ということで久しぶりの投稿です
何日ぶりなんですかねほんと。
ちなみに昨日(11日)は仕事でした、うんち。
<追伸>
誤字報告いつもありがとうございます。
ちなみに今話はいつにも増して長いので誤字ありまくりです、たぶん。
代わりに胡桃と主人公ちゃんがいちゃいちゃするので許してください。
まぁ今回いちゃつくのはタルタリヤとなんですけどね
黄金屋にてタルタリヤとエレーナが戦い始めてどれくらい経っただろうか。もしかすると数年ほどの月日が流れたのではないか。そう思わせるほどに黄金屋は傷つき朽ち果てていた。
黄金色の塗装は剥がれ落ち、かつての景観を大きく損なってしまっている。これでもかと言わんばかりに積んであった大量のモラは、今やそのほとんどが元あった場所からかけ離れ、あちこちに散らばってしまっている。
度重なる津波のような水の矢の応酬によって辺りは水浸しになっており、モラの鉄臭さに磨きをかけていた。その臭いは黄金屋全体を包み込むほどであり、どんなに嗅覚が鈍感な人間であっても鼻をつまみ顔を顰めてしまうだろう。それほどには強烈な異臭が立ち込めていた。
だが、そんな異臭を気にも留める余裕など、タルタリヤにはなかった。金属が水分によって滲み出す異臭など歯牙にもかけず、ただ目の前で涙を流す妹の姿を見ていた。
エレーナの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていく。時々しゃくりあげるような嗚咽が聞こえ、その度に彼女は少し身体を震わせる。
エレーナは溢れ出る涙を拭おうと己の腕を持ってしてその濁流を堰き止めようと試みるが、上手くいかずに腕と顔の隙間から水が溢れて溢れる。ボタボタと床に落ちていくその涙は止まる気配はなく、無限に湧き出るのではと思わせた。
「そんなにも私は取るに足りませんか?」
エレーナは問い、訊ねる。
「そんなにも.....っ。」
続けて言葉を紡げようとしたが、嗚咽と涙の追撃によりそれは叶わない。戦いによって舞う金属の臭いと土埃だけが彼女たちを見守る中、観衆たちに与えられたのは少女の痛いけな姿と静寂のみだった。永遠にも思える時間が過ぎ去ったのではと錯覚するほどの悲しい沈黙を破る者はいない。
腕から伝った水の粒は彼女の双剣にも及んでいた。淡い蒼を光らせる白の宝剣は落ちてきた涙によって一層輝いて見えた。
あまりに場違いなほど素晴らしく存在感を放つその双剣は、かなりの業物であることが見てとれた。これまで多くの敵を薙ぎ倒してきたタルタリヤから見てもその武器の刀身は見事に磨き上げられており、これまでに多くの生き血を啜ってきたことが容易に見てとれた。
実際に、先ほどの戦いにおいても、タルタリヤの眉間にまで迫ったあの刃は、まるで新鮮な魚を捌くが如く滑らかに皮を割き、スゥ.....と音もなく肉を断とうとしてきた。
それほどの切れ味。
さぞ名のある鍛冶屋が鍛造したに違いないと断言出来るほどにその双剣は洗練されていた。
妹が涙を流している時に武具に思考がいくのは少々薄情だと感じ取れるかもしれないが、むしろエレーナの兄としての行動の中ではベストな行動とも言えた。
これまでの数年間、最愛の妹の身に何が起きたのかを知り得ないタルタリヤからしてみれば、彼女の話す内容や身につけている衣服や道具は全て貴重な情報源であり、言葉を遣わない証人も同然だ。
少しでも彼女の状態を把握してあげたい、その苦しみを理解してあげなければ.....そんな焦りからくる行動だった。
そんな洞察はいくらでも出来るのに、肝心の本人とは上手く話せない。戦っている時でさえ、武器を通じてでしか本心を曝け出せない己が憎たらしく感じる。タルタリヤは、これまで執行官として歩んできた己のやり方が酷く滑稽に思えて来た。
何かをわかった気になって暴れて、その末に得たのは何か?
武勲か?
富か?
権力か?
