おいタルタル、追ってくるな   作:飲み会後の味噌汁

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明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

ということで2025年初投稿です。








胡桃の新衣装かわいい


共同戦線

 

 

往生堂にて、三人の少女が話していた。

 

「旅に連れて行って欲しい?」

 

金髪の少女がそう尋ねる。

 

それに対してくすんだ茶髪の少女が応えた。

 

「そう!エレーナって言うんだけど...あれ、そういえば旅人ってエレーナに会ったことなかったっけ?すっごく可愛いんだから!小さくて、髪がふわふわしてて...」

 

「う、うん...その、エレーナっていう娘がどうかしたの?」

 

「う~ん...話すと長くなるんだけど、エレーナはちょっと訳アリだから璃月(ここ)にはいられないの!だからお願い!!一緒に連れて行ってあげてっ!ねっ!この通り!次に戻ってきたときにはサービスしてあげるから!」

 

「葬儀屋のサービスって、なんかあんまりうれしくないぞ...。」

 

金髪の少女の側にいた非常食はどこか納得していないようだった。

 

サービスの内容に不満があるのは金髪の少女も一緒のようだが....

 

「サービスの話は置いておくとして...いいよ、連れてくくらいなら。」

 

....肝心の依頼には同意した。

 

「ホント!?」

 

「ええ!?おい旅人!迷いがなさすぎるだろっ!?そのエレーナってやつが、どんな奴か分からないんだぞ!?」

 

「なんだっけ...ほら、旅は道連れって言うから...。」

 

「絶対適当に言ってるだろ!?」

 

「アハハッ!見る目あるぅ~~!さっすが旅人だね!じゃ、はいこれ!」

 

金髪の少女が渡されたのは小さな紙切れだ。

 

なにやら地図のようなものだった。

 

「...ナニコレ?」

 

「集合場所。明日の明刻にエレーナをそこで待たせておくから、迎えに行ってあげて。」

 

「...え、明日?」

 

「じゃ、よろしくネ!」

 

「え、ちょっとま」

 

 

こんなやり取りがあったりなかったり...

 

 

 

 

 

 

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魔神オセルとの戦いを終えて何日か経った頃、旅人こと蛍は璃月の大橋に訪れていた。

 

その大橋は商人が賑わう港からそう離れておらず、ガヤガヤと賑やかな人混みと喧騒が聞こえてくる。例え簡素な大橋であっても、この場所もまた商人の行き交う璃月なのだと再認識する。

 

どんな場所にいても何だか晴れやかな気持ちになる...この感覚はモンドとはまた違った類の喜びを感じる。

 

穏やかさは欠片もないが、決して不快になることはない。

 

この港の人間たちの喧騒は元気を与えてくれるのだ。

 

先の騒動がようやく沈静化されたということもあり、旅人たちもなんだか自然と笑顔になっていた。

 

「やっぱり平和が一番だなっ!」

 

「...うん、そうだね。」

 

そう語る彼女たちの心中に陰りはなかった。

 

無論、先行きに不安がないわけではなかったが、平和を取り戻したことへの喜びが勝っていたのだ。忙しかった日々が終わりを迎えて、本来の賑わいを取り戻した港を見るだけで元気が湧いてくるようだ。

 

追われる身(指名手配犯)から国の英雄になったことも相まって、蛍はこれまでの不足を補うかのように港の栄枯を満喫していた。

 

それに加えて、今日は旅人たちにとっての一大イベントがある日だ。

 

それは新しい仲間が増えるというイベントだ。

 

この国で知り合った葬儀屋の堂主である少女から、急遽同行を頼まれた少女を探すべく、旅人たちは璃月と外界を繋ぐ大橋へと赴いたのだった。

 

「胡桃がくれた地図によるとこの辺りにいるらしいんだけど...。」

 

「う~ん...それらしき人はいないなぁ。場所を間違えたんじゃないか?旅人。」

 

「いや、そんなはずは。」

 

見渡せど、該当する待ち人はいなかった。

 

目に留まるのは橋を守る兵士と、パラパラと訪れる商人だけだ。

 

場所を間違えたのかと疑うパイモンだが、蛍はそれを否定する。実際、場所を間違えているわけではない。

 

だが、どこに目を向けてもそれらしき人物はいない。

 

「本当にいないみたいだね、出直そうか。」

 

めぐり合わせが悪かったのだと判断した蛍は、元来た道を引き返して戻ろうとパイモンに提案した。

 

