リリンの揺藍 -泡沫の記録-   作:玲理 星光

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なんか2万文字超えた…
アサヒ目線書いたら本編(荒野の国のアリス)超えそうで怖い。

それはともかく、今回の主人公はステラです。
ヴァンパイアに愛され、自身もヴァンパイアに…のはずだけど別に今回はそういうの関係ない!!

ページ分け初めてしたよ…とりあえずアサヒちゃんがキャラ崩壊してたら申し訳ないけどここから加速するぜ☆

あとハーメルンへの投稿めんどいからいいや(は?)

とりあえず今回も誤字脱字漢数字もろもろ大目に見てください…!確認がめんどい!!

ーー訂正ーー
2023/06/21 01:08:35)newpageのままだったぜ


第1幕 一話 〈屍の中で〉

バイオハザード。

生命の危機と言われるこの単語は、研究所ではとある意味を持つ。

〈検体流出〉。

まさか、そんなことに巻き込まれるとは思いもしなかった。

 

俺の名は玲理(レイリア) 星光(ステラ)

イザナギ帝国軍第二特務隊 通称アルカディア、戦闘隊〈朱風〉所属。

要するに特別な部隊所属というわけだ…が特別という事ではない。

ただ、俺の体質が特殊だから配属されたにすぎない。

俺は、ヴァンパイアだからだ。後天性ではあるけどな。

 

それはともかく、ある日の事。

俺は書類仕事をしていた。実のところ、軍隊は戦うだけと思っているかもしれないが実態は書類も敵だ。

ま、俺は体を動かすよりこっちがいいけどな。ちなみに所属する朱風隊はヴァンパイアを中心として組まれた歩兵師団だ。その体質から戦闘技能に優れた者が多い。俺は優れているとは思わんが。

黙々と書類を片付けていた時、背後から女性の声が聞こえた。

 

「ステラ、電話なの」

 

その声の正体は朱風隊の隊長、天音(アマネ) 流朱(ルシ)

そして俺の妻。と言える。

 

「電話?なんで俺に…」

 

ルシは微笑み言う。

 

「多分大事なことかは分からないけどユウからなの」

 

ユウ。

その名が示すのはただ一人。

特務隊アルカディアの戦闘を司る戦闘隊の隊長にしてアルカディア副司令官。

〈ユウ・アクスレナード〉。

俺の友人でもある。それを聞き電話を取った。

流れた声はいつも通りの優しいが少し子供っぽい声だ。

 

『やっほー、暇?』

 

開口一口目がそれかよ。まあいつもの事でもある。

 

「目の前に大量の紙さえなければな」

 

笑いながら答える。事実だし。

それを聞きユウは少し笑った後に言ってきた。

 

『ふふ、だろーね。ステラ、書類は他の人に任せていいからちょっと来てほしいんだけど』

「なんでだ?第一そこまで指揮権は無いだろ」

 

と答えつつルシにアイコンタクトで伝える。夫婦関係だしヴァンパイアだし捉え方によっては俺はルシの眷属、アイコンタクトぐらい朝飯前だ。ルシは答える。『私があとやるから行ってきていいよ』とのことだ。

 

「…まぁ、分かった。724棟前に居ればいいか?」

『うん、行くから待ってて』

 

そうして電話は切れた。

俺はどうせ外に出ないと思ってラフな格好をしてたがすぐに着替える。

本当は軽装戦闘服、つまりまぁ、いつ攻めてこられてもいいようにすぐに戦える服を着るべきなんだが、まず戦うのは機動警戒班(アンドロイド達)だ、着替える時間ぐらいある。…が外に出るならしっかり着ないといけない。

腰には自動拳銃と弾薬も付ける。ユウの護衛も兼ねる以上装備は必要だ。

 

ーー

 

電話より数分後、外に出た。

迷彩状の戦闘服を着てだ。

同時に車が止まった。青を基調とした車、あれはユウの運転する車だろう。司令部に置いてある軍用車だが。

 

「ステラ!待った?」

 

車から降りたのは水色のポニーテールの少女だ。

しかし人間ではない。いや、正確には人の脳を持ったアンドロイドというべきか。

ま、元は人間だし、無理やり機械の体に変えられたんだ、拒む理由はない。

 

「全く?むしろ待たせたかと思ったさ」

 

よく見るとユウは軍用制服を着ている。黒を基調として赤と金を使った素朴だがかっこよくまとまっている服だ。

 

「私も今来たところだよー、とりあえず後ろ乗って!」

 

と言われて後ろを見る。

もう誰か乗ってるんですが?

よく見ると10代の後半ぐらいか?

そう思いつつも後部ドアを開けて挨拶をする。

 

「…隣、座っていいか?」

 

その少女は、まるで野生児のように伸び放題の髪の毛にボロボロの服、目は生気を感じられず、少しだけ見える肌を見るだけでも生々しい傷が見える。しかも何かに嚙まれたような傷だ。

その第一印象は、映画や創作で見る生きる屍…ゾンビだ。

そんな少女は答える。

 

「いいよ」

 

そう言われたので「それじゃ失礼」といい横に座る。すぐさまその少女は腕に抱きついてくる。よほど恋しいのか?そりゃユウの体は機械だが一応人間だぞ…。

 

 

車が走り出す。この車は機械人形直接続機構…つまりユウの体と接続して思うがままに動かせる優れもの、しかも情報が直接脳に来るときた、後ろに座っている俺らを見つつ頭で操縦している。俺じゃ無理だな。

 

「…で、とりあえずこの子は誰だ?また養子でも取ったか?」

 

こいつ(ユウ)は養子を一人取っている。その養子のさらに子4人、夫2人と暮らしているもんだから苦労は凄いだろうに…そう思った。しかしユウは首を横に振る。

 

「な訳ないでしょ?この子は帝国軍として引き取った子だよ。名前はユメミヤ アサヒ」

「ユメミヤ?」

 

ユウは紙に書いて見せる。

<夢宮 朝陽>。それがこの子の名前か。

 

「アイギスからの要請で帝国としてこの子を引き取ったってわけ。詳しくはこれを見て」

 

アイギス、帝国の同盟国だ。正確に言うとこの帝国がある世界とは違う世界…全く違う次元の所だ。

簡単に言うと別空間と言えばいい。お互いいい関係を組んでいる相手の一つだろう。

ひとまずはもう一枚の紙を受け取る。

そこにはアサヒの詳細が書かれていた。

どうやら帝国ともアイギスとも違う世界の出身らしい。また、不明な症状も多く、こっちが得られた情報は少ないようだ。しかし、人間ではありえない治癒力を持つようだ。

そもそもアイギスはこういう子を育てる環境にあるのか分からない。ま、引き取ったってことはこっちのほうがいいと判断されたんだろう。

それにしてもこの子は苦しい思いをしたのか…と、紙の最後に日記の写しが書かれていた。

ユウの追記付きだ。

 

――――――

「3月6日(火)

お母さんがゾンビに食べられた、お父さんのかえりをお家で待ってたらきゅうにかべがばーんって爆発して食べられた、お母さんが持ってたじゅうってやつでうった、お父さんに伝えたらお父さんがないちゃってた、お母さんを守ってあげられなくてごめんなさい」