そんなもの、生まれ持った『家族』に比べれば取るに足らない存在だ。
『家族』というのは、望んでも手に入れられるようなものではない。
恋という契機を境に様々な障壁を乗り越えて、その先でもまた壁にぶつかって....そんな苦悩の先にあるの『幸せ』であり、その形の一つが『家族』という存在なのだ。その上、その『幸せ』とやらは手に入れた後にも手から零れ落ちることがある。
つかの間の休息に足を取られて一度転べば、その先に待っているのは運命という名の不幸だ。
国の闇の中で生きることを決めてからも、家族が待つ家に帰っている時だけは、少年時代に戻ったかのような暖かさに包まれるような心地よさを感じていた。
部屋中に木霊す弟たちのわんぱくな騒ぎ声はある種の生きがいだったんだ。
だというのに、その幸福に対するありがたみを忘れて呆けていたがばかりに、その手から幸福は零れ落ちた。
エレーナという幸福が。
とてもではないが女々しく情けない心情。
「......。」
余りあるほどの静寂の末、タルタリヤはようやく口を開けて話し始めた。
それは死地に向かうかのような決死の覚悟を決めた面持ちであり、それまで嗚咽を漏らすだけだったエレーナの心を少しだけ溶かして掬った。
「俺たちには、話し合う時間が必要なんだ。」
床は水浸しになっているというのに、タルタリヤ自身の舌は極度の緊張からか乾いておりうまく動かない。何度も頭の中でシュミレーションしたはずなのに、いざその時になってみるとこのザマだ。
かつて何も出来なかった己への憎しみゆえか、それとも目の前の妹の痛々しい姿に絶句したのかは定かではない。いや、或いはその両方なのだろう。そう思案してしまうほどにタルタリヤは混乱の最中にいた。
必死に唇を舌で湿らせて少しでも喋りやすくなるように悪あがきをする。
だが、そのように足掻けば足掻くほど唇は乾き額から脂汗が滲み出る。
次に放つ言葉が最後になるかもしれない
そんな"もしも"を考えては、霧散させる。不安が胸でつっかえて離さない。
それでも胸にある考えを吐き出すために必死に口を動かす。
「あの大雨の日。泥と血で染まったエレーナを見た時は、自分の目を疑ったよ。色んな意味でね。」
突如として訪れた妹との再会の日。何の心の準備も出来ていなかったタルタリヤにとって、その再会はあまりに突然で.....それ以上に妹の状態に言葉を失った。あの日はなんてことない日だった。
ただいつも通りに辺りを散策していた変哲のない普通の日。
予想外の大雨を鬱陶しく思いながらも草むらを掻き分けながら進んでいった。水の重さによってより存在感を増した草たちがいつも以上に足腰に絡みついてくる不快感に顔を顰めながらも歩みを進めたのを覚えている。
彼女は体中に生傷を携えて大量の血液を垂れ流し、目には大きな隈が出来ていた。
少なくとも、年頃の女の子が味わうような苦痛じゃあない。本当なら、エレーナにだってこの世界を楽しむ権利があるはずだ。
「(美味しいご飯を食べたり、家族との温かい時間を過ごしたり.....そんな時間を過ごしてもいいはずなんだ。)」
その姿を脳裏に描くたびに吐き気と眩暈を生じて瞼を少し閉じる。
ほんの少しだけ世界の残酷さから目を逸らすことが出来て安らぎとも言える時間に手を伸ばすが、勝手に開かれた瞼によって取り込まれた世界の光が意識の潜水を妨げて現実という名の陸地へと打ち上げる。
「...........俺だって君と釣りがしたいんだ。」
「えっ...。」
タルタリヤはその言葉を放った後に、少しだけ後悔した。
もっと言うべきことがあるはずだ。これまで行方を暗ましていた妹に対して、もっと安否を気に掛けるべきだ。
だが、タルタリヤの口から出る言葉はなんてことない話ばかりで、聞いているエレーナも少し呆然としているように見えた。
その様子を比較的好意的に解釈したタルタリヤは、半ば自棄になりながらもなんとか言葉で橋を架け続ける。
「あの日。君を鍾......知人に預けてからも、気が休まることはなかったよ。」
エレーナを預けたというタルタリヤの口から、何やら特定の人物の名前が飛び出ようとしていたが、彼はすんでの所で押さえこんだ。
この人物の名前を出すことは、エレーナとタルタリヤにとってあらぬ誤解を生むことになりかね無いと感じたからだ。
こんな場面で妹を欺くような真似をするのは心が痛むが、それも止む無しと彼は己の中に苦渋を押し留める。
しかし、理性だけでは抑えきれない
「出来ることなら、エレーナを傷だらけにしたヤツを見つけて殺してやりたかった。」
それは、これまで彼がエレーナに見せていた顔とは異なる、闇の部分でもあった。家族を気に掛ける兄としてのタルタリヤとは別の....『執行官』としての側面を持つ感情だ。
闇の行人である己に対して自負を持ち、目的のためなら冷酷な手段も厭わない『公子』としての感情。
心優しい兄としてのタルタリヤを知る彼の弟たちが見れば、怯えて逃げてしまうであろう感情。これまで抑えていた闇が溢れてしまうほど、彼にとってエレーナが傷つくというのは耐え難いことだった。
「エレーナに...家族に手を出す不穏分子は、たとえ確証がなくとも消すべきだと何度も考えた。」
少なくとも、彼にはそれが出来る。
「けど、エレーナに捜索の刺客を差し向けた俺も大して変わらない大馬鹿者だ。そんな俺にエレーナと話す権利なんてない。」
これもまた事実だった。
妹が行方を暗ましてしまったという事実しか知らぬ彼にとって、その事件の原因が自らの不足にあるのではと危惧してしまったのだ。
若さゆえの無謀。若さゆえの浅ましさ。
結局、彼はただ先走った勢いで行動していった。
それは『執行官』という立場にあろうが変わらない。いや、むしろ使える目や手が増えた分、彼の無鉄砲さは目に余るものだった。
