新・ヒダマリを失った少女は錬金少女と復讐を夢見る   作:朝方紳士

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犬を飼いたい(逃避)

更新が遅くなり本当に申し訳ないm(__)m
漸く一期分のプロットが書きあがったので逐次修正をかけながらですが投下していきます。

そして今回は視点がころころと変わりますがご容赦ください。


それでも現実は非常なれば

足早にこの場を離れた少女の背に誰も彼もが声をかけれずにいた。

彼女の胸の傷は想像以上に根深く、募った怨恨は周囲への拒絶を持て現れている。

そんな彼女にかける言葉の見つからない弦十郎は、ただ自身の短慮な行いを恥じ入るばかりだった。

 

「……弦十郎ちゃん。あんまり自分を責めちゃだめよ。あれは誰かが悪いんじゃない。弦十郎ちゃんもみんなも……あの時できうる限りの最善を尽くしたわ」

 

思いつめる弦十郎を前に、『桜井 了子』は小さく息を吐くと周囲の人間へ目配せを送ってから努めて明るい声音で話しかけた。静かに片付けと撤収を始める2課の職員らを端に、しかし弦十郎の顔色は晴れない。

眉間に深い皺を刻みながら、弦十郎は握りしめていた拳を開く。

 

「だとしても、だ。完全聖遺物の起動実験。成功すればノイズへのこれ以上ない対抗策になるはずだった。いや、だからこそ俺は浮足立ち、功を競っちまった。その結果がこれだ。——————俺たち大人の尻拭いを、責任を。……守るべき存在に負わせてどうするよ」

 

弦十郎はそう言うと己が罪を悔いる様にもう一度きつく目を瞑り、深い溜息を吐き出すのだった。

 

 

 

 

その様を傍観していた彼女だったが、ふいに先ほどの少女のことを思い返す。

 

欠落した自我の断片。それを狂気じみた執着心を軸に補強した上で外層を強化パーツで補強している……貼り合わせの固体? いや、あの時の戦闘時の波形は……むしろ自身ので補っているのか。

 

「————随分と不安定なモノを」

 

数か月前に送られてきたデータと、先の彼女を見比べて出した推測に彼女は目を細める。

 

件の事件後、度重なる虐めに親友の死。そして家族の失踪を尻目に海外へと逃亡。ヨーロッパ国内を放浪している最中、小娘らのファンを名乗る者たちに保護され、以後本人の強い希望とノイズと至近距離で接触した被験者という位置づけで対ノイズの研究機関へ所属。

そこでの実験により驚異的な身体能力と”灰にならない身体”を手に入れ、より多くの実践的データを得るため、そして政治的な意味合いも含めて今回私のサポート兼非常時の戦闘要員として2課に配属された、だったか?

 

随分と手の込んだ資料だ。態々架空の研究機関に向こうでの偽装戸籍。政府にすら干渉させる徹底ぶりとは、あの青い餓鬼が随分と丸くなったものだ。

先日、検閲等に引っかからないよう何重にも暗号化されたデータが届いた時には面倒な厄介ごとかと思ったが……

 

『頼む』

 

「……は。人間というのは」

 

脳裏によぎった姿に頬を吊り上げながら、彼女は少女を追いかけるために白衣を翻し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっちった」

 

部屋から飛び出して辺りをぐるぐると練り歩いたおかげか、漸く熱の冷めた頭を押さえながら私は深い溜息を吐く。

もっとうまくやれるはずだった。ちゃんと言いつけ通りにやるはずだったのだ。だが、理性ではいかんともしがたい衝動が溢れだし、気が付けばあたりへ殺気を巻き散らしていた。

 

ああ、これでは犯罪者か殺人鬼だ。きっとキャロルちゃんも怒っているだろう。

彼女は怒ると怖いのだ、本当に。普段から怒っているように見えるがあれは半分は照れ隠しや癇癪の部類。キャロルちゃんが本気で怒ると、何も言わずに身体をバラしにかかってくる。

それで何度身体が壊れたことか

 

 

 

 

「は! それって私がキャロルちゃんの玩具ってこと!?」

 

脳髄に走る電撃。新たな新発見に頬の表情筋が緩んでしまう。

 

いかん。いかんぞヒビキ! こんなところでにやけている場合では

 

「慰めに来たのだけれど、随分と元気そうね」

 

全身で喜びを表現していると不意に背後から、というかあえて無視していたのに話しかけてくる人? がいた。

 

「あ、どもども~」

 

「どーも」

 

へらへらと笑いながら手を振れば、あちらもひらりと手を振ってくれる。

そのまま眼鏡の位置を直した彼女は両手を白衣のポケットに突っ込みながら冷たい眼差しで私を見下ろした。

 

「随分不安定そうだけど、診てあげましょうか?」

 

「いえいえ結構です。そんな取引は結んでイナイデショウ? それにいいんですか?」

 

「ええ、監視カメラの映像は弄ってあるから。でもちょっとくらい見せてくれてもいいんじゃない?」

 

冷え切った目。まるで試験管に入った薬品をみるような、ただ知的好奇心を刺激されるだけだといわれている視線にきりきりと空気が震える。

 

本当であればこの澄まし顔に一撃見舞ってやりたいが、どうせ防がれるうえにキャロルちゃんの計画には彼女のデータが、そして奏者との接触がどうしてもいるらしい。

 

数秒をかけて自身の気持ちを整理した私は”張っていた糸”を緩めると女の子らしく可愛めのポーズをとる。

 

「あんまりじろじろ見ないでくださいね? あとお触りも禁止です。この体はキャロルちゃんのモノですから」

 

「間違えて触ってしまったら?」

 

確認のつもりだろうか? だったら

 

「コロス」

 

ぐっと指先に力を籠め捻り上げれば、幾重にも張り巡らせた糸が彼女の四肢を縛り上げた。

そのまま首周りに巻き付けた糸をゆっくりと絞っていく。

 

「あなたが誰であって、何が目的なのか私にはさっぱりですけど、キャロルちゃんの邪魔をするなら」

 

「カカカカカカ!! よもやと思っていたが、まさか本当に人間を辞めているとはな」

 

突如笑い出した、いや、化けの皮が剥がれたか。

先ほどとは打って変わり、金色の瞳を怪しく輝かせる彼女を前に、私は思わず一歩後ずさった。

 

「なるほどな。まぁ良いわ。それよりも早くこれを解いたらどうだ? 私を殺すと問題が多いと思うが?」

 

ニヤニヤと嗤いながら首を締め上げる糸を指さす彼女を前に、私は浅く息を吐くと糸の拘束を緩める。そのままもう一歩後退すれば、彼女はそれを面白がるように一笑し、踵を返した。

 

「明日また来い。おとなしく言うことを聞いていればそっちの邪魔はせんさ」

 

……どうせ、『今は』でしょ。ま、それはこっちも同じだけどね。

 

きざな態度で去っていく年増さに、私は舌を出して見送った。

 




最初から三人称視点のほうがよかったか……
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