おいタルタル、追ってくるな   作:飲み会後の味噌汁

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とある者の独り言 >








「クシュンッ!!!......あぁ、誰かが俺を睨んでいる気がする。」

「淵下宮の書庫に籠ってるだけなのに....誰だぁ?俺が何か悪いことでもしたのか?」

「むしろ『いい事をした』とすら言えるだろうに。」

「直近では、そうだな.....あ!エレーナの我儘を聞いてやったばっかりだ!全く、稲妻にピンを立てろだなんて人遣いが荒い奴だよ。」

「とはいえ、いきなり敵の本陣に転移しちゃあまずいからアンカーは少しズラしておいたが、まぁ問題ないよな?」

「いやぁ、エレーナの奴は今頃俺に感謝してるだろうな!!!!!!!」





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白鷺の乱心

 

 

一心浄土での一戦を終えた一行は、ダインスレイヴの転移扉を使って神里家に帰還していた。

初めてエレーナが稲妻に来た際には既に()()()()()()によって転移のためのアンカーが差されており、それを利用したダインスレイヴたちも、かつてのエレーナと同じく神里家に戻ってくるのは必然であった。

 

正確には鎮守の森に放り出されたわけだが。

 

鎮守の森へと帰還した一行はそのまま神里家まで戻った。

戦いで疲弊した肉体に鞭を打ちながら進む。既に限界を迎えていた故、一行は言葉を交わすことなく歩き続けた。

 

特に消耗が激しかったのは綾華だった。

 

人の身でありながら神の領域へと乗り込んだ上、己の神の目を酷使していた彼女は既に歩行を行うことも難しかった。それでも歩き続けた。ダインスレイヴも彼女の様子に気が付いてはいた。しかし敢えて気遣うような真似はしなかった。彼の目に映っているのは怯えてばかりの少女ではない。

 

己の失態を突きつけられながらも自戒し、死地へと志願した武士の類に他ならない。齢こそ未熟だが、ダインスレイヴは綾華のことを半人前程度には出来るようになったと認めていた。そんな少女が自分の身一つで進もうとしているのだ。止める方が野暮というものである。とはいえ、綾華が背負っているのは自身の肉体のみではないので、そこが心配ではあるが...。

 

「エレーナさん、もう少しです。頑張って...死なないでくださいッ....」

 

そう言葉を発する綾華と、同行者のダインスレイヴはそのまま神里家まで歩みを続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side エレーナ

 

 

 

 

何だか懐かしい匂いがする。煤けた木の香りのような、或いは日干しされたばかりの敷布団のような香りがする。鼻腔を通過して臓器の奥にまで沁み渡るその香りは、決して不快ではなくて...むしろ暖かくてとても安心する。瞼の隙間からお日様の光が差し込んでくる。普通なら唐突な世界の元気さに辟易してそのまま二度寝をかましてしまいたい所だが、今はそんな気分にはならなかった。ただひたすらに心地よい空間にいる気がする、そう思った。

 

リィィィ....----ン...

 

鈴が、風鈴が鳴いている。やっぱり懐かしい。

かつての私の故郷で何度も味わった風鈴の小さな音を思い出す。

お盆やお正月になると家族と一緒におばあちゃんのお家に行ってぐうたらしていたっけ。

 

所謂、典型的な古風の日本家屋が目に浮かぶ。

かつての前世においてはもう少なくなったと言われていたが、それでも幼い頃に経験したあの心地よさと善性なる怠惰の世界は脳裏に焼きついて中々離れない。鮮烈ではないが、確かに覚えている。もうこの感覚を吟味することはないと思っていたけれど、どうしてか今この瞬間はそのかつての日本家屋での一時を思い出させてくれている。

 

縁側でサンダルを放りながら、熱い日差しと冷たい風を浴びながらアイスを頬張っていたのを思い出した。コミックなら赤く水々しく輝く西瓜を食べるというのが鉄板だろうか。だが、私はアイスが好きだった。よく真冬のお風呂上がりに暖房の効いた部屋で、キンキンに冷えたアイスを食べることを至福としていた時期もあった。あの背徳感がまた一塩増して良いのだった。

 

...こんなことを思い出して何になるのだろう。感傷的になっているのか。詰まるところ、私は恐いのだ。この重い瞼を上げた後に待っている世界がとてつもなく恐ろしい。ひとりぼっちで吹雪の中を彷徨うことになるかもしれない。恐い大人の人に追いかけられるかもしれない。唯一出来た友達が次の日には謂れもない罪で殺されているかもしれない。いつも飄々としている友人が、いつの間にか棺に入っているかもしれない。会った覚えのないお偉方(雷神)に刃を向けられるかもしれない。

