おいタルタル、追ってくるな   作:飲み会後の味噌汁

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Q.最後に投稿したのはいつだっけ

A.今年の1月末です






はい、というわけで初投稿です()


同盟?

 

閉じた瞼の隙間から差し込んで来る陽の光が煩わしくて、たまらず目を開ける。

 

唐突に広がる光を受けきれず、しばらくの間、視界がぼやける。

 

少しずつ目が慣れてきて自分がどこにいるのかを理解し始める。

 

 

目に入って来た情報は、前世の記憶の中でふさぎ込んでいた記憶を呼び起こした。

 

 

「和室・・・?」

 

 

桑色の畳や年季の入った襖は、どこか懐かしい気分を呼び起こす。---かつての前世の記憶が呼び起こされるようだ。

 

襖の奥から入り込んでいる陽の光は部屋中を照らしていて、宙に舞う埃たちの姿を露わにしている。

 

こんなにも明るいということは、今は昼頃なのだろう。天気の良い晴れ空からの光を浴びながら、静かな和室で横になれば熟睡してしまっても仕方ないだろう。---そう思いながら、私は自身を包む掛布団を退かした。

 

 

「どれくらい経ったの・・・?」

 

 

真っ先にそう思った。

 

ここがどこか、ということよりも、まず己が浪費した掛け替えのない時間を推し量ろうとした。

 

鎮守の森で彷徨った時から今に至るまで、一体どれほどの時間が経過したのかを知る術を持たない私は、痛む肉体に鞭を打ちながら身体を起こした。物語は既に始まっているかもしれないというのに、呆けてなどいられないのだ。

 

 

璃月を出発した旅人が次に訪れる国である稲妻では、非常に混沌とした嵐が巻き起こっている。

 

腐敗した幕府のお偉方に、そこに付け入ろうとする余所者、そして自らの精神世界に引き篭もる神・・・こんな滅茶苦茶な状況では、何時(いつ)戦況が変化してもおかしくない。

 

もし仮に、既に旅人たちが稲妻に来ているのなら、もう物語が動き始めている可能性が高い。そうなれば、私がこの国の手綱を握ることは不可能になるだろう。

 

いかに物語の筋書きを知っているとはいえ、様々な勢力が入り乱れる国の行く末をコントロールするのは至難の業だ。

 

そうなるのは避けたい。

 

つい最近、璃月の物語の筋書きをかき乱した張本人が何を言っているのかと思われるかもしれないが・・・。

 

しかし、私の問いに答えてくれる者はいなかった。

 

 

返って来たのは静寂と、鈍い痛みだけ---。

 

 

ギチィ・・・

 

 

「ぎッ!?・・・ったぃ。」

 

 

無理が祟ったのだろうか。これまで安静を保っていた肉体の急激な活動の開始を受けて、身体中の組織が悲鳴を上げている。軋み、張りつめ、音を上げているようだ。己の無力さを突き付けられているようで虫唾が走る。まるで『お前はもうここまでだ』とでも言いたいのだろうか。

 

---いや、まだ物語の軌道を修正することは可能な筈だ。

 

稲妻は所謂『島国』だ。周囲を広大な海に囲われており、且つ海全体を雷雲が覆っている。

 

つまるところ、他の国とは完全に隔絶された空間に他ならない。これすなわち、不確定要素の来襲が極めて起こり難いとも言える。

 

そう、まだ軌道修正は可能なのだ。幸い、私を見た奴ら(ファデュイ)は潰した。

 

今、この国において私の襲来を知る存在はいないと言っていいだろう。・・・一人を除いて。

 

 

「(そう、そうだったっ・・・()()に見られたんだった)」

 

 

思い出した。

 

鎮守の森の出入り口に縋り付いたあの瞬間、煩わしいファデュイ達を蹴散らしたのは、()()を助けるためであった。

 

