気まぐれ日常記   作:佐々木邦泰 

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私営図書館に行った話

行ったのは確か八月の下旬頃だったと思うんですが、何日かは覚えてない...


私営図書館潜入調査録

このオハナシを始める前に、

 

私営図書館とはなんぞや?

 

というところについて記述しておかねばならない。

 

私営図書館とは、個人或いは団体などが設置する図書館である。

市や県、国が公共施設として設置する図書館とは違い、個人のコレクション性、特に専門分野に特化した資料等を蔵書する場合があることが多く、その点は言及しておこう。

 

前置きが長くなるとブラウザバックされてしまうので切り上げるが、兎にも角にも、個人経営の図書館があるんだなあくらいの認識があればそれで十分である。

 

僕が、その図書館を見つけたのは偶然だった。

 

うっかり割ってしまった茶碗を買い替えるために陶器市に行ったとき、新しい茶碗を包んだ新聞紙が、ちょうどその図書館を公告していたのである。

 

やっぱ、お金もらって記事にしてるのかな。とか、無料で記事にしてるならとんだ社会奉仕だなあとか、この記事を読んで『行きたい』と思う人がどれだけいるかなあ。とか、そんなことを考えていた。

 

物好きはここにいたようだけど...ね。

 

 

まあ、今にして思えば、宇宙の導きのようにも思う。

 

とにかくビビビッっとキた。

 

その私営図書館は、公営図書館が中々扱わないような本をたくさん取り扱っているというのでこれは行かねばと、早速出かけてみた。

 

もちろん、愛車のホンダCBR250RRと一緒である。

 

しかし、その場所というのが大層厄介なところにあって、住宅街のど真ん中に在していた

 

マップアプリの機能を使って周辺の情報を調べていて驚いた。

本当に住宅街のド真ん中にあるのだ。

 

某日、都合と時間を確保して一日中ここへ篭ったので今からそれらをざっくりではあるが解説していこうと思う。

 

自宅からバイクを走らせておおよそ二時間程度、道路脇の小さな公園で、通りがかったファミリーマートで買ったパンとおにぎりとお菓子を、炭酸ジュースで流し込む内臓虐待昼食を摂って、それから向かった。

 

この日は暑かった!

 

絶望的に暑くて死にかけた。

高速道路なら、走行中の風が身体に高速であたるだけ、まだマシだ。

いやまあ、ドライヤーを顔に当てて涼しいかと聞かれたらそんなわけないが。

サウナよりは遥かにマシだ。

 

街乗りはそれがないのだ。

 

して。そのようにしながらたどり着いた図書館だがビックリ。

 

バイクの駐車場ねえじゃん!!

 

仕方なく近くのコインパーキングをググって停めて、戻ってきてもうへとへと。

まだ中にすら入ってないけど?

 

くたくたの脳みそでじっとその図書館を評価してみれば、その建物、外観としてはおおよそ一般的な住宅と大差にないように見えるが、その隣にあるどデカい蔵のようなナニカが異様な空気感を醸し出し、尋常ならざるナニカを演出した。

この蔵も住宅もまとめて図書館らしい

 

受付というのも、住宅側のインターホンを鳴らせば、館長が出てくるので、そこで少し待てというシステムらしく、なんだか妙にドキドキしながらチャイムを鳴らした。

 

ピンポンという特有の音が聞こえなかったのでもう一度押した(多分、接触不良だろう)

すると奥から、住宅の玄関が開いて男の人が歩いてきた

50代後半くらいだろうか。白髪と、コーヒーとタバコの匂いが特徴的な男性であった。

 

「どうぞいらっしゃいませ」

 

「ハァ、どうも...私営の図書館と伺いましたが...」

 

「ええ。そうですよ。すごい量でしょ? 父は生前読書家でよく集めていまして。この蔵の中にもありますよ」

 

「エ〜ッ! この蔵のなかにもあるんですか!?」

 

表面上は驚いてみたが、事前に知ったことなので愛想笑いに近い(社交辞令だネ)

蔵というのも目計り、奥行きは15メートル、高さはおおよそ3階分くらいあるか?

