おいタルタル、追ってくるな   作:飲み会後の味噌汁

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投稿ペース上げてけッ!

生前葬だッ!!!!!!

往生堂だけになッ!!!!!!!!

ガハハハハハハ!!!!!!!!!





はい

いつもご愛読ありがとうございます。


魔神任務第二章~白鷺からの贈り物~(稲妻編)
白鷺と焔


 

 

ズズ.....

 

 

耳障りな『霧』のざわめきで思考が鮮烈になる。

 

 

「ここは....。」

 

 

ダインと話していた筈なのに、どうして私は彼の前に居ないのだろう。

 

どうして私の身体は知らない森のような場所にあるのだろう。

 

さっきまでモンドの奔狼領にいたはずではないのか。

 

あのしつこい男の追及の嵐はいつの間に消え去り、異様な静けさだけが耳に入ってきていた。

 

私の脳内にある最後の記憶は、ただただ暗いナニカに視界が塗りつぶされていったことだけ...。

 

つまり、私は...。

 

 

「私はまた逃げたのか...?」

 

 

あまりにも自分が情けない。

 

けれど、そんな自己嫌悪に浸る間もなく、私の身体が悲鳴を上げ始めた。

 

身体中の筋肉がギチギチと締め上げられるような感覚がする。細胞が壊死していくのが、何となくだが分かる。外部からの攻撃に屈するわけではなく、内側から体組織が自ら崩壊の運命を歩んでいるみたいだ。行き場のない痛みに悶える間もなく吐き気が襲う。

 

膝を付いて口元を手で覆う。

 

 

「...っうぷ。んぐッ...!」

 

 

喉元まで迫った嘔吐物を無理矢理に嚥下する。

 

鉄臭さと不快な酸味を帯びた液体の濁流たちは、再び私の体内へと戻っていく。それでも鼻腔には未だに不快な香りが残っている。私が直近で食べた料理の味が、旨味だけを除いた状態でまたも私を楽しませようとしてくれているのだろうか。

 

いや、そんなはずが無いか。

 

人間には過ぎた力を使ったからなのか、それとも私の身体が脆いのかは定かじゃないけれど、少なくとも、この力を使う度に私の肉体は摩耗していっているのだろう。

 

最近は特に酷い気がしている。

 

少しの移動にも絶大な体力を消費しているのをひしと感じる。夢見に綺麗な蝶が彼岸で舞っている光景を何度も見た...ような気がする。きっと、もう()()()()()()は多くない。この力を使い続けることが良くないというのは、自分がよく知っている。

 

けれど、点と点を繋いで自在に行き来することが出来るこの力は、私にとってはなくてはならないものだ。

 

 

「あ、あぁぁあううッ!」

 

 

痛い。

 

身体中を激痛が走る。

 

皮膚をゆっくり剥がされ、むき出しになった肉と骨を汚物の詰まった不潔な爪でぐりぐりと押しつぶされるような気さえする。焔が感覚の糸を辿って私の肉体の神経を焼き付ける。

 

この痛みはいつになっても、何度味わっても慣れない。

 

力を使うといつもこうなる。

 

いつも、いつもだ。

 

あの時も、そうだった。オセルと対峙した時も凄まじい苦しみに襲われた。

 

これは一体誰から与えられた苦しみなのだろう。

 

使えば使うほど身体と魂に馴染む『神の目』とは異なり、この力はむしろその逆で、使う程にその扱いが下手になり、あまつさえ己の肉体を蝕む苦しみだけが増しているような気がしている。

 

 

「クソッ!クソッ.....ぐうぅぅぅぅ!!!」

 

 

そう考えたらまた頭が痛くなってきた。この痛みはきっと、力を使ったことによる副作用じゃなくて、霞掛かった先の見えない未来に対するストレス反応だと思う。この言い換えようもない不快さはそうに違いない。

 

ふと、耳にさざ波が届いた。

 

それまで耳鳴りのような煩わしい音を聞いて苦しんでいた脳内が、次第に心地よさが拡張されていく。なんだか、奇妙な感覚だ。

 