 

恐い...とてつもなく、こわい。こわくてたまらない。

 

もう目を開けたくない。もう解っている、私が先ほどまで感じていた懐かしの日本家屋の風景はただのまやかしで、所詮は私が勝手に思い描いた幻想に過ぎないのだと。だからいつまでも我儘を言って寝ているわけにもいかない。

 

けれど、それでも目を開けるのは嫌だ。この世界で物心を付けてから良い事なんて限られた数しかなかった。まだこの世界の歪さを認識していない頃に味わった、兄さん(タルタリヤ)や兄弟とのやりとりくらいだ。そのタルタリヤでさえ、結局は()()()()()()()()に成ってしまった。

 

つい先日までは少しヤンチャなだけの男の子が長い間行方を暗ましたと思ったら、空虚な瞳と人外のような力を身につけて戻ってきた日には、いよいよ本当に自分の身の振り方を考えた。知識として知ってはいても、実際にその変化を目の当たりにすると途端に体が震えた。結局、平穏などまやかしに過ぎないのだと知った。

 

しかし、それからの行動は流石に愚かであったと後悔せざるを得ない。あまりに恐ろしくなった私は密かに家を出る計画を立てたけれど、結局....。

 

「おーい、エレーナ!起きてるかぶふう!!!

 

「パイモン?エレーナは絶対安静だって効いたでしょ?大声も禁止だって。」

 

「ご、ごめん...つい。でも顔を掴む必要ないだろぉ...。」

 

「それはごめん...けどほら、今は邪魔しちゃダメだよ。いこ」

 

「うぅ...また後でなエレーナぁ。」

 

この声は...旅人とパイモン?

 

その声は覚えのあるものだった。

唐突に聞こえた馴染みのある声に思わず驚き、反射的に瞼を開いた。恐ろしい世界の輝きが日の光となって私を照らしている。

急に目を開いたからか、眩しさに思わず呻く。

 

「っう。」

 

徐々に目が光に適応していく。

一度閉じかけた瞼をもう一度開いた。今度はゆっくりと視界を拡げていく。私の視界に最初に入ってきたのは茶色の天井だった。

かつての世界ならば天井に蛍光灯でもあるかもしれないが、少なくとも私の目には映らなかった。

 

ここまで考えて、私は初めて()()()()()()()()()()()()()()()

 

天井には天井以外の何かはない。

では、日の光だと思っていた眩い光は、本当に太陽の光かもしれない。いや、他に光源があるのかもしれない...そう思って何となく目線だけを左右に泳がせた。

 

 

 

「エレーナ、さん?」

 

 

......そこには美しい白鷺がいた。まるで鶴が恩返しをしにきたのかと頓珍漢な事を考えるくらいには、大層綺麗な娘だ。

その白髪はもはや彼女にとってのトレードマークであり、その澄んだ白色を見れば誰しも彼女が神里綾華その人であると理解できるだろう。正座のまま背筋を伸ばしている様はとても様になっている。奥ゆくかしい大和撫子を具現化したような存在である綾華を見て、私はしばし固まった。開眼一番に彼女を目にしたのもそうだが、彼女の髪に目がいった。

 

()()()()()()()()()()()()。彼女の腰まではあった長く美しい白髪が、今では肩にかかるほどまで縮んでいた。

 

大事なことなのでもう一度言おう、()()()()()()()()()()()()

 

鮮やかな切り口で切り揃えられているので、むしろこれはこれで似合ってはいるのだろうが...綾華を印象付けていたものが変貌を遂げていたことに衝撃を隠せない。

女は髪が命だなんて言葉があった気がするが、もしそれを信条とする者が綾華の変貌ぶりを見れば卒倒するかもしれない。

 

彼女がここまで髪を短くしたことなど見たことがない。私の記憶が確かなら、綾華の幼少期を描いた映像でも彼女は長髪を頭の後ろで一つ結びにしていた筈なのだが、何故、どんな心機一転を経ればこのような変貌を遂げることになるのか。少なくとも目覚めたばかりの私には咀嚼できない光景であることに違いはない。

 

「あや、か?その...え、その髪は?いったい何がどう」

 

「ッ!」

 

「わっ」

 

がばっと綾華が私に飛びついてきた。

突然の抱擁に思わず思考が呆けそうになる。

 