一体どれだけの量を保管しているのやら。

 

「どうぞ、入館料は500円です」

 

公営図書館とは違って税金で運営されていないから維持費がかかる。

そう考えると公営図書館がどれだけありがたいかよくわかろう。

 

「蔵側は70年代以前、住宅側には70年代以降の書籍がざっくり保管されていますから、おおまかな年代別で見てやってください。なにせものすごい量で...コンテナの貸し倉庫ってありますでしょ、アレ。あのコンテナにぎっちり5コンテナ分を処分しないまま逝きました」

 

「アホですか?(直球)」

 

つい聞いてしまった。

 

「ドアホですわな。まあ、そのまま売るもよし、チリ紙交換に出してもよかったんですが、これが遺品と考えるとどうも出来なくてね? これだけを残していきました。コレクターの死後って大変ですよ」

 

うーんこの。これはまたドギツいなあなんて考えて、

 

「本がお好きだったのですね」

 

「いや? 読んでる姿はついぞ見ませんでしたね。本に金を使うのが好きなんじゃないですかね。買い物依存症ってあるじゃないですか。多分それに近いんじゃないかなって」

 

なんじゃそりゃ。という気持ちは飲み込んで、いざ入館。

 

玄関口で靴を脱ぐと、外観上の見た目ごく普通の家だったがその中は異様そのものだった。

あちこちに本、本、本、本、本ッ! ええいここは本の山かいッ!

 

場所をわきまえることを知らない本どもが人間のテリトリーを侵略していた。

これではまるで本vs人間の戦争のようだ。

この図書館で特筆すべき点は所狭しと積み置きされた本のタワーである。

気分は完全に塹壕戦を戦う兵士。

 

第三次世界大戦が始まったぞ。

 

もはや、本棚のキャパシティを大幅に超えてしまい、あらゆるものを飲み込んでしまっていた。

 

よく見ると本棚に押し込もうとして諦めたものが散見されるので、初めのうちは本棚に入れてオシャレにしたかったんだろうなと思うが、現実はうまく行かなかったようだ。

 

「これが絵に描いた餅かあ」

 

「なんか言いました?」

 

「いえ? 全然?」

 

なんとかタワーを崩さないように...と慎重に歩く私を横目に主人はスタスタと奥へ行ってしまう。

必死になってついていくのがやっとでどんな本が積まれていたかまでキチンと見れなかった今回の訪問で最大の失態である。

 

そしてたどり着いた先、そこはかつてリビングとして使われていたであろう部屋に、山積みになっていて、本の虫が住み着いていそうだった。

ふと、導かれるようにして、成長途中のタワーのてっぺんに目をやると、某有名校の『赤本』が置かれていた。

しかもだいぶ古いよね...?

 

だがこの本、受験生の時分に一通り解いたような気がする懐かしい気持ちにもさせてくれるアイテムである。

 

「ここはこういった教育本も取り扱っているのですか?」

 

「あれはお客さんからの寄付です」

 

「はい? 寄付? 単に処分に困っての押し付けでは...」

 

ほんとごめん。つい言葉が出てしまって、「失言だったかも。マズいなあ」と反省。

でもご主人はケロッとして続けた。

 

「...そうかもしれません。でもこういうのも取り扱ってるのは面白いでしょう?」

 

なんとなく感じてはいたが経営センスというか、あんまりにもガバガバすぎやしないか?

 

「懐かしいものではありませんかな? ここには、あの日あの時に一緒にいた本があるのです」

 

確かに妙な懐かしさを感じるような趣きの住宅である。

おばあちゃんの家の雰囲気を感じる住宅は、かつては生活があったのだろう。その予想を容易にさせる造りをしていた。

この尋常ではない量の本さえなければ。だが。

 

「色々見て回りますか?」

 

「蔵の方を見たいですね」

 

そうすると明らかに顔が曇った。

ああ、あの蔵を開けたくないんだな...

