おいタルタル、追ってくるな   作:飲み会後の味噌汁

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ver4.0の公式PVで心臓ないなった.....。c


戦慄

この日、璃月は近年稀に見るほどの大雨に見舞われていた。そこかしこに覆い茂っている草木を雨水が滑り、地面に落下し水音を奏でている。

 

「はぁ...エレーナ遅いなぁ...。」

 

その少女はとある友人を待っていた。しかし、時刻はもう日付の境界を越えようとしているというのに、少女の友人は未だに現れる気配はない。約束した時間を大幅に超えており、流石の少女も友人の安否が気になりかけていた。外では大雨が降りしきっているため、間違えて崖先で足を滑らせようものなら一溜まりもないだろう。その上、最近では魔物の活動がかなり活発になっているという噂がまことしやかに囁かれている。

もしそんな状況で友人が窮地に陥ったら.....

 

「っぱ探しに...」バンッッ!!!「うわぁ!!」

 

堪えきれずに友人を探しに行こうとしたとき、扉が勢いよく開かれた。そこには件の友人が佇んでいた。

背丈は140cmほどで、黒く大きな外套を見に纏った不気味な姿をしている。手には剣を持っており、刃こぼれの具合から先ほどまで激しい戦闘があったことが伺えた。息も上がっており、よく見ると全身から血が滲んでいた。黒色の外套では隠しきれないほどに。

しかし少女は苦悶の表情を浮かべたり呻いたりすることもなく、さもその怪我が日常の一種であるかのような淡々とした様子で中に入ってきた。

そんな怪我だらけの小柄な少女に対し、先ほどまでソワソワと落ち着かない様子で人を待っていた少女は驚いた様子で詰め寄った。

 

「ちょっ!エレーナ!!ひどい傷じゃん!!なにが..」

 

「別に、厄介な魔物に遭遇しただけ。傷もまぁ...その内治るよ。そんなことより約束の時間に間に合わなかった、ごめん。」

 

慌てる少女--胡桃(フータオ)--とは対照的に、傷だらけの友人--(エレーナ)--は淡々と返答した。

まるで自分自身の体を道具としてしか認識していないようだった。そんなエレーナの態度に胡桃は思わず声を荒げて無理やりにでも手当てを行おうと詰め寄る。今の胡桃を璃月の人間が見れば大層驚くことだろう。何故なら胡桃は璃月ではもっぱらの変人として有名であり、よく言えば自由奔放、悪く言えば自分勝手な性格をしている...ように見えている。そのため、彼女が何かを茶化す素振りを見せずに心の底から狼狽している現在の様子は普段の胡桃からは想像できないものなのだ。

 

しかし、そんな胡桃の慌てように呆れるようにエレーナはうんざりとした表情を浮かべている。

 

「なんでこんなに無茶するの!?あちこちから血流して...死にたいの!?」

 

「別に自殺願望なんてないよ。何回も言ってるでしょ?私って弱いから、身を削って戦うしかないんだよ。」

 

「そういうことじゃ....!!!!」

 

「? 何怒ってるの?」

 

「.....」

 

胡桃とエレーナの会話は絶妙に噛み合っていない。大怪我を負って部屋に入ってきた親友とそれを心配する少女の間には、根本的な"命"への考え方が異なるのだ。

 

「で、今日はなんの用?できるだけ璃月の街中に居たくないんだけど...」

 

「...会ってもらいたい人がいるの。」

 

「...?会ってもらいたい人?」

 

エレーナはとても嫌な予感を感じた。今すぐここから離れろと全身が警鐘を鳴らしている。あの胡桃が"わざわざ時間と場所を設けている"時点で怪しいというのに、人に会って欲しいというのだから。

 

それが善意から来たのかどうかはエレーナにはわからない。しかし、良くないことが起きようとしていることは理解できた。そして部屋に入る前から感じていた"胡桃以外の者の気配"についても、おおかたの予想がついた。しかしその予感に確信はなく、胡桃の面子を立てるという考えを優先してしまいこの部屋へとまんまと入ってしまった。だが胡桃の発言を受けてエレーナの考えは固まった。