そのまま彼女たちは踵を返して歩みだそうとしたが、それを遮るように何者かの声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いるよ。ずっと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

突如として聞こえた声に振り向いた。

 

それは突然の来訪であり、蛍とパイモンからすれば不意打ちにも等しい挨拶だった。故に反射的に身を庇いながら振り向いた。

 

仲間になるであろう少女の姿を視界に収めるべく振り向いた。

 

胡桃の話では『彼女はとってもいい娘』であるとのことだった。

 

だが、大橋の上で待っているその人物は、港の賑やかさをも殺してしまいそうな程、殺伐とした雰囲気を纏っている人間だった。

 

胸の前で腕を組んでおり腰を大橋の手すりに預けている。

 

目は閉じているようで明確な表情は感じ取れないが、少なくとも楽しそうな様子ではないのは明らかだった。

 

大橋の上にいても聞こえてきていた港の喧騒が、待ち人の姿を認識した瞬間に聞こえなくなったような気がした。

 

耳をすませばいまだに喧騒は聞こえるが、先ほどとは異なり蛍の心を踊らせることはなかった。なぜ、あの待ち人を見ただけでここまで深刻な心持ちになるのかは分からない。だが何となく、彼女は社会とは隔絶された環境を好むのだと直感で感じた。

 

改めて、待ち人に声をかけるべく大橋を渡り始める。

 

ギッ...ギッ...と木製の大橋が軋む音が耳を叩いてくる。

 

何だろう...彼女がいると認識するまではここまで音は気にならなかったのに、ここにきて何故か異様に音に敏感になっているみたいだ。何か嫌な緊張感を感じているらしい。

 

そして、それはパイモンも同じだったようだ。

 

パイモンの笑顔はなりを潜めて、代わりに怯えるような表情を浮かべている。人懐っこい彼女にしては珍しい反応だ。それほどまでに待ち人である彼女が無言のプレッシャーを放っているということだろう。

 

「お、おい旅人。お前が先に話しかけてみてくれよ?」

 

どうやらパイモンは白旗を上げたらしい。

 

テイワットのガイドを自称していたパイモンの思わぬキラーパスにうんざりする蛍。コミュニケーションの潤滑油たるパイモンでダメなら自分でもダメに決まっているだろうと思ってしまうが、ウダウダ言っても問題は解決しない。

 

ここまで来たからには腹を括るしかないのだ。

 

そんなことを考えながら進んでいく。

 

いつの間にか彼女の元まで辿り着いていたことに気が付いた。この瞬間、世界に存在するのは待ち人と、私と、パイモンだけ...そんな錯覚を覚える。あまりに静かな世界に冷や汗をかいてしまうが、黙っていては話が進まないためなんとか笑顔を保って待ち人へ話しかける。

 

「え....と。初めまして、貴女がエレーナ?」

 

「...。」

 

待ち人である少女が瞼を開いてこちらを見た。

 

蒼色の瞳孔に私とパイモンが写っている。おそらく彼女も私たちを明確に認識したのだろう。こちらが言葉をかけたから、次は少女の方から返事が来ることを祈って口を閉じてじっと待つ。

 

その間の刹那に少女を観察してしまった。

 

第一印象は『幼い』だった。

 

少女はどこかあどけなさを残したような顔立ちをしている。身長も小さいことから思わず頭を撫で回したくなるが、彼女が醸し出す雰囲気がその行為を許さない。

 

 

 

刺々しい。

 

 

 

本当に初対面なのかと疑いたくなるほどに刺々しい。

 

この璃月でタルタリヤと初めて出会った時の私以上に刺々しくそっけない態度だ。そもそも年端も行かない少女が腕を組むなんてあまり行儀が良いとは言えないのだが、彼女の雰囲気が粗雑さに拍車をかけている気がする。

 

いくらなんでも、年頃の幼い少女が放っていい気迫ではない。

 

それに、彼女がただの少女ではないと証明するものがもう一つある。

 

腰に下げられた双剣だ。

 

蒼く輝く宝剣は鞘越しでもその輝きが漏れ出ているのか、よく磨き上げられているのがわかる。

 

「(透き通っているみたいに綺麗な剣...。)」

 

テイワットで過ごして間もない蛍でも、その宝剣の素材がモンドや璃月では見られないような、希少な鉱石を使っていることは理解出来た。

 