いや、確かになんとなく嫌な気分になるのはわかる。

開けたい気分には外から見れてもわかる。

それにホコリとカビの匂いが見ただけでする。

 

「あの蔵に行きたいなんて人は相当な物好きですよ」

 

「そもそも、物好きでない人はここへは来ませんよね?」

 

と僕。するとご主人は笑って、

 

「ああ、そうですね。ここの主人なんてやってる私も変人の類ですね」

 

認めちゃうんですかそうですか。

首を縦には振らなかったが、きっと顔には出ていただろう。

 

「じゃあちょっと鍵持ってくるんで。それまではお好きに見て回ってもらって」

 

と言ったってどこを見りゃいいんだよ。

この本の山を崩して元に戻せる自信はないぞ?

 

ということで、本の山のてっぺんにあった適当な本をチラッと見てみて後悔。

 

「『美味しんぼ』が置いてあるのかよォォ〜〜! なんでよりにもよって『美味しんぼ』なんだァァ!?」

 

よく見てみれば、それは漫画の山だった。

 

「連載版も抑えてる。ビックコミックが......」

 

「アメコミありますよ。アメコミ。スパイダーマンとウルヴァリンが戦うのとか、デアデビルの漫画も」

 

一人で騒いでいたいつの間にか、ご主人が帰ってきていた。手には鍵があった。

 

「マーベルしかないんですね」

 

「DCコミックは面白くありませんから」

 

そんなに酷くないと思うけど...............??

それは言わなかった。

 

「じゃあ行きましょう。着いてきて」

 

ということで玄関へ戻って、一度外へ出てから蔵へ向かう。

 

ガチャガチャッ! と解錠して、蔵の戸が開かれた。

 

「うっひょーなんじゃこりゃ!(驚愕)」

 

「埃とカビがひどいのでマスクを。市販のものですが」

 

てか、カビが生えてるの不味くねえか?

冷静に考えたら。マジで。

 

「カビって不味くないですか?」

 

「あー、まあ不味いんですけど、どっちかっていうと、昔からそうというか、これコンテナに入ってたものじゃなくて、ずっとここにあったものなんですよ。僕が子供の頃からこんな感じ」

 

「あっ、じゃああっちの本館はご主人の実家!?」

 

「厳密には自宅兼仕事場兼本館」

 

はへー、と感心しながら、埃まみれの本の山を掻き分けて行った。

なるほど、確かにかなり古い本が多い。

 

ご主人が50代後半に見えるのだから、本当にお父様がお集めになられたものなのだろう。

 

「しかしまあよくここまで集めましたねえ............」

 

「よくも処分もせずに勝手に逝きやがって。という気持ちもありますけれどね。依存症ってのは本当にどうしようもない」

 

「お父上が依存症であって欲しいような言い方に聞こえますな?」

 

「ええまあ。病気だとわかれば、この本の山を症状だった、発作だったと説明できれば気が楽ですから」

 

きっと想像もつかないような、ただならぬストレスがあるのだろう。それがわかった。

 

ご主人から感じる妙な『ズレ』も、きっとそうだと思う。

 

「上の方も見たいのですが」

 

「あー、床が腐ってるところがあって危ないんで」

 

ちょっとがっくり。

 

一階だけしか見れていないが、婦人雑誌、映画雑誌、模型雑誌、車雑誌と、趣味のものが目立って見えた。

ぱっと見、それが多かったように思う。

 

「あんまり面白くないでしょう。こっちはしょぼいのしか置いてないんですよ」

 

「仮にも蔵書にそんなこと言いますか?」

 

「いわゆる事実陳列罪というやつですか?」

 

まあ、蔵の方は別に見なくてもいいかな。大したものはないので。

 

それから大体二時間くらい、本館の方でご主人と喋ったり本を眺めたりパラパラめくったりして退散。

 

帰る頃には暑さも少し和らいで夕方になり、建物を出た後の、この季節特有の、冷房と外気温の温度差を全身に感じた。

 

「どうもお世話になりました」

 

「またいらしてくださいね。床直しとくので」

 

帰りの道中ではラーメンを食べて帰った。

 

家に着く頃には暗くなり、いつのまにか風に混じって虫の音が聞こえていた。

 

夏ももう、終わりが近い。




あとがき

結構楽しかったです。二度目いつ行くかは未定ですが。
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