 

(文より恐らく一年後と予想される)

「3月6日(月)

今日、お父さんだったものを見つけた、誰かにうたれた?みたいなあとがあった、お父さんの持ってたリュックをもらうことにした、あと近くにへんな男がいたからうった、お父さんが前言ってたかたきってやつを取れた、きょ年の今もお母さんがいなくなった日だった気がする」

 

(文より二年後と予想)

「12月25日

今日はクリスマスだ、日記を書くのも2年ぶりのあの日以来だ、あれから大人の人を探して集落を見つけた、そこで大人の人に匿ってもらい、日記を書くならということで字の書き方も教えて貰った、色々な事を教えてもらったから恩返しをしようと思う」

 

「(日付は書いていない)

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

(経過年数予想不能)

「4月17日、曜日は忘れた

あれから何年か経過した、恐らく私と…私のお友達を除いて人類は絶滅したと思う、私のお友達のるーちゃんは去年道端で倒れていたから介抱してあげたらお礼ということで着いてきてくれるようになった、るーちゃんに今日私が誕生日だと伝えると頬にキスをしてくれた、生きていてよかったかもしれない」

 

――――――

 

まだ先に少し日記は続いていたが、俺はそれを見ることが出来なかった。

…この子は、創作のような世界、屍がはびこる世界で必死に暮らしていたのだ…俺じゃ無理だ。

 

「…大丈夫だからな。」

 

アサヒの頭をなでる。

別世界に基本的に帝国は介入できない。

その世界がこの世界とどう繋がるか分からないからだ。

アイギスは言わば世界と世界を繋げる大樹の上にあるようなもの、全てに属さないから深い交流が出来ている。

つまり…アイギスが無ければこの子は救われなかった。

そう思うといつの間にか、なでていたという方が正しい。

 

「いいか、この世界にはお前を蝕むものは無い。だから安心してくれ」

 

アサヒは俺の腕を強く掴みつつも答える。

 

「…うん」

 

やれやれ、それなら帝国が引き取ったのも納得だ。

魔導科学が進んだこの世界ならどうにか出来ると考えたのだろう…にしてもだ。

 

「ユウ、どこに向かってるんだ?」

 

いつの間にか車は森の中を走っていた。道路はあるがあまり通らないのか道は少しでこぼこだ。

 

「もうすぐわかるよ」

 

ーー

 

十数分後。

俺はアサヒと打ち解けたと思う。多分。

そして車の前には鉄の門が。

そして看板にはこう書かれていた。

<伊邪那岐帝国軍 第参研究隊 七宮研究所>。

帝国の生物学的な研究・開発を行う第三研究隊の研究所か。

警備も厳重だな、20mm機関砲でも貫通が出来ない重防弾アーマーにヘルメット、武器はアサルトライフルに加えて擲弾発射器(グレネードランチャー)、手持ち式の小型対装甲噴進砲(ロケットランチャー)を背中に背負っている。中にパワードスーツでも着てるのか?

更に頑丈そうな鉄格子の奥には機関銃を装備した装甲車が待ち構えている。ここまでやるかよ普通。

そしてこの車は中に入れないようだ。車を降りて警備兵のいる門へ向かう。

 

「第二特務隊所属、ユウ・リリンです」

 

俺も身分証を見せながら言う。

 

「同じく、玲理 星光です」

 

警備兵は敬礼しながら門を開ける。

こう見えても俺は大尉、ユウに至っては少将だ。まぁこんな俺が大尉なのはおかしいと思うけどな。とは言っても大尉の前には特務という文字が付く。実際は特務隊内でしか通用しない…はずなんだがな。

とにかく重そうな門は開いた。

 

「さ、こっちだよ」

 

明るくユウは中に入る。

アサヒの健康診断でもやる気か、ここに来る理由それしか分からん。

そして腕を引っ張るユウ。

 

「分かってるから行くから落ち着け!?…ま、行くぞアサヒ」

 

全く、これじゃ俺が父親みたいじゃないか。

 

 

 

そして来たのは地下10階。深いな。

更に厳重な複数の扉の奥に目的地はあった。

<第一研究区画 第一室>。

ここの所長がいる所だ。

シェルターになっているのか、それとも危険な物を閉じ込めるために厳重なのか、そこまでは分からんな。

中に入ると1人の女性が後ろを向いていた。30代と思われ、髪は黒のロング、服装はそれこそ研究員らしい白衣だ。

俺らが中に入るのを足音で知ったのだろう、振り返り言った。

 

「遠路お疲れ様。よく来てくれたわね」

 

ユウは敬礼する。同じく俺も敬礼する。少なくとも俺よりは階級は上、敬礼するのが当然だろう。

 

「お久しぶりです、中将」

 

ユウは知っているのか…と思ったところで白衣の女性が言う。

 

「ステラ…と言ったわね?玲理(レイリア) 星光(ステラ)技術大尉」

 

流石に調べておいていたのだろう。名前を呼ばれても流石に驚かない。

 

「はい」

 

と一言返事する。女性は微笑み言った。

 

「そこまで緊張しなくともいいのよ?私はローク・イークフォス、ここの管理ととある研究をしているわ」

「とある研究、ですか?」

 

疑問に思い聞く。ロークさんは続ける。その手に数枚の書類を持ち、それを俺らに渡しつつ。

 

「ええ。これを見て頂戴」

 

そこに書かれていたのは第一特務隊である<探窟隊>…まぁ遺跡を帝国軍として探索する部隊、その第4部隊が全滅したという報告だ。総勢400人越え、1人を残し全滅後その1人も死亡した…という話。全滅原因は落石でありその1人は報告後すぐに死んだと言う。不運だなとは感じた。

アサヒは俺の腕を掴んだまま見上げている。可愛い。

そして読んだのを確認しロークさんは言い放つ。

 

「これは隠蔽され発表された嘘、本当は2枚目よ」

 

紙をめくる。……そして俺は驚愕…いや恐怖すると同時にこの話はアサヒには聞かせられないと確信した。

理由は簡単、報告書の題名は『死亡者アンデッド事案』であったからだ。

この世界にはいわゆるウイルスによるゾンビは居ない…はずだが、魔物としてのアンデッドなら存在する。基本的に生命力が弱い者のみが噛まれたり体液をかけられてアンデッド化する…はずだが。

とにかくこの話はアサヒには聞かせられない。トラウマをえぐる訳にはいかないからだ。

ロークさんとユウに言う。

 

「…俺とこの子(アサヒ)は席を外したいです」

 

ロークさんは少し申し訳ない顔をした。

 

「…そうだったわね、配慮が足りなかったわ。奥の監視室なら私達の声も聞こえないはずだから、そこに行って大丈夫よ」

「ありがとうございます」

 

俺は一礼した。そしてアサヒに言う。

 

「俺らは少し別の所に行こう」

 

アサヒは「…?うん」と疑問に感じながら…だと思うが、2人で監視室に行くことが出来た。

 

 