また、鞘も同様によく手入れされているのか、傷こそあるが泥などの汚れは一つも見当たらない。年季の入った業物だ。

 

彼女はさぞ腕の立つ冒険者なのだろう...武器一つでここまで勝手に想像してしまう己に少し呆れるが、こればっかりは性分だから仕方がない。

 

勝手に観察してしまったことに若干の申し訳なさを感じながら、蛍は少女からの返答を待つ。

 

しかし少女は中々返事をしてくれそうにない。

 

胡桃から『気難しい性格だ』と事前に教えてもらってはいるが、ここまでコミュニケーションに詰まるとは思っていなかった。これほど寡黙な人物はモンドにもいなかった気がする。それとも無意識に彼女の機嫌を損ねるような真似をしてしまったのだろうかと不安を抱く。

 

隣のパイモンも不安が更に大きくなったようで、蛍の背中に隠れてしまっている。

 

そんなこちらの緊張を感じ取ったのか少女はようやく固い口を開いて返事をしてくれた。

 

「どうも。」

 

うん、多分嫌われている。

 

理由はわからないけど絶対に嫌われている自信がある。

 

これほどあからさまに素っ気なく接してきた人はいなかったから、余計に凹んでしまう。

 

普段は陽気で明るいパイモンと旅をしているから余計に落差がひどい。何だか途端に眩暈がしてきた....胡桃に前金は貰っている以上ほっぽり出すなんて無責任なこともしたくないが、ここまで寡黙な相手を前にいつも通り話せる自信もない。

 

おそらくこの依頼は、これまで請け負ってきたどんなものよりも難題なのだろう。

 

「うぅぅん...。」

 

思わず唸ってしまう。

 

すると、そんなこちらの蛍の心情を察したのか今度は少女の方から話しかけてきた。

 

「....ごめん、私から自己紹介するべきだったね。私はエレーナ....冒険者のエレーナだよ、まぁ好きに呼んで。」

 

エレーナは端的に自己紹介をしてくれた。

 

どうやら機嫌を損ねているわけではないようで、一言謝った上で話しを繋いでくれた。表情もどこか申し訳なさそうで目尻も萎んでいる。

 

もしかするとただ人見知りなだけであって、このぎこちなさも彼女の意図するものではないのかもしれない。きっとそうに違いない。

 

「(嫌われてたら挨拶なんてされないだろうし、きっと大丈夫...な、はず!)」

 

そう思った蛍はエレーナへの評価を改めた。

 

そしてエレーナに対して向き合った。

 

「うん、エレーナ。これからよろしくね。...ほら、パイモンもいつまで隠れてるの?」

 

「うわ!?」

 

これから共に旅をするのだから、仲が良いに越したことはない。

 

そのように考えを切り替えた蛍は、未だに背後で怯えるパイモンを無理やりエレーナの前へと突き出した。

 

誤解を抱いて勝手に怯えたのはこちらなのだから、これくらいしないとエレーナに対して申し訳が立たない。パイモンもそれを理解しているのか、苦言を呈することなく渋々怯えながらエレーナに訊ねる。

 

「うう....もう怒ってないか?」

 

パイモンは未だにエレーナと目を合わせることが出来ていないが、先ほどまで恐れていた相手に対して正面から会話が出来ているだけ上等だろう。それに、無理矢理引き剥がして対面させた手前、これ以上無理をさせるわけにもいかなかった。

 

パイモンはいじりがいがあるが、大切な仲間だ。故に、無為に傷つけたいわけではない。

 

そんなことを考えていると、パイモンの必死な誠意が伝わったのか、エレーナも友好的な態度で返答してくれた。無表情の顔に変化はなかったが、張りつめた空気はいくらかマシになった。

 

「別に怒ってないよ。少なくとも貴女たちに対して敵意なんて抱く理由はない。」

 

声色もどこか柔らかいものになったように感じた。パイモンもそれを感じとったのか安心したようにほっと息を吐いた。額にかいた汗を拭いながらエレーナに対して感謝と謝意を口にした。

 

「ほっ...よかった。オイラ、お前が怖いやつだって勝手に誤解してたんだ、ごめん...。」

 

「だから怒ってないって...貴女(旅人)からもそう言ってやってよ。...というか何ニヤニヤしてるの。」

 

エレーナは思っていたよりも優しい少女のようで、蛍は安心した。

 

安心したからだろうか、拍子抜けしたらなんだかパイモンと彼女のやり取りが微笑ましいものに感じてしまった。

 