私は稲妻には初めて来た。

 

桃色の桜と暮色の紅葉が羽ばたく木の束も、慎ましくも楽しそうに話す人々の歓談も、鍛冶屋で奏でられている金槌の音も、何も知らない。

 

知らない...筈なんだ。

 

けど、前世で過ごした日本での日々が酷くマッチする。

 

これまでの十数年を異郷で過ごした私の身体に、何年越しかも分からない懐かしい感覚が侵入して、侵食していくのが分かった。目に優しい淡い色で模られた着物を纏った人間たちを視界に入れていると、まるで前世で過ごしていた日本での日々を思い出す。

 

今思うと、前世での日本は実に平和だったのだと実感する。

 

外敵に怯える必要もないぬるま湯に浸かりながら、飽和した食の皿を好き勝手に貪ることが許された日々...テイワットでそんな生活を送れる人間はそう多くないだろう。

 

もっとも、今更感傷に浸ったところで元の世界に戻れるわけじゃない。こんな思考は無意味だとは分かってる。

 

今考えるべきなのは、自分が置かれている状況を正しく把握することだ。

 

私は辺りを見回した。今、自分がどこに着地したのか知らなかったからだ。この力は予め定めた座標同士を線で繋いで移動する技だ。だから、基本的に使用者はどこを着地点にするのかを把握していることがほとんどだ。

 

けれど、今回は話が別だ。

 

私は稲妻に訪れたことがない。

 

それ故に、稲妻に座標を設置することも出来なかった。このようにワープでここを訪れることが出来たのは、とある胡散臭い知り合いの協力があってこそのものなのだ。非常に癪だが、立場や好き嫌いのような面倒な解釈を介さずに、損得関係のみで接することが出来る知り合いがいたからこそ、今回のように楽に移動が可能になった。

 

一応、彼には感謝しなければならないだろう。

 

 

「...まさか、本当に約束を守ってくれるとは思ってなかったけど。」

 

 

てっきり約束を反故にされると思っていたのだが、彼は存外に義理固いらしい。

 

 

だからと言って彼を信用することはないだろうが。

 

 

そんなことを心の中で呟きながら周囲を見渡す。

 

足下に広がる緑の芝が綺麗だ。綺麗過ぎて、不自然さすら感じる程だ。ほとんどの緑が私の背丈よりも遥かに小さい。これほど整っているということはきっと人の手が入っているとしか思えない。それも相当に腕の立つ庭職人が手掛けたに違いない。そう断じてしまうくらいには綺麗で整った、美麗な場所だった。

 

明らかに誰かの私有地だ。どこに転移するかは知らなかったが、まさか彼の知り合いのもとにでも転移したのか?いや、しかし...彼に知り合いなんているとは思えない。

 

ともすればこの場所は、私の知らない人間の私有地であって、私は侵入者足り得るということだろう。

 

...拙いだろうそれは。

 

 

「クソッ...淵上の奴、私を殺すつもりなの?」

 

 

脳裏に眼鏡をした男の顔が浮かぶ。

 

心の中でその男を切り裂きながら、次第にクリアになってきた視界で更に周囲を詳しく観察した。

 

周りには背丈の高い木々が立っていて、外界からの陽の光を遮っている。

 

いや、違う。

 

遮っているというよりも、そもそも陽が昇っていないように見える。

 

この場所においては昼も夜もなく、ただ神秘的な薄暗さが蛍の光と共に浮かんでいるだけだった。

 

よく見ると、草木が整えられているのは一部だけであり、私が今いる場所から少し歩けば背の高い草が覆い茂っているようだった。どうやら、転移先に設定された座標の場所が偶然にも草木が短かっただけらしい。

 

見渡す限り、高い木々に囲まれた森の中にいるとしか思えない。

 

虫の声と川のせせらぎだけが鳴るこの森においては、私以外の人間の気配はしなかった。動物たちも驚くほど静かで穏やかに過ごしている。

 

喧しい烏の鳴き声すらも存在しないようで、自分の息遣いすらもこの森の声へと昇華されるのではと思ってしまうくらいには、この森は静けさに包まれていた。

 