監視室はまさに監視室だった。

何を当然な事を…と思うかもしれないが、数枚の埋め込み式スクリーンに数台のパソコン、そのうち1台には、

 

――第3発電機 オフライン

――第28送電網 クラス3異常

 

とか言った赤字や白字の文字が表示されていた。恐らく研究所内のデータを集約しているのだろう。

俺はその画面の前にある椅子に座り、アサヒはその隣の椅子に座る。まぁまぁ快適だ。あとはクッションが欲しい…とは傲慢でしかないな。

 

「…それにしても、アサヒはこんな訳の分からないところに来て怖くないのか?」

 

俺としては当然の思いだった。俺なら怖いな。

しかしアサヒは首をブンブン振り言った。

 

「全然怖くないよ。ここにはユウやステラがいるから」

 

もう呼び捨てか、俺としては嬉しい事だ。頼られているともなれば尚更だな。

 

「そうか…」

 

ふと落ち着いてアサヒを見る。そういえばユウが焼けた2連装ショットガンを持っていたな。それと同じように、激戦を戦い抜いた形跡のあるリボルバーが腰にしまわれていた。形状からして多くて6発程度だろう。

その前の方には数本のナイフがしまわれている。しかし独特だ。真ん中で刃が曲がっている。後で知ったことだが、これをククリナイフと呼ぶらしい。

…これで戦ってきたんだな、お前は……

 

「…戻るときに何かおごってあげるからな。肉でも野菜でも――」

 

と、その時、警報が鳴った。

すぐに画面を見る。

 

――重大:D19 漏洩

――重大:D20 漏洩

――重大:バイオハザード

――重大:各ブロック自動封鎖

――重大:第2ブロック強制解放

 

ログが止まらない。続けて第3ブロック、第4と解放されていく。

だがこのシステムは特務隊(いつも)のシステムだ、管理システムを呼び出せば!

 

「アサヒ!ユウ達を呼んできてくれ!」

「わ、わかったっ!」

 

管理システム起動…よし。

 

――情報:管理システム起動

――――SYS:> |

 

管理システムは全てのシステムを操作できるはずだ。ここのブロックの管理権を固定すれば…

しかし、遅かった。

 

――重大:第1ブロック強制解放

 

だが、この部屋だけは管理権を渡さない。そのためにも切断するしかない。

 

――SYS:> sudo sysc downnet N1net * |

 

急いでコマンドを打ち込みenterを押す。

 

――重大:切断失敗

――情報:第1管理室の接続切断に失敗

――情報:第1研究室の接続が失われました

 

…間に合った。どうやらこの管理室の接続は切れないようだが、部屋だけは助かった。続けて入力する。

 

――SYS:> ref

 

問題はまた接続してくることだが…その心配はなかった。無数のログが流れるが、その中に目的の行があった。

 

――情報:第1研究室に接続できません

――重大:第1研究室ネットワーク接続不能

――情報:直ちに向かい、再起動をしてください。

 

研究室は今、スタンドアロンで稼働を始めた。切断されたらわざわざ再起動をかけなければならない、面倒なシステムが功をなした。この管理室だけは無理だったがな…

 

同時にロークさんとユウが来た。

ユウは俺の行動を見て「さっすがステラ」と呟いた。

俺はロークさんに言った。

 

「申し訳ありません、本官の勝手で研究室のシステムを切断しました。外部からは接続できません」

 

ユウは俺の味方をした。

 

「中将、私はステラ特務大尉の行動は正しいと思います。敵のシステムへの攻撃の可能性がある今――」

 

ロークさんはその言葉を遮り言った。

 

「少なくとも行動は正しいと思うわ。いや、そうでもしなかったら今頃私たちは死んでたわね。でも…これは内側からの攻撃よ。大尉、漏洩個所は?」

「デルタ19及び20です」

「…それは事実?」

 

俺は端末を操作してその個所を見せる。ロークさんは…顔が真っ青になった。

 

「直ちに警備室を呼び出して」

 

しかし、その前にアサヒが叫んだ。

 

「あれ…!!!」

 

それは監視カメラの映像だった。

映っていたのは…地獄でしかなかった。

人が人を食らう場面…創作上でしか見たことのない地獄が繰り広げられていた。

銃を持つものは手足に撃ち込む。しかし止まらず…そして生きる者は居なくなった。

ロークさんが呟く。

 

「ウイルス型アンデッド汚染…」

「…まさか、あの事案は…ウイルスによるものですか!?」

 

俺がそう聞くとロークさんはうなずく。

 

「ええ、私たちはこれを荒神ウイルスと名付けたわ。そして…ユウ少将が送ってくれたサンプルで確信したわ。その子(アサヒ)は…感染者よ。何かの薬で押さえつけられているようだけど。」

 

俺とユウはアサヒの方を見る。

…そうきたか。ロークさんは続ける。

 

「荒神ウイルスの解析はまだ終わってないわ。本当はここで精密検査を行う予定だったけど…あと作れるのは第二研究隊…つまりあなた達の部隊しかないわ」

 

と話していた時、警備室に動きがあった。

噛まれて死んだ者が、動き出した。

アンデッドとして。

 

「症状とかについてなら解析は終わっているわ」

 

紙を渡される。

 

これについてまとめるなら、信じられないという事だろう。

感染経路に至っては絶望しかない。空気、水、接触に皮膚からも、考えれるすべての感染経路で感染は広がる。防ぐのには防護服にガスマスクしかない。

症状としての第一段階においては感染源、例えば傷口にウイルスの司令部…要するに感染したウイルスのうちどれかが定住して他のウイルスに命令を下すのだろう…が生成される。その間にその個所を切除すれば問題は無いらしいが…残念ながらそれは難しい。もし噛まれたとしたらそのウイルスは血液に乗り各部に感染するだろう。その時点で切除は実質的に不可能になる。そして…第二段階に入るまではそう長くない。せいぜい触れた場合だろうか、防げるのは…

第二段階に入ると全身に痒みが走り、同時にアンデッド特有の治癒力の上昇が確認される。同時に司令部からウイルスの生成および感染が開始される。ここまで来ると完全に治すのは不可能だろう。的確に感染部分を切除することは出来るのか?その間にも増えると考えると…無理だろう。

第三段階では痒みは収まり、ある程度の部位破損…普通では治らない大きな傷口ですらも即座とはいかないまでも回復するようになる。ウイルスは各部に定着、ウイルスを生成しさらに各部へ感染を広げる。

そして第四段階まで進行すると、もはや落ちた腕をくっつけるだけで治ってしまうほどに治癒力が高くなる。同時に定期的に吐き気、めまい、言語障害などが見られる。ウイルスは残りの人としての臓器を破壊、最終的には死へ誘う。そして第四段階ではもはや頭を撃たなければ殺せないだろう。

第五段階へ進行すれば…そいつはもうアンデッドだ。人間性を喪失し、他の人へ襲い掛かる。

アンデッドを殺すためには頭を破壊し、最初の感染源となった司令部も破壊しなければ殺せない。頭だけでは死なないとは、恐ろしい。ましてその司令部が複数あれば破壊は容易ではない。まさに荒ぶる神(アラガミ)、か…

