おいタルタル、追ってくるな   作:飲み会後の味噌汁

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お久しぶりです。

最近アークナイツにどハマりしてしまいました。

あのシリアスな世界観がドストライク。なんです。


思い出す暖炉の光景

 

 

人間という生き物は、群れを成す生き物である。

元来、私たちの祖先は他の生物よりも体躯が小さく、鋭利な牙や爪も持たず、他者を死に至らしめる悪毒も持たない貧弱な存在であった。であればそのほかに有利に成りうる特殊な性質を持ち合わせているのだろう、と考えるだろう。

 

しかし、それも違う。彼らは本当に何も持たない。先に述べた武器は勿論のこと、頑丈な攻殻も、他生物の届かぬ木々の葉を食むための長い首も、余計な不純物を寄せない分厚い脂肪も、何もなかった。強いて言うなれば、少しの体毛と少々長い手足だけ特有の色と言える。しかし、そのようなチンケな特徴は"強み"とは言えない。

 

だからこそ"群れた"。

 

貧弱な体を寄せ合い助け合うことで、間接的に視野を広げ、知見を共有し、餌を共有して出来る限り生存する可能性を向上させていった。

 

しかしながら、それは他の生物においても同じことが言える。例えばフォンテーヌの水棲生物である『プクプク獣』。水源が豊富なフォンテーヌで生息する彼らは、その多くが群れを成して日々を謳歌している。

 

日向ぼっこをしてのんびりする時間も、水中に潜り食料を探している時間も、どんな瞬間でも必ずと言っていいほど複数体で行動するのだ。その理由は諸説あるが、学会での通説は『比較的体重が重い上、目立った武器を持たない彼らは、天敵から身を守る術として群れを成している』と言うものだ。

 

至極真っ当な説だ。もはや"説"と呼ぶまでもなく、それが事実の一つであると定義しても意見が通りそうなほどにつまらない理由だ。そして我々の祖先とも言える人間擬きも同様に群れた。

 

実に面白みのない行動だ。他の生物となんら変わらない。

 

しかし、ここでおかしなことに気付くものもいるだろう。

 

ただでさえ非力な我々の祖先が、他の生物を真似たところで食物連鎖の頂点に立つことなど不可能ではないか、と。

 

生き残るには他を圧倒する牙か、もしくは特殊な策が必要なのだ。特別な何かを持たない者どもが如何にして生き残ったのか...。

 

その答えは簡単かつ明瞭だった。悦楽を覚えたのだ。食のための殺しではなく、殺すこと自体に快楽を見出した。生きるために群れを率いるのではなく、群れの長を務めることによって付いてまわるある程度約束された権力に酔いしれた。

 

結果ではなくその過程にすら悦を見出し、それはより残酷に、容赦のない方向へと昇華していった。自らの欲を満たすためにはどうすればいいのか。どうすれば他者を陥れることが可能なのか。そんな思考を獲得していった。他の生物にはない非道かつ非常な進化を、人類は辿ったのだ。そして今や人類はテイワット大陸の過半数以上に生息するという快挙を成し遂げた。

 

実に結構、素晴らしいことじゃあないか。我が祖先様はその見事とも言える人間としての性を用いて、この文明を築いたわけだ。

 

ただ、ここで問題が一つ生まれた。

ご先祖様は、いくら汚物を塗りたくっても上書き出来ないような悪臭を放つ宿題を残した。人間同士での争いが勃発したのだ。

 

考えてみれば当然のことだが、群れてある程度の地位を確立した後に待っているのは平和だ。平和とは一見すると口出ししようのないほど素晴らしい状況のように思えるし、実際その通りだ。ただ、殺しや蔑みに悦楽を見出した罪人たちが、そのような平和に満足するわけがなかった。

 

自分が先に立つのだ、自分こそが唯一無二なのだ。そう主張する愚か者で溢れ、平和だったはずの群れの中は、いつの間にか同族で争うことを厭わない悪鬼が蔓延る地獄に様変わりしたというわけだ。

 

私はそんな世界に放り込まれた異分子だった。テイワットは私が想定していたよりもずっと過酷で無慈悲だった。

 

皆生きることに必死で、必要とあらば平気で他者を蔑ろにするし、それによって自身にしっぺ返しが来た時のことも考えない愚か者しかいない。

 

私はそんな人々と何ら変わらない普通の人間。強いて言うなら、テイワットの外から来たということだけだ。しかし、私には『降臨者』のような世界を変える力も意志もない。だからと言って、メソメソと泣いていてもただ死に向かうだけ。

 

そう思い詰めた私の脳裏には、正しい判断能力は残されていなかった。だから.....あのような手段に出た。

 

生物が進化するには、周囲環境からある程度隔離される必要があると言う説があるそうだが、一理ある。

 

それまで群れの中で当たり前の行動だと定義されていた行いや思考を、自分一人で判断する必要があるため。結果的に群れとは異なる行動を取る可能性がある。そこで分岐が始まり、その隔離空間特有の性質が習慣として確立され、別生物として成る。これが進化の奇跡であり、神秘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

