変革
「どうしたんだい、エレーナ」
私の兄はあの日を境に変わってしまった。
不自然に香る「狂気」が兄の周りに漂っている。
以前は見られなかったような、余りあるくらいの凶暴性を見せるようになった。
元の優しさが消えたわけではない。
彼は優しい兄のままだ。
しかし、その事実が余計に奇妙さを引き立てていた。
兄が行方不明となったあの日、きっと何かがあったのだろう。
「心配しないで、少し寝不足で疲れてるだけだから……」
「そうかい? エレーナはしっかりしてるけど、一人で抱え込む癖があるからね。何かあったら兄ちゃんに言うんだぞ?」
「うん。ありがとう」
どの口が言うのか。
最も大きく暗い秘密を持っているのはあなただろう。
私は見たのだ。
ファデュイの隊員たちを返り討ちにしながら笑う兄の姿を。
厳しい寒冷地で鍛錬を積み、女皇の目的の為に躊躇いや罪悪感を捨て去った冷酷な戦士を、兄は足蹴にしていた。
まだ幼かった私の目には、兄が化け物のように見えた。
兄という一人の人間を、まるで怪物のようにしてしまった
天理に矛を向けんとする氷神も恐い。
いるはずのない"
もうこんな場所には居たくない。
出国予定を早めてしまおう。
元々、私はこの一家には居ないはずの人間……イレギュラーなのだから。
この世界に生を受けて10年と少ししか経っていないが、むしろよく堪えた方だろう。きっと、家族も私のことを疎ましく思っていたに違いない。
幼い頃からあまり泣かず、不気味なほどに静かで、笑うこともなくただそこに佇んでいたような、そんな子供なのだから。
それに……私は既に人を殺めている。
正当防衛だった。
それにしても殺しすぎた。
兄や妹たちを守るために仕方なかったとはいえ、男女関係なくいたぶるように殺してしまった。
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
何度も
早く、どこか遠くへ行こう。
確か璃月辺りは商いが盛んで賑わっている商業都市だと耳にしたことがある。気候も穏やかだろうし、住み心地の良い旅館もあるかもしれない。岩神が天理に敵対しているという逸話や噂も聞かないし、きっと安心して余生を送れる筈だ。
少なくとも、こんな国よりはずっといいはずだ……
「そういう兄さんこそ、最近あまり眠れていないのではないですか?」
「まぁ確かにそうだけど……」
だから最後に、この瞬間くらいは……
「今日は私がテウセルたちの面倒を見ますから、兄さんはゆっくり休んでください。」
「ハハハッ!やっぱりエレーナには敵わないなぁ。じゃあお言葉に甘えて今日は早めに寝るとするよ。」
「はい……おやすみなさい」
この瞬間だけは兄妹らしくあろうと思う。
こんにちは