 

「…アサヒが感染者としたら、俺らは感染してるのでは?」

 

そういうとロークさんは答える。

 

「普通ならそうなるわね。データからして彼女は第四段階の初期から中期と予想され、既にウイルスの散布が始まっているはずよ。でも…変異したのか、他へは感染を広げないようになっているようなの。それともアサヒの力かもね…」

 

本当にアサヒは凄い子だな…と感じたが、問題はここからどう脱出するかだ。

ユウが聞いた。

 

「外部へ通信をすることは出来ますか?」

 

ロークさんは首を振る。

 

「ここからだと無理ね。研究所のほぼ全体が通信や電波を遮断する物で覆われてる上にすべてのシステムは外部に繋がってないわ。ただ…」

「ただ?」

「緊急時に作動させる外部接続システムさえ起動してしまえばここから救援を呼ぶことも出来るわね。一応武器もそこにあるはずよ」

 

と、再度警報が鳴った。

 

「…第一区画の防壁へ攻撃が…?」

 

カメラ映像を見ると警備兵のアンデッドが防壁へアサルトライフルを撃っていた。跳弾はしているが、削れたりへこんだりして突破されるのは時間の問題か。

決断するしかない。

ユウは一応ある程度の武装を積んではいるが、大量のアンデッド、しかも武器を扱うときた。ユウだけは生還できても俺らが生きれるかは分からない。多分、無理だ。

 

「外部接続ポイントはどこですか?」

 

俺は聞く。

 

「ここから500m離れた第一区画内の部屋にあるわ。でもアンデッドは既にいるでしょうね」

 

方法は一つしかない。なら…

 

「俺が行きます。ユウは万が一に備えてアサヒとロークさんを。防護服は?」

 

拳銃を抜く。ロークさんは考え言う。

 

「…確かにその方が賢明ね。気密防護服はあのクローゼットの中」

 

ユウが俺の隣に行く。

 

「分かったけど、ステラは大丈夫?」

 

俺は心配をかけまいと答える。

 

「そりゃ大丈夫に決まってるだろ、すぐにやってくるさ。アサヒを頼むな」

「私がそもそも引き取ったんだよ?任せておいて!」

 

そして防護服を着る。

対生物兵器用の防護服だろう。分厚い生地に加えて顔の部分はガラス、追加で背中に酸素タンクやバッテリーも背負う。正直少し重い。

耳には通信装置を装備する、これでユウ達と通信が出来そうだ。耳に付けるタイプだから防護服が無くとも使える。腕にはバイタルなどを表示できる端末もある。更には防護服自体にパワードスーツの機能もあるようだ。……つまりこの重量どうなってるんだ??

そしてホルスターと拳銃、予備弾倉を装備する。あくまでも心の支えにしかならないだろうが、ないよりはマシだ。

 

『ステラ、聞こえる?』

 

通信回線で来た。俺は答える。

 

「大丈夫だ、すこし暑いけどな」

 

ロークさんは心配そうな声で言う。

 

『目的地は腕の機械に表示されているから迷うことは無いはずよ。あとは…アンデッドとはやりあわないように、勝ち目はほぼ無いわ。やるとしたら頭を潰して。うまくいけば一時間は止まるわ』

「分かっています。勿論出来るだけ戦わないようにしますよ」

 

気密ブロックへ向かう。普段は通路だが、緊急時は気密ブロックになりウイルスの侵入を防ぐことが可能らしい。

 

『…ステラ、頑張って』

 

アサヒの声だ。俺は少し微笑んだ。

 

「任せておけって、なんとかしてみせる」

 

気密ブロックの扉を閉める。封鎖され、汚染区域(バイオハザードエリア)への扉が開く。幸いにもアンデッドは居ない。よし。これなら…行ける。しかし、ロークさんが笑っていたことに俺は気づかなかった。

 

ーー

 

拳銃を構えながら進む。にしても動きにくい。感染を防ぐためには必要だが、もう少し軽量化出来ないのか。

そう思いながらも目的地まで250m程度というところで音が聞こえた。

唸り声だ。

 

「ユウ、監視カメラでアンデッドが居ないか確認できないか?」

 

返事は早かった。

 

『もうやってる、右の部屋に4体』

 

腕の機械に位置が表示される。1体がドアへ接近している。俺はすぐさま後ろに下がり様子を見る。

……なんという事だろう、そいつは俺に気づいていた。迷わず接近してきた。走ってだ。

ここで銃は使えない。集団で気づくだろう。だが、俺はヴァンパイア、それも上位の血族だ。あまりにも凄い人と比べたら弱いが、一般人よりは身体能力は高い。

 

「とっ!」

 

頭に蹴りを食らわせ、更に回し蹴りで叩きつけ、頭を潰す。相手は動かなくなった…がじきに回復してくるだろう。その前に急いで向かわなくては。

幸いにもその後は会わず、何とか外部接続システムのある部屋に到着した……が、そこにはアンデッドが複数いた。数は6。そのどれもが俺に気づいていた。こうなったら仕方ない。

拳銃を構え、的確に頭を撃ち抜く。なすすべも無く動かなくなる。念の為全ての頭を潰して端末に向かった。

その端末は少し古そうだったが使えそうだ。

通信を開始する。その相手は…アルカディアの司令部だ。

すぐに女の子の声が聞こえる。

 

『こちら帝国軍特務隊アルカディアです』

「ルナ、聞こえるか?」

『…私ユキナだよ!??』

 

通信先の子はユキナ・リリン、オペレーターだ。今の時間はルナ・リリンという人かユキナかのどちらかだ。今回はユキナか。

 

『それにしてもステラさん、どうしたの?』

「第三研究隊の七宮研究所でバイオハザード、極めて高感染力のウイルスが流出して俺らは囲まれている。救援を請いたい。」

『七宮研究所……で囲まれてるって!?大丈夫なの!??』

 

な訳あるか。

 

「大丈夫だったら連絡しないさ。少し待て、情報を送る」

 

腕の機械と繋ぎユウに通信する。

 

「ユウ、ユキナとの接続を確立した。データを」

『了解、データ送信開始するよ』

 

しばらくしてユキナが慌て始めた。

 

『え……本当に大丈夫じゃないんだ……わかった、今から司令部に緊急送る!多分時間かかるけど……』

 

それを通信で聞いていたのかユウが言う。

 

『ユキナ、聞こえるよね?今の隊長代理は?』

『え、えっと…リリさん!』

『なら伝えて。助けてって』

『り、了解……』

 

と、その時、サイレンがなった。ユウが叫ぶ。

 

『防壁がもうすぐ突破される!ステラ戻って!』

 

ちっ、早いな……

 

「ユキナ、頼んだ!」

『えっちょっと――』

 

通信を切る。そういえばこの部屋に武器があると…

振り返ると厳重そうな箱があった。拳銃で鍵を破壊して見てみる。

中にはサブマシンガンが入っていた。なぜ研究所にこんな大ダメージを与えられる武器が…いや噴進砲もあるからおかしくないのか??そしてもう一つ。試作型と思われる魔導式火炎放射器…つまり魔力を炎に変えて放射する奴が入っていた。カートリッジは三つのみか。だがユウと合流さえできれば問題は無いな。

とにかくそれと弾薬を持ち、急いで部屋を出る。さっき頭を潰した奴らが立ち上がってきたからだ。潰すのが浅かったか。サブマシンガンは背負い火炎放射器を構え進む。

前から銃声が鳴り響く。戦い始めたようだ。

そしてそれに気づき向かおうとする無数のアンデッド達。

だが俺の手には…切り札がある。

 

「これを、喰らえ!!」

 

炎を奴らにぶつける。

予想が正しければ燃えて動かなくなるはずだ。そしてそれは合っていた。

正確には節約の為に完全には燃やせなかったから鈍く動くが…そして噛まれたところを守っているようにも見える。司令部を守ってるのか?いや、今はそれどころじゃない!