「ふふっ、ごめん。何だかパイモンとも仲良くやってくれそうだなって思って。胡桃が『良い娘だ』って言ってた理由も少しだけど理解出来たかも。」

 

「...まぁ、好きに捉えてくれていいよ。」

 

エレーナはそう呟くと唐突に斜め下を見た。その先には特に何もなく、ただ橋の木目が見えるだけだった。恐らく彼女なりの照れ隠しなのだろう。

 

なんだ、やっぱり少し寡黙なだけで等身大の普通の女の子じゃないか。

 

さっきまでの緊張がまるで嘘のようだ。

 

「まさかお前って素直じゃないだけなのか?」

 

パイモンも同じ考えだったようで、エレーナを揶揄うような表情になった。彼女だって恐がっていただろうに、自分のことを棚に上げてエレーナを弄るパイモンに思わず呆れてしまう。

 

そんな弄り方をしたら手痛いしっぺ返しを喰らうだろうによくやるものだ。

 

「貴女、調子に乗ってきたね。」

 

ぐにぐにっ

 

「ほひっ!あにふるんはよ!?(おいっ!何するんだよ!?)」

 

「ぷっ。」

 

それ見たことかと思った。

 

少し苛立ちを覚えたエレーナはパイモンのほっぺたをがっしりと掴み、滑舌を掌握した。パイモンの柔らかいほっぺはエレーナによって変幻自在に姿を変えていき、パイモンに屈辱を与えた。

 

スライムでもここまで自在に形を変えるのは難しいだろう。

 

ぐにぐにと良いように弄られるパイモンの様子が何だかおかしくて、蛍はぷっと吹き出してしまった。

 

「ふっ...あはははは!パイモン、すごい顔になってるよ!?」

 

「ほひ!ははっへらいへはうけほほ!(おい!笑ってないで助けろよ!)」

 

「あははははっ!」

 

抗いの声を上げるパイモンの姿があまりに滑稽で、余計に笑ってしまう。彼女には申し訳ないのだが、こんなおかしな状況に遭遇して笑わない人間の方が少数派だろう。

 

それくらいパイモンの顔はモッチモチになっていて、原型を留めていなかった。必死な彼女の様子も相まって、笑いのツボが収まることはなかった。

 

パイモンが抗議してきて、その格好がおかしくてまた笑ってしまう。

 

永久機関の完成だった。

 

そんな蛍とパイモンを見て何を思ったのか、エレーナは出会った時と同じように口数が極端に減っていた。その手は未だにパイモンをモチモチしているものの、口を閉じてただ彼女たち二人の様子を見ている。

 

初めのような刺すような雰囲気こそなかったが、まるでエレーナ自身が輪の外から見つめてきているような視線だった。

 

エレーナは心なしか寂しそうな目をしていた。

 

それは手に入らない何かを見つめるような視線で、まるで子供がプレゼントを強請るときのような色をしていた。

 

「...。」

 

何かを言うわけでもなく、パイモンの頬を持ったまま棒立ちになりただ喚くパイモンと笑う蛍の姿を見ている。その顔には怒りも喜びもなかった。

 

代わりに、そこにあるのは悲嘆だけだった。

 

「エレーナ?...どうしたの?」

 

蛍は思わずエレーナに声をかけた。

 

「いや、なんでもない。」

 

「...そう?」

 

エレーナはすぐに無表情に戻った。

 

まるでこの世の全てへの興味を捨て去ったような能面で、傍から見れば恐ろしい光景に映るだろう。

 

だが、蛍はエレーナの無表情を見て恐怖を感じることはなかった。

 

それどころか既視感すらも感じた。

 

彼女の浮かべる能面は、決してぶっきらぼうなだけではない。元々あった喜怒哀楽が長い年月を欠けて削られていき、結果的に能面のような...悲しい人相になってしまったのだ。

 

蛍はエレーナの事情は一切知らないのだが、何故かそう断言出来た。

 

それほどまでにエレーナの表情には哀愁が漂っていた。

 

「ほい!ひいはえんはあへ!!!!(おい!いい加減離せ!!!!)」

 

「あ、ごめん。」

 

パイモンの声で蛍の思考が現実へと戻された。

 

パイモンは大変ご立腹なようで、ほっぺたをまるで膨らんだ餅のように大きく見せながら憤りを露にしていた。

 

「ぷふっーーー!全く!オイラもう怒ったぞ!万民堂の料理をたらふく奢ってくれないと許してやらないぞ!?」

 