何せ、行方が分からない『公子』の肉親を捜せなどという無理難題を部下に投げてしまったからだ。立場ゆえの忙しさが己を拘束するのなら、その分部下に任務と称してエレーナを探させれば良い。
部下からしてみればたまったものではないし、普通であればそのような指示は不自然かつ理不尽なものだ。だが、事実としてファデュイという組織に属する以上、無理難題を押し付けられること自体はそう珍しくない。
むしろ、行方の目星がないとはいえ、ほぼ無期限の人捜しという命令は、他の取り立て任務とは異なり命の危険も少々薄い。
それに、『公子』の身内であればそう暴れられることなく保護出来るだろうと考えていた。
そしてその誰もが帰らなかった。
すぐに帰ってくると楽観視していたタルタリヤは、派遣した捜索隊が消息を絶つたびに焦燥感に駆られ始め、思考から冷静さを欠いていった。そして、それはタルタリヤだけに限った話ではなかった。まだ幼いトーニャたちも次第に違和感を感じ始めた。
それまで自分たちを可愛がってくれていた姉が急にいなくなってしまったのだから無理もない。
日に日に心に影が下りてきて光を包み込んでいく錯覚に苛まれながら、それでも我武者羅に妹を探し続けた。そんな中でようやく掴んだこの面会のチャンスに、タルタリヤはこれまで溜まっていた後悔を話し連ねる。
「教えてくれないか、エレーナ。どうしてあの時、家族に黙って家を....スネージナヤを出ていったんだ?」
「それ、は...」
タルタリヤは恐る恐るエレーナに訊ねた。言いつけを守らなかったことに負い目を感じている少年のように弱々しく目を伏せるタルタリヤの姿は、とてもではないが執行官『公子』が連ねる武勲が与える印象とは全く結びつかないほどに普通の人間のような反応に唖然としてしまう。
そんな兄の姿を見て心が揺らいだのか、エレーナもまた少しずつ口を開き始めた。
「わたしはただ、怖かったんです.......。」
震えた声。
しかしそのような震えなど気にも留めていられないほどに、妹の口から出た言葉はあまりに等身大なものだった。誰でも抱きうる平凡な感情である"恐怖"というワードは、それまでの盛大な逃亡劇を裏付けるにはあまりに稚拙でお粗末な、説得力に欠けるものだった。
こんな理由では、納得できる者などそういない。せいぜい『もっとマシな言い訳をしなさい』とコケにされるだけだ。だが、タルタリヤに関しては違うようだった。エレーナが「怖かった」と口にしたその時から、全くを口を開こうとしていない。黄金屋には不自然なほど重苦しい静寂が蔓延り、エレーナは困惑する。
ため息の一つくらいは返ってくる気でいたが、どうやら状況がおかしい。なぜ兄は何も言ってくれないのだろう。せめて罵ってくれた方が幾分か楽になるというのに。そう思ったエレーナは恐る恐る伏せていた顔を、慎重にかつ重々しく上げて兄の表情を窺うことにした。
すると、予想外の光景を目にすることになった。
「怖かった.......エレーナが、俺に....?こわ、怖かった.....。」
「え、えっと。兄さん?どうしたんですか?」
「怖がらせて......。そ、そうか.....。俺は兄貴失格だ。」
「っ!ああいや違いますっ!別に兄さんが怖いってわけじゃなくてですね!?」
「そ、そうなのか?」
「ま、まぁ兄さんに関係することではありますが。少なくとも!兄さんが悪いとかじゃ、ないです。多分。」
「.....ほっ。」
執行官の姿か?これが。
彼の同僚がいればそう突っ込んでいたであろう。今のタルタリヤは『公子』としての仮面などもはや機能しておらず、ただの"兄"としてオロオロするのみなのだ。
なんだか可哀想になってきたと思ったエレーナは、それまで頑なに話さなかった思いの丈を兄に伝えることにした。でなければ、ここまで無理をして自分に真摯に接してくれた彼に申し訳が立たないからだ。
ぽつぽつと
エレーナは語り始める
「きっかけは、あの日でした。兄さんが行方不明になってから二週間くらいが経った頃のことです。」
「唐突に家に帰ってきた貴方は人とは思えないナニカを纏いながら歩いていました。」
「実際に接してみて、兄さんは兄さんのままでした。家族思いで、やんちゃで、それでも頼りになる人。」
「けど、どこか....見えない何かが渦巻いている気がして.....それがいつか自分にも向くんじゃないかって思って。」
「テウセルたちのお世話を任されたあの日の夜。私は意を決して家を出ました。旅支度もせずに思いつくままに。」
「でも、裏を返せば.....私は貴方に何か危害を加えらたわけではないんです。むしろ、兄としてとても尊敬していましたし...それは今だって変わりませんよ。」
「これまでずっと逃げて来ましたけど、これだけは...伝えなきゃって思って...。」
エレーナの懺悔にタルタリヤは酷く驚いた。
「けど、俺が原因であることも事実だろうっ!?俺の力のことだって...。」
納得がいかないと言わんばかりに吠える。だが、またもエレーナを庇おうとする兄を遮るようにして、エレーナは再び話し始めた。その目には先ほどまで涙を流していた影響で赤い痕が残っていたが、顔つきはどこか晴れやかに見えた。彼女は声を荒げるわけでも暴れるでもなく、ただ静かにタルタリヤに語り掛ける。
これまでよりもささやかで細い声であったにも関わらずに頭によく通る。
「兄さん」
「ご飯は、きちんと食べていますか?」
「ちゃんと、夜は眠れていますか」
「お仲間の方とは仲良くお仕事出来ていますか」
「みんなは........元気っ....ですかっ。」
次第に声に震えと嗚咽が戻り始める。タルタリヤは敢えてそれに言及せずに言葉を待った。
「に、にいさんは」
「わた、私の...
