推しの子の弟は兄を推す   作:oz-ono

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兄が死んだ。ホシは壱護

 

「おぉ、まさか、にーさんの推しがにーさんの患者になるとは……」

 

「えっと、そちらは?」

 

「はじめまして、白木星太郎です。資格を取って修行中で妊婦さんに体操を教えたりマッサージしたりもします。多分身バレ防止のために呼ばれました」

 

「なるほどー、よろしくお願いしまーす!」

 

 

にーさんの部屋で見たアイドル、一緒にライブに行こうとしてチケットが取れなかったB小町のセンター。

 

 

うわー、間近で見る本人かわいー。父親らしきポジにはどう診てもヤクザさんだー……うわー、なんで室内なのに尖ったグラサンしてるんだろー………。

 

 

色んな意味で吾郎に―さんが心配である。以前にいた患者の「さりな」という子がこのアイドルを好きだったとはいえ吾郎にーさんはこのアイドルのグッズを持っているしよく録画もしている。

 

「推しの推しなんだよ」なんて言い訳がましく聞いたことはあるがテレビで見るときだって鉢巻きやペンライトを持っているときがある。ガッツリ好きなんだろう。

 

そのアイドルがよりにもよって産婦人科医である吾郎にーさんに診てもらうとか……にーさんのほうがメンタル的に心配である。

 

 

「年齢的に身体が成熟しきってない点もありますし、体調を整えたり出産に備える意味でも身体をケアするのにちょうどいいと思われたのかもしれませんね」

 

「へー」

 

 

興味ありそうで興味ないような、聞いてるのかな?間近で見るとより変わってる気がするな……吾郎にーさんには悪いが音楽は好きでもアイドルや芸能人が好きなわけではないのだ。

 

 

というわけで個室マッサージやストレッチの指導を担当することになった。出張で資格持ちがホテルや病院、老人ホームでマッサージするのはよくあることだ。

 

それに爪切りや耳かき、トレーニング、痩身なんかも勉強中である。ぶっちゃけ誰かを綺麗にする技術にハマってる。兄さんの世話楽しい。

 

 

何度か施術して色々わかったこともある。

 

 

にーさんは物凄く葛藤したらしいがそれでも応援することに決めたらしい。本気で彼女の子供も彼女の人生も護るつもりのようだ。特別待遇で秘匿はかなりしっかりしている。

 

父親らしき、身元引受人の斎藤壱護さん。……付き添いのヤクザかと思ったらB小町の苺プロの社長であった。まじかよ………まさか所属アイドルに手を出すとか鬼畜か?

 

ヤクザじゃないにしてもどう見たって裏社会の人間である。くっそ怖かった……芸能界ってよくわからないからこそヤクザとのつながりがあるんじゃないかとか噂が絶えないけど、この人はどう見ても純正のヤクザだろ……思わず小指の有無確認しちゃったし。

 

 

「……?どうも」

 

 

少し表情にでてしまったか?怪訝な表情をしてしまった。

 

 

「いえ、お父さんもこのあたりのマッサージは覚えておいたほうが良いかも知れませんね、辛いときに軽く押す程度ですがそれでぐっと楽に「あの……」

 

「はい?」

 

「父親ではなく、身元引受人のようなものでして……」

 

 

その情報は知っていたが確認だ。挙動不審でどう見たって怪しい。黒だろこれは。

 

まぁ、俺はこの人たちに不利益なことをする気はサラサラないから大丈夫だろう。

 

吾郎にーさんだって、マスコミや週刊誌にリークするようなつもりもないようだし、ヤクザとは言え仁義は守るはずだ。

 

にーさんの不規則な勤務で一緒に夜遊びすることも増えた。前世で歳だったが深夜にうだうだ牛丼屋なんかに行くのは結構楽しいもんだな。

 

 

 

―――――………そう思っていると事件が起きた。

 

 

 

 

吾郎兄さんがいなくなった。

 

 

大事な出産直前、兄さんがいなくなって、病院に行っても見つからず行方不明になった。

 

推しの出産に耐えられなかったかとほんの一瞬だけ頭をよぎったがそんなわけがない。

 

あの人は誰かを応援するのが性分の善い人だ。

 

兄さんのいない転生したこの世界は色褪せて見えて、本当に悲しかった。

 

街中でビラを配ったりもして、それでも見つからずにいた。

 

どこかで生きていてくれればと真剣に思った。

 

 

 

――――ただ、脳裏に一つよぎった。

 

 

 

いちごプロの社長、どうみてもヤクザだったよな?

 

なにか気に触ったことをして消された?