ぷんすかと擬音が付くほどに立腹しているパイモンは、声を荒げて見返りを要求した。厚かましいことこの上ない。だが、ここで断ると彼女の機嫌が直らないままになってしまう。

 

「ごめんってパイモン。ほら、後で串焼き焼いてあげるから...。」

 

伝家の宝刀『串焼き一本釣り』が炸裂した。

 

パイモン神が怒りに震えている時はこの手に限る。この手を使えば、たとえどのような厄であろうとも瞬く間に鎮火させ、機嫌を取り戻すことが出来る。

 

だが...。

 

「なっ!?オイラの苦しみが串焼き一本で済むわけないだろ!?」

 

今回はそううまくいかなかったようだ。

 

蛍が思っていたより、パイモンは機嫌を損ねているようだ。このまま橋の上で喚き続けると変に注目を浴びてしまうだろうから、なんとかしてパイモンの機嫌を取る必要があるのだが。

 

しかし、救いの手は思わぬところから差し伸べられた。

 

「いいよ、奢ったげるから好きなだけ食べるといいよ。」

 

エレーナは、何の迷いもなくパイモンへの奢りを快諾した。

 

「え」

 

「おお!?お前太っ腹だな!やっぱ良いやつじゃないか〜、でへへ〜。」

 

先ほどとは一転。

 

有頂天になったパイモンは幻想の翼を目一杯使って天高く舞い上がり、情けない笑顔を振り撒く。彼女の気分も天高く舞い上がっているようだった。

 

「ようし!そうと決まればエレーナの親睦会も兼ねてプチ祝賀会と洒落こもうぜ!!」

 

「あ、ちょっとパイモン!?今から行くの!?」

 

パイモンの食欲の恐ろしさを知っている蛍は、エレーナの財布の紐が心配になってしまった。

 

彼女のモラがパイモンの胃袋によって空になってしまうのは避けたい。胡桃から頼まれた友人を早速一文なしにしてしまうのは流石に気が引けたのだ。

 

「い、いいの?あんなこと言っちゃって。パイモンって結構食べるけど。」

 

「いいよ、悪いのは私だし。それに...」

 

少し間を空けてからエレーナは言った。

 

「これからも一緒に旅をする仲間でしょ?出立祝いだと思ってよ。」

 

「...!」

 

エレーナが笑った。

 

旅の仲間...蛍たちをそう評価したエレーナの雰囲気は先ほどよりも柔らかいものになっていた。ぶっきらぼうな所はあるが、触れ難いという印象はない。

 

エレーナの中では、既に旅人たちは志を同じくする旅の仲間なのだ。

 

「ふふっ。」

 

それが少し嬉しくて、蛍はまたも笑みを浮かべてしまう。

 

いけない、これではまた吹き出していると誤解させてしまう。だが、淡々とした少女の不意の笑顔を見れたことが嬉しかった蛍は己の表情筋が上擦るのを止められない。

 

それを揶揄われていると認識したエレーナはささやかな笑顔を仕舞い込んで、スンッ...と無表情に戻ってしまった。

 

「...もう笑わない。」

 

「あ、ち、違う。違うよ?別に今のは悪気があったわけじゃ....。」

 

「...ふん。」

 

「あ、あぁ...。」

 

どうやら、新たな仲間の扱い方も学んでいく必要があるようだ。

 

 

 

 

 

 

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そんな微笑ましい旅立ちをする者達もいれば、それとは真逆のような剣呑とした雰囲気を纏う者達もいる。

 

場所は北国銀行の二階部分。

 

開けた広間から少し距離があり、且つ死角が少ないこの場所は話し合いにはうってつけの場所だろう。いい感じに狭っ苦しいことから物置にされることもしばしばだったが、銀行の物品を隅っこの目立たない場所におくのは少々不用心だ。

 

貴重品の大半は一階部分の受付棚の奥に収納されている。

 

以上のことから、この二階部分は大半がちょっとした密談場所として適切なのだ。とはいえ、ファドュイの銀行の目立たない場所で行われるやり取りが健全なものである方が少ないだろう。

 

そして、今回行われている密談も、あまり穏やかな様子ではなかったようだ。

 

「...往生堂のお嬢さんが何の用かな?俺は今急いでいるんだけど?」

 

「それはこっちのセリフだよ。スネージナヤの執行官が幼気な少女に何の用があるのかな?」

 

