side 神里綾華
エレーナが一心浄土に引き込まれてから、少し経った頃 -
誰かの話している声が聞こえる...そう遠くない場所で話している声が聞こえます。
「腑抜けていた姫様を木漏茶屋まで運ぶのは難儀だった。何せ、呼びかけても呻くばかりで仕様のなかったからな。屍と見違える所だった。」
「お、おいダイン言い過ぎだぞ!」
...
「フンッ、ようやく事態を飲み込めたようだな。」
「綾華、気分はどう?どこか痛むところとかはない?」
旅人さんとパイモンさん?どうしてここにいらっしゃるのですか。
「その、ちょっとややこしくて。端折って言うと、ここにいる...」
「俺のことは話さなくていい。実に不愉快だ。」
パイモンさんと旅人さんがいらっしゃるのは、まだ理解出来ます。しかし、貴方はどなたでしょうか。少なくとも
「ちょ、綾華も落ち着いて。ね?ダインもそこまで詰めなくてもいいなじゃないの。」
「そうだぞ!まぁ、こんな状況じゃあちょっと気持ちが沈むのもわかるけどさぁ...。でも、綾華だって頑張ってるんだぞ!稲妻の皆んなに聞いていく中でそれは十分分かったことだろ!」
パイモンさん。その、皆さんに聞いたとはどういうことですか。
「あ、しまった。」
「はぁ、パイモン?」
「違うんだ旅人ぉ〜!オイラだって気を付けてたけど、けど...皆んな綾華のこと、褒めちぎってたから。つい...。」
...
「いい加減、現実の話をするとしよう。」
...っ、
「俺と旅人たちはこの目で稲妻の現状を見てきたが、それは既に事態がある程度収まった後のことだ。件の魔物たちによる各地の乱が起こった時のことは、当事者であるお前の口から聞くのが早いだろう。」
暗に話せと言っているのでしょう。であれば是非もありません。元より
と言っても、そこまで難しい話でもないのです。唐突に魔物が活性化して稲妻を蝕んだ...それだけのことなのです。それだけならまだ対処のしようがありましたが、それまでに行われていた目狩りによって臣民の抵抗力が弱まっていたのと、肝心の将軍様の行方が知れなくなったのがいけなかった。戦力と在るべき指導者を同時に失った臣民が感じた絶望は計り知れません。
「...。」
これまでの
蝶よ花よと煽てられてその鼻柱を天へと伸ばしていた。
私が周りの方々にそう言うと、決まって否定し、代わりに
そんなことはないと言って私を励ますのです。『貴女は十分以上に我々の役に立ってくださっている』というのです。それが
無論、その方々が醜い人間であると言いたいのではありません。むしろ逆であるとすら感じています。
醜いと感じているのは、
他者からの賞賛を偽りだと誤認してしまうようになった私は、いつしか自分を信じることすら出来なくなりました。お母様が遺してくれた
最初は、ほんの些細な思い事でした。自分なりに邁進する日々の中、
彼らが居てくれるからこその私なのです。
---いえ、彼らだけではありません。社奉行が稲妻に生ける人々を律してるように、人々によって
しかし、そんな意義はもはやありません。
稲妻各地で起こった魔物による大乱は、まるで嘲笑うかのように人々の領域を踏み荒らしていきました。そこらに生っているスミレウリは更に濃い赤色に染まってしまい、本来の紫色をしたものはここ最近は見ることが出来ていません。
---人類はそれらを
歪な姿形を取り、その巨躯を以ってあらゆるものを吹き飛ばす。それは悪夢のような光景であり、同時にある種の神話体系の一種であるようにも見えました。
あまりの理不尽さゆえに、
その時、
それまで人々に感謝されていた
断っておきたいのですが、
そして、貴方はエレーナさんを助けることを選んだ。それは単に大事な家族であるのと同時に、何もしない自分の存在を認めたくなかったからではないですか。
「...家族などではない。」
え?