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッ!!!!
「「!?」」
突如として響き渡る轟音が、出かけていたエレーナの言葉を遮った。その音は黄金や全体を揺るがすほどの振動と共に訪れた。空気すらも震わせる振動は黄金屋だけでなく璃月全体を襲っているのだろう。そう想像するのに十分なほど凄まじい衝撃だった。
度重なる戦闘の余波によってガタが来ていた黄金屋は、パラパラと天井から鉄屑を砂状にして振り掛けてきた。それが如何に危険な状況を表しているのか、理解出来ない二人ではなかった。
タルタリヤはすぐさま思考を切り替えて己が為すべきことを見据えた。元はと言えば、彼がここに来た目的はモラクスの仙体の場所を突き止め、その身体から『神の心』と奪取することであった。かの氷の女皇の壮大なる計画のためにも果たさなければならない『執行官』としての責務なのだ。
エレーナという予期せぬ来客によってすっかり失念していたが、衝撃によって我に帰ったタルタリヤはそのことを思い出したのだった。
それに、この振動が彼にとって想定していない物である可能性がある以上、焦りの感情を抱くのも仕方のないことなのだろう。
「(まだ渦の魔神は呼び覚ましていないはずだ。まさか『淑女』が何か手を出したのか?)」
彼の知り合いの中でこのようなことをしでかしそうな人間と言えば、『淑女』くらいなものだ。彼女は『公子』と同様に璃月に来訪している。であるならば、『公子』のいぬ間に良からぬ茶々を入れる可能性は存分にあるだろう。
そうともなれば、すぐにでも彼女を見つけて問いただしたいところではあるが......
「(いや、まずは
タルタリヤは内心でそう叫ぶと一直線にモラクスの亡骸の元へと駆け出した。常人には追いきれぬほどの速度で身を焼きながら、地を駆けて迫る。しかし、それを阻む者がいた事実をすぐに思い出すことになる。
「通しません。」
「ッく!?」
眼前に凶刃が迫る。
咄嗟のことに呻いたものの、どうにか身を後退させて難を逃れることに成功した。己の自覚していた以上に思考が鈍っていた事実に、タルタリヤは少し情けない気持ちになりながら苦い笑みを浮かべた。
たった今自分を遮ったエレーナに対して。
「妙だと思ったんだ....俺に会いに来たって言うのなら、何もこのタイミングでなくともいいはずだ。なのに、エレーナは機を待っていたかのように黄金屋で俺を待ち伏せていた。......と言うことは、まさか君もそれに用があるのかい?エレーナ。」
「......兄さんに会いに来たのは、本当ですよ。再会の機会を黄金屋に選んだのも、単なる偶然に過ぎません。強いて言うなれば、なるべく人目につかない離れた場所がいいなと思っていたくらいです。」
「....待て、なんだかまた既視感を感じるよ。嫌な予感だ。」
タルタリヤの頬を汗が撫でる。
「また何も言ってくれずに行ってしまうのかい?」
「.....。」
彼女は答えない。
ォォォォォォォッ!!!!
