繁殖より犯罪調査が先では!?   作:杜甫kuresu

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タイトル回収しました。




「おうおう、今日は元気だなぁ」

「うるさい…………」

 

 口答えをする度に、剣斗の首筋の歯型をなめずりそうになる。見ているだけで頭がくらくらしそうだった。今は目の前の肌だけ考えた方がいい。

 裏路地は表のマーブル模様の人混みを冷笑しているような、乾いて冷たい風がひゅうひゅうと吹いていて、火照っている体を芯から塗りつぶすような感覚がした。寒くて暗くて、だけど見られないだけならいい場所だった。

 

 ぼんやりとしていると、また顎に力が入ってしまいそうになる。剣斗のうめき声に、何だか怯えてるみたいに口を離した。

 

「発作、昼間に起きるのは珍しいね。やっぱ禁欲生活はガタが来る?」

 

 答えられない。聞こえない、彼の顔を見ているとぼうっとしてきて、お腹の辺りが熱くて熱くて気を失いそうだった。

 繁殖が仕事だと言われても、こう暴力的だとどうしても制御が必要になる。

 

 今も手綱を離せばすぐに首筋を噛みしだいて、そのまま犬みたいに盛ってしまうんじゃないかと頭がどす黒い恐怖に塗りつぶされそうになる。

 本能と言われても、怖いものは怖かった。

 

「別に俺は眷属にされても困らないんだけどなぁ。そんな嫌?」

「いや…………」

 

 それをすると、壊れる気がする。

 

「俺は良いのに?」

 

 私の背中を擦っていた手が急に、後頭部に滑り込んできて、そのまま首元に顔を押し付けてくる。

 男の人の独特の匂いが頭をくらくらさせてきて、歯を突き立てろとサイレンみたいに一つ覚えの指示を出す。脊椎が私の敵だった。

 

 体が熱くなって、なのに自然と指を絡めて、体を擦り合わせてしまう。

 まるでお腹に彼を押し込めたいような、押し込められたいような。言葉にするだけで気を削ぐ甘い感覚が頭にズケズケと入ってくる。

 

「…………まぁ、何か大変そうだから。それなら良いかと思ってんだけどな、俺」

「…………」

「多分俺と長く生活してるせいなんでしょ? これ、軽くは調べたんだけども…………一般的にはこんな保たないって聞いてる。だから眷属になってるか、取っ替え引っ替えしてるか、あるいは――――」

 

 無理やり口を塞いだ。首筋の誘惑から目をそらすみたいに唇で。

 これも非常に卑怯だと思った。私は生真面目だって色んな人が言ったけど、私はもうしたくなかった。

 

 したくなくても、精一杯がそれだった。彼の瞳はしばらく見開かれていて、最後には落ち着いたものだった。こんなのやったことなかったのに。

 

「…………けほっけほっ! ごめん、急にそれは息しづらい!」

 

 そしてむせこんだ。だけど、私を突き放すようなこともしなかった。

 どうしようもない男だなと、何故か私が冷静ぶって評価をしてしまう。

 

「ここまでするのに何で嫌なのか分かんないよ~…………」

「だって……」

「だって?」

 

 言いたくはなかった。

 何というか、この状況で言えば何でも上手くいくのが分かっているというか。そう、都合がいい状況を作ったような自覚があった。

 

 古い言い方をすると、私は天性の”ズルい女”なのだけども。

 あまりに性分に合いすぎて、口が上手く止まらなかった。

 

「私は、剣斗のことが好きだけど。でも、そういうことじゃないから…………」

「そんな疑うような考えはないよ……」

「そうじゃないの! そうしたくないの!」

 

 体の制御は自然と戻っていた、感情任せに表通りに戻る。

 

 何だか下手くそな女だな。

 冷静な私が短い罵倒を飛ばした。

 

「しょうがないでしょ…………」

 

 しょうがなくはない。

 ただ納得が出来ないから、こうやって誤魔化すばっかりになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが平永氏の目覚めたポイントだね。棺桶に入っていたと聞いてるよ」

「ふーん。実際死んでたの?」

 

 そうだねぇ、と彼は同意しながら現場保存の魔法陣をなぞる。チョークで描かれた円陣は、コンパス仕込みの正円に見えて、彼らの研鑽で生まれた精巧なハンドメイドだ。

 

 廃教会は棺桶がある以外はあまりに荒廃していて、面白みがある点はかなり少なかった。

 剣斗も術式をまじまじと眺めつつ私を待っている。彼にはマネジメント関連で仕事をしてもらっているので、こういうときに暇をしがちなのは申し訳ない。

 

「と、聞いてますよ。にしても詔勅庁の紋様、相変わらず分からないですね」

 

 現場保存の魔法陣のことだろう。国が一定周期で再発布している紋様の一つだ、納税の根拠でもある。

 

「わからないどころかわかってる筈よ? だって国民が理解してるから、効果が保証されてるんだし」

「いやまあそうなんですけども。何とも言えないですね、見慣れない形だ」

 

 曰く独自性を追っているとは聞いたことがある。それによって唯一性が高まり、言及の精度が高まるのだとかうんぬんかんぬん。

 

「服装だって紋様だけど、見慣れてるとは思えないでしょ? 帝国はきっとそういうことがしたいのよ」

「確かにセラエノの服装ってどことなくエッチだよね」

「うっさい」

 

 道路標識も魔法陣の属性を持つ時代、実のところ私の服装にだって属性がついている。

 ノースリーブとかミニスカートぐらいで性的な要素を見出さないで欲しい。そういうことをされるからDraculは困っているのだ。

 

 ちなみにシルエットを大きくするためにアウターをはだけて着るようにしている。小さく見えるとそれだけで他人からの言及が弱くなって、実質的な弱体化をすることだってある。

 

「貴方みたいなスケベには分からないでしょうけど、きちんと戦略的な理由のある紋様よ! オシャレでしょ!」

「へ~…………Dracul種は無意識に扇情的な衣装をしたがるって聞いたよ、俺」

 

 は?