何が言いたいのかというと、詰まるところ私も意図せず進化の条件とやらも満たしていたらしいという話だ。

 

でなければ、こんなにも醜く成ることなどなかっただろうから。

 

全てはあの日から始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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黄金屋、と言う名に相応しいほどの"黄金色"に染まったその建造物は、雨に濡れてもなお美麗さを損なっていなかった。璃月のみならずテイワット全土に共通通貨として普及している通貨、『モラ』。

 

それはかつての昔、この璃月を率いて魔神戦争に勝利した魔人の一人である岩王帝君が発端となって生まれた概念だ。

 

何もするにも先ずはモラの持分を確認するし、その時にモラの持ちがなかったとしても、その他の資産を担保として売掛金という形でモラの債権を得る。

 

人間はこのようにして物流を活性化させて文明を発展させてきた。それは今でも変わらぬ事実であり、むしろモラの流通量は以前よりも増しているとも言えるだろう。

 

では、そんなモラは何処で作られているのかというと、それこそが璃月港の黄金屋である。黄金屋の内部には大量のモラ硬貨が製造・秘蔵されており、それゆえに警備も強固なものになっている。

 

璃月が誇る千岩軍の熟練の兵たちによって守られるこの場所は、正しくこの国の心臓とも言える所だった。

 

 

 

そう。

『だった』のだ。

 

 

 

本来ならばモラの製造を行う筈の場所ではあるが、その大元である岩王帝君が死したことにより、そもそもモラを製造すること自体は不可能になった。

 

いや、より正確に言うなれば、従来の方法では不可能になった、と言うべきか。これまで大きな発展を遂げた文明であれば、モラを製造する手法を新たに確立させることは可能なはずだ。

 

まぁ、どちらにせよ、先の帝君暗殺事件の影響によって、黄金屋はその機能を失ってしまったのである。

 

しかしどういうことか。未だに黄金屋には守備のための千岩軍の兵が付いており、その強固さは今もなお健在といえよう。本来であればもはや存在意義を失ったような黄金屋に、これまで同様の警備をつける理由など有りはしない。

 

加えて一つの時代を築いた神が死してその座を退いたともなれば、尚更その国の財政や人事資産のリソースは枯渇の一途を辿る。しかしどう言うことか、璃月七星は未だにこの黄金屋と言う名ばかりの建造物を守り続けるつもりらしい。

 

側から見れば、ただのモラの無駄であり、貴重な人材の浪費であるが、これらは七星の命令であるが故に、みなはそう反発せずに命に従う。

 

だが、一部の人間は違い、生粋の商人たちは訝しんだ。なぜ七星はこのような行動を取ったのだ?七星は無益な物事には投資しない....これまで璃月が発展して来れたのは偏に七星たちの活躍と、凝光の鋭い嗅覚あってのことだ。

 

しかし、今回のこのような動きは過去に類を見ない異例の事態であり、何か異様な何かが水面下で蠢いている気がしてならなかった。

 

各々の経験と勘から、こう考えた。

もしや、我らが帝君の死を企てたのはかの七星であるのでは、と。

 

滑稽である。

 

自分たちの王を盲信したからこそ、人間としての狡猾さをよく知っているからこそ、意味のない結論へと辿り着いてしまう。人間は思考の海に耽る特性を活用することで他生物にはない頭脳という武器を磨いてきたが、今回はそれがただの杞憂に終わる方向に働いたようだ。

 

 

実態はもっと壮大で、陳腐なものだ。

 

 

かの岩王帝君は存命であり、あの時大広間にて天より落ちてきた龍の遺体はカモフラージュのための偽物だ。

 

帝君はもう表舞台に姿を現すことはない。これまでに至る長い年月を璃月のために費やした黄金の神は、自身の摩耗による疲弊と、それによる訪れる璃月の防衛力の衰退と人間の自立性を危惧した。ゆえに退くことを計画した。

 

神である自分が退いて人間たちに主導権を渡すことで、その秘めたる力を見る機会を作った。その力が十分に足るものであると理解するために。人の時代を切り開くために。

 

そして、その思惑が国中の人間に悟られぬように慎重に事を運んだ。かの国の使節と契約を結んでまで。

 

契約の国である璃月には優れた嗅覚を持った商人が多くいるが、帝君はそれさえも欺く策でもって計画を実行したのだ。その意思は人間に理解出来るようなものではなく、その真意に勘づくものはいない。この独自の策略は密やかに進行している。

 

人の悪意、策略というのは如何ともし難いものなのだ。

 

 

 

そしてここにも、独自の意思を持って水面下にて行動に及ぶ者が一人。

 

 

 

 

「....ふぅ。早いとこアレを回収しないとね。でないと、また彼女に嫌味を言われてしまうよ。」

 

とある賞品を奪取するべく物置同然の黄金屋へと足を運んでいた『公子』タルタリヤは、一人でぶつくさ呟いていた。

 

「な〜んか俺だけ除け者にされている感じがするんだよね。まったく.....」

 

