新・ヒダマリを失った少女は錬金少女と復讐を夢見る   作:朝方紳士

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終わりへのプロローグ

 

 

 

 あぁ————―――私は、私から陽だまりを奪った世界を許せない

 

 

 

 

「はっ…はぁっ…ぅっぁ…」

 

 ドス黒く澱んだ雲が空を支配し、氷のように冷たい雨が地上に降り注いでいる。

一筋の光すら通さない分厚い雲を背に、私はより深い暗闇に潜むように、或いは少しでも闇に身を溶かせるようにより奥へ、より深くへ足を引きずっていく。

ズキズキと痛む胸を押さえながら、すでに感覚のなくなった足を引きずっている私に雫が落ちるたび、空っぽになった心に空虚な音が残響していた。

『人殺し!!!』

ふいに聞こえる幻聴に私は目を固く結び頭を振る。

『殺人鬼が顔を見せるな!!』

殴られた頬が痛む。それを雨粒のせいだと思い込みもう一歩暗闇へ足を進める。

『あの子は悪魔なのよ!』

 

あの日あの場所にいたのは私だけではなくて、いろんな人が被害者だったはずだ。

私が覚えているのは、舞い上がる灰の花弁と、かすかに聞こえてくる悲鳴。そして辺りに死の匂いを充満させるソレだけだった。

しかし、友人が、家族が、恋人が……大切な誰かを失った悲しみと苦しみは渦を巻いて巻いて巻いて―――奇跡的に生き残ったただ一人の少女(・・・・・・・)へと収束していった。

 

「はぁっ……ふ、ふふ、ねぇ、やっぱりわたし、呪われてる、みたい」

 

ずるずると引きずる足を煩わしく思いながら、私は必死に頬を上げ、唇を吊り上げる。

 

大丈夫だよ。私は大丈夫だから

 

ねぇ、やめて?

 

『娘を返せ』

 

大丈夫だよ。

 

痛いよ。苦しいよ…。

 

『娘を返せ』

 

大丈夫

 

誰か、助けて

 

『ごめんなさいね、弱い私たちを許して』

 

大丈夫…

 

置いていかないで

 

『被害者ずらするな』

 

だいじょうぶ

 

どうして? 私だって、わたしだって未来を………

 

目を閉じれば耳に反芻する音が心を締め上げる。

必死に助けを求めても、友達だと思っていた人は私を罵り、家族は姿を消した。

道を歩けば石を投げつけられ、学校では氷のように冷たい眼差しに終わることのない虐めの毎日。

 

いつの間にか歩くことをやめた私は、必死に親友の名を呼んだ。

 

「ぅぅっ、みくぅ」

 

ねえ神様? どうしてこんな目に合わなきゃいけないの?

どういて私が、どうして私の親友が――死ななきゃいけなかったの?

どれだけ問うても返事はなく、どれだけ探しても見つからない。

あの優しい陽だまりは、私の大切な友達はあの日灰となってこの手から滑り落ちてしまったのだから。

 

 

 

 

 数か月前のあの日。ライブ会場の惨劇によって少女は胸部に重症を、そして親友はその命を灰に変えた。

突然現れたそれは、特異災害――通称ノイズ――と呼ばれ、なんの脈絡もなく、無作為に、無造作に、親友の胸を貫いた。

『ひび、きぃ。にげ、て……————』

 あの日あの時の、彼女の言葉が耳から離れない。

死ぬ間際であっても私の心配をする彼女のやさしさが、自分を庇って死んでしまった親友の熱が、跡形もなく崩れ落ちていくその光景が脳裏に張り付いて剥がれない。

泣き叫びたくなるほどの後悔と、全身を内側から引き裂かんばかりの絶望が悲鳴となって私の口から溢れた。

 

「未来、助けて…」

 

 一命をとりとめた後も胸の傷がズキズキと痛むたび、私の心は罅割れ、砕けていった。

 

「未来」

 

そうして空洞になっていく心に、いつの間にか湧き出てくる憎悪と嫉妬、怨嗟の熱。

 

「未来」

 

必死にそれを押し殺しても、それは絶え間なくとうとうと湧き続け――

 

「みく」

 

彼女の名を呼ぶたび、どぷどぷとそれは溢れていった。

 