最も、あの時は()()が誰であるかは気にも留めていなかったが・・・兎も角、結果的に私はこの国の物語における主要人物に存在を晒してしまったのだ。それを今、思い出した。極度の疲労と暖かな日差しに思考が浮ついていたが、少しずつ脳が冷えていくにつれて状況を理解していく。

 

もう、見られたのだ。

 

この時点で本来の筋書きから外れてしまった。もう軌道修正は困難だ。

 

失敗した。

 

あくまでも陰から物事を謀るつもりだったというのに、気が付けば私は物語の壇上に立たされている。

 

そして、偶然にも他のキャストに認知されてしまったのだ。

 

本当に面倒なことになった。外来者の存在が認知された以上、この国の神が排除しに来る可能性も生まれると同義だ。

 

---この国を取り仕切る神は『雷神-バアルゼブル-』と呼ばれる魔神だ。

 

彼女はこのテイワット大陸における武を極めた超人であり、それ故に一国を治めることを良しとしている。彼女の一太刀はとある小島を"蛇神"ごと両断したと言われている。恐ろしいことこの上ない。まともに対峙すればまず殺されるだろう。

 

 

「・・・尻尾を巻いて逃げるなんて冗談じゃない。稲妻(ここ)でしか得られない情報を掴むまでは、絶対に逃げるわけにはいかない。」

 

 

私が稲妻で成すべきことはいくつかあるが、その中でも特に優先度の高いものが『深淵(アビス)』の正体を暴くことだ。

 

大昔のこと、テイワット全土に深淵(アビス)の怪物が蔓延った時代があった。その中でもこの稲妻では特に厳しい戦火が迸ったと言われている。

 

この稲妻には、深淵(アビス)の怪物という存在が、忌まわしき記憶という形で地脈にこびり付いている・・・この国でなら深淵(アビス)の怪物が一体何者なのかを知ることが出来るかもしれないのだ。だからこそ、こんな序盤で退場するわけにはいかない。タルタリヤ()をあのようにした元凶を、その正体を突き止めずに死ぬなど、考えられない。

 

目的はブレていない。そして、次の行動も決まった。

 

 

「(神里綾華(目撃者)を味方に付けなければッ。)」

 

 

まずは地盤を固めることにした。まずは現地の人間である神里綾華を懐柔して味方に付ける。そのあとは旅人の動向を窺いつつ・・・()()()()()()()()()()()

 

倫理感など捨てた。

 

今更誰かを騙すことに抵抗なんてない。

 

それが人であろうと神であろうと。

 

それに、例え友好的な態度で雷神に接したとしても、彼女は躊躇いなくこちらの息の根を止めようとするだろう。

 

私は肉体の内に、深淵(アビス)の力を宿している。

 

かつて稲妻を蹂躙した忌まわしき怪物たちと同じ死臭を良しとしている・・・そんな存在が白旗を振りながら近寄ってきた場合、雷神がどのような行動に出るのか・・・考えなくとも分かることだ。

 

初めから友好の道などない。世界の真理を解き明かそうとしている以上、この国の神は必ず私にとって障壁となる運命なのだ。

 

 

「・・・ハハッ、神と接触するために神里家を利用しようなんて・・・これじゃ誰が怪物が分かんないな。」

 

 

自嘲するように笑った。その顔には笑みが浮かんでいたが、目に光はなかった。およそ生者のそれではない眼は己の居る部屋を再び見渡した後、少しだけため息をついて布団から出た。

 

筋肉が軋む音がしたが、無視した。身体の悲鳴など聞き慣れた。

 

今となっては、もはや子守歌に等しい。

 

身体中に巻かれた包帯が鬱陶しいが、怪我人としての体裁を利用するために、敢えて巻いたままにしておく。宙に舞っている埃を吸い込みながら、襖に手をかける。

 

スウゥ・・・とスムーズに襖は開いた。

 

襖の底に塵が溜まっていないのか、本当にするりと開いた。

 