あまりに心地良い空間に身を委ねようとしたが、ふと違和感を感じて冷や汗が噴き出した。

 

 

「(待て、おかしい。もしここが鎮守の森なら、さっきまで私が聞いていた人々の喧騒はどう説明する?)」

 

 

この場所に転移した直後、私の脳内に響いていた騒がしい音の数々は一体どこからやって来たんだ?この森には人間はほとんどいない筈。どれだけ騒いでいても、この森にその喧騒を届けるのは難しいだろう。ただの幻聴にしてはやけにリアルで、まるで近くに存在しているかのような質感だった。

 

もしかすると、地脈に封印された記憶に触れたのか?それとも、私の頭がおかしくなっただけなのか...ともかく良い気分ではないな。

 

 

「兎に角、移動しなくちゃ。ここに突っ立っているわけにもいかないっ。」

 

 

膝を杖変わりに立ち上がる。

 

凄まじい立ち眩みが襲ってくるが気にしてはいられない。

 

少しの不快感は無視して進むべきだ。私が今いる場所が、鎮守の森のどの辺りなのかを特定しなければ、独りで彷徨うことになる。

 

薄暗さが不気味さを醸し出している。浮かぶ蛍は淡い光を出しながら私を誘惑しているようだ。私の思い込みかもしれないが、妖の類が存在する世界において、人間以外の姿をした知性体がいてもおかしくはない。

 

目の前にいる無数の蛍が、実は悪意を持った怪物であることも否定は出来ないのだ。

 

 

「とりあえず、木漏れ日を探すしかない。」

 

 

陽の光が差し込んで来る場所を目指せば、自ずと森の外にたどり着けるかもしれない。そう思った私は震える関節を無理矢理酷使して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------------

 

 

ざり...ざ...ざり......

 

 

歩みを進める度に鳴る砂の音が鬱陶しい。

 

ただでさえ気分が優れないというのに、耳障りまで悪いときたらいよいよ歩みを止めたくなる。

 

もう歩き始めてから随分と時間が経ったはずだ。体感では数時間は経過している。だが、私は知っている。こういった状況に陥っている時に限って、人間は己の過ごした体感時間を過大評価する傾向にある。

 

それが疲労から来るものなのか、はたまたその状況が作り出す特殊な効果の一種なのかは定かではないが。

 

いずれにせよ、状況は私が望んでいるよりもずっと悪い方向に歩いていっているのは確かだろう。

 

ほとんど遭難しているような状況に近いと思う。でなければ、ここまで精神がまいることはないだろうし、何度も同じ道を歩くことになるなどあり得ないからだ。

 

 

「ここ、さっきも通った気がする...気のせい?」

 

 

もう何度目か分からない既視感に首をもたげる。

 

私の目の前には、相変わらず陽の光を遮る木々の群衆が聳え立っている。一遍の隙間すらも辞さないと言わんばかりにびっしりと生え並ぶ生命に感嘆すら覚える。不気味な雰囲気の筈なのに、恐怖は感じない。...やはり、生前の日本と形式が近いから親近感を覚えているのだろうか。

 

逃げ場を塞ぐ牢屋のような樹海が、私にとってはある種の楽園に感じる。

 

人との繋がりから隔絶され、己の思考に耽ることを許されたこの瞬間を愛おしく思う。

 

 

「...他の国ではこんな感覚にはならなかったな。」

 

 

だんだんと言葉を口に出す気力も戻って来た。

 

歩いた分だけ体力は消費した筈だが、それと反比例するように精神の疲弊がまるでなかったかのようになっている気がした。

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

「俺たちの上官様の要求を吞めないのなら、社奉行とやらには相応の代価を払ってもらう他ないな!」

 

「そのように脅しをかけても無駄です。私には人々を束ねる責務があり、それは外野からの圧力で変えられるような軟弱なものではありません。」

 

「...!生意気なッ!」

 

 

 

 

 

「何か、聞こえる。これは....人の声?」

 

 