相対しているのは二人の人間。

 

執行官『公子』と、往生堂の堂主である胡桃だった。普段は表立って会話する機会などあまりない両者の間には火花が散っている。少なくとも仲がいいようではないだろうし、会話の内容も物騒なものであると予想出来る。

 

そして実際に、会話の内容は穏やかなものではなかった。

 

執行官であるタルタリヤは、現在は大罪人として国中で非難されている存在であり、あまり外を気軽に出歩けるような境遇にはない。

 

とは言っても、使節として最低限の責務は果たさねばならない。ただでさえ同僚と知り合いにしてやられたばかりだと言うのに、日頃の務めも怠ったとあっては流石にこれまで以上に面倒な追及を本国でされかねない。

 

いかに戦闘狂気質のある彼とはいえど、請け負った仕事を責務はしっかりと果たさなければならないのだ。

 

だから、これから北国銀行を出ていく彼は、執行官としての仕事を片付けにいくものだと思われてしかるべきだし、周囲の部下たちはそう思って疑わなかった。だから、彼が外に出ていくのを止めなかったのだが、それに待ったをかけた存在が現れた。

 

それが胡桃だったというわけだ。

 

彼女が北国銀行に入ってくるやいなや、その歩幅を緩めることなく『公子』に近づき、一瞬だけボソリと何かを呟いたかと思うと、それまで外出するような素振りを見せていた『公子』も踵を返して銀行の奥へと戻っていき、やがて二人して二階のスペースで集会を始めたというわけだ。

 

困惑する部下たちに『公子』は目配せして『問題ない』と伝えた。その表情には焦りや動揺は一切なく、執行官として堂々とした振る舞いだった。

 

故に、部下たちは困惑すらしたものの、彼の意思を信じて敢えて追及することは控えた。

 

まぁ、実際の彼の心中は穏やかではなかったのだが。

 

「幼気な少女って、何のことだい?俺は別に君に用があるなんて一言も言ってないじゃないか?それより、もういいかな?仕事で溜まったストレスの憂さ晴らしのために悪党に嫌がらせをしようだなんて魂胆なら、俺だって黙って言われているわけにはいかないんだけど?」

 

「な~に取り繕ってるのさ。わかってるくせに...。」

 

すっとぼける『公子』をなおも糾弾する胡桃。その眼に浮かぶ血梅香は生きとし生ける者の理を理解する。目の前の男がいかに危険で歪な怪物であろうと例外ではない。

 

胡桃は追い詰められた獲物を睨むように目を細めて言葉を続けた。

 

「エレーナのことだよ。貴方でしょ、あの娘のことを執拗に追い回したの。」

 

聞いたのはやはり、エレーナのこと。

 

一見すると、棘だらけの茎のようにしか見えないエレーナだが、その本質はあまりにも脆く優しいだけの少女だ。故に、優しい彼女は自身の業を背負ったまま国を出る決断をした。

 

彼女は今頃、旅人たちと共に過ごしているのだろうが、『公子』が刺客を寄越せばその旅路を邪魔するかもしれない。執行官である彼にはそれをするだけの権限と胆力がある。

 

そんなことは胡桃が許さない。

 

「そう聞くってことは、やっぱり匿っていたのは君だったのか。往生堂のお嬢さん。」

 

「ふ~ん、認めるんだね。」

 

「ここで誤魔化すようなみっともない真似はしないさ。世の中っていうのは、素直になった方がうまく事が運ぶこともあるからね。...ファデュイとしての仕事以外はね。」

 

「へぇ...じゃあ、もうこれ以上あの娘に付きまとわないでって言ったら、素直に聞いてくれるの?ファデュイである前に一人のお兄さんなんでしょ?」

 

「ハハッ!まさか!むしろ、理想の兄として振る舞うのなら、家出した不良の妹を連れ帰るのが筋ってものだろう?そう思わないか?」

 

「...よく言うね。結局は拒否されたのに。」

 

「...へぇ。」

 

これまで余裕の表情を貫いていた『公子』が初めてたじろいだ。

 

肩からかかる灰色のマフラーがたなびいた。

 

北国銀行の窓は開いていない。

 

それ故に風が吹くことはないのだが、彼のマフラーはたなびいた。それは『公子』が身体を震わせたということの証明であり、一階で事態を見守っている彼の部下たちを怯えさせるには十分すぎる事実だった。

 

「...。」

 