綾華は勢いよく私に密着して腕を背に回すと、そのまま私の肩に顔を埋めた。少しくすぐったい...。

思えば、最近はこうやって人肌の温もりを感じる機会もなかったなと場違いな事を考える。

つい最近では胡桃から抱擁された気がするが、あの時以外に誰かと触れ合った記憶はあまりない。冷え切った私の心に、綾華の体温が沁み込んでいく。淡く差す陽の暖かさも相待って、今この瞬間だけはこの空間が世界で一番暖かいのではとまで思う。

 

私も彼女を支えようと手を回そうと思ったが、それは叶わなかった。

 

腕が動かない。

感覚がないとまではいはないが、動かせばとてつもない激痛に見舞われるであろうことが予想された。自分が自覚している以上に相当の負傷を負っているのがわかった。よく見れば私の身体には新しく清潔な包帯が巻かれている。

 

私が寝ている布団の脇には桶があり、恐らく私の血が滲んだ古い包帯が残置されていた。

 

状況から見て、ずっと綾華が看病を負ってくれていたのだろう。

私が稲妻に転がり込んだあの時のように付きっきりで診てくれたのだ。

恐らく雷神との戦いから何日も経過しているのかもしれない。皮肉にも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この身体では、そういうことも目測で分かってしまう。彼女もずっと私に付き添っていて疲れただろうから、休ませなければならない。

 

私はそっと綾華を引き離すべく身を捩る。腰を左右へと捻って少しずつ後ろへ行こうと試みたが、彼女の腕がそれを引き止めた。

 

綾華が私を抱きしめる力が少し強くなっている。私の傷に影響がないギリギリの力加減で抱きついているようだ。更に温もりが私を満たす。私の身を焦がす炎元素の神の目なんて比べるべくもない...あんなものよりも何倍も、何十倍も暖かいと思った。私の服は彼女の手によって皺だらけになっているだろう。

 

「しばらく、このまま....このままでお願いしますっ」

 

小さい声で、少し震えていた。

 

私は無言で頷いた。

 

有無を言わせぬ彼女の様子に口答えをする余裕はなかった。

綾華は私がもう逃げないと思ったのか少しだけ力を緩めた。しかし顔は私の肩に埋めて抱きついたままだ。彼女の呼吸がうなじに触れて少しこそばゆい。

 

私はこの状況を理解できずにいる。

雷神との死闘に精一杯で、前後の事をあんまり覚えていない。少なくとも、思い出そうとしない限り開かない戸棚に記憶が閉じ込められているかのような感じがした。だが、そんなことはあまり重要ではない。

 

今は、この錯乱したお嬢様の対応が先だろう。

 

グリグリと押し付けられる白鷺の頭を止めるべく、痛む左手を無理にでも動かして彼女の頭頂部へと添える。

今の肉体では彼女の動きを止めるほどの力は出せないようで、ただ左手を彼女の頭部に置くだけになってしまった。

 

自分自身のあまりの無力さに恥ずかしさが込み上げてきた頃、不意に綾華が肩に寄せていた頭を、私の添えた手に向けて押し付け始めた。

怪我人の掌に頭突きをかましているような妙な構図になったが、すぐに彼女の意図を理解した。

 

「その...撫でて欲しいの?」

 

「...。」

 

グリグリと無言で頭を押し付けてくる。

彼女は返答こそしなかったが、謎の圧力を感じる。

『言わずともわかるだろう』と言っているのだろう。

 

彼女の圧に押し負けた私は、彼女の頭に添えた左手を少しだけ動かして彼女を撫でた。

 

さらさらとした彼女の髪質が包帯越しでも伝わる。

織物に使われていてもおかしくない程のきめ細やかさに呆気に取られてしまう。やはり彼女の美麗な白髪は姫君と称される所以の一つであると痛感させられる。

それだけに、そんな髪をどうして短く切ったのかが気になる。

雷神との戦闘が始まる直前までは確かに長髪だった気がするのだが...実に惜しいと感じる。

 

彼女を一目見てまず思うのは、『綺麗な長髪だ』だろう。

実際、私もそのように思った。あんなにも綺麗に結われた髪房をお目にかかれる機会などそうそうない。故に綾華という存在そのものを神格化してしまう一助となるのだろう。

 

加えて、人柄も良いときた。

.....うん。彼女がある種の絶大的な人気を誇る人物であることが、今更ながらに理解できる。

 

とまぁ我ながら、死に目を見た人間にしては随分と腑抜けた感想ばかりを胸中で語っているなと思う。

常人であれば神との一騎打ちに興じればまず死ぬ。

生きて帰ることなどあり得ないことだ。

 