執行官という立場に立つ彼にとって、この璃月で過ごす日々は少なからずストレスの元になっているようだ。

 

彼の視界にかの黄金屋が見えてくる。

 

彼は金銀財宝の類は見飽きていたが、そう悠長に眺める機会もなかったために、黄金屋の壮観に少しばかり見入っていた。黄金屋を見るその視線はやや冷ややかだったが。

 

実家の太い彼にとっては黄金屋程度の輝きはもはや見慣れた光沢であり、わざわざ感動するほどのものではない。それに、身近なところに金に囚われた亡者のような同僚がいるが故に、そこまで金銭や黄金に執着していないのだ。

 

黄金屋の入り口へと到達する。

 

入り口を見張っていた千岩軍の兵達が『公子』に気づいて笛を鳴らす。甲高く耳を劈くような音波の針が刺すように轟き、辺りの木々に停まっていた小鳥達を刺激する。飛び立つ小鳥達の足蹴にされた枝が揺れて木の葉が落ちる。

 

幾十、幾百もの緑が舞う中で、『公子』は堂々と武器を構えて悠然とした佇まいで歩みを進める。

 

敵をはっきりと認識した軍の者達が声を張り上げて警告する。

 

「ここは現在立ち入り禁止区域に指定されている。例え誰であろうとも通ることは許されていない!」

 

矛先を天へ向けたまま忠告を投げるが、『公子』はなおも止まらない。

 

「っこれは璃月七星の『凝光』様のお達しだ。他国の使節である貴方でも......」

 

「『極悪法』」

 

ばち と雷が迸る予感がした。それは『公子』を発生源として波打ちながら、瞬時に千岩軍の者達を包囲して...........貫いた。

雷が瞬時に兵達を物言わぬ骸に変えた。

 

いや、正確に言うなればそれは雷ではない。

それは雷を纏った『公子』の通った軌跡であり、彼を認識出来なかった兵達が、勝手にそれを雷だと誤認したに過ぎないのだった。

 

ファトゥスの一角である武人は、その猛威を解放し、邪魔者を薙ぎ払った。

瞬きをする間をも許さぬ一瞬の出来事であり、運よく攻撃を免れた者達は混乱に陥る。

 

 

放心して槍を地に落とす者

 

怒りのままに『公子』へと挑む者

 

黄金屋内部にいる人間に援軍を求める者

 

それまでは統率の取れていた兵たちは哀れな雑兵へと変わり果て、各々が散り散りに駆け出す。

 

地上に生まれた一末の地獄、惨状。

 

常人ならばこの場に居合わせただけで取り乱すだろうが、当の本人は至って冷静な感情でそこに立つ。

 

なおもつまらなさそうな表情の彼は見えない。

その仮面は彼の表情をも覆い尽くしているのかも知れない。

 

 

 

 

 

その仮面は、炎では溶けないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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先ほどの蹂躙から間もなくして、『公子』は更に奥地へと進む。

 

至って悠然なる歩みは彼の傲慢さを表しているようにも感じられる。

 

「ふぅ。まったく張り合いのない.....。すこしくらいは楽しめるかと思ったけど....拍子抜けだね。」

 

黄金屋へと足を踏み入れた『公子』は中にいた千岩軍の兵士たちをねじ伏せて内部を制圧した。

 

そこらに血まみれになって倒れた兵士たちが痛々しく、戦闘が如何に一方的であったかがわかる。

 

『公子』の武力はたとえ鍛えられた武人でも歯が立たないほどに凄まじいものなのだ。そして目的のためなら容赦はしない。

 

それが例え訓練された璃月の兵であっても勝ち目などない。一度対峙したが最後、あらゆる希望を正面から叩き潰されて終わりだ。

 

倒れる兵達を尻目に彼は黄金屋の中心部へ足を向ける。

 

「...さて、ようやくお目にかかれたね、岩神。」

 

彼の視界に映っているのは、かの偉大なる魔神にして交易港を収めていた七神の一柱-『岩神』モラクス-。

 

その仙体は死してなお高貴なる輝きを孕んでおり、見るものを魅了する。直接触れずとも、かの岩神がなぜ敬われ、その威信を世の中へ響かせたのかを思い知らされる。

 

それは『公子』も例外ではないようだ。

少なくとも、蹴散らした雑兵や見飽きたモラの輝きなんぞよりは価値があると見出したようだった。

 

とは言ってもそれが死体であり、戦闘には繋がらないことを知っている彼は、すぐに目の光を収めたが。

 

「あぁ嫌だ。立場上仕方ないとはいえ.........そしていくら女皇様のお願いだとしても、こうも裏からの手回しに徹するのはどうもムズムズするねぇ。こういうのは『召使』か『富者』の十八番だろうに....はぁ。どこかに戦いがいのある相手はいないんだろうか...。」

 

なおも愚痴を溢し続ける彼は、脳裏に同僚の顔を思い浮かべるが、すぐにその顔を顰めた。

どうやら彼にとって同じく執行官の立場にいる同僚たちは、あまり良い存在ではないようだ。

 

いかに執行官という立場であり、ある程度目利きがあるとはいえ、組織の人間である以上行動の制限は避けられない。それは暴虐武人な『公子』であっても例外ではないようだ。

 

その素行の粗さから本人は荒々しい性格だと誤認されることは多いが、その性質は比較的理性的なものだ。必要とあらば策を巡らせ機を待つし、女皇の勅命とあらば喜んでそれに従う。

 

ただ、たまに目的を敢えて無視して暴れるだけだ。

 

それが彼らしいと言えばその通りなのだが.......