「!?」
「.....きた。」
彼女の代わりに答えたのは、得体の知れぬ怪物の咆哮だった。その叫びは地面を震わせ、その存在感を世界全体へと知らしめる。まるで何千年も籠った怨嗟が一斉に流れ出るかの如く重みを得たそれは、常人の人智を遥かに超えた力を誇っているのが解る。
それはかつての大戦の時代。まだテイワットに今ほどの安寧がもたらされていなかった血の時代。
岩の神によって、かの孤雲閣の深層に神槍と共に磔にされ封印された恐るべき海の化身であり、歴史の一角に名を連ねる怪物。
その名は『オセル』
かつての戦争にて辛酸を舐めさせられた神は、積もった怨嗟と憎しみを惜しみなく解放し、テイワットを包み込まんとする怒号を轟かせて己の来訪を叫んでいる。
そこかしこに点在する水滴が、主の帰還に歓喜するが如くフルフルと身を震わせている。渦の魔神が蘇ったと溢れんばかりの感情を想起させる。
「なんでこんなにも早く?まだ札は使ってないはずだっ。」
「...探し物はこれですか?」
エレーナはそう言うと、懐から黄色の札をこれ見よがしに取り出した。それは本来タルタリヤの下にある筈の代物であり、オセルを再起させるトリガーとなる重要なカギだった。
「禁忌滅却の....っ!!!」
「先ほどの戦いのときに、少しくすねさせていただきました。」
「いつの間に...!」
タルタリヤが予備プランとして準備していたオセルによる国の崩壊を、よりにもよって彼の妹がその引き金を引いてしまった。しかし、当の本人はそこまで大事に捉えていない様子であり、まるで朝食を食べ終わったか後に待ち構える食器洗いを考えているかのような倦怠感を露にしている。
これまでの会話から、エレーナが人の命を軽んじるような倫理観ではないことはなんとなく理解したタルタリヤだが、それにしてはあっさりと破滅の引き金を引いた彼女のあっさりとした反応に違和感を覚えていた。
恐らく、まだ話していない重要なことがあると判断したタルタリヤは無理矢理にでも彼女を引き留めようと駆け出した。
しかし、それを予期していたかのように彼女は炎をその場に展開した。エレーナを守るように円を描いた炎の線はユラユラと陽炎を生み出しながら、その熱を上げていく。ジワジワと辺りの熱が向上して床が溶けていく。
床の黄金が熱を帯びて液状に変化していく。色は次第に赤に赤に近い具合に遷移して、ドロリと形状を崩してしまう。それほど彼女の放つ熱量が凄まじいのだろう。
それは人の力では到底成し得ない偉業。そんな現象を可能にする方法などテイワットでは限られている。
それは-
「『神の目』か!?」
これまでのタルタリヤとの戦いでは一切用いなかった彼女の力の一端。それは常人ではあり得ない程の出力を誇ちつつも、その勢いを完全に制御下に置いていた。
凄まじい練度に思わず『公子』も舌を巻いた。本来の彼ならば反応できた可能性はあったが、これまで一切『神の目』の存在を匂わせなかったエレーナに対して、無意識に油断してしまっていた。それ故に反応するのが一瞬遅れてしまった。
それを好機と見たのか、エレーナはさらに力の出力を上げる。彼女の周辺に漂っていた炎が更なる業火へと進化してその背丈を伸ばした。
「行かせないさッ!」
増した火のカーテンの影響で既にエレーナの姿は覆い尽くされている。
明確な居場所もわからなくなってしまった。
迷ったタルタリヤは一か八かで弓矢を番えて水元素を凝縮させる。出来れば彼女の脚を狙うつもりだったが、急所でなければもはやどこでも良い。この期に及んで迷っている場合ではないと判断したタルタリヤは、火のカーテンに向けて矢を放った。
だが、彼が考えているよりもエレーナの『神の目』は強情であった。タルタリヤの放った水の矢はいとも簡単に焼き尽くされて蒸発し、その場から存在を抹消された。ジュウ..という水の弾ける音が瞬きの間に聞こえた気がした。
「ハハッ...とんでもない熱量だね。
「オセルが起きた以上、黄金屋で悠長に話しているわけにもいきません。それは兄さんも同じでしょう?」
「エレーナッ!!!!」
タルタリヤはこれまでよりも更に大きな声で妹を呼びながら手を伸ばした。彼女に近づくたびに彼の手を包むグローブが熱を帯びて変色していく。
そして、当然ながら彼の手も融解していく。皮膚だったものが熱によって焼け爛れて黒く変色していく。
パラ...と肉から皮が剥がれ落ちる。常人ならば痛みで我を失うだろうが、エレーナの前にいるのは『公子』であり、家族を取り戻そうとする兄だ。彼は痛みになど目もくれず、我武者羅に突き進む。
熱でおかしくなりそうだと感じながらも、気にせず歩みを進める。確実に、一歩ずつ。
前へ進む。
「っこないでください。死にたいんですか?」
「それは....こっちのセリフだ!」
「っ!?」
タルタリヤをいたわっているとも取れる言葉をかけたエレーナに対して、タルタリヤが返した言葉は反芻だった。予想を上回る兄の凶行に怖気を感じたエレーナは思わず後ずさる。このままでは不味いと感じたのか、エレーナはこれまで以上に炎の出力を上げていく。
これでは兄が焼かれて死んでしまう。たとえ精神が強靭であっても、人間である以上肉体には限界がある。言葉で言っても聞かないのなら、このまま逃亡するしかないと考えた。そして、その企みを感じ取ったタルタリヤもまた覚悟を決める。
「俺にっ...本気を出せと言ったね!エレーナ!」
「な、なんです今更!もうそれは過ぎたことです!」
「いいやまだ話は終わってない!大体こっちは意味が解らないんだっ。いなくなったと思った妹が突然神の死体の前に姿を現したと思ったら、急に攻撃してきて!」