この家は、かなり熱心に清掃が為されているのだろう。流石は神里家のお嬢様、お家の管理も一級品だ。思えば、私が着ている衣服も随分と上等な物のようだ。比較的簡素な湯帷子のようだが、それでもかなり質の良い布地であることが分かる。肌に良く馴染む感触は、怪我人にとってはかなり有難い。

 

 

「廊下も・・・なんて言うか、(みやび)だね。」

 

 

部屋を出て廊下を歩き始めた私は思わず感嘆のため息を吐く。素足のまま廊下へと出て、ぺたぺたと足音を鳴らしながら進む。冷たい感触が足裏を擽る。肌に馴染むような感覚がする。かつて、前世での親しみ深い感覚に酔いしれる。

 

 

「こりゃ日本(故郷)がモチーフになっているのも納得だね。この懐かしい感覚は・・・()()()って感じだ。」

 

 

ただただ、静寂が轟いている。歩みを進める以外の物音が一切しない。まるでこの世界には私しか存在しないみたいだった。不自然な程に静かな空間に怖気が走る。同時に実家のような安心感を覚えている。

 

敢えて足裏を強めに床を這わせてみるが、つぅぅ...という静かな音しか鳴らない。よく掃除されているのだろう。木材のささくれも一切ないようだった。

 

 

「人気がない、誰もいないのかな。」

 

 

そう思ってから、すぐにその考えを改めた。

 

のどかな陽の光に当てられて呑気になっていた己の未熟さを恥じた。

 

テイワットという修羅道を歩んできた彼女にとって、稲妻の建築物であっても安らぎを与えることは出来ないようだ。

 

それに加えて、彼女の愛剣である双剣も見当たらない。それが示すことは『この家の主はエレーナという少女を警戒している』ということだ。

 

そうでなければ怪我人の持ち物を勝手に没収するわけがない。もしそうでないのだとしたら、余程の腕を持つ宝盗団の構成員かもしれないが、その場合は容赦なく切り捨てるのみだ。己を助けた人間を切るべきか否かを判断すべく、廊下を進んだ。

 

木造の平家にしてはヤケに広い廊下を歩き始めて十数秒してから、やがて別の襖が目に入ってきた。

 

これまでとは違う、どこか物々しい雰囲気を放っている。襖の奥に何者かがいる・・・候補となり得る人間は幾つかいる。神里家の長男か長女、或いはその家来だろうか。いや、もしくは別の誰かか?

 

・・・いくら考えたところ答えは分からない、意を決して謁見するしかない。

 

 

「クソッ、これだから後手に回るのは嫌なんだ。」

 

 

苛立ちながら襖に手をかけた。

 

武器がない以上、出来ることはそう多くない。・・・いや、正確に言えば暴力に訴えかけること自体は可能であろう。

 

だが、度重なる戦闘により開いた傷口を放置したまま、また新たな火鍋に飛び込むことは自殺行為に等しい。それは私も理解していた。実質的に残された選択肢は一つだけだ。

 

己を手当てした人間が誰なのかという好奇心と共に"その部屋"へと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---その部屋には、"美しい少女"がいた。

 

 

 

白く綺麗な長髪を頭頂部で結んで、一束になったそれを丁寧に床に流している。

 

微かに差している陽の光が少女の顔面を照らしている。その少女の肌はまるで白粉で塗ったかのようなきめ細やかさを誇っているが、その色は歴とした肌色だ。

 

まるで、河の畔で羽休めをする美しい白鷺が鎮座しているかのようだった。

 

あまりに整っている容姿に唖然としてしまう。物語の中で『美しい』と称されていた神里家のお嬢様なのだから、さぞ人間離れした容姿を持っているのだと思っていた。だが、実際に見るのとではわけが違う。

 

私は数瞬だけ固まった後、すぐに正気を取り戻した。

 

一方、美しい少女は私の来訪に気が付くとその整った顔を向けて笑顔で歓迎の意を表した。

 