 

「これだけ振り回してくれたんだ。ここに来て"やっぱり神の心はありません"なんてやめてくれよ?」

 

普段は周囲を引っ掻き回してばかりの『公子』だが、自分が引っ掻き回される側に立つのは少々不服らしい。なんとも彼らしい身勝手さだが、その凶暴さゆえに彼を止められる人間はそういない。

 

少なくともこの黄金屋にはそんな者はいない。

 

まぁ、それも本来の筋書きなら、という話だが

 

「おや、勘がいいんですね。」

 

一人よがりな『公子』の呟きに対し、なぜか返答が返ってきた。

 

「...っ!」

 

驚きのあまり声の方を振り向く。

 

「ここにお目当ての物はありませんよ、兄さん。」

 

聞き覚えのある声がした。

 

記憶にある声とは少し異なるようだが、それでも、耳馴染みのある声に間違いはなかった。タルタルヤには多くの闇の仲間や部下がいるため、記憶にある人物を引っ張り上げるのに数瞬を要するが、この時ばかりはその僅かな時間すら介さずに声の主を特定した。

 

昔、かなり昔に聞いた声。

寒空の下に佇む家で、愛しい弟たちと共に自分の帰りを、いつも待ってくれていた。そして、この声の主とはつい最近出会ったことがある。

 

あの日、あの大雨が降った日に。綺麗だった髪を傷めさせ、頬に大粒の涙を流しながら血を流しながら慟哭する彼女をついこの間見たばかりだ。

 

その際は、すぐに彼女が気を失ってしまったことでその声を聴くことすら叶わなかったが。

 

懐かしさと動揺で揺れる。

 

「この間ぶりですね、兄さん。」

 

「....エレーナ、なのか?」

 

そんな男を冷たい音が歓迎する。その声は、この男にとってはどこかで聞いたような懐かしい感触を覚えるものであり、一瞬だがその意識を弛緩させた。

 

かつて故郷から姿を消したはずの妹がそこにはいた。

 

夕焼け色の髪に、水色の瞳

 

少し低い背丈も相待って映える幼くも綺麗な可愛らしい顔

 

それはまごうことなき妹の姿だった。

 

岩神モラクスの御神体の背にしながら、ゆっくりと階段を下りてくる。コツコツと靴で音を鳴らしながらも、彼女は男から視線を外さない。

 

「っどうして、ここに?」

 

そう彼が尋ねると、階段を下りるのを中断し、位置的優位を保ったままエレーナは応える。

 

「兄さんなら黄金屋(ここ)に来るんじゃないかって、なんとなくそう感じただけですよ。深い理由も思惑もありはしません。」

 

そう彼女は語る。

ただの勘だと、そう言う。

 

傍から見ればなんとも荒唐無稽でバカバカしい回答だ。論理的思考もあったものではない。物事にはなにがしかの理由がある。

 

 

 

人が食事を取るのは活力を得るため

 

群れを成すのは効率的に生きるため

 

森のイノシシが外敵を攻撃するのは、己と子どもを守るため

 

 

 

理由のない行動などこの世には存在しない。なんとはなしに取った行動でも、そこには無意識という概念が存在し、人はその概念に従って動き出す。

 

人はそれを運命とも呼ぶが、余りに陳腐でありふれたその考えに真摯に向き合う大人はそういない。

 

だが、『公子』はまさに今、妹の放った言葉を受けてその考えを改めた。

 

運命というものは、もしかすると存在しており人を動かす原動力足りえるのではないかと考えた。そうでもなければ、妹が自分の動向を完全に把握しているこの現象への説明がつかない。

 

思わず手に汗握る。知らぬ内に搔いていた手汗が気持ち悪い。

 

動揺を隠しながら乾いた笑顔を作りながら事実を受け止める。

 

「ハハッ。流石だね.....全部お見通しってわけだ。やっぱり敵わないなぁエレーナには。」

 

エレーナはさもタルタリヤが黄金屋にいるのは当然であるかの如く振る舞っている。この状況に何の動揺も、緊張もしていないようだ。そして、何やら物々しい威圧感すらをも肌で感じ取れる。

 

やはり、わかっているのか。

 

この様子なら、もしかするとタルタリヤだけでなく組織全体の企てすらも掌握している可能性がある。ファデュイはそう温い組織などではないが、目の前の彼女がそれを上回ることがないとは断言出来ない。

 

