あれから数年経った。
にーさん、アクアも少年から段々と男の顔つきになってきた。にーさんかわゆす……そう言えばよく愛久愛海なんて名前でいじめられたりしないな……いや、男友達と一緒にいるところを見たことがないしボッチの可能性もある。
忙しいがにーさんの学校には授業参観や運動会では参加させてもらってる。
「アクア!かっこいいぞアクア!!」
「先生、不審者です。つまみ出してください」
「良い父兄さんじゃないですか。ふふ」
例の事件でB小町のライブは中止された。自分の怪我だけではなくアイさんの怪我はちょっと足を切っただけだ。
落ちたナイフを忘れて動いてナイフを蹴ってしまって切ったそうな。
それからB小町はメンバー内で揉めたりもしたようで人気は落ちて解散。それぞれの道を歩むことになった。
他のメンバーからしたらアイの長期療養(妊娠出産)に、マッサージ師とは言え男といたり、全国ニュースになるほどの刃傷沙汰だ。ミヤコさんに聞いたところメンバー内での嫉妬や不和は表面化しているそうだし文句の1つや2つや3つや4つ言いたくもなるだろう。
アイは歌手としてもうまくいっている。歌だけで世界を取れるような超一級の歌姫には成れなさそうだが自分の作ってきたずっと歌い続けられて定番ソングには人の心をつかむ力がある。
自分も―――
「じゃあ転生者Bさんは転生したからこれだけの名曲を作り続けられると?」
「ええ」
「その、転生なんていう宗教観はラジオ的によろしくないんですが~、今をときめく転生者Bさんの秘密は世の中の注目の的ですよ」
「ありがとうございます。といっても前世の作曲家の努力の賜物であって私は盗人です」
「それは……しかし歌詞は日本語ですよね?おかしくないですか?」
「あー、私、前世でも日本の生まれでして……ちょっと別の日本の未来から来ました。未来人Bって名前にするか迷ったんですよね」
「未来!未来ときましたか!じゃあ何か予言なんかは出来ますかね!?」
「ん、んー……似て非なる世界だったからね、確実に同じことが起きるとは限らないですが………、そうですね、今度テレビ出演するときには「わ、こいつ転生者だわ」ってちょっとは思えるようなネタを用意しておきますよ」
「えー、このラジオでも教えて下さいよぉ」
「ラジオでは、そうですね。この世界にはなかった転生前の名曲、きっとこの日本でも受け入れられるでしょう。お楽しみを」
ラジオ終了後は全員武装させて家まで帰る。
転生なんてものがあったのならこの世界だって、もしかしたらそういう人間とか、エスパーとかスーパーパワーを持った人間が秘密結社を作っていて襲いかかってくるかも知れなかった。
何もなかったが。
ひとまずアイとアクアと瑠美衣の歌は受け入れられている。それとミヤコさんのも。
ミヤコさんは社長業をしているし歌って貰う予定はなかったのだが、あまりにもアイさんとアクアたちが目立ちすぎた。
なので少し馬鹿なことをしている。
「ミヤコさん!アイさん!好きです!結婚してください!」
「すいません、お断りします」
「わー、さいてー、おととい来やがれです♪」
「そんなぁ!?」
メディアの前でこれをやりまくっている。
大怪我をして入院中にミヤコさんとアイさんにガチ恋したというサイドストーリーを作り、苺プロに全力で曲を贈っているようにしている。
何もなしでは苺プロで曲を提供しているアイとアクアばかり目立ってしまうしアクアが目立てば誰が親かと来るわけだが……失踪した壱護が親というのは髪の色もあって説得力はあるがそれでも感のいい人間ならアイの長期療養期間と合うんじゃないかと勘ぐるものもいる。
やはり目立つ対象は調べられるし、アイとアクアだけ曲を提供するのもよろしくはない。他のB小町の元メンバーにも歌ってもらっても良かったのだが酒の席でメンバー間の不和を聞いていたし、苺プロで信用できるのがミヤコさんしかいなかった。
おかげさまで作詞家『転生者B』にはアンチも湧いているほどで……いい具合にヘイトが自分に向かっている。
これでアクアへの危険性や疑念が少しでもこちらに向けば良いのだが……。
「セータ、何だよこのクソ仕事は!?」
「チョウチンアンコウの深海での愛を歌った歌なんだけど?」
「なんできぐるみで歌うんだよ!?しかも大きいのはメスだろ!ふざけんな!!」
「演出は自分の仕事じゃなっ痛い!痛いってアクア!!?」
カーフキックを何度か食らった。小学校ももう半ばともなれば結構体も大きくなってきたし、人体の構造を理解しているにーさんの蹴りは不思議なほど効く。体格は遥かに勝っているはずなのに。
「仕方ないだろ!?子供の歌のヒットソングって少ないし!歌手って行ったら大抵は成人済みだから声の質痛いって!!?」
「お前が悪い」
結構にーさんは僕には容赦がない。
まぁそれは男兄弟なりの信頼関係ということでじゃれているようなものだ。とりあえずネガとか動画は回収してお宝フォルダに保存しなければ。にーさんフォルダが充実して喜ばしい限りだ。20年後とかに絶対これでいじってやる。