 

「どけっ!」

 

蹴とばし進む。その先ではユウが内蔵の魔力砲で応戦していた。

俺は片腕でサブマシンガンを構え、アンデッドらに撃ち放す。

全く効いてないが注意を引き付けるのには十分だろう、俺の方に走ってきた。

それが目的だ。

 

「こっちに来い!もう一回殺してやる!」

 

サブマシンガンをアンデッドの足に撃ち込みつつ火炎放射器を浴びせる。

 

「この世界を…アサヒの世界と同じにさせはしない!!」

 

俺らが食い止めなければ、この世界は滅ぶ。

そしてアサヒは死んでしまうだろう。数が多い。だからこそ俺は戦う。

アンデッドの動きが鈍くなり、ついに灰へ変わる。

…しかしサブマシンガンの銃身が焼き付いた。もう使えない。投げ捨てて二つ目のカートリッジを火炎放射器に装填する。

次の敵はすぐ来る。

 

「ユウ!救援が来るまでここを維持する!魔力支援ケーブルを用意してくれ!ロークさんは管理システムを監視してくれ!アサヒは…」

 

と、なんとアサヒはナイフを持ち俺に近づいてきた。

 

「私も戦う。こう見えても数えきれないほどの苦痛を味わってきたんだ、ステラやユウを少しでも助けたいから…」

 

うれしい限りだな。本当は戦わせたくないが…仕方ない。

 

「分かった。だが、俺から離れるなよ」

「うん、わかってるよ」

 

アサヒは微笑む。

方向は決まったな。

 

「ロークさん、ここの向こう側はどうなっていますか?」

『アンデッドが溢れかえっている…としか言えないわね』

 

だろうな…その時ユウが言う。

 

『私の方が階級が上なのに、ステラのその命令に非がないや』

 

俺は少し笑い言う。

 

「現場の意見ってやつだよ。ユウは全体を見て命令してくれればいい、俺は現場で最適な行動をとるだけだ」

 

今は階級も何もない。生きる為に戦う、それだけだ。

 

「ま、俺は行く。またここまで来られたらロークさんも死んでしまうからな」

『待ってステラ、火力なら私の方が…』

 

だが俺には策がある。

 

「ユウはそこで待機、魔導炉を最大出力で動かしてくれ。こいつで一掃する」

 

火炎放射器を見せびらかす。ユウは理解したようだ。

 

『無理はしないでよ。何かあったらアイドリング停止していくから』

「なに、通信室まで行けたんだぞ俺は。安心してくれ」

『…それとは違う気がするけど、分かった』

 

大丈夫、多分。

 

「ま、それにルシを残して死にたくもないからな。任せておけ」

 

そういいユウから伸びている魔力供給ケーブルを火炎放射器に繋ぐ。これで実質的に無限に使える。

 

「よし、行くぞ!」

「…うん!」

 

ーー

 

突破された防壁の向こうはやはり地獄だった。

大量のアンデッド、普通なら諦めるしかない。

だが…それは無理だ。

 

「こいつでやってやる!」

 

火炎放射器を構え、撃つ。

カードリッジに装填されていた魔力とは違う、ユウから供給された高密度の魔力を用いた火炎放射はアンデッドを数秒で灰に帰す。紙を焼くぐらい容易に。

しかしそれでも数体は火炎放射をすり抜け近づいてくる。

そいつらは……

 

「そんな物で私を殺せるとでもっ!??」

 

勇ましすぎるアサヒがナイフで頭を粉砕する。怖い。

しかしキリがない。

倒しても粉砕しても燃やしてもまだまだ出てくる。

まるで全てのアンデッドがここに誘引されているように。

…いや待てよ。

アンデッドは生前の記憶や動きをある程度は維持する。少なくとも俺の知っているアンデッドは。

そして今回は武器を用いるということはある程度の知能は残っているはずだ。

もしかしてロークさんは…

その時、アサヒが俺に叫んだ。

 

「う、後ろ!!」

 

俺が振り向く前に後頭部に強い衝撃を感じた。

一瞬遅れ銃声が聞こえる。

何が起きたか理解する前に2発目の音が聞こえ、同時に防護服の頭…つまりガラス部分が砕け散る。

驚きつつも後ろをやっと見る。

そこには拳銃を持ったロークさんがいた。

逆の手にはちぎれた魔力供給ケーブルが。

 

「ロークさん、何を!?」

 

ロークさん……いや、奴は笑いながら言った。

俺と同じ防護服を着てだ。

 

『もう気づいているでしょ?頭のいい貴方なら』

 

俺の予想は悪い方向にだけ当たる。くそっ、今回もか!

 

「消そうって魂胆かよ…!?」

『当たり。残念だけど木偶の坊(ユウ)の動きは封じたわ。増援を呼んでくれたことには感謝するから大人しくアンデッド(やつら)の仲間になりなさい』

 

そして目の前で防壁が閉まる。

予備防壁があったようだ。

あの野郎、元から企んでいたのか…?

とにもかくにも防護服は使えなくなった。

つまり…どう足掻いても感染は防げない。

 

なら、せめて…アサヒだけは。

 

「アサヒ!ナイフを2本くれ!」

「す、ステラ…」

 

と言いつつも渡される。

そしてそのナイフで…防護服を切りつけ、乱暴にだが脱ぐ。

火炎放射器は使えない。魔力が無いからだ。

だが防護服が無い今、俺の動きを阻害するものも無い。

 

「俺は大丈夫だ、これでも軍人だぞ?」

 

微笑んで言う。

 

「かかってこい、死しても尚戦う者(ぎせいしゃ)。葬ってやる!」

 

――

 

戦って数時間ぐらい経ったのだろうか?