現に彼女は『公子』の思惑をいとも簡単にくみ取った。これは由々しき事態だ。

 

危惧すべき事態のはずだ。そのはずなのだが....何故か心は穏やかだった。執行官としては失格とも言えるだろう意識の低さ。戦場では気の緩みは命取りとなる。これまでもそうだった。一時も警戒を解くことを許されず、常に戦火を纏うことが求められる。

 

そうでなくとも、この体に宿る意思は闘争を求めて飢えている。

 

だというのに...なんなのだろうか。これは。

 

まるで揺らいでいる木漏れ日の中にいるみたいだ。雪が多い故郷ではそうそう味わえない温度を心の内に感じる。

 

「そうか、無事だったんだね。..........................そうか。」

 

気付けばそう口にしていた。

 

真っ先に彼の口から漏れたのは安堵の言葉だった。これまで消息を経っていた妹の身を案じていた彼にとって、妹が目の前に立ちはだかると言うサプライズはある意味でとても良いプレゼントのようだった。

 

執行官という立場を利用して密かに彼女の行方を探してはいた。

 

モンド、稲妻、スメール、フォンテーヌ、ナタ、そして璃月。

 

いくつもの箇所を駆け巡りながらもその姿は見えず、有力な情報も掴めずにいた。その状況を自覚する度に打ちひしがれる。そういう時に脳裏に浮かぶのは決まってかつての暖かい記憶だった。

 

柔らかな笑顔で家族に接するエレーナの姿にタルタリヤは信頼を寄せていたし、そんな彼女を家族として愛していた。いつまでもそんな日々が続くと思っていた。

 

だが、そんな楽観的な考えは叩き壊された。

 

ある日の朝、子守を頼んだはずの妹はもう家にはいなかった。

 

一緒に寝ていたはずの弟たちに聞いても知らないの一点ばりで、手がかりなどは全く残っていなかった。まるで以前から逃亡の準備をしていたかのように忽然と姿を消した。感じたことのない寒気を覚えたあの感覚。自身の体の一部を持っていかれたような、そんな感覚。

 

穴が空いたような錯覚に苛まれながら多くの時を過ごした。

 

 

 

 

それから久しぶりに彼女と対面したのは、それから何年も経過した後だった。

 

 

 

 

 

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それは、つい先日のこと。

 

 

大雨で酷く地面がぬかるみ、雷鳴で隊員同士の会話もままならないような悪天候だった。

 

そこでボロボロになった妹の姿と再会した。

 

『.....エレーナ?』

 

木々の向こうから見覚えのあるシルエットが見える。美しい夕暮れ色の髪は、大雨の中でも輝くことを辞めず、彼女の存在を知らしめていた。

 

『間違いない.....俺が見間違えるはずがないっ!』

 

薄汚れているが、その程度で妹の存在を違えることはあり得ないのだ。

 

タルタリヤは衝動に駆られて駆け出した。

 

ぐちゃぐちゃと足元で不快な音が鳴り、大雨で泥濘んだ地面が靴の裏に纏わりついてくる。普段なら気にしない泥の感触が今になって鬱陶しく感じるのは、妹への道を遮られているからだろうか。

 

雨が顔を伝う感覚をも感じ取るほどに敏感に研ぎ澄まされた五感で、エレーナを見つける。

 

 

 

 

 

 

待望の再会になる。

 

そのはずだったが、いとも歓喜の感情は打ち砕かれた。

 

『.......』

 

エレーナの姿を観察する。

 

顔には泥と大量の血液がこびり付き、その下に火傷の痕もあった。地面を呻きながら這いずる姿から、もう立つ体力すらない程に疲弊しているのだと理解した。

 

手には二振りの剣が握られており、しっかりと指に固定されている。まるで銃を初めて撃った素人が、そのあまりの衝撃に指を硬直させてしまい意図せず銃を離せなくなるような、そんな様相。

 

生きた心地がしなかったのを覚えている。

探していた肉親がそれほどまで追い詰められ、息絶えようとしていたのだから。

 

それからは無我夢中で、あまり覚えていないが.....きっと酷い顔をしていただろう。

仮面のお陰で、動揺が部下に伝わることはなかったようだが。

 

執行官としての仮面にあれほど感謝したことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今こうして言葉を交わすことに至上の感謝を抱いている。

 

「....何をそんなに驚いているんだい。兄が妹の安否を心配するのはそんなに可笑しいか?」

 

「....。」

 

妹は驚いたような表情をしている。

それまでタルタリヤを恐怖の対象として認識していたのか、それともただ単に乱暴な性格だと認識していたのか。

少なくとも穏やかな認識ではないのは確かだった。

 

しかし、それも変わったようだ。

 

「...やっぱり、軽策荘に運んでくれたのは兄さんだったんですね。」

 

エレーナの中で疑念が確信へと変わった瞬間だった。考えてみれば当然なのだが、エレーナは『公子』とばったり会ったあの日、あの瞬間には既に余力など残されていなかった。であれば、必然的に自身を軽策荘まで運んでくれた者がいるはずだった。

