなかった。全身に銃弾を浴びながら突撃して1人ずつ潰していく。
最後の1人は、狙ったわけではないが無駄な努力と嘲笑った奴だった。
「ま、待て! 降参する……」
「は?」
その不良は銃を捨てて手を上げていた。
私はそのまま進む。目に見えて焦っている相手に構わず銃のレバーを引いて撃つ準備を終わらせる。
「どうせ嘘なんでしょう?」
「違う、今度は本当に……」
無視して引き金を引いた。
地面に転がった不良を見下ろしながら、この後こいつらは捕まってしばらく過ごした後、また同じことを繰り返すのだろうと思うと、酷い虚しさを覚えた。
「ああ、そうだ」
その時ふと思いついた。思いついてしまった。この日のことがトラウマになるくらい徹底的に痛めつけてやれば、同じことを繰り返す気も起きなくなるのではないかと。
それから正義実現委員会が到着するまでの間、路地に複数の悲鳴と命乞いが響き渡った。
これが私が初めて悪人を“加工”するまでの記憶だ。
というわけでこの鳩がどういう経緯でぶっ壊れたのか、というお話でした。
自キャラいじめるのってなんでこんなに楽しいんでしょうね? あっ先生がすごい怖い顔で駆け寄って来る……逃げなきゃ。