「そ、それは!」
「あぁわかるさ!それが
「だったら」
「けど君は
「ぇ?」
「俺を見くびるなよ...エレーナ。」
タルタリヤが水の元素力を一瞬だけ解除した。それが何を意味するのかは解っていた。わかってはいたのだが、鬼気迫る兄の姿に思考が少しだけ遅れてしまった。それまで拮抗していた力関係が解れて僅かな静寂が訪れる。
それまでの騒々しさが嘘だったかのように穏やかな瞬間。キーンという耳鳴りが脳に焼き付くほどに静かだった。
そして、やがて異音が生まれ始める。それまで静寂を奏でていた楽譜に不協和音が出来上がる。
『神の目』の抑制、それによる力の切り替え。
そして、やがてそれは彼の全身を包み込んで雷を走らせた。
「(紫色、の.....雷。『神の目』以外のナニか....まさか!?)」
「俺は、家族のためなら...君のためなら」
「まt」
喜んで『魔王』になるさ
ばちりと電撃が耳を掠める。タルタリヤを中心に広がるプラズマが地面を走っていく。そして彼自身もまた、人間離れした風貌へと変化していく。体全体を黒色の霧と装甲が覆っていくのがわかる。
炎によって遮られた視界の中でも、『魔王』の存在感は薄れることなく焼き付けられる。いや、むしろ時間を置くごとにその力と存在感は増幅していき、エレーナに近づいていった。
「まずっ!?」
エレーナは焦りからか冷静さを失い、迫るタルタリヤに向けて反射的に蹴りを放った。
タルタリヤを攻撃出来るほどの力を蓄え切れていない中途半端な状態で炎を使ってしまった。
それにより、それまで溜めていた元素力をいたずらに放出してしまう。足下に集中していた炎の束がバラバラになって欠けていくのが分る。エレーナにとっては、炎の噴射力をバネに離脱する計画があったようだが、それも今や霧散してしまった。
ガシッ
「掴んだッ!」
半端な状態で繰り出されたエレーナの蹴りを容易く、そしてしっかりと掴んで防いだタルタリヤはこれを好機と見たのか、これまで一定に保っていた距離を急激に詰めた。
「ッ(クソッ...マズった!こんなにも動揺してしまうなんて!?)」
内心で愚痴を零すが、もう遅い。焦るエレーナの目の前には既にタルタリヤの仮面が迫っていた。それはまるで彼が『公子』として暗躍する時に装着する仮面にそっくりで、本来は彼の頭の上辺りに侍られているものだったはずだ。
「あれ...?」
違和感を覚えるエレーナ。彼女からすれば、遂に兄が『魔王武装』を使ったのだと身構えていたのだが、それは目の前の光景とはあまりに合致しない。何故なら『公子』が顔に付けている仮面は、いつも愛用している緋色の物であり、『魔王武装』時に発現する一つ目の禍々しい造形ではなかったからだ。
つまり、彼は『魔王武装』を使っていない。
「ようやくここまでっ!」
「くっ!」
不意をつかれたことで隙を晒したエレーナに対して一気に距離をつめたタルタリヤ。反応するのが困難なほどの速度でその手を伸ばし......
「な、なんだぁこれ!?」
「「!?」」
突然響いた、第三者の声。
どこかで聞いたような気がする、甲高くも聴き心地の良い響き。もはや親しみすら覚える声に気が抜けてまいそうだ。
だが、エレーナはこの瞬間を待っていた。シナリオ通りに彼女らが黄金屋を訪れるこの時を。
緊迫した空間に投じられた異色な存在に、タルタリヤの意識がコンマ数秒でも逸れる瞬間をエレーナは待っていた。強者であればあるほど、感覚が機敏であればあるほどこういった思いがけない好機を生かしやすい。
ぴんと張りつめた緊張の糸に僅かな揺らぎが生じる。
それを彼女は見逃さなかった。
「(『極悪法....』)」
「ッ!?」
エレーナから醜悪な気配が漏れ出す。それはタルタリヤにもどこか覚えのあるもので、この世界にはそぐわない御業であることは想像に難くない。彼女はいつの間にか右手に黒い剣を持ち、上半身を大きく右に捻らせており、今にも攻撃が繰り出されるのではと思わせるものだった。
凄まじい一撃が来ることを予感したタルタリヤは、それまで掴んでいたエレーナの脚をすぐさま離して退避する。雷の力から本来の『神の目』にスイッチして、水の元素力による推進力を借りて大きく後退する。その際に目にしたのは、小悪魔のように笑うエレーナの姿だった。
まさか...?
「なんてね。」
禍々しい気を放っていたエレーナから、忽ち邪気が消えていく。まるで初めからその一撃を放つ気がなかったかのように。
エレーナはそれまで取っていた構えをなんの予兆もなく解くと、密かに再収集していた炎のエネルギーを足下で爆発させた。炎が世界に放出されていき、全体の熱が向上していく。
タルタリヤが散りばめた紫の雷と炎が出会い、混ざり合い、反応を起こしていく。バチバチと不気味な騒音からギチギチと軋むような音に変遷していき、聞く者の心に怖気を与える。それを人は"過負荷"と呼ぶが、目の前で起こるそれは通常の出力を大きく上回っている。
近づくだけでも火傷を貰いそうなほど、煮えるようなプラズマが辺りに迸り、みなぎっていく。
「しまっ」
エレーナが何をしようとしているのかを察したタルタリヤは己の失態を恥じるが、その後悔を置き去りにして彼の身体は妹を行かせまいと動き出していた。
だが、時すでに遅し。
エレーナは、己を炎で包み込んで地面を勢いよく蹴って飛翔した。彼女の足下には焔の粒がパラパラと四散して辺りを高熱で包み込んだ。
水とは相反する炎の力はエレーナを瞬時に黄金屋の天井へと連れていき、やがては天井を溶かして突き破った。
バゴォォォォォォォッ!!!!!