 

それが兄であると、エレーナはなんとなくだが察していた。

 

それでも記憶にある狂気とあまりにもかけ離れた優しさに、理解を拒んでいたのだ。しかし、こうして目の前で兄の暖かさを知った以上、『兄に命を救われた』という推測は事実としてエレーナの腑に落ちた。

 

であれば、胡桃が私の居場所を特定出来たのにも納得がいくというものだ。

 

恐らくは鍾離が居場所を教えたのだろうが、その鍾離に情報を渡した人間こそが兄なのだろう。

彼は鍾離という人間をある意味で信頼している。

 

全てを見透かしているわけではないが、それでも情報を話すほどには彼という一個人の持つ道徳を信じているのだ。

 

....なんだかいきなり斬りかかったことが更に申し訳なくなってきた。

 

「あれから、体調はどうだい?」

 

「はい。璃月には親切な人たちがたくさんいらっしゃるので、その方々に助けられました。傷の手当てから飲食、着替えの面倒など何から何まで...感謝してもしきれません。」

 

「...そうか。安心したよ。エレーナは人見知りだから、全部自分で抱え込もうとする節があったけど、大丈夫そうだね。」

 

彼なりに私のことを案じてくれていたのだろう。でなれば、今私がこうして御体満足に立てていることへの説明がつかない。

 

スネージナヤの使節であり執行官の一人である彼が本気を出せば、私のような小童なんて小枝同然にへし折れるだろうし、そうせずとも数で制圧することも可能な筈だ。

 

しかし、そうしないということは......思い上がりでなければ、つまりはそういうことなんだろう。

 

.....まぁ、ただ戦いたいだけっていうのもあるんだろうけど。

 

あと、人見知りは余計だ。

 

 

 

全く........本当にわかりやすくて、単純な兄さん(ひと)

 

あらかじめ事情を知っていなくとも、その心中を測るのは簡単だったのかもしれない。

 

 

 

「....『神の心』を、探しに来たのでしょう?」

 

「...何かのおもちゃの話かい?俺がおもちゃ工場の話をしたのはだいぶ前のことだ。残念だけど、テウセルへの手土産は」

 

「神の遺体の前で話すことなど、一つしかない。兄さんもわかっているのではないですか。」

 

「.....。」

 

『公子』は内心かなり動揺していた。彼が璃月に来たのは岩神モラクスの『神の心』の奪取のためであり、黄金屋に足を運んだのは璃月七星が黄金屋に『神の心』を持った神の死骸を隠していると察知したからだ。

 

普段は血湧き肉躍る戦いに特化し、それを求めている彼は、いわゆる陰謀や策略と言った遠回りで陰湿とも言える手段をあまり好まない性質にあるし、本人もそれを自覚している。

 

闘争にこそ生の本懐を見出し、常日頃からそれらを渇望し、歓喜するその様はまさに悪鬼か魔王の類であり、見る者全てを震えさせる。

 

ただ、流石は執行官というべきか。『公子』は戦いのみに長けているわけではない。無論、能力としては戦闘力における割合の方が勝るのは事実だが、その実裏での工作も必要とあらば躊躇わず行うし、それを行うだけの素質を兼ね備えている。

 

本来実行予定だったプラン決行に乗り出した彼は、必要最低限の人数に情報を共有して動き出した。ファデュイが組織単位で動き出したことは、いずれ七星にも察知されるだろうが、それは今ではない。

 

事実、ここに至るまでの道のりで、彼が千岩軍の兵士に見つかることはなかったし、際立った罠もないようだった。

 

 

 

 

だと言うのに.....今彼の前に立ち塞がっているのは七星でも、千岩軍の兵士でも、旅人でも、同じファデュイでもない。長年行方をくらましていた妹がそこには立っている。

 

『神の心』という褒賞を背にしながら

 

「.......。」

 

「.......。」

 

 

沈黙が走る。

 

金属特有の金臭さが鼻腔を刺激しているのがわかる。自分が何処に立っているのか、何をしているのかを再度理解する。

不自然なほどに研ぎ澄まされた五感に、今自分が恐ろしい存在を前にしていることを自覚する。

 

視界に映る兄はいつの間にか仮面を付けていて、先ほどまでとは違う雰囲気を纏っている。

 

私が『神の心』について言及した辺りから、圧が増した。

 

私を任務の遂行を妨げる外敵だと認識したのだろう。

 

今目の間にいるのは、執行官第十一位『公子』だ。

 

「そこを退いてくれないかな。エレーナ。俺は今"ファデュイの執行官"としての責務を果たすためにここにいるんだ。つまり、わかるだろう?」

 

少しだけこちらに近づいてくる。

 

右手を差し出すようにしてこちらに伸ばし、警告を飛ばしてきた。

差し出したその右手は、何かを欲するかのような形をしている。

 

「...そうですね。『氷の女皇』が望む神の心....それの奪取は執行官の責務ですし、その為なら貴方たちが手段を選ばないことも重々承知しています。」

 