光を宿さぬ虚空の如き瞳孔が少しだけ開かれて、すぐに元の大きさに戻る。だが、怒気までは収まらないようだ。彼からおぞましいナニカが見え隠れする。『公子』の圧を浴びたものは自覚するまでもなくその意識を落とす。

 

だが、胡桃はそうではない。

 

むしろ、恐れるどころか『公子』に既視感すらも感じていた。

 

「(何だろう...この感覚。どこかで感じたことのあるような、不思議な違和感。肉体はあるのに魂が宿っていないような感じ...透き通っているのに濁りが存在していると断言出来るような矛盾を孕んだヒト..........あ。)」

 

「なんだい、その顔は。」

 

「別に~~~~?ただ、兄妹だなって。」

 

「...相変わらず食えないね、君は。」

 

『公子』は疲れた様子で項垂れた。

 

「全く末恐ろしい。璃月でエレーナの足跡がパタリと止んだからおかしいとは思っていたけど、往生堂で匿っていたなんてね。...ということは、鍾離先生もグルってことかい?」

 

「ううん。鍾離さんは無関係...っていうのは少し違うけど、ただ外から見守ってくれただけで、情報操作とか隠蔽には画策してないよ。ぜ~んぶ私がやったの。」

 

にやりと笑った胡桃。口角が弧を描いた。

 

「堂主という立場を使ったとしても、一組織の情報操作なんてそうそう出来るものじゃないと思うけど?どんな手を使ったんだい?」

 

お金(賄賂)って知ってる?」

 

「オーケー、分かった。そういうことか。もう深くは聞かないよ...はぁ、妹がこのことを知ったら気に病むなぁ。『私のせいで友達が手を汚してしまった』なんて考えそうだ。」

 

『公子』はあまり謀りごとが得意ではない。その上、好きでもない。目的を達成するための道筋を描く際は、関係を図るより力でねじ伏せることを好むのだ。

 

そんな彼にとって、どこか読めない雰囲気の胡桃は少し苦手意識を抱くには十分過ぎた。妹のことを好いている以上、悪い人間ではないのは理解出来るが、それでも勘ぐってしまうほどに彼女はどこか飄々としている。

 

そんな彼女は『公子』の思考を察したのか、その考えは杞憂であると示した。

 

「エレーナにはバレないようにしてるから問題ないって。私だってあの娘が自分自身を責めるとこなんて見たくないから。」

 

「君ねぇ...。」

 

少女はもはや止まらないようだ。

 

エレーナを守るためならば己の手を汚すことすら辞さない。その身が往生を司る者だとしても、もはや関係ないと考えているのだろう。

 

それがたとえ、執行官を押し留めるという無謀な役割であったとしても。

 

「どうしても、ここを通す気はない?」

 

「死んでも。」

 

胡桃は先程まで浮かべていたにやけ顔が嘘であったかのように、真剣な面持ちで頷いた。背丈もガタイも『公子』には及ばないが、押しても倒れないであろう芯があるように見えた。

 

「死んでも、ね。ハハハッ!葬儀屋の冗談にしては面白いね!.......ま、害するつもりがないのならいいさ。」

 

彼から力が抜けていく。

 

先ほどまで行く手を阻む少女を睨んでいた男の気迫が嘘であったかのように、その威圧は収まっていく。近くにいた銀行職員も安心したのか、冷や汗を拭いながら手元の仕事に集中し始めた。

 

それを見た胡桃は、ようやく『公子』が警戒を解いたのだと理解した。

 

「...諦める?」

 

「いいや、俺はこれからも妹を連れ戻すために動き続けるさ。ただ、すぐには動かないってだけだよ。...彼女にも休息は必要だろうからね。」

 

「...本当にお兄さんなんだね。」

 

「今更かい?そうだよ、俺はあの娘の兄貴なんだ。」

 

そう言うと、『公子』はまた寂しそうな顔した。眉が下がり目から力が消える...執行官とは思えぬほど、あまりに人間臭すぎる所作に違和感すら感じる。

 

だが、先の問答から胡桃はこの男が信頼に足ると判断した。それに、男の顔に浮かんでいる感情は何も、悲哀だけではなかった。

 

「(もう、そんな誇らしげな顔されたら、信頼しないこっちが悪者みたいじゃない。)」

 

その瞬間だけは、『公子』ではなく一人の兄が立っていた。今は既に生き別れた妹の安否を案じるだけの、等身大の家族が立っていたのだ。

 