これまでは静寂に包まれた森の中を闊歩するだけだった私の習慣に、異音が混ざりこんだ。

 

それは動物たちとは違い、大きく不規則な音をしていた。

 

明らかに人の声のようなものが聞こえる。それも一人ではなく複数人いる可能性が高い。

 

 

「こう言っていいか分からないけど、よかった。良い景色だけど、永遠に彷徨い続けるなんて冗談にもならない。」

 

 

まさに助け船。

 

これまでは代り映えのしない森の中を彷徨うだけの亡霊だった私にとって、人間の肉声が聞こえるということは吉報と言う他ない。実に僥倖だ。何処の誰かは知らないが、身寄りのない私を助けてくれることを祈ろう....いや、それは違うな。

 

他者に頼ることを辞めるために旅に出たというのに、また誰かに頼るのか?迷惑をかけるのはよくないと言っておきながら、私はまた厄介に預かろうとしているのか?

 

それではダメだろう。

 

私は誰かから与えられるべきじゃない。

 

 

「いずれにせよ、この声を辿らない限りは鎮守の森(ここ)からは出られない。...今は、選択肢は一つだ。」

 

 

私は声の下へと歩き出した。

 

歩き出したのだが...

 

 

がくっ

 

 

「ぇ あ ?」

 

 

唐突に視界がブレたと思ったら、鈍い痛みが唐突に襲ってきた。身体を地面に打ち付けたようだ。

 

転んだわけでもないのに、何故か唐突に身体の芯が保てなくなったような気がする。脳の指令とは異なる動きをする身体に対して苛立ちを覚えるが、次第に思考すらも霧がかかってきていた。

 

じわりじわりと麻痺毒が周っていくような感触がする。それに比例して、目の焦点がぐるぐると廻る。もう正常な視界を確保することは不可能だ。

 

三半規管は既に役割を放棄しており、地面に足を付けて立つことはおろか、まともな意識を保つことすら難しい。

 

 

「(クソッ...動くのか動かないのか、どっちかにしろッ!)」

 

 

優柔不断な身体に悪態をつく。

 

森をうろうろと彷徨っていたころは不思議と動き続けていた身体は、いざ出口が見えるかもしれないという兆しが見えた瞬間に梯子を外してきた。なんて融通が利かないんだ。いや、私の身体なのだから、私自身が知っていてしかるべきなのだが...。

 

 

「(マズイ...とにかく、森の中で倒れるのだけは避けたいっ。)」

 

 

もしここが稲妻の鎮守の森なら、ファデュイの構成員がうろついているかもしれない。

 

そんな場所で意識を失おうものなら...少なくとも、五体満足でいられる可能性は低い。

 

けれど、そんな意思に反するように私の身体は地面にうつ伏せになった。

 

 

「ぐ、ぐううううぅぅっ!ぐ...がぁぁぁ。」

 

 

ずり

 

ずり

 

 

無理矢理地面を這って進む。

 

泥水なんて何回でも啜って来た。時には血の臭いが何日も取れなかったときだってあった。その時と比べれば、ただ身体が言うことを訊かないくらい、なんてことはない。

 

少しずつ、だけれども着実に声の下へと近づく。次第に鮮明になっていく声に僅かばかりの浮つきを覚える。もはや視界も朧げだが、自分が森を脱しかけていることくらいは認識出来ていた。段々と陽の光が私を照らしていくのが分かる。それまでは隙間もない程に生えていた木々たちの群衆から離れて、人の住む世界に近づいていることが分かる。

 

そして、相も変わらずぼやけた視界で微かに認識出来たのは、件の声の正体だ。

 

 

「(あれは、誰だ?一人や二人じゃないな...。)」

 

 

息も絶え絶えの私の視界に映った人影は....五つ。

 

だが、構図が妙だ。

 

どちらかと言えば、一人に対して他の四人が対立しているような構図に見える。先ほどよりも陽の光がはっきりと差し込んでいるおかげで、朧気な視界でも最低限の状況把握は出来ているみたいだ。

 

 

 

 

何か言い争っている?