すぐに逃げなければならない。

 

「私もう帰るね、ごめん.....。また埋め合わせはいt「もう帰ってしまうのか?」....」

 

踵を返して帰ろうとしたエレーナを"男の声"が呼び止めた。間違いなく人間の発する肉声そのものだが、どこか人間離れした雰囲気を感じさせた。

背丈は高く髪も長い。身なりもそれなりに上等な素材を用いているのが見てわかった。

そして何よりも印象に残ったのは....その男の目だった。どこか宝石のようにも見えるその菱形の瞳は、とても普通の人間のようには見えなかった。

 

「突然すまない。俺は往生堂の客卿をやっている"鍾離"という者だ。」

 

「( ...! こいつが噂の!? )...それはどうも。お噂はかねがね...。」

 

「そう畏る必要はない。貴女は堂主に招かれた客人だからな、遠慮することはない。...ところで、立ったままというのも疲れるだろう?席に座って共に語らうとしよう。」

 

エレーナは男の所作全てに警戒していた。男の漏れ出す程の気配を有しながらも具体的な位置は悟らせない気の操り方は、常人にはとても真似できない芸当だ。そのような性質はまるで...."人ならざる者"のようだった。

 

「お誘いいただいて大変恐縮なのですが、この後私用がありまして....。それに胡桃も客卿様も普段の業務でお疲れではありませんか?ここはお二人でゆっくりされてはいかがでしょうか。」

 

「ふむ...しかし堂主の客人を無下にするのも憚られる。少しゆっくりしていってはどうだろうか?」

 

「いえ....どうしても外せない用事なので...。」

 

エレーナは内心で舌打ちをしていた。目の前の男が往生堂の客卿であるという事が真実であった場合、彼は自分にとって"顔を合わせたくない人間"の内の一人ということになる。だというのに男はエレーナをしつこく呼び止めてくる。

 

「...そうか、残念だが仕方ない。引き留めてしまってすまない。」

 

「いえ...ではこれで」

 

エレーナは一刻でも早くその場を離れたかった。用事があるなどと真っ赤な嘘を吐いてしまったが、目の前の男と関わり続けることになるよりも幾分かマシだろう。誘ってくれた胡桃に罪悪感を感じつつも、部屋を出るために扉に手をかけた。すると...

 

「別れる前に一つだけ聞いても良いだろうか。」

 

「なんでしょうか?」

 

嫌な予感は的中することになる。

 

 

 

 

「君と『公子』は知り合いなのか?」

 

 

 

 

エレーナは男の首目掛けて刃を振り抜いていた。比較的近い位置にいた胡桃でさえも反応できなかった...それほど異常な速度で斬り込んでいた。

 

「鍾離さんッ!!」

 

...がその刃が血肉に触れることはなく、あろうことか男の首元でぴたりと停止していた。驚くことにまるで見えない頑丈な壁に阻まれているかのようであった。男の様子を確認すると、髪の末端と瞳がわずかに黄金色に輝いているように見えた。エレーナは攻撃を防がれた事実と目の前の男の異様さに慄き、その場から大きく飛び退いてすぐさま思考を巡らせた。

 

「(やはり往生堂の客卿が『ファデュイ』と繋がっているというのは本当だったのか....!!!しかもよりにもよって『公子』の名前が飛び出てくるなんて....)結局貴方達も伏兵だったってわけだね...!」

 

「待って!落ち着いてよエレーナ!別に私たちは敵じゃ」

 

「黙れッ!その男も私を貶めるためにここに呼んだんでしょ!?『公子』の依頼を受けて私を始末するために!」

 

「それについては私だって初耳だよ!ねぇ鍾離先生!さっきの話は一体どういうこと!?私はただエレーナが少しでも考えを変えてくれるように、鍾離先生にも説得してもらう手筈だったのに!?」

 

胡桃にとっても、目の前で起こっている出来事は想定外であった。どこか生き急いでいるような生き方をする大切な友人に、その考え方を改めてもらうために男を助太刀として呼んだというのに、あろうことか友人とその男が対立してしまった。友人は聞いたこともないほど苛烈な言葉遣いでこちらを問いただしており、その目には悍ましいほどの殺気が込められていた。