 

嫌な妄想が膨らみ、可能性を考えてしまった。

 

なら、実行するのはどこ?

 

近くで兄さんを捨てるとしたらどこでだ?

 

殺されて海に捨てられでもしていたらわからない。

 

だが、悪い想像が走り、ビラ配りのときにも考えていた……探してない場所があった。

 

 

 

病院から近くの崖、登山用の装備をしてそこを降りると、兄さんがいた………。骨に、骨になっていた。

 

 

 

 

「兄さんっ!!!??」

 

 

 

 

 

泣いて、泣いて泣いて、スマホでムービーを撮った。

 

 

 

 

「今日、失踪していた兄を骨で見つけました

 

本来ならすぐ通報して兄を墓に入れるべきなんでしょうが、兄は生前とある事案を抱えていました。

 

兄は人の応援を本気でする人で、僕はそれに救われて引き取られて幸せでした。

 

もし、ここで兄のことを通報すれば兄が本当に応援したかった人を、故人の遺志を踏み躙ることになります。

 

だから、僕は通報しませんし兄はこのままで行きます。全ては深層を知ってからになりますが、本当にすいません。

 

もしもことが発覚して警察の人や他にも迷惑がかかる人がいたら……本当にすいません。」

 

 

―――――……目星はついている、壱護社長。やつこそ一番怪しい。

 

焦燥は悲しみに、悲しみはドス黒い怒りへと変わった。

 

腹の底から怒りが憎しみが無限に湧いてくる。

 

 

 

 

 

準備に準備を重ねる。

 

 

「こんにちは病院でお世話してた白木星太郎です。星野アイさん、少しお話してもいいでしょうか?」なんていえない。可能性は低いが彼女が実行犯ではないにしろ殺人を指示した可能性がある。

 

アイドル事務所の場所や社長やトップアイドルの居場所を知るのに吾郎兄さんの意志のことを考えると人には頼めないし自分で……自分達で調べる。

 

なにせ、どう考えてもヤクザな見た目だったが、奴が犯人でなかった場合、兄さんの応援したかった人が世間の注目を集めて台無しになるかも知れないからだ。秘密裏に行うしか無い。

 

だから事は静かに、慎重に調べた。

 

 

 

星野さんはむしろ実行してないだけで向こう側か?

 

 

 

よく研いだナイフを3本、ケミカルライト六本、香辛料爆弾に最新型の極薄防弾防刃チョッキ、スタンガン、結束バンド、テーザー銃。

 

バッグに使えそうなものも詰め込んでいく。

 

 

―――復讐なんてなにもうまないと兄さんなら言うだろうか?

 

 

それでも、こうしていないと兄さんに恩を返せない気がする。

 

あの優しかった人が死んでいいわけがなかった。

 

 

壱護社長がのうのうと笑っているような気がして、いつでもどこでも怒りが抑えられず、目がチカチカする。

 

 

他の可能性……ストーカーや熱狂的ファンの暴走も含めて考えても火種を持ち込んで兄さんの死の原因の一端になったのは壱護社長だ。

 

だから指示も実行もしていなくても少しぐらい怖い思いをするかも知れないがそこは目を瞑ってもらおう。何なら後で豚箱に入れられたって後悔はない。

 

マッサージはやめて鍛えながら調べ尽くした。

 

金に物を言わせて部下もいる。

 

秘密裏に、ネットの情報や口コミ、噂、雑誌から仕事情報を割り出してストーキングした。人を使えば単純にできることは増えるし、最近は技術の進歩も凄い。GPSに盗聴器、便利すぎる。

 

情報だけでは復讐できないし、一人の力だけでは復讐は成せないかもしれない。

 

部下は待機させているしできれば一人で事を成し遂げたいが、踏み込んだらヤクザやチンピラがわんさかいるかも知れない。

 

 

大きなライブの前の日で悪いが社長がマンションに入った報告を受けて自分もモニタリングする。

 

金はあったし同じマンションの住民になればセキュリティはほとんど突破できたようなものだ。

 

ロープとテープも準備済み、心拍数を計測して簡易的な嘘発見機としてモニタリングする。脳波まで取っているわけではないが血脈と表情で嘘を見抜けるように訓練を受けた。

 

夜、きっとパーティをしている時間に訪問した。

 

 

「すいませーん、下の階の者ですがー」

 

「はーい」

 

 

ドアの前まで足音が聞こえてきた。

 

 

奴が、壱護が犯人かはわからない。それでも、知りたい。もしも奴がホシであるなら……。必ず地獄を見せてやる。

 




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