 

 

 

 

「はん!交渉決裂ってことだな!」

 

「哀れね、白鷺のお嬢様。いかに優雅に振る舞おうとも、所詮は井の中の蛙ということね。一時の感情に身を任せて親切な取引相手を反故にするなんて。」

 

「(なんか、見たことのある服装だな。いやに奇抜というか...人を寄せ付けない格好をしている。)」

 

 

一人に対して何かを喧しく宣っているのは、とある男女だった。

 

男性は黒と赤を基調としたコートに身を包み、手には鋭い刀を携えているのが見えた。顔は...覆面のようなものをしていてよく見えない。女性の方は、これまたすごい恰好をしている。青と白をベースに、少しだけ引き締まったドレスのような襟をした服に身を包んでいる。彼女もまた、顔はよく見えない。男性のように顔そのものを全て隠すようなものは付けていないようだが、彼女は目元を隠す簡易的なマスクをしているようだ。

 

どこかで見たことのある服装をしている気がするが、如何せん視界が復活していないからはっきりと認識することが出来ない。だが、彼らの恰好は覚えがある。いやに禍々しい服装と物騒な物言い。それでいてテイワット各地に存在する者...あぁ、そういうことか。

 

 

「(こいつ等、ファデュイか。)」

 

 

じわじわと回復していく視界が答え合わせをしてくれた。

 

先ほどの男性はデッドエージェントだった。暗殺を主とするエリートで、どこに行っても見かける存在だ。とすれば、女性の方はミラーメイデンか。そして残りの二人はその手下か或いは同僚といったところか。

 

デッドエージェントとミラーメイデンが先陣を切って、後方の二人は...妙にガタイがいいな。

 

片方は金槌を背負っている。もう片方は、水色の制服に噴射器のようなものを携えているのが見える。

 

なるほど、雑なようで完璧な布陣だ。抜けがない。

 

 

「かの白鷺の姫君がこのような世間知らずならば、兄の方は更に愚かさが極まっているだろうな。」

 

「ぷふっ。違いない。」

 

 

放っている言葉から察するに、何か言い争いをしているのだろうか。

 

いや、というよりも脅しに近いナニカか。あからさまに相手を侮辱するような言葉を吐いているのが分かる。

 

人数比を見ても明らかだ。

 

対する一人ぼっちの人は...

 

 

「今、お兄様を侮辱されたのですか?」

 

 

...お兄様って言われた人はさぞやいい人なんだろう。

 

それまで冷静沈着な態度を貫いていた女性が、憤怒している。声を荒げていない所が余計に彼女の凄みを増幅させている。

 

 

「お、なんだ?やるのか?俺たちは良いぜ、ちょうど最近暇を持て余していた所だったからな。」

 

「...おい。俺たちの任務は..」

 

「わーってるって!少しいたぶるだけだっての!」

 

 

金槌を背負った者はそう言いながら女性へと近づいていく。

 

 

「へへっ。これだけの人数差じゃ手も足も出ないだろう?負けを認めるのなら今の内だぞ?」

 

「っ。」

 

「そうだよなぁ、何も言えないよなぁ。ここで助けを呼んでももはやお前の家来たちは間に合わないし、例え間に合ったとしても『白鷺の姫君』としての威厳は地に落ちることになる。敵の罠にまんまと嵌って喚いた小娘に成り果てるしかない。」

 

「...俺が彼女をここに誘き出したのは、あくまでも交渉のためだ。」

 

「取り繕うのはやめろよ、デッドエージェントとしての役割を被った時から、お前もこっち側だろうが!それとも、女皇陛下のために誓った忠誠は偽りだったのか?」

 

「...。」

 

 

醜い。

 

組織という体を取っている以上、考えの異なる人間がこのように言い争うことになるのは必然だ。

 

ファデュイと言っても一枚岩ではない。

 

目の前のデッドエージェントはあくまでも己の矜持を持って任務に臨んでいるが、他の者はそうではないのだろう。

 

必要に応じて残酷な所業を容認することと、自らそのような蛮行を望むことは全く違うことだ。

 