 

「よかった、気が付かれたのですね。」

 

 

ほっと安心したように息を吐いた美しい少女は、それまでしゃんとしていた正座を解いたかと思うと、一目散に私の下まで歩いてきた。

 

その間、ほんの少しの歩みでさえも喧しい足音は一切起こらなかった。古来の日本人はすり足にて家内を歩く習慣があったと言うが、この少女のそれは一段と軽やかで静かなものだったと言える。

 

呆然とした表情を何とか取り繕い、平静のまま礼を返す。

 

 

「・・・どうやら、危ない所を助けていただいたようで。本当に感謝してもしきれません。」

 

 

何かを言われる前に頭を下げた私に、目の前のお嬢様は慌てて言葉を返した。

 

 

「あ、頭を上げてください!?むしろ助けていただいたのは(わたくし)の方なのですから!」

 

 

予想通り、この少女は恩を重んじる善人であるようだった。

 

 

「・・・恩人にそう言われては仕方ありませんね。」

 

 

内心ほくそ笑みながら、私は顔を上げて彼女の表情を見る。

 

 

「で、ですから恩を感じているのは(わたくし)の方で・・・。」

 

「(・・・よし、()()()()())」

 

 

内心で拳を握って歓喜の声を上げた。

 

無論、表情には出さないように努めながら、だが。

 

私の企み - 高貴な身分に恩を売る - という策は問題なく収穫を得たらしい。

 

テイワットという殺伐とした世界を生きてきた少女にとって、初対面の人間は警戒して然るべきであり、むしろ己の利益のために陥れるのが定石であるとまで考えていた。たとえ相手が、善人であると知っていても。

 

そんな私の思惑などつゆ知らず、件のお嬢様は動揺を抑えて静かな抑揚で自己紹介をした。

 

 

「申し訳ございません、自己紹介がまだでしたね。・・・(わたくし)は神里綾華と申します。普段は神里家の長女として・・・あっ。」

 

「ん?」

 

 

自己紹介の途中で綾華は言葉を詰まらせた。不意に何かを思い出したかのような素振りを見せたかと思うと、少し気まずそうにした。これは少し意外だった。綾華は礼節を重んじるお嬢様ではあるものの、応用の利かない堅物であるわけでもない。

 

社奉行の人間である彼女は、その可愛い顔には似合わず、意外にも強かで容赦のない一面も持っている。

 

ゆえに、少々のことでは動揺を表に出すことはない筈だ。

 

そんな彼女が恩人である私への自己紹介を詰まらせたというのは、小さな事件だった。何事だろうかと身構えている私に、綾華は根本的な疑問を投げかけた。

 

 

「そういえば、そもそもここがどこか、というのはご認識されているのでしょうか?」

 

「ああ、なるほど・・・。」

 

 

彼女が言葉を詰まらせたのにも合点がいった。

 

それもそうだ。

 

お嬢様からして見れば、私は不審な格好をした見知らぬ人間なのだ。

 

加えて、唐突に戦闘に参加したかと思えば、傷だらけの肉体を晒して気を失って倒れたときた。---そんな人間が己の置かれた現状を正しく把握しているとは思えない。きっと誰でも同じように考えるだろう。

 

謎の力を使い、他国の戦闘員を躊躇いなく()()なんてこと、そうそう出来ることではない。それを見知らぬ異邦人がやってのけたのだから、警戒するのが当然だろう。

 

・・・とは言ってもこの場合は、綾華は『純粋な心配』をしてくれているのだろう。であれば特に問題はない。

 

むしろ、勝手に『この人は善人である』という色眼鏡を掛けてくれているのだから、その誤解を解く必要などない。故に綾華の認識には訂正を入れずに会話を続けることにした。

 

 

「そうですね。まずここが何処か、というのははっきり認識していますよ。かの雷神が治める永遠の国『稲妻』は、テイワット全土では有名ですからね。」

 