無数の敵を潰しては蘇り、そして潰しての繰り返しだ。

ロークは笑ってみているのだろう。

もはや俺もアサヒも限界だ。

アサヒは噛まれたと思ったら弾いていてそのままやり返す…という芸当が出来るが俺には無理だ。

だからといって負ける訳にはいかない。

が……先に限界を超えたのは俺だった。

一瞬体が動かなくなった。その一瞬が致命的だった。

後ろからアンデッドが迫る。

これで俺も仲間入りか…そう思ってしまう。

アサヒが今気づいたがもう遅い。

だが…ただで死ぬ気は無い。噛まれるのを覚悟してナイフで反撃しようとしたその時…

 

『しゃがんで!!』

 

しゃがむために姿勢を低くした次の瞬間、アンデッドの頭が吹き飛ぶ。

いや、その後ろの奴らさえも吹き飛ぶ。

 

前に居たのは…黒衣に身を包んだリリン型(アンドロイド)だった。女性型のアンドロイドだ。しかし俺が見た事のない機種だ。髪型は赤く線が光るヘルメットを被っていて分からない。

 

「こんな所で数時間、機械のあたしでも耐えきれないわよ!化け物か何か!?」

 

続けてアンデッドを蹴散らしながらもう2機が来る。同じくヘルメットを被っているが片方は女性型、片方は男性型だろう。

 

「サレナ姉様、突っ込みすぎ」

 

と女性型が言い、

 

「囲まれたらどうするの、姉さん」

 

と男性型が言う。

 

「機械だから平気よ。エユ、突っ込みすぎと言うけど少し遅かったら1人死んでたのよ、クウレ、私なら囲まれても蹴散らせるわよ!」

 

サレナと呼ばれた方がそう言いつつ、周りのアンデッドの首を切断していく。二刀流の刀は1寸も狂わずに。

それはまるで処刑人だ。

 

「全く、姉さんは無茶しすぎ」

 

クウレと呼ばれた男性型のアンドロイドはショットガンで的確にサレナの死角のアンデッドを撃つ。一歩間違えればサレナに当たる敵でも、容易に撃ち抜く。

そしてエユと呼ばれた女性型は俺らに近づき、敬礼し言う。

 

「第二特務隊、ユウ直属特殊部隊<黒衣>、到着しました」

 

これが増援か…?

そして、続けて数機…数は6機の量産型アンドロイド(リンレ タイプ)に護衛され1人の防護服を着た女性が近づいてきた。メガネっ娘で黒髪だ。

 

「ステラお兄ちゃん!?」

 

この子は華夏(かなつ) 椿姫(つばき)。主に電子戦などを行う部隊に属してるはずだが……あとお兄ちゃんと呼ばれてるが、まぁ数回面倒見たらこうなった。なぜ??

ま、まぁいい。

 

「俺はいい、この子を見てやってくれ!」

 

アサヒの方向を指さし言う。ツバキは頷きそっちへ駆け寄る。

さてあとは…というところでサレナが近づいてくる。

 

「レイリア・ステラ特務大尉、既に上に部隊が展開してるわ。あたし達は先行して大尉やユウ隊長を救出する為に投入された特殊部隊。現在の状況及び階級的に現場指揮官は大尉と判断」

 

そして彼女も敬礼して言う。

 

「大尉、命令を」

 

現場指揮官、なぁ……そんな大層なもんじゃない。と思ったが俺らの安全が少なくともある今、次に助けるべきはユウだ。

 

「あの防壁の奥にユウと研究所の主任がいる。主任は――」

 

という所でサレナは遮る。

 

「事態は理解してる。隊長の機能停止前にビーコンを起動してくれたからね」

 

ツバキが来る。

 

「特に外傷は無いよ、でもお兄ちゃんが…!」

「俺は大丈夫だ、それよりもここを開けられないか?」

 

ツバキは少し悩みながらも言う。

 

「……開けられるけど、本当にお兄ちゃん大丈夫?」

 

そんなにやばいか?俺。

 

「大丈夫だってば」

 

そう言うとツバキは「あとで見るからね!?」と言いながら防壁隣のコネクタに自分の端末を繋ぎ操作を始める。

 

「よし、アクセス出来た。いつでも開けられるよ!」

 

俺はナイフを構えて言う。

 

「サレナ、魔力砲は?」

「標準構成、2機あるわ」

「発射用意、開くと同時にお前の判断で撃て」

「了解」

 

もはやロークに逃げ道はない。

ツバキに言う。

 

「よし、開けてくれ」

 

ツバキがボタンを押すと同時に防壁がゆっくり上がる。

防護服を着たロークは震えながらユウに拳銃を向けていた。

 

「ち、近づくな!撃つわよ!!」

 

しかし俺は嘲笑いながら言う。

 

「撃ちたければ撃てばいいさ。同時にお前の頭は吹き飛ぶ事になるけどな」

 

意外だったのはロークは本当に撃ったことだ。

だが…意味は無い。

ユウの頭は軽々と銃弾を弾き、逆にロークの防護服に当たる。

その隙を俺らは逃さなかった。

俺は2本のナイフを投擲した。それは両肩を貫き、腕を使い物にしなくした。

サレナはそれに続いて急接近、すぐにロークは倒れながら縛られる。

ざまぁみやがれ。だが俺はゆっくりと奴に近づき聞く。

 

抗体薬(ワクチン)はどこだ?」

 

ロークの顔は真っ青に染まっていた。

 

「み、右腰の……ポーチの中……」

 

見てみると数本の抗体薬がしまわれていた。幸いにも割れてない。

俺はサレナに聞く。

 

「サレナ、ここから今すぐ出れるか?」

 

しかし彼女は「無理」と答える。

 

「想定以上にアンデッドが多いのよ。ここに来るまでなら1人を守っていれば良かったけど、負傷者を連れながら行くのは無茶。後続部隊を待つしかないわよ」

 

そうか…ふと思いついて聞く。

 

「そういえばここに来るまでに火器装備のアンデッドは居たか?」

「…そんなに居なかったわね。いたら今頃上等兵(ツバキ)は死んでたわ」

 

なら隔壁の再利用は可能か…?

が、ツバキは言う。

 

「お、お兄ちゃん、隔壁が動かないよ…ロックが!」

 

ロークが笑う。

 

「お前らも、巻き添えだ…!」

「この屑が!」

 

行動をする前にサレナがロークを蹴る。どうやらロークは遠隔操作で完全にロックしたようだ。いつの間に。

 

「ツバキ、解析して隔壁を下してくれ」

 

ツバキは再度端末を持って言う。

 

「出来るか分からないけど…任せて」

 

ここは俺の指揮下だ。

つまり全員を生きて帰す義務が生まれたってわけだ。

無論、そうでなくてもその気だがな。

 

「隔壁の操作を取り戻すまでの間、俺らで抑えるぞ。アサヒはもう休め」

 

アサヒは首を振る。

 

「まだ、私の体は大丈夫だよ」

 

…だろうと思った。しかし、ただ休んで欲しいわけではない。

 

「アサヒ、これは全員で生き延びる為に必要だ。交代で戦う。アサヒと俺、サレナ、エユ、クウレは後退し武装冷却及び小休止。量産機(リンレ)各機は少しずつ後退しつつ交戦しろ。しばらく後、次に俺らが交戦する」

 

通路の幅はさすがに少し狭い。

つまり交戦相手を絞れるということだ。

これもしばらくの辛抱、ツバキが操作を取り戻せば…

 

 

