原作未履修の主人公が憑依転生して、知らない間に原作崩壊を引き起こすだけの話 作:原憑崩
俺、爆豪勝己にとって、緑谷出久という存在はとにかく不可解の塊だった。
始まりは恐らく4歳の頃。突っかかってきたデクを容赦なくぶん殴ってやった。
元から気に食わなかった。後ろをついて回ってくることも、泣き虫なくせに勇気だけはあるところも、この俺様に手を差し伸べてくるところも…何もかもが気に食わない。
だからこそ、何の遠慮も無くぶん殴ってやった。これで少しは大人しくなるだろうという、子どもらしい無邪気な残酷さで。
結果として、次の日からデクは、頭がおかしくなってしまった。
遊びにも行かず、延々と走り込んでは筋トレをするようになったのだ。
子どもの癖にただひたすら、無心で体を鍛え続けるデクに、当然人は寄り付かなくなった。元から少なかった友達はさらに減ったし、大人も最初は褒めていたが、尋常じゃないと分かってからは扱いに困って放っておくようになってしまった。
当然、その謎の奇行のきっかけである俺は、デクに対してとにかくイラつきを隠せなかった。奴の無茶な努力の全てが、俺への当てつけに見えて仕方が無かった。
だから俺はデクに襲い掛かった。夕方の公園で、もう一度デクに身の程を教えてやろうと思ったのだ。
だが、デクは素早い動きで俺から逃げ去っていった。
ぶん殴ってやると拳をあらぬ方向に流され、蹴りを放ってやれば余裕をもって受け止められ、逆に地面に投げられる。
それで、気が付いたらデクは既に目の前から消えていた。
俺は躍起になった。デクに毎日のように襲い掛かる様になった。それに対しアイツは常に真正面から対峙して、最終的に必ず俺に指一本さえ触れられることなく逃げおおせ続けた。
こんな事初めてだった。俺は『いっちゃんすげえ奴』だ。天才だ。他の奴ができねえことが何で出来ねえのか分からない。
そして、無個性のデクは『いっちゃんダメな奴』だったのだ。無個性で、どんくさいし頭の回転も遅い。何もかもが俺以下の道端に落ちてる小石同然の小物。
そのはずだったのに。
ある日、いつものようにデクに奇襲した俺は、デクに殴り飛ばされていた。
『かっちゃん、今日から僕も反撃するから、よろしくね!』
そんないい笑顔で。
どうして俺は倒れてる?どうして俺は青空を眺めてる?
訳が分からない。一体デクに何が起きやがったんだ?
俺は顔を上げて、初めてデクの事を良く見た。
アイツの身体は、前よりもずっと鍛え上げられていた。
がっしりしてたし、俺よりも背が高かった。
そこで気が付いたのだ。俺がただ闇雲に襲撃を仕掛けている間、デクの奴は延々と自分を鍛え続けた。
そうして、個性を持った俺に、無個性の自分が通用すると判断したデクは、ようやっとリングに上がってきたのである。
つまり、今までは敵としてすら見られてなかったという事だった。
ああ、認めてやる。認めてやるよ、デク。お前は強い。今は俺よりも強い。
だから、こっからだ。こっから俺はお前をも追い抜いて、最強のヒーローになってやる!
その日から、俺はデクをライバルとして見るようになった。強い個性を手にして生まれてきたから。『いっちゃんすげえ奴だから』。そんな理由で、漠然とヒーローになる自分を夢見ていただけだった俺はもういねえ。
とにかく強いヒーローになってやる。デクが身体を鍛えて変わったんなら、俺だって変わってやるよ。
これが、俺のオリジンだ。
◇
「デクぅ! テメエ何してんだソレ!」
「あ、かっちゃん? これは手を固くする訓練だよ」
「無表情で丸太に手をぶつけ続けてんじゃねえ! 怖えんだよソレ!」
「はっはっは、大丈夫大丈夫。ちゃんとオロナイン持ってきてるから」
「そういう問題じゃねえ!」
…だというのに、なんだこれ。
中学に入って、デクの奴はさらに頭がおかしくなった。
今日だってそうだ。学校の中庭にぽつんと突っ立ってる、学校創立と同じ年に植えられた巨大な樹に、手刀を延々と繰り返して騒音トラブルを引き起こしやがった。
既に木の幹には本が一冊入りそうな程深々と溝ができちまっている。
修行馬鹿であることに変わりはないが、それが輪をかけて過激になっていってやがる。
お陰で教師に言われたわ! 『お前がちゃんと制御してやりなさい』って! んで俺がんな事しなきゃならねえんだオラァ!