前者であればいざしれず、後者のような考え方は軋轢を生みかねない。少なくとも、あのデッドエージェントは仲間の横暴な態度を快く思っていないようだ。

 

 

「そちらが神里家の人間に手出しをしたとなれば、都合が悪くなるのは一体どちらでしょうか。」

 

「お前、馬鹿か?俺がそんなことを気にすると思うか?」

 

「おい、お前の後始末は誰がすると思って...。」

 

「うるせぇぇぇ!こちとら辺鄙な国に左遷されてうんざりしてんだよぉぉぉ!!」

 

 

しびれを切らした男が紫色の金槌を思い切り振り上げて、女性に向かって走り出した。それは唐突に訪れた開戦の合図であり、彼の仲間は反応するのが一瞬遅れた。

 

瞬きの間に、男は少女の目の前まで迫り命を刈り取らんとしているようだ。

 

 

 

 

 

 

「...兄さん、恐らく貴方の部下ではないと思いますが、一応謝っておきます。」

 

 

 

 

 

 

雑草程度しか残っていない私の良心は、私の身体を容易く少女の元へと運んだ。

 

全てを燃やし尽くす炎と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

「な、なんだお前は!?どっどこから来やがった!?まさか、社奉行の応援がもう既来ていぶぎッ!?

 

「ひ、た...たすけ」ぷち

 

 

(わたくし)は今、夢を見ているのかもしれません。

 

稲妻で起きている反乱...その余波を凌ぐため、社奉行としての業務に明け暮れる毎日。

 

少しでも現状打破の糸口を欲していた私を誘ったのは、ファデュイからの知らせでした。

 

曰く、『社奉行の有する土地の一部を譲ってくれれば、その土地の管理を一括して担い、その恩恵を分けてやる』とのことでした。そして、『詳しい話をするにあたって、護衛を付けずに一人で待ち合わせ場所まで来い』とのこと。

 

罠であることは明白でした。

 

社奉行の負担を一部担ってくれると言えば聞こえはいいですが、要は『稲妻の土地を寄越せ』という要求でした。

 

トーマやお兄様からも猛反対されました。大人しく待ち合わせ場所に行けばどんな目に遭うか分からない。相手はあのファデュイである、辞めた方が良いと。

 

それでも行かなければなりませんでした。

 

民たちに残された猶予は幾ばくもありません。社奉行の人間がいかに優秀であっても、人手が足りなければ出来ることも狭まってしまいます。食料の備蓄も、日々を過ごすための資材もどんどんと枯渇していくこの状況では、例え妖の手であっても借りたくなる状況だったのです。

 

それが例え、ファデュイの使者からの誘いであっても。

 

彼らの誘いにまんまと乗ってしまえば、それこそ恰好の餌と成り果てるのは目に見えていました。

 

しかし、ここ最近の稲妻の情勢はあまり芳しくなく、農民たちも日に日に疲弊の色を濃くしています。

 

...そんな彼らを見ていた私は、愚かにも敵の罠に自ら飛び込んで行ってしまったのです。トーマやお兄様に知られたら、きっとこっぴどく叱られてしまいます。

 

結局の所、私は未だに世間知らずな小娘に過ぎず、井の中の蛙そのものであったということなのでしょう。そう考えると、目の前のファデュイが言っていた私への侮蔑の言葉も的を得ているのかもしれません。

 

そして、刺客の内の一人がしびれを切らして襲い掛かってきました。

 

それは刹那の果し合い。相手方の要望通り一人、丸腰で訪れた愚かな私を殺そうと、その大きな鉄槌を振りかぶるのが見えたその時...その者は現れました。

 

 

 

「『Biadam....』」

 

 

 

繰り広げられているのはただの蹂躙。

 

逃げ惑うファデュイ(彼ら)の頭蓋を踏み鳴らしていく。

 

その四肢を炎で焼いていく。

 

ギチギチと筋肉が急激に収縮していく音が響く。

 

あまり聞きなれないその音に呆然とした私は、一歩も動けませんでした。あまりに突拍子もない出来事に腰を抜かし、無様にも震える身体を残った手足で必死に抑えるしかなかったのです。