 いや、まさか。そんなはずは。

 

「えっ。いや、いやいやいや」

「大体ミニスカニーハイガーターベルトだよ? 俺も大変だよ、色々ね」

「…………ッ!」

 

 悔しい、やっぱこの種族嫌。

 こういう時の剣斗は全く手勢を緩めるという概念がない、ニヤついた顔がこういうときだけ許せなくなってくる。

 

「インナー着てるからって第二ボタンまで開くのもダメだと思いますねぇ、俺はね」

「な、何よ。可愛いじゃない、どうせスタイル良いんだから私しか出来ない格好したいわよ…………」

「…………そうか、そうかもね。からかってごめんね」

 

 急に引かれると困ってしまう。この男はなんでこう…………。

 

「もう。仕事に戻るわよ」

「うん。で、何が見たいのさ」

「痕跡よ。迷路化してるんでしょ?」

 

 もちろん、と彼が現場開示ようの魔法式で見せてきた魔力残滓は常軌を逸していた。

 

 夥しい密度の葉脈、あるいは出口のない電子回路とでも言えばいいか。単純化して日用に意識を飛ばす私達には程遠い、最早芸術や工学的美を付与された異常な残滓が棺桶を中心に続いていた。

 視線誘導は露骨で、それが複数の残滓、小さな魔法を経由して巨大な魔法陣を描き、その周辺にコロニーでも張るような状況を作り出していることまでは何とか分かる。

 

 分かったから、息を呑んだ。

 

「…………これ、わざとよね?」

「そうだね」

()()()()()()()()()()()()、これ?」

 

 意図的に、まるで魔法科高校の実践のために用意されたみたいに「導線」がある。

 単に迷路化してこちらを撹乱しているのではなく、あるいはこちらが追う過程で他者言及を補強して強化するのでもなく、ただ単に回答者の為に意図的な迷路化が行われている。

 

 犯罪じゃない。

 試験問題だ。分かるのに解けない。

 

「アンナさんも調査系の魔法士を連れて見聞したそうだけど、評価としては”人体の再解釈”だって」

「人体の再解釈って?」

 

 まあそうなるよなぁ、という顔で剣斗は一息吸った。

 

「幾つかの魔力経路を通して該当の小型魔法陣で属性変換を行い、その過程で必要な要素を作り出して構成する。これは血液でもヘモグロビンの動作に似ていて、大きなセクションを持って動作が行われてる。まるで内臓をもしたみたいにアンナさんには見えたんだってさ」

「えぇ…………悪趣味ね」

「美学さ」

 

 一体犯人の何がわかっているのかよくわからないけれど、剣斗の自信有りげな口元は可愛いと思った。

 

「しかし途中でそれは組織なんじゃないか、と見解が出たそうだ」

「何で」

「これは繋がってるのさ」

 

 彼が指差す先、確かに魔力残滓はあったのだろうが。

 それ以前に立っているものを見た時、単なる居心地の悪さで頭が軽く痺れた。

 

 いつからだろう、鼻の曲がる異臭がしたのは。

 

「…………何に繋がってるって?」

「ぞ、ゾンビかもしれない」

 

 そんなワケ無いでしょ。ボケがわかりにくいのよ。

 

 腐臭の正体を見据えると、私達はその出で立ちに神の骸を思い浮かべる。

 それは長い顎に、前に伸びた顔つきが壮観で…………そして腐って落ちた肉で、雄々しい骨格が見え隠れする。

 瞳はどこを向いているか分からないが、不規則に魔法陣を発生させては回転し、それに囲まれている。彼らの持つ”魔眼”が不完全に機能し続けているのだろうか、私にはわからない。

 

 禍々しくも光る角が私を震え上がらせようと紫に明滅し、大きく広げた翼脚が地面を叩いて世界を押さえつける。

 長い尾、発達した翼脚。骨太の四肢、あるいは――――魔眼と前に伸びた顎。

 

「ねえ、アレ…………」

「答えたくないんだけど」

「答えて」

 

 特徴は誰だって知っている。ただ答えることが恐ろしいだけ。

 

 文字通り永遠を生きる種族。遍く異界の最強種の一種。或いは時に身動ぐ天下の征服者。

 21世紀の半分以上を欲しいがままにし、平行世界の数々に恐怖を轟かせた存在がこんなところにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明らかに、竜よね?」

 

 竜。推定、宇宙最強の生物の腐乱死体が廃教会の柱を砕かんばかりに握り、ギョロギョロ肉を垂らしながら私達を見ていた。

 一般に言う、生き死に関わる事態だ。




割とセラエノを言い訳してる女にも見えるようにしていますし、そういう意見があれば面白いねぇと思っています。

ちなみに当小説の元ネタはTRPGでやっていたりするので、それぞれキャラシートを基本用意しています。
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