「なら...。」

 

「それでも私は、貴方を............止める。」

 

そう言いながら腰に引っさげた双剣を抜く。

 

ドラゴンスパインで採取した星銀鉱石を基に磨き上げられた刀身は、薄い蒼色に輝いており、何物にも染まらぬ様を想起させる。しかしそれは孤独から成るものではなく、高貴さゆえの孤高であり、蔑みや穢れとは異なるものだ。

 

私とは違う純白に近い蒼。この剣を見る度に、この相棒を見る度に想起する故郷の寒空。ドラゴンスパインに似た純白の景色と、血の匂いがする巣窟。これを抜く度に私は私でなくなる覚悟と誓いを立て、内なる恐怖を押し殺す。

 

正直言って、毎度頭がおかしくなる気がしてならないし、出来ることならこの双剣は抜きたくない。でも、その程度の苦痛でこれまでの過ちに向き合い、兄さんに対する贖罪になるのなら屁でも無い。しっかりと顔を見て覚悟を決める。

 

 

「『公子(あなた)』は私が止める。」

 

 

覚悟と共に言葉を盛り付ける。

 

 

「貴方の手は既に血で染まっていますし、今だって何か大きな騒ぎを起こす算段を立てている。そんな危なっかしい兄をほったらかしに出来る妹なんて存在しません。もしそんな恥知らずで薄情な妹がいるのだとしたら....そんな愚か者、家族を名乗る資格はないんです。」

 

貴方を見る度に家の中での光景が脳裏に浮かぶ。年相応に無邪気なテウセルや、可愛いトーニャ....みんな、みんな暖かい家族で、私の親愛なる人たち。

 

日々、寒さに見舞われながらも、その寒さを溶かす程の親愛で笑いながら過ごしたあの時間....テイワットの不気味さに怯えながら、みんなの優しさに甘えていたあの時間は、とても心地よくて、居心地が悪かったものだ。

 

...我ながら矛盾していて、わがままな感想だけど、確かに大事に思っていた時間だったし、だからこそ今でもこうして縋り付いている。涙も流すし悲しみに暮れる。

 

けど、それじゃ前に進めない。

 

もう戻れないと悲観するのは簡単だけれど、それじゃあまた胡桃に怒られちゃうから...私は開き直ってでも進まなくちゃいけない。

 

 

 

....なんか、情けないなぁ。

得物を構える度にこんな感じでメソメソしてるんだから、せわしないしつかれちゃうよ。

 

「だから、これから貴方を邪魔するのはただの小娘です。優しい兄を裏切り、家族を放置し、自らの保身に走った間抜けです。そして、そんな間抜けの前にいるのは、前もって立てた策略を『面白くないから』なんて個人的な欲求的価値観から放り捨てて、闘いのために刃を抜くただの馬鹿です。もう一回言いますね。馬鹿なんですよ、バカ。」

 

「...ば、バカ....。」

 

「..........ふふっ。」

 

思わず、何年かぶりの笑顔を浮かべる。かつての冬国のとある暖炉で浮かべたような、暖かな笑みを。

 

やっぱり思った通りだ。執行官としての圧力をかけてきたところで、その根幹にある部分は変わっていない。

 

本当に可愛らしい(ひと)だ。

史上最年少で執行官になったって言われて敬われているけど、その心では年相応の青さを残している。

 

策略で人を嵌めるよりも、自分の好きな闘争で正面から叩き潰すことを好むわかりやすいヤンチャ者で、それでいて、弟たちを楽しませるために料理やおもちゃ選びを覚えて、なんだかんだ上官として部下の人たちの面倒見がいい、そんな兄さん。

 

不器用だけど、ヤンチャだけど、()()()()()()()()()()()()()()()...それでも私の、私たちの尊敬する強くて頼もしい兄さん。

 

貴方は誰にも止められないしきっと止まる気もない。

 

私の見えないところで、沢山の人を殺めているんだと思う。

 

でも私が何もしないのはもっとありえない。貴方から逃げた責任として、友達に背中を押してもらった身として、暴れん坊を止める義務がある。

 

だって、家族だから。

 

そう考えながら手のひらを剣の柄にかけて握ると、いつの間にか滲んでいた手汗が緊張を自覚させた。あぁ、やっぱり恐怖はまだ残ってるみたいだ。

 

そんな動揺を覆い隠すように息をつく。

 

深呼吸をしてコンディションを整えて、いつも通りの愛剣を構える。

 

あぁ....兄さん。ごめんなさい、いらない心労をかけることになってしまって。

 

こんな方法でしか本音を語れない愚昧を許してください。

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『冒険譚の主役(アヤックス)』なら、こんなのお安い御用でしょう?』」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハッ!言うじゃないか。.......そんな情熱的なお誘いを受けたら」

 

 

 

 

 

 

叩きのめ(リード)してあげるしかないねぇ!!!!!」

 

 

ドゴォッ!!!!!