「・・・。」

 

 

敢えて開口一番に『雷神』の名を出した。

 

すると綾華は口を噤んだ。

 

・・・さて、ここからが本題だ。

 

綾華は丁寧な物腰はそのままで、しっかりと私を見据えながら訊ねた。

 

 

「有名、ですか。」

 

「ええ。恐らく『目狩り令』の影響ですね。無論、鎖国に関する指令もまた無関係ではありませんが、一番の影響は『目狩り令』(これ)です。何せ、人々の生活に根差した『神の目』を没収してしまおうだなんて・・・他の七神では考えられない暴挙ですからね。」

 

「やはり・・・。」

 

「その様子を見るに、お嬢様も稲妻の現状についてある程度は把握しているようですね。」

 

 

私が畏まった口調で彼女に感嘆の意を示した。無論、ただの芝居に過ぎないが。

 

 

私とて、綾華が稲妻の状態を憂いているのは知っていた。

 

物語においても、彼女は外界で栄誉を轟かせていた旅人を取り込むべく、間接的に稲妻へとおびき寄せたと言ってもいい人物なのだ。顔と態度があまりに良いせいであまり取りざたされていないが、綾華の謀り事に関する有能ぶりは、彼女のお兄様にも敗けていないだろう。

 

故に、このお嬢様は私が言わんとしていることを薄々理解しているだろう。少なくとも、私はそう思った。

 

機を逃さないように、本題へと切り込むことにした。

 

 

「私に助けて欲しいですか?社奉行の御令嬢。」

 

「・・・何を、言って・・・?」

 

「惚けるのですか?まぁ、それもいいですが・・・ああ、それとも既に助っ人の目途は立っているのでしょうか。例えば『例の旅人』とか。」

 

「なッ!?」

 

 

そう言った瞬間、綾華は"図星を突かれました"とでも言っているような表情になり、身体を強張らせた。額に脂汗が滲んでは落ちていく。眉間の皺は少しだけ深くなってこちらを力強く睨んでいる。お嬢様にしては凄まじい凄みだが、生憎と私にとってはそよ風に過ぎない。既に形勢は整ったのだから。

 

綾華は声を荒げて問い詰めてきた。

 

 

「貴女がどうして彼女たちのことを・・・!?」

 

「その口ぶりから察するに、()()()()()()()()ようですね。・・・とすると、なんでファデュイの要求を呑む一歩手前まで行っていたんだ?意味が分からない・・・旅人の協力があればファデュイの助力なんて必要ないだろうに。

 

 

新たな疑問が浮かんだ瞬間だった。

 

そう、考えれてみればおかしな話だ。

 

このお嬢様は何故、鎮守の森の外れに一人で訪れていたのだろうか。

 

待ち人はほぼ間違いなくあのファデュイらであることは間違いないだろうが、奴らの提案を綾華が了承するとは考え難い。だとすると、()()()()()()()()()()()()()()のか?

 

 

「(まさか、もう()()()()()()()()()()()()()()?・・・いや、まさかそんな筈は。)」

 

 

嫌な予感が脳裏を走る。

 

先走る感情を抑えながらも、なんとか乾いた唇を動かして言葉を紡いだ。

 

 

「・・・因みに、参考までにお聞きしたいのですが。」

 

「え、ええ。なんでしょうか。」

 

 

己の心中に沸いた憂いを払拭するために質問を始めた。

 

 

「貴女は、既に旅人たちに会っていますよね?そして、彼女たちに協力を仰いでいる。」

 

「はい、そうですが・・・何でしょうか、この質問は。」

 

 

唐突に始まった尋問じみた問いかけに困惑を示すお嬢様だったが、私はそれに答えることなく質問を続けた。

 

 

「そして、この国の神である将軍様は次々に『神の目』を回収していると。」

 

 

稲妻(この国)の現状を一つずつ確かめる。

 