「俺と彼女は・・・そうだな、ただ似たような境遇に陥っただ同士であるというだけだ。俺と彼女の間に血縁関係などない。」
そうでしょうか。すみません、つい先走って勘違いをしてしまって。
しかし、全てが
貴方が彼女を語る時のお顔は...その表情はとても穏やかなものでした。少なくとも、ただの冒険者仲間の方に向けるような表情ではないと思います。そう言う
これは、
「それがお前の覚悟か。随分と若い姫だと聞いてはいたが、心配は無用だったようだな。ただ未だに解せないこともある。何故そこまで彼女に執着する。今のお前の説明で、お前自身に後悔の念があることは理解した。その重圧堪らぬ立場ゆえ、今回の稲妻の災厄を屠ることに意義を見出していることは実に結構だ。だが、それと彼女は直接の関係がない。いやむしろ部外者であるとすら言える。そんな小娘に命を掛ける価値があるのか。」
先ほど語った理由では弱いということですか。
「弱い、とまでは言うまい。だが足りん。お前は彼女に二度も命を救われたのと同時に、それを口実に半ば無理矢理協定を結ばされたそうだな。そもそも、それを抜きにしても彼女は異邦人、つまりは不法入国者だろう。秩序の瓦解した国であるとはいえ、一国を支える公的機関の重鎮が罪人の肩を持つのはいくらなんでもリスクが大きすぎる。不自然極まりない。お前の誠実さを以ってしても塗り替えられぬ程にな。」
「疑問はそれだけではない。---貴様、雷神からの勅命でエレーナを城下町へと連れ出したのだろう?彼女が雷神と敵対すると理解しておきながら、それを拒否しなかったわけだ。もっと分かりやすく言ってやろう。貴様はアイツを売った。そんな小娘が、今度は売られたアイツのために命を張るなどと言っても、ただ己の良心の呵責に耐えられなくなった自己保身の極みだと言わざるを得ない。...このようなことは貴様自信がよく知っていることだろう。」
「俺は、アイツが稲妻に転移...上陸する直前まで言葉を交わしていた。その時点で既にアイツは傷だらけで、立っていることすら出来ない状態だった。アイツは直後に姿を眩まし...かと思えばこうして見知らぬ地で誰とも知らぬ者のために躍起になって、殺されそうになっていた。その元凶の片棒を継いだ貴様が、なぜ、今更彼女を救うなどと世迷言を吐ける。」
...。
「答えろ。何がお前をそこまで駆り立てる。なぜ、最近会ったばかりの他人のためにそこまで命を張ろうと啖呵を切れる。」
...あの方は、あの
「何?」
初めて会った時のことを今でも思い出します。
後先のことを考えずにファデュイとの取引に応じようとした
「おかしな話だ。稲妻は鎖国体制を貫いていた、そしてお前の顔と名前も諸外国で見聞きする機会などそうない筈だろう。エレーナが港の門所で社奉行の人間からお前のことを聞いたとしても、死に体で意識もあやふやな状態で初対面の人間を意識するなど現実的ではない。...聞き間違いではないのか。」
そう仰るのも理解できます。しかし、彼女は確かにそう言ったのです。
「...。」
自分が死にそうな状態にあると言うのに、他人を助けることの出来る人間などそういません。まして、あんなにも
「では、どうする。」
「こうします。」
傍らに置いていた脇差を鞘から抜き、構える。
己の背後に揺れいてるであろう一房の白髪の束を根っこから掴んでから、携えた刀身でその根を刈り取った。
さり、と言う細やかな音が頭髪の離脱を知らせてくれた。髪を掴んだままの左手を前に持ってきて見ると、そこには立派に伸びた白鷺の髪束が有った。少女として美麗さを保つことなど捨てる。
これより先は、
「不貞腐れて何も行動しないのは、もう嫌なのです。」
side ダインスレイヴ
ーーようやく目付きが変わったか。手の掛かるお嬢様だ。自慢の髪を切る思い切りの良さには感服したが、覚悟を決めたと言うことか。
「これは
「髪を捨てたからと言って何かが変わるわけでもあるまい。肝心なのは行動だ。貴様がエレーナにしでかした仕打ちをどう介錯するつもりだ。」
「
「...何?」
大層な顔付きになったと思ったが、まさか死ぬつもりか此奴は。
「
「たとえ、この行いが讃頌されることがなくてもか?」
「はい」
「この戦いの後、罪人を匿った愚か者として民草から石を投げられるとしてもか。」
「それでも。いえ、だからこそ行くのです。」
「ここに腑抜けた醜女はもういません。神里綾華は恩人に仇を返してしまった罪を贖罪し、その方の安らぎを掴み取るために邁進して参ります。」
その気迫をもっと早く取り戻してもらいたいと言いたくなったが、流石に自重して沈黙を選ぶ。ここで追撃すればパイモンから煩い小言を大声で喚かれてしまうかもしれないからな。
「で、でも...どうやってエレーナを助けるんだ?確か雷電将軍は一心浄土っていう空間にいて、誰も入れないようになってるんだろ?」
「...基本的にはそうだろうな。だが何事にも例外はある。」
「エレーナさんがそうだと言うことですか?」
「...詳しくは言わん。だが一心浄土が雷神の力の産物である場合、
「それってエレーナが出鱈目に強いから?」
旅人が疑問を投げてきた。当然の質問だが、異邦人であるお前にそれを言われては少し心臓に悪いな。
「違う。確かにアイツの強さは鮮烈だが、それが雷神の空間に傷を付ける理由にはならん。」
「じゃあ、何を根拠に?」
...
「狐の宮司に聞いた。これ以上は言えん。」
「宮司って、八重神子のことか?」
これ以上深掘りをされても困る。俺が稲妻にいる目的はエレーナの救出だけだ。余計な交流を増やす必要など...ない。
「さて、今度こそあの時の話をする時だ、エレーナ。」
「...やっぱ
「...ふふっ。ほら、やっぱり大切なんじゃないですか。」
...解せない。
これは完全に余談なんですが
フリンズのPVが流れるたびに「こんにちは 」って挨拶を交わしてくるコウモリ男が頭をよぎるようになってしまいました
誰か責任を取ってください