先ほどのオセルの咆哮にも負けない騒音を轟かせながら、その炎は全てを融解させながら天へと昇っていく。もはや彼女を止められる存在などありはしない。
冬国の白星は炎に包まれながら黄金屋を後にした。緋色に包まれているはずの星は、何故か見る者に彼女自身を『白い流星だ』と誤認させる。
それほどまでに綺麗で何物にも代え難く、儚い軌跡を描いたその炎は、やがてタルタリヤの肉眼では捉えきれないほど遠くまで進み、やがて白色の弧を作りながら消えていった。それをタルタリヤはまるで他人事のように見ていた。はぁはぁと喉から漏れ出る息が、それまでの彼の必死さを物語る。
いなくなってほしくない
もっと話したい
帰ってきてほしい
様々な感情がタルタリヤの中で溢れる。これまで何度も何度も折れそうになりながらも足掻き続け、ようやく手にした再開の時がもう終わってしまう。こんな不本意な形で終わるなど、とても許せなかった。
けれど、そんな癇癪にも似た感情の濁流は彼の表情からは読み取れない。彼はあまり感情を抑制する方ではないが、それでも溢れんばかりの意識の塊が表に出ていないのもまた事実だった。
いや、というよりも『それら以上のある感情が優っている』からという方が適切かもしれない。天へと昇っていくエレーナの姿を眺める彼の心中は驚くほど穏やかで、随分と晴れやかな者だった。
そんな彼の口から、ついて出る言葉があった。
「...ハハッ......綺麗だなぁ。」
あまりに場違いで、妹を取り戻したいと願っていた者の言葉とは思えないが、これは彼の率直な感想であった。もがいた彼にしてはあまりに少ない成果しか得られなかったが、その少ない成果こそ彼にとっての願望の大半を叶えるほどの収穫だったのだ。
彼はいつまでもその流星を眺め続けた。
先ほどの乱入者が現れるまでは。
「やっぱり貴方だったんだ。」
「....全く、どうしてそう自ら火中に飛び込むのかな。残念だけど、今の君たちは邪魔者だよ。」
----------------------
「た、タルタリヤ!?どうしてここにいるんだよ!?」
「....ふぅ。」
彼はうんざりしながら歩みを進めている。
少し濡れた床が鬱陶しいが、これが妹との再会の証だと考えると我慢できる。
ぴちゃ
ぴちゃ
一歩、また一歩と進む
その度に困惑する旅人たちの顔が鮮明になっていく。おかしな話だ。彼女らにとってタルタリヤが怪しい人物であることは明白だったはずなのに...どうやら彼女らは、強者であると同時に度の過ぎた善人でもあるようだ。
「パイモン、下がってて。私が相手をするから。」
そんなタルタリヤの推測を裏付けるが如く、蛍がパイモンを背後に庇って前に出た。手にはすでに銀色の剣が握られており、その眼からはギラギラとした戦意が飛んできていた。どうやら彼女にとってはタルタリヤという男は話の通じない人間なのだと思われているようだ。
そんな彼女の反応を見たタルタリヤは心外だと言わんばかりに、両手を大げさに左右に広げて悲しげな表情で彼女らを歓迎する。
「ハハッ。出会い頭にいきなり武器を向けるなんて酷いじゃないか。」
「.....こんな状況で、こんな場所にいる貴方の方が怪しいよ。」
「それは確かに否定できないな。まぁ、否定する気なんてサラサラないけど。」
「そう...。」
不気味な笑顔を浮かべなら歩いてくる『公子』から目を離さないように注意しながらも、蛍は周囲の状況を把握するために辺りを横目に観察する。そこらには砕け散った鉄の破片や夥しい量の水が散乱していて、先刻まで熾烈な戦いが繰り広げられていたことを物語っていた。
明らかに常人の仕業じゃない。恐らくは『神の目』を持つ誰かがここで衝突したんだと察する。出なければ目の前の惨状に説明がつかない。そして、その内の片方は恐らく...『公子』なのだろう。彼は黄金屋にいることについて全く言い訳を並べることはしなかった。それどころか、荒れた息を隠す素振りすら見せなかった。
むしろ"次はお前だ"と言わんばかりにギラギラと輝く瞳孔をこちらへと向けている。
岩神の仙体に用がある自分たちを阻んでいる以上、目の前の男は自分の敵であり排除するべき対象なのだ。つべこべ考えるよりも先に剣の切っ先を向けたのは正解だったと内心で安心する。
今すぐにも排除したいところだが、何やら『公子』の様子がおかしい。好戦的な態度は変わらないが、自分たち以外の何かに意識を向けているような気さえした。その視線は黄金屋の天井へと咲いた痛々しい穴の向こうへと向けられている。
「...しっかし、次の再会はいつになるかなぁ。」