だが無論、容易にはいかなかった。

隔壁のロックは幾重にもなされ、流石のツバキですら時間がかかっている。

その途中でユウのアイドリング状態を解除しようとしたが、それにもロックがかかっていただけでなく、魔導炉すら停止していた。数日なら持つし普段なら魔導炉の再起動も行えるはずだが、ロークがやりやがったのか、出来ない。それに時間をかけるよりも防壁を優先…これが俺の考えだ。

 

交戦開始より数分、十数分かもしれない。リンレ型の一機が言う。

 

「アンデッドの数が増えています…!このままじゃ!」

 

想定より早い。しかし、後退して敵を押す必要があるのは全員の共有意識だろう。

 

「よし、後退する!行けるな!?」

 

皆がうなずく。

アサヒはナイフを持ち、覚悟を決めていた。

サレナ達特殊部隊はやっとかという顔で立ち上がった。余裕かよ。

 

「前線部隊、引け!各機、魔力砲発射!隙を突き後退する!」

 

サレナが魔力砲を撃つと同時にリンレ型はしゃがみつつ後退する。

 

「今だ!突撃!」

 

俺とアサヒが敵に突っ込み、首を切断していく。

その間にサレナとクウレが刀を構え突撃、俺らの前に出る。そしてエユが用意していた魔導式火炎放射器を渡す。魔導炉が一体化しているが無論重い。アサヒが後ろを持ち俺が前を持ちつつトリガーに指をかける。

同時にサレナ達は後ろに引く。

一瞬でも遅れれば味方撃ち。しかし、ここにあったのは信頼だ。

トリガーを引く。

アンデッド達がまた火の海に包まれ、火葬されていく。

待つ者には骨の一欠片も渡らない、虚しい火葬だ。

近づく敵をサレナ達が動きを止め、俺らが殺す。

その繰り返しだ。

ひたすら燃やしてしばらく。

ツバキが叫ぶ。

 

「防壁用意完了!下がって!」

「喰らえっっ!!」

 

俺らが引くと同時にサレナ達は最後の斉射を行い、吹き飛ばす。その間に防壁が降りる予定地の後ろに下がり、続けてサレナ達も下がる。

同時に隔壁が下がり、アンデッドは俺らに手出が出来なくなった。

果たしてこれがどのぐらい持つのか。それは分からない。

しかしつかの間の休息は約束された。

俺とアサヒは座り込み倒れこんだ。

サレナは防壁を見て、安全だと判断すると壁にもたれかかった。

エユとクウレは立ったまま目をつぶり休んだ。

そしてツバキは……

 

「さ、腕を出して。抗体打つよ」

 

未だ頑張っていた。

俺は言われるとおりに腕を出す。

同時に抗体が打たれる…が俺は注射に弱い。顔をしかめる。本当に痛いんだ。

続けて傷口を消毒し、包帯が巻かれる。アサヒにも…と言おうとしたが傷のひとつすら無い。本当に強い……

しかしそれだけではツバキは休まない。ユウの魔導炉の起動とアイドリングの解除に取り掛かったのだ。

ふと俺は首にかけていた物を見る。

認識票と呼ばれる物で、死んでも身元を確認できるようにした物だ。3枚組になっていて1枚目、2枚目は認識票本体、3枚目は救援用ビーコンだ。

そしてそれは損傷なく首にかかっていた。

流石にユウらアンドロイドに搭載されているビーコンの方が出力が高いため使ってないが……

とにもかくにも叩く音は聞こえるが入ってくる事は無い。

近くにいた銃を扱うアンデッドもある程度は葬ったから突破される可能性も少ないだろう。

 

「それにしてもお兄ちゃんって化け物?」

 

ツバキにそれを言われるのは心外すぎる。

 

「ただのヴァンパイアだ」

「普通の人間なら死んでるよ??」

 

ヴァンパイアだからで済むだろう。

……と、俺は違和感を覚えた。

 

「…なぁ、いつの間にか扉を叩く音が聞こえなくなってないか?」

 

クウレが反応した。

 

「確かにおかしいですね。アンデッド達が逃げたか……もしくは」

 

その声は震えていた。

 

「本当の化け物が来たか」

 

しかしツバキは答えを言う。

 

「落ち着いてください、電子隊の暗号通信によるとここの近くまで後続隊が来ました!」

 

やっとか……正直もう疲れた。そりゃそうだろう。

疲れながらも皆の顔は少し明るくなった気がする。

 

ーー

 

そして数分後。

 

「ドアをぶち抜く!全員横へ!」

 

いや待て!今開ける!と言う前に隔壁が吹き飛んだ。

起動作業中だったユウ諸共。

 

「おいユウ!大丈夫か!?」

 

と爆煙の中から出てきたのは水色の短髪なアンドロイドだ。名前はリリ・リリン、ユウの妹だが…少し、いや、かなり猪突猛進。

 

「…お前の爆破で吹き飛んだぞ」

「え」

 

まぁこんな程度、ユウ達甲型装甲装備機(かたい装甲)のアンドロイドには効かないだろうが、やはりフレンドリーファイア?はしたくないな。

しかしいい事もあった。

 

「…っ…何、起きたの…」

 

その衝撃でユウが起きた。遅いお目覚めだな。

ひとまず今の状態を説明するとユウは怒り狂った。

 

「つまり!?こいつのせいで私たちは殺される寸前だったの!?」

 

ロークを蹴る。もはや喋る気力すらないようだ。

リリがなだめ、なんとか落ち着いたが…

そして、まずそれよりもここから出ることが先決だろう、と当然な事を言ってひとまずは怒りを鎮めた。

 

「ま、とりあえず退避経路は確保してある。すぐに出ようぜ!」

「だな…アサヒ、あと少しだから我慢しろよ」

 

アサヒはうなずく。

後続として来た部隊の武装はもはや戦争レベルだ。全員が火炎放射器を装備し、人は新型の対生物攻撃用戦闘防護服、アンドロイドは追加のシールドと機関銃を装備している。となるとなんでツバキは普通の防護服を着てきたんだ…?

途中、アサヒが倒れた。いわゆるエネルギー不足で動けなくなったのだろう。

背負い行くが、俺ももう気力も体力もない。

 

歩き続けてどのぐらい経ったか。

やっと地上に出れた…訳ではなかった。

研究所の地下一階に作戦指揮所が置かれ、そこがバイオハザードエリアと安全区域(グリーンエリア)の境目だった。

そこにいたのは戦闘防護服を着た一人の若い女性だった。短髪黒髪、しかしリリよりは長いこの女性は七瀬(ななせ) 琉希(るき)、電子隊の隊長だ。

 

「全く、ステラは毎回巻き込まれるな」

 

俺は力なく笑う。

 

「姉さん、俺が望んだ事じゃないですよ」

「知ってる。だが今回は規模がデカすぎるだろうが。ま、生きていてよかった。」

 

俺がルキを姉さん呼びする理由は…ただ軍に入った時に面倒を見てくれたからだ。

だからこそツバキ達の面倒を見たりと…ま、引き継いでいってくれればいいな。

そしてルキは通信機を取る。

 