歌は瑠美衣ちゃんはへただしなぁ……なにげに一番うまいのは多分ミヤコさん、アイも上手いし売上はとんでもないがなんか違うんだよな。前世の歌手のイメージが強すぎるだけかも知れないが……ミヤコさんも社長だけどネットのランキングで上位とって来てくれて素晴らしい。
「まぁまぁ、流石に寝っ転がって歌うようなPVはあれだったし使われないとは思いますけど可愛かったじゃないですか、使ってもらえるだけ良しとしないと」
「どんな感性してるんだ!?」
にーさんのことは前世の兄弟とミヤコさんには話した。ミヤコさんは書類上アクアの親だし、この人がNOといえばアクアと会えなくなるからね。瑠美衣ちゃんはどこのどんな転生者かは分からないが本人が言ってくれるのを待っている。
知らせれば芸能界に夢見て「ママみたいになるんだ!」と頑張っている彼女の夢に水をさすかも知れないし……もしも彼女が前世のかーさんやばーちゃんだったら耐えられないし聞けない。
「そう言えば壱護とは連絡とってないの?」
「ずっと音信不通ですよ……生きてるんだか死んでるんだか………」
奴のことはそれなりには探しているが興信所なんかは使えないし見つかっていない。
真犯人がやつだったとすれば絶対に拷問して獣に食わせてやる。そのためには興信所は使えないし、生きていたら招待したい場所ももう作った。
けど、もしも奴が殺されているのなら別に犯人がいるかも知れないし身の護りを重視している。アクアなんてうちの警護官に格闘技を習っていて多分アクション俳優を目指せる。
以前映画の現場で子供が2,3シーンだけアクションする部分だけスーツアクターしてたし。………おいちゃん、アクアには必要のない危険なことまでしてほしくないんだけどな。
「何だよその目は」
「いーや?3人で美味しいもの食べに行かない?」
「食べ物で俺が釣られるとでも?」
「人間国宝が握るお寿司、ちょうど予約してるんだけどなぁ」
金は使わなければ意味がない。前世であれだけ貯めた金だって……使えなければ意味がない。いや家族が有効活用してくれたかも知れないけどさ。
「もう、私を太らせる気ですよね?セータさんは」
「ミヤコさんはいつだって美しいですよ!」
「もう!またおべっか言って!」
おべっかではない。彼女はフェロモンが具現化しているんじゃないかというような色気が見て取れる。
「………どうしたのに―さん、行かないの?」
「いや、アイと瑠美衣に悪いなと俺は遠慮しようか?」
「あっちはあっちでパティシエの個室スイーツに行ってるよ?瑠美衣ちゃんのダンス大会優勝記念に……もちろんお土産もありますよ?ミヨコさん」
「私が食べ物に釣られると思ってません?」
本当は指輪を贈りたいところだがバッグやアクセサリーは受け取ってもらえない。良くても寒そうだからと渡したカシミヤのマフラー程度だ。
「ミヤコさんに食べてほしかったんだけどなぁ」
「……もうっ!後でトレーニング手伝ってくださいよ!マッサージも!!」
「はいっ!」
喜んで!ぜひとも!お任せあれ!!
「もうお前ら結婚しろよ」
「なんか言った?にーさん」
「いーや、砂糖吐きそうなだけだ」
ミヤコさんは猛アタックしているが壱護とちゃんと別れていないから気持ちの整理がついていなさそうのと。―――――………離婚や失踪の問題があるからだ。
行方不明には「3年以上」か「7年以上」かで大きな違いがある。
苺プロは元々壱護社長がトップだった。妻であった彼女は失踪した夫との離婚には最低3年以上の期間が必要である。その要件は満たしているが財産の相続が問題である。3年以上で裁判所に申し立てれば離婚は可能だがそれは「壱護の行方不明」という扱いで相続が発生しない。つまり、苺プロの代表者問題が発生してしまう。
しかし7年以上の行方不明となれば壱護は完璧に死亡扱いで相続が法的に認められる。
刺されて看病されて数ヶ月は自分が壱護を殺したんじゃないかとミヤコさんも疑っていたのかも知れない。ナイフで脅したしな……初めはお互いにどこか緊張感はあったがそれでもこちらは本当に知らないし、ガチ恋してしまったミヤコさんには尽くしてきた。
―――――再婚するのならもう少し時間が必要だ。
幸い自分も前世では結婚していたしある意味再婚だ。それに、手を出したいと肉体は悲鳴を上げているがこういう関係の時間のほうが楽しいというのもわかっている。
金に糸目はつけない、存分に楽しませてもらおう。
「まぁ顔は悪くないし、性格があれだが金も持ってるし約束通りではあるか?」
「にーさん?まだチョウチンアンコウ文句言ってるの?」
「なんでも無い」
さぁ美味しいものでも食べに行くかな!
評価や感想などいただけると僕はうれしーです(●´ω`●)
アクアの身体能力+3
スーツアクター スタントマンがアクションや危険な部分をヘルメットを装着していたり後ろ姿で行うようなシーンで活躍するお仕事。