彼は、この場にはいない誰かとの邂逅を待ちわびているようだった。何かを懐かしむように目を細めて、眼球に僅かな光が反射して光って見える。掴めないナニカに手を伸ばして、空虚な願望を叶えようとしているその姿は、あまりに美しく哀れで、人間らしい一面だった。
本来であれば、廃人のように何かに焦がれるその様を見れば、絶句するか呆れるかの二択だが、蛍はある種の共感を抱いていた。どこかで見たことのある顔。感じたことのある...覚えのある感傷に浸ってしまい剣の切っ先がゆっくりと下がって頭を垂れていく。
それを見たパイモンが蛍に何か言いたげにしていたが、様子がおかしいことに気が付いたのか、或いは空気を読んだのか敢えて何も言わなかった。パイモンに感謝しながらも蛍はタルタリヤとの対話を試みる。
「ねぇ...」
「うん?」
「何か、いいことでもあったの?」
「.....そうだね」
そう訊ねられたタルタリヤはどこか嬉しそうに答える。心なしか彼の『神の目』も歓喜に震えているような気がした。それを見た旅人は不気味なものを見たかのように顔を顰めて怪訝な顔を浮かべた。
「俺にとって、どんな休暇よりも穏やかな気持ちになるプレゼントを貰ったんだ。」
「プレゼント?」
「あぁ、なんてったって....最愛の家族からとの再会だからね。」
「家族....。そうだね、それはかなり嬉しいプレゼントだね。」
先ほどまで感じていた共感の正体を突き止め、溜飲が下がる。"家族"との再会は蛍がこのテイワットで目標に掲げる旅の終着点であり、ゴールだ。かつての兄と離れ離れになった彼女にとっては、家族との繋がりを思わせるタルタリヤの感傷に水を差すような真似は出来なかった。チャンスだと理解はしていても、攻撃をする発想すら浮かんでこなかった。
呆けた彼に先手を取ることが出来ればある程度有利に事を運ぶことが出来るだろうと考えられるが、何故かそれをする気にはなれなかったのだ。
それどころか、共感の言葉さえ口にしてしまった。かつて友人を傷つけたファデュイの一員である『公子』に対してあまりいいイメージを持っているわけではないが、この瞬間だけは、どこか憎めない仲間のような心を持ってしまっていた。そして、それは
「おい!?なんでお前らそんなに呑気に会話できるんだよ!?」
それまでのほほんとした空気の漂っていた場面にパイモンがツッコミを入れる。無理もない。一触即発になるかと思いきや、急に兄妹談義が始まる空気にシフトチェンジしそうになったのだ。そんなの誰だって戸惑うに決まっている。
普段は少しデリカシーのない発現をしてしまいがちな彼女だが、執行官『公子』を前にしている危機的状況であるという前提を加味して考えると、この場においては彼女の判断が正しい。おかしいのはこの
「まぁ、確かにのんびり会話している場合でもないかもね。あれも動き出しちゃったし。」
「あぁ、やっぱり
「『渦の魔神』についてなら、
「....ふぅん。」
敢えて蛍は追及してこない。
確かなのは、彼が『渦の魔神』をも利用してこの国を危機的状況に陥れようとしたという事実だ。
「ま、要は計画が御破算になったってことさ。あ〜あ、どうせ後で『淑女』にネチネチ嫌味を言われることになるのを思うと、本当に憂鬱だよ。」
「自業自得だろ。」
蔑んだような目でタルタリヤを非難するパイモン。
「パイモン、タルタリヤが戦う気がないってわかったら急に前に出てきたね。」
「うっ....べ、別にアイツのことが怖いとか、そんなんじゃないからな!別にアイツに戦う意思がなくたって...」
「よし!十分お話しもしたし、これからは戦いの時間だ。」
「え」
「は?」
それまで和気藹々とすら表現できていた場が一瞬にして凍りつくその元凶であるタルタリヤは、さも当然かのように語り出す。おかしい。さっきまで同類のような仲間意識を持っていたというのに、何故また敵対する流れになっているのだろうか。蛍はそう思った。
「ん?誰も戦わないとは言っていないだろう?むしろ俺は今とてもむしゃくしゃしててね....ちょっと発散に付き合ってくれないかな?」
そう言うとタルタリヤは『後は拳で語り合おう』とでも言わんばかりに、その手に水の元素力を集結させ始めた。これまでの旅路で、『神の目』を扱う者たちは何人か見てきたが、彼はその誰よりも禍々しい雰囲気を放っていた。
手に集まるのは澄んだ綺麗な水であるはずなのに、それが災いを呼ぶモノだろうと感覚で理解する。あれを喰らうのは不味いかもじれないと蛍の脳内で警告が鳴り響いた。恐らくかなり激しい戦いになるであろうことを予測した蛍は、ゲンナリとした様子でパイモンに恨み節を吐いた。
「....パイモンのせいだからね。」
「ええ!?オイラのせいか!?」
「ほら、よそ見をしている場合かい?行くぞッ!!!」
嗚呼、宴はまだ終わりそうにない----
可愛そうはかわいい