「こちら電子工兵隊、目標者及び先遣部隊、主力部隊の帰還を確認…」

 

そして続けて言った。

 

「内、()()()二名。生物防護車を提案します」

 

そう。

俺らは…感染者だ。

 

「ステラ、そして…そこの子、申し訳ないが、例のウイルスに感染している可能性が高い…いや、多分感染している」

 

そりゃそうだ。ましてアサヒはとっくに感染者だ。

 

「少し苦しくなってしまうが、これを着てくれ……ってか重いな…」

 

渡されたのは対生物汚染隔離服。

汚染された人に着させ、汚染の拡大を防ぐための物だ。

見た感じは甲型、一番強固なものだ。暴れるのを防ぐ機能もあるが、それが無くとも強固すぎて動けないため外装でパワードスーツ機能を追加した設計ミスの隔離服である。流石に設計やり直せよ。

それ相応の重量もある。よくルキ姉さん持ち上げられたな。

それを着ると……予想外に快適ではあった。温度や湿度調節には力を入れているらしいし当然か?なら尚更設計見直せよ…

快適ではあるが移動はキツすぎる。俺もアサヒもユウ達に持ち上げられてやっと乗れたレベルだ。

そしてこの隔離服にはもうひとつの機能がある。

が、その前に俺もアサヒも眠りに落ちた。

もうひとつの機能とは、眠らせるガスを充満させる事で鎮圧するという機能である。

しかし俺らは数時間も戦ってきた。

その疲労は並ではない。ガスが無くとも深い眠りに落ちてしまった。

 

 

ーー

 

 

…と、これが俺とアサヒの出会いだ。

あの後は隔離され感染部分の切除をされ……とかとか、面白くもない話が続く。そんなの俺だって興味無い。

隔離棟から開放された後はユウのところに行き、アサヒを引き取ると言ってきた。

別に可哀想だからって訳じゃない。

ただ、放っておけない気がしただけだ。

 

開放され、引き取ってから数日後。

久しぶりの完全な休日で俺は爆睡してたんだと思う。

携帯が鳴る音にも気づかず、ぐっすりしていた。

 

「ステラ、携帯がなってるよ」

 

とアサヒが上に乗り、体を揺らしながら言われてやっと気づいた。

 

「…ん…まじかよ…」

 

と言いつつも携帯を取る。発信元はユウ、暗号通信だ。

 

「俺今日非番だ…、寝かせてくれ」

 

と言うが、電話口の先のユウは慌てた声で言う。

 

『大変な事になったんだって…!命令書転送するから読んで!』

 

同時にベットの横の机に置いていた暗号印刷機が突然印刷を始める。

印刷された物を見て絶句する。

 

<夢宮朝陽を現時刻より特例兵として特務隊アルカディア所属とする。また、特務隊内に対アンデッド作戦部隊の新設を要請する。隊長階級は一任するものとする>

 

「は?」

 

思った感想はそれだ。

 

「ユウ、これはどういうことだ!?」

 

命令書を机に叩きつけ叫ぶ。

ユウは申し訳なさそうに答える。

 

『大本営軍令部から…。私も意見具申したけど、アサヒは戸籍がないし帝国生まれじゃないから臣民には入らない、それどころか違法侵入者だ、だからこれは大目に見た結果だ。って言われてね…』

 

恐らくそれ以上言い返したら特務隊に迷惑が掛かると思ったのだろう。以前に懲罰部隊を結成しろと命令が来た時にユウは強く言い返したが、特務隊が起こした事件、事故…それらを公表するぞ、と脅され引き下がるしか無くなった。今回も同じだろう。もし公表されればユウだけでない、最悪特務隊は無くなる。

そもそも、アルカディアは普通なら排斥される者たちの集まり、魔物ですら守るための衣だ。()()が無くなればどうなるか、考えるまでもない。

幸いにもユウの指揮下に置かれるのが救いか…?

そして叩きつけた命令書をアサヒは見ている。しかしそれにかまっている暇は無い。

 

「命令した奴は前にも無茶ぶりをしてきた奴か?」

『うんそう』

「…ちっ、とりあえずその部隊長は決まっているのか?」

 

ユウは即答する。

 

『多分アサヒは部隊に配属することになるだろうから…ステラが部隊長になるべきだと思ってる』

 

俺が部隊長?

 

「そんな責任が重い事、俺が出来ると思うか?」

 

しかしユウは言ってのけた。

 

『出来るよ。あの研究所でも先陣を切ってたじゃん、それにこれは私だけじゃない、直属の私の部隊…サレナからの推薦でもあるんだよ?』

 

普通ならいつも貶すんだけどねあの人…と呟きながら真面目そうに言う。

 

『とりあえずサレナ達や第一懲罰大隊を指揮下に入れる用意は出来てるから、あとはステラが受け入れてくれたらすぐにでもこっちで必要な事とか施設の用意とかとかは終わらせておくよ』

 

全く、断る選択肢を残していないな…が、アサヒを守るためでもあるか。

アサヒは驚いた表情をしている。そりゃそうだ、結局この世界でも戦うことになってしまったのだから…

 

俺はそんなアサヒに優しく言う。

 

「大丈夫だ、俺が何とかする」

 

深呼吸一つ、そしてユウに聞く。

 

「部下たちの指揮権は?」

『そっちに配属されている限りはステラに任せるよ。それと必要に応じて本隊から増援を送るとしても出来る限りはステラが命令を出せるようにする』

「…つまり、アサヒを戦いに出す必要はない、って事だな?」

 

それは質問ではなく確認だった。

 

『ステラが隊長になるなら、そこまでは私の管轄外だよ』

 

それはユウなりに遠回りに言ったのだと思う。

ならば答えは一つ。

 

「分かった。引き受ける」

 

 

そうして俺は…一部隊の隊長になった。

後悔はない。

アサヒを守るためだから。

 

それにしても思う。

アサヒの世界で蔓延していたウイルス。

この世界で発掘されたアンデッドへ変える物。

それらが本当に同じなら、もしかするとアサヒの世界から分岐したのが…俺らが生きている世界なのかもな。

だとしてもこの世界を同じにさせる気はない。

 

アサヒを見る。

アサヒは、微笑んでいた。

 

「るーちゃんも頑張るって言ってたから、私も頑張るよ」

 

ほんと、引き取って損はな…ん?るーちゃん??

俺はじっとアサヒを見た。

後ろに緑の髪をした少女がいた気がした。だが瞬きすると消えた。

…おかしくは無い、こんな少女がひどい目にあったら幻覚も見るだろう。

俺らに出来るのは自然に消えるのを待つことだ。

 

いや、それはさておきだ。

 

命令が与えられたならそれに従うまでだ。

玲理 星光(世界を見つめる瞬く星々)、貰った名前だ。

誰かの星になるのを望んで付けられた。

俺は、この子(アサヒ)の光になってみせる。

空想の友達に頼らなくても生きれるようにな。

 

 

ちなみにロークに関してだが、実は情報を別の国へ渡していたことが分かった。ユウに接近していたのもそれが理由だろう。

ま、もう奴は檻の中、心配はないな。




眠い
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