私とて、この国で死ぬつもりはなかったが、死ぬ可能性は考慮していた。

こうして生き延びているのが奇跡だと理解している。きっと感覚が麻痺してしまったのだろう。

...幾千の戦いを経た私は摩耗の一途を辿っているのかもしれない。

 

綾華を撫でながらそんな事を考えていた。

 

すると、それまで身体を抱きしめてくるだけだった綾華が再び口を開いた。

 

「死んじゃうかと思いました」

 

掠れた声だった。

やすりで喉を研いだのではと杞憂を覚えるくらいにはあまりに煤けた声をしていた。

綾華は懺悔するような声色で私に言葉を紡いだ。

 

(わたくし)、悪いことをしました。謝っても許されないような事をしました...悪行に身を委ねたのです。恩人である貴女を将軍様に差し出すような真似をしました。」

 

...城下町で幕府軍に取り囲まれた時の事を言っているのだと分かった。

綾華に連れられて町へと出た私は、彼女との会話の最中に稲妻の幕府軍に囲まれた。そして上空から現れた将軍との戦闘を余儀なくされた。

私からすれば、将軍と会うことも目的の一つだったから『むしろ手間が省けた』とすら感じていたのだが、綾華からの心中は穏やかではなかったのだろう。

 

「貴女が(わたくし)を庇ってくれたとき...貴女がたくさんの血を吹き出したとき、(わたくし)は...(わたくし)はっ!」

 

 

......

 

 

 

...ああ、この娘は本当に優しいなぁ。

 

 

 

 

 

「...ねぇ。」

 

「ッ!あ、はい!?」

 

「うおっ...そんなに固くならなくていいって。なんか...調子狂うよ。」

 

「え...」

 

私は軽い抑揚で話すように努めた。

この娘がこれ以上自分自身を責めないように。

 

「もっと気楽に話そう。ほら、私と綾華が初めて屋敷で話したときみたいにさ。あの時はちょっとお互いに警戒してたかもしれないけど、会話自体はそこそこ弾んでたでしょ?...まぁ、憎まれ口ばっかりであんまり良くなかったかもだけど。」

 

(わたくし)を憎んでいないのですか....?」

 

綾華がボソリと呟いた。

 

憎んでいないのかと言われても、私にはそんな気はさらさらない。

むしろ脅迫めいた事をしてしまって申し訳ないとすら思っていた。

そこらの悪党ならいざ知らず、綾華が悪人でないことは既に理解している。

 

謝罪が必要なのは私の方だ。

 

だが、綾華はそれでも自戒の念が収まらないのか声を張り上げて叫んだ。

彼女の目には涙が浮かんでいた。

 

 

「どうしてっ!?」

 

「...え」

 

「命を助けてくれた恩人である貴女を、(わたくし)はあんなにも邪険に扱って...果てには命を差し出すような真似をしてッ!!!」

 

 

「そ、それに貴女は(わたくし)のせいで危うく死んでしまうところだったのですよ!?」

 

 

「わたッ....(わたくし)は!将軍様の前で血だらけで動かなくなっている貴女を見て、生きた心地がしませんでした!」

 

 

「何度呼びかけても、憎まれ口も聞いてくれなくてッ......!!」

 

 

私は思わず黙ってしまった。

彼女に気押されたのもあるが、それ以上に『綾華が誰かを怒鳴った』と言うこと自体に驚愕を隠せなかった。

目の前の彼女は既に私の知る神里家の令嬢ではない。

いや、そうではない。私が見誤っていただけだ。

 

この世界に生きる人々は誰かの傀儡なんかじゃない。

キャラクターでもない。

ただの、一人の人間なのだ。

 

そんなこと、当の昔に理解していたつもりだったのに。

 

「どうしてそんなにっ!.....そんなに優しい目をしているのですか!?意味がわかりません、出会った頃に(わたくし)を脅した貴女と今の穏やかな貴女...一体どちらが本当の貴女なんですかッ。」

 

「さぁ、どっちだろうね。けど私が貴女を利用したのは事実でしょ?じゃあそれが答えだよ。私は...」

 

つい反射的に強い口調で返してしまうが、綾華は怯むどころか更に上から畳み掛けてきた。

 

「貴女が悪人だとでも言いたいのですか!?エレーナさんが外道の類であると!?」

 

増していく剣幕に私はつい口籠もりそうになる。

 

「...っそうだよ。いい加減わかりなよお嬢様。最初に私にあった時に思い知ったでしょ、私はファデュイの奴らを躊躇いなく殺した。私はそういう人間なんだよ!