 

 

黄金屋に凄まじい轟音が響き渡る。

 

テイワット史上最大級の兄妹喧嘩が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

----------------------------------

 

 

 

 

 

 

雨雲が漂い始めた璃月の空は、これまでの活気が嘘のように澱み、灯りを塗りつぶし、不穏な気配を醸し出している。

 

荷物を纏めて宿に向かう者も居れば、店頭用の雨具で一時の悪天候を凌ごうとする者もいた。

 

まさに商魂逞しい璃月の商人ならではと言わざるを得ないが、この判断はこの時ばかりは過ちであろう。

 

 

孤雲閣に沈んでいた"彼"が目覚める。

暗雲が立ち込め、雨が降り、次第のそれらは勢力を増して嵐へと変貌する。

通常ではあり得ない程の渦が天に向かって渦巻き、"彼"と共に璃月港へと押し寄せる。

 

 

話し合う男女が一組。

 

片方は随分と大きい背丈を持ち、姿勢も良い。

体幹がしっかりと保たれていることから、かなり若々しい人間だということが推察出来る。

男の一つ結びにされた長髪もその推察を助けている。

 

が、その背格好に反して、男から発せられる妙齢似つかわしくない年老いたような雰囲気がそれらを否定する。

腕を後ろで組み、静かに孤雲閣の方角を見つめる様は正しくかの岩の神を思わせた。

 

その男の隣にいるもう一方の人間、こちらは少女だが、こちらも特有の気配を宿している。

少女は黒を基調とした服に身を包み、頭には少し大きな『乾坤泰卦帽』を被っている。その大きさの差異ゆえに違和感を覚えそうになるが、不思議と少女にはこの帽子は似合っているようだ。

 

ヒラヒラとした衣装が、飄々とした性格の彼女に溶け込んでおり美しい。

 

男の背丈も相まって、少女は男の孫子なのではないかと思うほどの身長差であるが、むしろその逆であり、男が少女に雇われている側の人間となっている。

 

往生堂の主人とその部下である客卿

 

その上、今この瞬間においてはその立場に更に開きが出ているようで....男には心なしか脂汗が滲んでいた。

 

「良かったのか、堂主?彼女を行かせてしまって。」

 

男がそう言うと少女は少し間を作ると、重々しくため息を漏らした。まだ幼い少女であると言うのに酷く疲れ切った様子であり、男もかなり容体を心配しているようだ。

 

対する少女はというと、また別の誰かを憂いているようだが。

 

「...そりゃあ心配だよ。正直言うと、今すぐにでも連れ帰ってしまいたいくらいにはね。.......けど、初めてなんだ。あの娘が私に"お願い"をしたの。」

 

「...。」

 

「はぁ~....。」

 

少女はまたため息をついた。

見るからに疲れが蓄積していて、これまでにどれだけの重責に追われていたのかが滲み出ている。

 

ただ、同時にやり切ったような満足感も溢れ出ており、それが彼女がまだ元気溌剌な少女であることを示していた。

 

「ずっと、ず〜っと我慢してばっかりだったエレーナが、ようやく自分のやるべきことを見つけたって言ったんだよ。なら、親友として応援するのが筋じゃない?」

 

「...あぁ、そうだな。」

 

「けど」

 

胡桃はそう言うと鍾離の方へと顔を向けた。

 

鍾離も同様に彼女の方へと目を向けたが、視界に映ったのは怪訝な表情をした堂主(上司)だった。

 

彼女は眉を顰めて目を細め、まるで獲物を仕留めんとする蛇のような瞳孔を向けながら次のように言い放った。

 

 

 

「あの娘を泣かせたこと、まだ根に持ってるからね。」

 

 

 

鍾離は柄にもなく、身震いをしてしまった。肌に張り付く脂汗の割合が急激に増加するような感覚を覚える。

 

岩の神『モラクス』は実に齢六千を超える長寿の大魔人であり、同時に一国の主人という立場を持つ一時代の行人の一人であるが、そのような男でも恐怖を抱く存在がいた。目の間の存在こそがまさにそれである。有無を言わせんばかりの彼女の凄みは、いろいろな意味で男を戦慄させた。

 

それが生死の概念を生業とする者ならば尚更だ。

 

 

「.....すまない。それについては俺の配慮が足りなかった。無遠慮な接触で彼女を追い込んでしまった....。」

 

 

思わず咄嗟に言い訳をする。

いや、負い目を感じているのは事実だが、

 

「つーんっ。」

 

すねる胡桃は取り付く島もないようだ。

 

「...帰終、俺は今これまでの生涯で一番の佳境に立たされているのかもしれない。」

 

今は亡き友人に向けて弱音を漏らす。

 




はたまた投稿が遅くなりまして、申し訳ありません。

執筆作業は欠かさずしておりまして、なんなら毎日書いています。

まぁ、納得できず消して、また書いての繰り返しですが....。

誤字も多いですしね。

...ただ、気付いてしまったんですよ。

「読者の皆さんが添削してくださるじゃん」と

ということで、ヨシ。(嘘です誤字報告いつも助かってます読んでくださってありがとうございます)
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