 

胡桃は驚愕した。確かにエレーナは無気力であり言葉遣いも遠慮がない。時たま流れるように辛辣な言葉を放つこともあった。しかし、少なくとも"敵意"や"害意"などは全く表面に出さない子でもあった。自分自身のことは全く気にかけないというのに、身内のこととなると自分自身のこと以上に気にかけ、無償で助ける。時には笑顔を見せることさえあった。そんな彼女が誰かに殺意を向けて、あまつさえ本気で斬りかかるなど、想像も出来なかったのだ。

それとは対照的に男は非常に落ち着いており、ただエレーナのことを観察しているようであった。まるで他の誰かと照らし合わせているような気さえした。そして何かしら合点がいったのか、男が何か話そうと口を開かんとするその瞬間、エレーナは突如動き出した。

 

「ッッ!!」

 

「あ、ちょ..まって!!!」

 

エレーナは胡桃の声を尻目に、目にも止まらぬ速さで部屋から逃げ出した。部屋に残ったのは呆然とする胡桃と未だに思考に耽っている鍾離のみであった.......。

 

 

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しばらくすると胡桃は鍾離に問いただした。なぜエレーナが鍾離のことを異常に警戒していたのか。なぜ『公子』の話が出てきたのか。そして、なぜエレーナは『公子』のことが話題に上がった瞬間、鍾離に斬りかかったのか....。

 

そもそも鍾離が胡桃との約束を反故にしてエレーナの懐を探るような言動をしたこと自体非難するべきことではあるが、胡桃はそうはしなかった。胡桃にとって、「鍾離という男は信頼に足る人物であり、意味もなく往生堂の現堂主の依頼を破るわけがない」と確信しているからこそ、この場においては行動の真意を真摯に問いただすことにしたのだ。何より、何が起きているのかをすぐにでも理解したかったのかもしれない。

 

そんな胡桃の様子を察したのか、鍾離は目を合わせゆっくりと話し始めた。しかしその内容は驚くべきことであり、例え鍾離の口から語られているとはいえ、にわかには信じられないものであった。

 

「...まず、何故『公子』の話をしたのか。何故彼女が『公子』という名を聞いた瞬間様相が変わったのか。これらについて話そう。...恐らくだが、彼女と『公子』は血縁関係の兄妹である可能性が高い。俺は以前より『公子』から行方不明の家族がいることを耳にしていてな....『見かけたら教えて欲しい』という依頼を受けていた。だが、璃月を探し回っても特徴の合致する少女が見つからなかった.....。見つけられるのはかなり先の機会になると考えていた。

しかし、ある時を境に手がかりを掴むことができた。そう、堂主が"彼女"の話をした時だ。エレーナという名前も、髪色も、目の色も『公子』から聞いていた特徴と一致していた...。」

 

「...」

 

胡桃にとっては信じられないことであった。エレーナがファデュイの執行官の肉親であり、それを自分には隠して生活していた....。それはつまり『エレーナにとっては胡桃も警戒の対象であった』ということだ。

 

「しかし妙な点もある。」

 

そうだ。もしエレーナが『公子』と血の繋がった家族であり、その『公子』から身を隠しているのであれば、なぜ.....

 

「なんで偽名を使わなかったの...?」

 

もしエレーナが肉親である『公子』から本気で逃げているのであれば、それまで名乗っていた名前など使わないはずなのだ。

 

しかし『公子』から情報を受けた鍾離が名前やその他の特徴で特定できたということは、エレーナは名前・性別・髪色などを一切偽装することなく過ごしたことになる。これではエレーナが逃亡生活をしているという事実に矛盾が発生してしまうのだ。

 

「...相応の理由があるのか、それとも"そうできない"理由があるのかもしれない。いずれにせよ、もう少し様子を見てみるしか.........堂主?」

 

「..........。」

 

胡桃は....まだ目の前の事態を受け入れられなかった....。




くもれ
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