 

私の語気も強くなっていく。

 

「じゃあ、なんでその後に(わたくし)の名前を呼んだんですか!」

 

 

..........え

 

あ。

 

 

「...そりゃ、稲妻の有名人だから知っててもおかしくはないでしょ。」

 

あ、あれ。なんか風向きが変わった気がする。

綾華を仕方なくあやしていたのに、いつの間にか私が尋問されているような...。

 

「けれど貴女は将軍様が行方知れずになっている事を知らなかったでしょう。一国の主の動向を知らないというのに何故(わたくし)のことは知っていたのですか!」

 

「そ、それは」

 

今、それを聞くのかッ!

....いや、まさか将軍の人形までいなくなっているとは思っていなかったのだから仕方ないだろう。本来の物語の筋書きからずれていることは覚悟していたが、ここまで変化があるとは予見できない。

だから仕方なかった。

 

「いくら怪我人だったとはいえ、(わたくし)とエレーナさんとの間にはとてつもない実力差があるのはわかっています。...悔しいですが。けれど貴女は一度たりとも(わたくし)に刃を向けることはしなかった。それどころか(わたくし)が情けなく錯乱した時も、慌てて肩を貸そうとしてくれました。」

 

「は?私が?...慌てて、なんだって?妄想もいい加減に...」

 

「あの時、敬語が崩れていましたよ。」

 

「...................クソッ、なんでそんなことまで覚えてるんだよ。」

 

綾華が蹲って虚空に向かって謝罪をし始めた時のことか。彼女を引っ張ってでも戻ろうとしたところで雷神とエンカウントしたんだっけか。今思えば、あれは偶々出会ったわけではないと理解できる。深淵(アビス)の魔物が私を求めてひた走る理由は定かではないが、あの雷神が嘘を吐くとも思えない。

彼女は確固たる確信を持って、私に会いに来たのだろう。

 

「聞いてますか!?」

 

「叫んだら身体に触るよ、綾華」

 

「大怪我しているのは貴女でしょう。」

 

「ぐぅ....!」

 

くそっ!なんなんだこの状況は!?

どうして私が綾華に叱られているみたいな構図になっているんだ。

気に食わない...気に食わない!

 

こうなったら....!

 

「そこまで言うなら徹底的に議論してあげるッ!」

 

「....え、何を」

 

「ここじゃない場所なら思い切り話せるでしょう?」

 

「え、ちょ」

 

どぷん

と言う音が和室に轟いた後、二人の姿はその場から消えていた。

そしてそれとほぼ同時に部屋に入ってきた男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side ダインスレイヴ

 

 

 

 

「おい...煩いぞ。さっきから別の部屋にまで貴様らの声が....」

 

そこにやってきたのは間の悪い半仮面の男。

漆黒の隊服に身を包む彼の視界には先ほどまで誰かが寝ていたであろう敷布団と、乱雑に置かれた桶、それから----閉じゆく転移の扉(アビスゲート)が見えた。

そしてその扉はダインスレイヴが何かをする間もなく、容赦無く閉じ切った。

 

まるでトカゲの尻尾切りをするように。

 

或いは、イタズラがバレて焦る童のように。

 

「.....」

 

あんまりな状況に男は頭痛を覚えた。

素晴らしい、効果は抜群だ。

 

「ダイン、どうしたの?...て、あれ?エレーナたちはどこに行ったの?」

 

「本当だぞ!あいつら、もしかして雷電将軍に誘拐されたんじゃ...!?」

 

彼の後ろからヒョコっと頭を出してきたのはパイモンと旅人...彼女らは何が起こったのかまでは理解できていないようだ。

しかし、ダインスレイヴには分かる。特にあのエレーナかいう少女との付き合いはかなり長い。

 

微かに残った彼女の残穢と先ほどの転移の扉を見るに、彼女らがただ勢いで飛び出したのは明白であった。

 

 

 

「あの.......バカ共めッ」

 

ダインスレイヴパパの苦難は尽きない。

 

 

 

 




全く関係ないんですが、『超かぐや姫!』なるアニメをNetflixにて観ました。

...正直、ここ数年で一番アニメというものに夢中になれました。間違いなく。

SNSで言われていた感想の一つとして「設定や展開自体は、総合するとご都合展開主義よりだが、テンポの良さやシナリオ構成の巧みさによって気にならないし、そういったご都合的展開が『欺瞞』として認識されない。」っていうものがありました。

これはあくまでも意訳ですが、私もこの意見に大きく頷きました。
本当にアニメ好きとして当分は脳破壊されたまま過ごすことが出来そうです。

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