「もしかして迷惑だった? なんかごめんね」
「俺は別にテメエなんざ気にしねえわ! ただ、なんでか知らねえがお前がトラブル起こすと必ず俺に報告が上がってくんだよ! 生徒どころか教師でさえ俺にデクのストッパー役押し付けてくんだよ! んでこうなった、ああ!?」
俺はこいつをライバルとして認めてしまったことを、今更ながら後悔し始めていた。
これが、俺の幼馴染であるデクの過ごす日常の一幕である。
◇
中学に入って早2年が経過しようとしていた。
その間かっちゃんと戦ったり特訓したり特訓したりちょっと女の子助けたりかっちゃんと戦ったり特訓したり特訓したりして、大分濃い時間を過ごしたように思う。
僕は現在、教室にいた。
「今から進路希望のプリントを配るが……皆、大体ヒーロー科志望だよねえ!」
先生の言葉に、歓声が響き渡る。
「よしよし、皆いい個性だ! でも校内での個性発動は原則禁止だからな!」
教師の言葉に、全員が個性をしまい始める。
その中で、一人だけ机に脚を出す不敵な男が手を上げた。
「せんせー! 皆なんて一緒くたにすんなよ! 俺はこんな没個性共と一緒に仲良く底辺なんて行かねえよ!」
爆豪勝己……かっちゃんだ。
僕はそれを見てまたやってる、と顔を手で覆った。当然の如く教室中からブーイングの嵐が飛び交うが、かっちゃんは「モブがモブらしくうっせー!」と一蹴していた。
「そういや、爆豪は雄英志望だったな」
「ああそうだ! 模試じゃA判定、個性もモブ個性とは一線を画す最強個性! 俺はあのオールマイトをも超えて、トップヒーローとなり、必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!」
「ああ、そういや緑谷も雄英志望だっけ」
所で人の個人情報をぺらぺら喋る先生ってどう思います? 僕は許せない。
「あ、ああ……緑谷か……」
「まあ、あいつなら……」
教室中からざわめきが響いた。
「あ”あ”!?……デク、テメエやっぱり雄英選びやがったか……!」
かっちゃんから凄まじい形相で睨みつけられる。僕はうんざりした表情を一転させて、笑顔を浮かべた。
「うん、そうなんだ。ライバルだね、かっちゃん! これからも仲良くしてね!」
「うっせー! 誰がテメエなんかと仲良くなるか! いいか、俺はテメエにだけは負けねえからな! 本番でぶち殺してやるから覚悟しとけ! けっ!」
「爆豪、そろそろ机からおりなさい。後口悪すぎると内申点減らすぞ~」
先生から言われてすぐに机から降りて椅子に座り直すかっちゃん。相変わらずのみみっちさであった。
「おいデクゥ! ちょっと待てやコラ!」
「あれ、かっちゃん。普通に話しかけてくるなんて珍しいね! 今日は爆破してこないの?」
「なんじゃそのフランクな感じは!」
夕方、全ての授業が終わって帰ろうとしていた僕に、かっちゃんが話しかけてきた。
「いいか、俺は今日限りを持ってテメエへ手出ししねえ!」
「ええっ!? 熱でもあるの、かっちゃん!?」
「すこぶる正常だわ! 俺ぁ今年から受験生だぞ! もうそういう事も出来ねえって言ってんだ! だからな、クソデク! お前との決着は雄英で着ける! ぶち殺してやるからそれまで死ぬんじゃねえぞ、分かったか!」
「なんだ、そういう事かあ。分かったよ、かっちゃん。お互い頑張ろうね」
「だからなんだそのフランクな感じは! 死ね! クソボケ!」
口の悪さを遺憾なく発揮して教室から出ていくかっちゃんを見送る。ちなみにかっちゃん語で『死ね、クソボケ!』は『ごきげんよう、また明日!』と同じ意味である。
それにしても、中学も早いもんでもう3年生か。
ヒーローになるための第一歩である、高校受験がもう目の前まで迫ってきている。
僕が目指すのは当然ヒーロー科のある学校の中でもトップクラスの雄英高校だ。ここに入れるか入れないかで大分今後の経験値効率が変わってくるはず。
模試は僕もかっちゃんと同じくA判定だし、後は実技だけ……つまり、実力勝負ってことになる。
「1年か……短いなぁ。この間にどれだけ追い込めるかが勝負だな」
僕のつぶやきに、まだ帰ってなかった周囲の生徒たちがびくっと肩を揺らした。
「あれだけやっててまだ足りねえのかよ……」
「向上心の怪物だ……」
「怖え……俺もう怖えよ!」
「? 何か言った?」
「「「いえ、なにも!」」」
あ、皆帰っていった。
僕も帰るか。早速特訓だ。鞄を持って、茜色に包まれる廊下の中を駆け出したのだった。
なお遅筆とする