 

なぜ私がこんな目に合わなければいけないのか

 

なぜ未来が死ななければいけないのか

 

なぜ私から陽だまりを、掛け替えのない親友を奪ったのか

 

なぜ、未来が死んで私なんかが生きているのか

 

なぜ、わたしはみくをたすけなかったのか

 

なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレレェ? こんなところで如何したんですか?」

 ふいにかけられた声に、私は堕ちかけていた足を止める。

その声は酷く澄んでいて…それでいてどこか人を小馬鹿にしたようなそんな声音だった。

私はギリギリと痛む体を回して振り返れば、そこには深いマリンブルーのゴシック風の服に、ラピスのような瞳を瞬かせる少女がその容姿に似合わない下卑た笑みを浮かべて私を見つめていた。

「わぁお! ドロドロな瞳ですねえ! どうかしたんですかぁ? ガリィに教えてくださいな」

 けたけたと嗤う少女の芝居じみた仕草に、私は明確な拒絶を示す。

「あなたには、関係ない」

 掠れた喉から漏れる、ひどく簡素な拒絶。しかし少女は気にした様子もなく嗤い続ける。

「ひっどぉい! ガリィちゃん傷ついちゃうぞ? ……ま、そんなことどうでもいいんですけど」

次の瞬間、笑顔のまま冷たい声音を放つガリィに、私は背筋が凍り付くような感覚に陥った。

いや、もしかしたら実際に凍り付いていたのかもしれない。蒼い服少女の周りには霧のようなものが不自然に発生し、降り注ぐ雨が氷柱となって音をたてて地面に転がっていく。

目の前の光景に動けない私に、少女はスキップしながら迫ってくる。

そして

「んっ⁉ んふっ んぁっ」

 なんの躊躇いをなく唇を重ねてきた。

突然のことに私は驚き、ぬるりと入り込んだ舌に目を回す。

とっさに彼女を押しのけようとした私だったが、自身の内から何かが抜け落ちるような感覚にその抵抗を弱めた。

口内を蹂躙する不快感と、しかしそれと同時に熱に浮かされるような不思議な感覚。

内に溜まる憎悪すら吸われている。そう思った私はその少女に身を委ね――――

 

 

唐突に唇は離された。

 

「はふぁ…」

 

思わず漏れた吐息。

一体どうしたのかとぼやけた焦点を合わせれば、先ほどまで笑っていた少女は湿り気を帯びた唇に白い細指を当てながら、その顔に気難し気な……どこか哀れんだ表情を浮かべていた。

 

「流石にこれはガリィちゃんにも予想外かなぁ。 んー……あ、もしもしマスター? もしもーし? ちょぉっとお話したいことがありましてぇ。 え、見てたんですか? そんなにガリィの事が好きだったなんて♪ フフフ、そんなマスターも好きですよ♪ ……それでですねぇ、あ、いいんですかぁ? ま、イイモノも持ってるみたいだし? いやいや、マスターの癖に珍しいだなんてちっとも思ってないですよ? ガリィちゃんは♪」

 

 呆然とする私を放置し、突然一人でしゃべりだす少女。

しばらくして独り言が終わると私に向き直った彼女は何事もなかったかのように笑い、再び芝居がかった仕草で手を差し出してきた。

 

「はいはーい。それじゃあ、お名前教えてくださいな?」

 

「……立花、響」

 

 誘うように嗤う彼女に、私はぼそりと自身の名前を呟く。

それに対して少女は「ふーん」と興味なさげに鼻を鳴らすとくるりとその場でターンし、

 

「それじゃ、おやすみなさいませ、ヒビキサマ♪」

 

私の頭をがっしりとつかんできた。

驚く暇もなくぐらりと揺れる意識の中でとっさに伸ばした私の手は空を切り、地面へどさりと倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
半年で帰ってくるつもりが1年近くあいてしまいました。

お蔭様で話のストック等ある程度は溜まりましたので、それを消化しつつ駄文を積み重ねていければと思います。

また、あらすじに記載の通り、更新に関しましてはストックがつき次第一月前後に一話の速度で更新していきますのでよろしくお願いします。

そのほかの作品等に関しましては活動報告にて詳細をご報告させていただきますのでそちらをよろしくお願いします
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