胡桃には、その姿が何故か輝いて見えた。幼くして自立せざるを得なかった彼女にとって、()()は手にし難い幸せであると気付いた時、胡桃は彼に敬意を抱いた。

 

だからこそ、それまで塞いでいた道を敢えて開け渡した。

 

「いいのかい?もしかすると、この後すぐにでもエレーナのことを連れ戻しに行くかもしれないよ?」

 

「もしそうなったら、私の目が曇ってたってこと。それに...」

 

胡桃は少し間をおいた。だが、それは躊躇いからくるものではなかった。むしろ、どこか確信すら抱いているような満足気な顔だった。

 

「『公子』が執行官の末席に居続けているのは、貴方がそういう人(お人好しなお兄ちゃん)だからでしょ?」

 

「ハハッ、言うねぇ。ま、もしそうなのだとしたら、俺にとっては名誉なことこの上ないね。」

 

『公子』はそう言いながら胡桃が空けた道を歩き出した。

 

しかし、そこで問答は終わらなかった。切り出したのは『公子』の方だった。彼はマフラーをたなびかせながら振り返ると胡桃の目を見ながら問いかけた。

 

「最後に一つ聞きたいことがある。」

 

「も~何さ。もう話したいことは終わったんじゃ....」

 

「エレーナが使っている力について、本人から何か聞いたことは?」

 

『公子』が何のことについて言っているのかは、常人には知る由もない。

 

()()()という曖昧な表現ではその問いの本質を見極めることなど出来ないが、胡桃はその本質をすぐに理解した。彼が何について糾弾しているのかをすぐに理解した。

 

「..........そんなの、私が聞きたいくらいだよ。」

 

彼女は回答を持たない。

 

それまで何年も付き添ってきたエレーナが抱える闇の存在を知りつつも、本人はそのことについては全く語ってはくれなかったのだ。

 

だが、胡桃は知っているし、その目でしかと見たのだ。あの魔神が海の底より復活した大嵐の日、エレーナが黒いナニカを纏いながらあの魔神と対峙するのを。

 

『公子』が言っているのは()()のことだ。

 

()()は『公子』に感じた既視感に由来するものであろうことは何となく察するところなのだが、その力がどこから湧いて出たのか、どこでエレーナがその力を手にすることになったのかは知る由もない。

 

「...だろうね。」

 

それを『公子』も理解しているのか、胡桃が知らないと返答したことについても、特に気を落とす様子を見せずにそのまま銀行の出入り口に向かって行った。

 

彼は外に通ずる扉に手をかけたかと思うと、胡桃の方を再び振り返った。淀んだ眼に梅が咲く。

 

「いずれ、あの娘(エレーナ)が抱える闇に触れる時が来るかもしれない...その時、俺がそばにいるかもわからない。だから...」

 

「わかってる。」

 

胡桃は彼が何を言おうとしているのかを既に知っている。みなまで言わずとも、スンと心の奥底まで響いてくる。共通の庇護対象を持つ者同士、お互いが伝えようとしていることは既に伝わっている。

 

 

 

兄貴がエレーナの側にいないときは、友人が支えてやってくれ

 

 

 

彼の目はそう言っていた。言葉では言っていないが、確かにそのように語っていた。ここに結ばれたのは、とある少女を庇護するための...或いは、その闇を暴かんとするたち同士の契約だ。

 

胡桃(往生堂)はいつでもあの娘の家だから。貴方は安心して出かけてよ。」

 

「ハハッ!()の前でそこまで言い切ったんだ...頼んだよ?」

 

『公子』は胡桃から視線を完全に外した。

 

「契約成立だ。ぜひ君がよければ、今後とも友好的な関係を築いていけることを願っているよ。」

 

「....ま、『富者』って奴よりかは『公子』の方が有望株かもね。」

 

「ハハハハハハハッ!北国銀行でそこまで啖呵を切るなんて、面白いね。なら、その期待に応えるために精々頑張るとするよ。」

 

それだけ言い残すと、『公子』は今度こそ北国銀行を後にした。

 

その場には、往生堂の少女と、この銀行の立役者たる執行官に対する陰口を聞いてしまった部下たちの気まずそうな顔持ちだけが残った。

 

その時の空気は、燦然としているモラ硬貨よりも冷え切っていたという。

 




皆さんは、今年をどんな一年にしたいですか?

私は、本格的に主人公を苛め抜きたいと思います。(ニチャア)
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