 

黒い霧のようなナニカに覆われたソレは、およそ人間とは思えない言語を放ち、死の余韻に浸っているようでした。

 

 

 

「『guru-guru....』」

 

 

 

何かを呟きながら近づいてくる。

 

何故か音がしない。

 

ただ鉄臭い血の香りだけが辺りを漂う。

 

私も殺されるのでしょうか...いえ、きっとではなく確実にそうなのでしょう。これはこれまで役目を果たせなかった私への罰なのです。雷神様は何時いかなる時も空の雷を通して、私たちを見てくださっています。

 

私が目の前の怪物に屈している様もご覧になっている筈なのです。

 

 

「ッ!」

 

 

恐怖を感じて思わず目を瞑ってしまう。いずれ来る激痛と絶望に耐えるため、小賢しくも抵抗の意思を示した。

 

 

「...........?」

 

 

しかし、いつになっても痛みは訪れることはありません。

 

不思議に思った私は瞑っていた瞼をそっと開け、件の怪物の様子を見ようと試みました。

 

すると...

 

 

「あ、やか...?」

 

「...え?」

 

 

怪物の姿は既になく、いたのはとても綺麗で可愛らしく...そしてそんな容姿でさえも隠し切れない程の悲しみを携えた瞳を持った少女でした。稲妻人とは思えぬ程色鮮やかな髪と瞳孔を持った少女は、身体のいたる所に傷を作りながらも、私の名前を呼びました。

 

少なくともお会いした覚えのない方でした。それどころか、彼女のように容姿端麗な方であるのなら、彼女の噂くらいは私の耳にも入ってきていてもおかしくはない筈です。しかし、どの記憶にも当てはまらない美しい彼女は、フラフラと覚束ない足取りで私に近づき...倒れました。

 

 

 

ドシャ!

 

 

 

「っだ、大丈夫ですか!?」

 

 

私は倒れた恩人...?と思わしき少女に駆け寄り容体を確認しました。

 

 

「(なんて、軽さ!?)」

 

 

これまで経験したことがない程の軽さでした。本当に人間一人分の体重を支えているとは思えないまでの軽さに驚きを隠せません。

 

この少女は確かに背丈は小さいように見えますが、それでもここまでの軽さは...もはや何かの病に罹っているのではと疑ってしまいます。本当にこの方が先ほどの怪異なのでしょうか?

 

私を貶めようとした者達の頭蓋を砕き、その血肉を炎で焼いたあの怪物の中身が、こんな幼い子どもであるというのでしょうか?

 

稲妻には妖と呼ばれる存在がいます。それ故に、若々しい身目を保持しながら何百という齢を重ねているという例も珍しくありません。子どもとあまり変わらない背丈の妖が、時に面妖な一面を見せることは十分に考えられるものです。

 

しかし、この子はそういった類の者ではないでしょう。

 

見た目と実年齢の差異から来るものなどではなく、もっと重要な、それこそ歴戦の戦士が味わうべき苦痛や惨たらしい経験を、幼少時代に塗り込まれてしまったような歪さがありました。どうしても、さっきまでの黒い怪物とこの可愛い恩人の印象が一致しないのです。

 

 

「兎に角、恩人をうっかり死なせるなどあってはなりません。...ですからどうか、もうしばらく辛抱ください。」

 

私は筆舌に尽くし難い使命感のようなものに突き動かされ、件の少女を神里家まで連れていくことにしました。

 

 

 

 

 

お母様、どうか...どうかこの恩人様にご加護を...。

 




「...なんか、エレーナに良からぬ虫が付いている気がする。」

「だから言ったではないですか胡堂主。機会を逃すくらいなら、いっそのこと鶯様のお礼を使って一発ヤッてしまった方が手っ取り早いと。」

「...貴女、本当に渡し守?」

「流石ですね。エレーナ様がいらっしゃらなければ己の欲望を暴かれても平気とは。エレーナ様が璃月に居た頃はあんなに取り乱していたというのに...。」







「減給」







「ぇ.....。」

「減給」

「...。」
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