そのために、まずはこの国の神の動向から固める必要があった。それ故の質問だった。

 

 

「え、ええ。その通りで・・・あ、申し訳ありません、その点については()()()()()()()()

 

「え?」

 

 

予想だにしていない返答に戸惑いを隠せなかった。思わず間抜けな吃音を漏らしたが、綾華は不思議そうに続けた。

 

 

「正しくは()()()()()()()によって民の『神の目』が徴収されておりまして--。」

 

 

わざわざそのような言い方をするということは、『雷神』は『目狩り』において直接赴くようなことはないということだろうか。

 

 

「それじゃあ、肝心の神様は何をしているんですか?」

 

「その、何といえばいいのか・・・()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

「 は ? 」

 

 

 

 

 

つい、怒気を含んだ声を漏らしてしまった。

 

 

 

いない、いない?

 

 

 

いない・・・なんで?

 

 

 

意味が分からない。膨らんでいく動揺を隠せない。

 

かの雷神『バアルゼブル』は、片割れである『バアル』を喪ったことで永遠をより追及することになる。それにより雷電将軍の()()を作成し、現世においては一心浄土へとその身を投じることになる。・・・その筈なのだ。

 

その筈なのに・・・雷神様は行方を暗ましている、と?

 

どういうことなのだろうか。作中においては『七神は俗世の統治を一任された存在』であるとされている。だと言うのに、この国の神様はその姿を完全に消してどこかに隠居でもしていると?

 

『目狩令』なんてふざけた横暴を押し通しておきながら、自らは人目のない場所に隠れたとでも言うのだろうか?なんてことだ。今ならダインスレイヴ(枝を拾う者)神を憎む心情(エゴ)に深い理解を示せる気さえする。

 

 

「・・・。」

 

「・・・どうされたのですか?先ほどから、その・・・随分と険しいお顔をしてらっしゃいますが。」

 

 

綾華がそう聞いてくる。不安そうな表情には少しの怯えが見える。常人であれば感じ取れない程度の微弱な動揺だったが、私は彼女の憂いを容易く読み取った。

 

そして、同時に己の未熟を恥じた。年端もいかない幼気な令嬢に気を遣わせるなど、あまりにお粗末であった。私とて肉体年齢は綾華とはそう変わらないが、精神の年季で言えばその限りではない。そも、そのようなことは綾華は知る由もないわけだが。

 

とはいえ、一人の成人者として礼儀を尽くすことを決めた。いずれにせよ、ここで暴れても古傷が開くだけだと理解していたからだ。それに、私とて綾華を困らせたいわけではない。

 

 

「失礼しました。あまりにびっくりしたものでから、()()()()呆けてしまいました。」

 

「す、少し・・・?」

 

「ええ、少しだけ。」

 

 

怒気を放ったことくらいは綾華も察しているだろうが、ここは無理にでも誤魔化すことにした。

 

少なくとも、この会話の主導権を握っているのはこちらであることは変わっていない。そのまま押し通すことなど容易かった。不自然な態度故に綾華からの信頼を損なう可能性があったが、綾華の立場は『外国人に助けを求める奉行の人間』というものだ。

 

そして助力を施すのは私である。

 

つまり、あくまでも綾華は()()()()()()()()にある。

 

最低限の礼儀こそ尽くすが、私は綾華を利用するつもり満々だ。

 

とはいえ、これではまるで・・・

 

 

「(これじゃあ、国民を放ってどこかに行った『雷神』と変わらないな・・・。自分の都合を押し通して周囲を巻き込むなんてね。)」

 

 

自嘲的な笑いが漏れた。

 

口角は上げないようにし、吐く息は音を出さずに放出した。己の狼狽を必死に隠しながら、綾華に向き直る。

 

 

「仕切りなおしましょう、お嬢様。再度問います・・・助力は必要ですか『白鷺の姫君』。」

 

 

敢えて仰々しい口調で改めて問う。

 

すると綾華は落ち着いた様子で私の眼を覗くように見据えて問いを返した。

 

 

「何が目的ですか。」

 

 

エレーナとて話の腰を折るのは本意ではないので、内情は伏せつつも理由を語ることにした。

 

 

「私は『雷神』様への謁見を叶えたいのです。理由は言えません。・・・で、お嬢様は稲妻に住まう民草の憂いを払いたい、そうですね?」

 

「・・・はい。」

 

 

『雷神』の力は計り知れない。

 

作中でも彼女の戦闘描写はかなりかなり少ないため、彼女の神としての実力はほとんど未知数に近しい。

 

 

「そこで、です。私の『雷神』探しの旅に助力をしてください。その見返りとして、私はお嬢様の稲妻復興のお手伝いを致しましょう。」

 

 

所謂、利害の一致による協力関係の申し出だ。

 

窮地に瀕している彼女はこの誘いを断れない。猫の手も借りたいような逼迫した状況において、ここで仮にも恩人である人間の意思を無下にするという選択は取れないだろう。

 

とはいえ、私とて断られることも想定していた。何せ、本来の物語の筋書きでは旅人たちの協力さえあれば万事上手く行っていたのだから。・・・勿論、その最中で逝ってしまった者達は数えきれないだろうが。

 

兎も角、本来ならば私の助力などなくとも解決の糸口は存在していたのだ。

 

だが、先ほどの問答によってその認識を改めた。

 

それこそが()()()()だ。

 

喉が詰まるほどの圧政を強いる将軍の姿が見えない、なんて話は筋書きにはなかったことだ。だが、『目狩り令』といった暴挙は変わらず存在しているときた。つまるところ、予想よりも状況が悪いのだ。

 

これでは、如何に旅人がいるとしても状況を好転させるのは中々厳しいだろう。何せ、当の本人である神が行方をどこか暗ましているのだから。問い詰めようにも問い詰められないのだ。

 

であるのならば、旅人という助力に加えて、また別の糸口が必要になるというものだろう。そう考えての提案だった。

 

すると綾華は少しだけ間を開けてからぽつりと応えた。

 

 

「・・・なるほど、今認識を改めました。」

 

「と、言うと?」

 

 

彼女の眼つきは少しだけ鋭くなっていた。

 

 

()()が本性ですね?」

 

 

姫君の気に障ってしまったのだろう。怒気の籠った声が私を貫く。今、この瞬間、目の前の少女は『社奉行』の人間として意識を切り替えたのだろう。

 

無理もない。ここまであからさまに煽ってしまったツケだ。もう彼女からの善意には期待できない。代わりに彼女を徹底的に利用させてもらうことにしよう。

 

 

---大丈夫、嫌われるのは慣れている。

 

他人の目線を気にしてどっちつかずの状態でいたら、本当に大切な存在を疎かにしてしまうのだから。

 

だから、これでいいんだ。

 

私は敢えて嫌らしい笑みを携えて綾華に言葉を掛ける。

 

 

「これまで、貴女の『お兄様』は私のような狸と睨みあってきたようですが、貴女はこれが初めてのようですね。・・・政権争いとはこのようなやり取りが横行しているんですよ。ぜひ、協力ついでに私で学んでみるといいでしょう。

 

「・・・いいでしょう。契約は成立しました。ですが、どうか勝手な真似だけは慎むように。」

 

 

白鷺の鋭い牽制が私を突き刺した頃には、夕陽が地平線に沈みかけていた。まるで、これからの稲妻を暗示しているかのような不穏さを秘めている。先ほどまでは希望の温かみに包まれていた地上が、不安と言う名の暗黒に飲み込まれていく。

 

だが、陽が落ち込み、互いの瞳孔が見え難くなっても、綾華の警戒の眼差しが私から逸れることはなかった。

 




ナド・クライでカーンルイアの核心に迫るような情報がいくつも出てきて、パンクしてます。
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