ヒトメスさぁ……警戒心薄すぎでしょ……かわいいね♡   作:鐘楼

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邂海(ベルル視点)

「聖美原女学園……こっちよね……」

 

不慣れな街の中を、支給された電子端末上の地図に頼りながら歩む。龍族は珍しいのだろう、街中を歩いていれば人間たちがアタシを指さし話をする。その内容は……多くはアタシを恐れるものだろうか。

 

こんなことなら人間に擬態したいが、あいにくと擬態魔法は基本的に禁止されている。露見する可能性は非常に低い類の魔法とは言え、アレを使うのは後ろ暗い……つまりは不正に人間に紛れている者達であり、アタシ達正規の交流生は堂々とすることで逆に潔白を証明しているのだ。だから、まさか正式にこちらへ来ている者でわざわざそれを破るような阿呆はいないだろう。

 

「ハルだったら変に注目されることも……」

 

ハルのような淫魔やルナのような天使は知名度が高く、その容姿と友好的な立ち振る舞いから人間に持て囃されることも珍しくない。もっとも、異種族の中で比較的、という前提がつく上、その人間の中に雄が含まれることはほとんどない。昔はむしろ逆だったそうだが、誘拐やら催眠やらをやらかしてきた事実が広まったことで危機管理ができている雄はそうそう近づいてこない。来るのは、自分が安全だと知っている雌くらいだ。

 

比べて、アタシのような龍族は敬遠されがちというか、怖がられる傾向があると思う。原因は……ヴァンパイア族なんかにも言えることだが、先人達の無駄に高いプライドと拗らせた態度のせいで非友好的な種族だと思われがちだからだ。

 

…‥アタシは昔に色々あって姉様方ほどプライドが高くないはずなのだが、人間達にそう見られてしまうのも無理はない。

 

「……アスティ……」

 

アスティ。アスノティフィル・ナナークーシャ。かつて誇り高き龍族の中でも最高の才を持つと謳われ、他の龍族の何倍も天狗になっていたアタシの鼻っ柱をへし折った女の名を呟く。

 

何を隠そう、今日アタシはアイツに会うために慣れない街を歩いている。

 

────────── 

 

雄を世界の外側に求めるしかないことを長命によって誤魔化しているこの世界において、強引に後継者を生み出す方法が一つだけある。

 

相転写複製術。

 

記憶は持ち得ないものの、自らと全く同じ資質を持つ赤子を創り出す魔法。

 

この魔法によって、技術や知識の継承が行われ、そのおかげで子をなしえなくても世界は滅びず、秩序は保たれている。我のように真っ当に父親を持つ者は少数派なのだ。

 

「やぁ、君がベルルイレちゃんかな?」

「アスノティフィル・ナナークーシャ……」

 

相転写複製術は、どの種族も当たり前のように行うごく一般的な魔法である。普通、滅多なことでは失敗しないというのが常識だ。

 

しかし、その滅多なことは起こった。よりにもよって、龍族もその力を認めざるを得ない魔王が、世界を統べる最強の存在が、相転写複製術に失敗した。結果、魔王のコピーとは程遠い得体の知れない何かが生まれてしまったのだ。すぐにもう一度相転写複製術を成功させ、改めて正当な後継者を創ったそうだが、この件はスキャンダルとして秘匿されることになる。

 

龍族の新星として、そんな情報を母から聞かされていた我は、愚かにも我の午睡を邪魔した愚か者を睨みつける。

 

「……貴様が噂の失敗作か。出来損ないの処分もできず野放しとは、魔王の名が泣くというものだ」

 

実際に見るのは初めてだったものの、眼前の矮小な存在こそ、件の失敗作であることは知っていた。我の言葉を受けてなお、ソレはただ微笑みながら口を開く。

 

「あまり母さんを悪く言わないでくれ。彼女は私より弱いのだから、私を縛れないことで責められるのは可哀想だ」

「…………」

 

我はちょっと引いた。まさか傲慢さで敗ける日が来るとは思っていなかったのだ。

 

「……して、何用だ。我の眠りを妨げるに値する用向きでなければ……分かっているな?」

「いやね、私と生まれが近くて強い子がいるって聞いたから、友達になろうと思って」

「友達、だと……?」

 

何を言い出すかと思えば、我と友誼を結びたいと宣う。論外だ。群れるのは弱者のすること、当然我には必要ない。

 

「……有り得ぬ。我に友など必要ない。その妄言も一度だけなら見逃してやろう……疾く失せよ」

「いや、拒否権とかないけど」

「……はぁ?」

 

面倒なので追い返そうと明確に拒絶の意を示すも、アスノティフィルは真顔でそんなことを言い出した。

 

「い、いや……我はよく知らぬが、友達とはそういうものではないだろう? もっとこう……互いの合意のもとで自然にそうなるものというか……いや我よく知らぬが……貴様のそれは妹分とかそういうものではないか……?」

「じゃあそれでもいいけど」

「っ! ……貴様」

 

ここまで来て、我はようやく事態を把握した。此奴は、この我に喧嘩を売りに来たのだ。そうと分かれば、これ以上の言葉は不要。ただ力で以て討ち滅ぼすだけだ。

 

「言ったな。その蛮勇、万死に値すると知れ──!」

 

その咆哮は空を裂き、息吹は天を灼くと謳われたゼトの至宝の力を冥土の土産に見せてやろうではないか……!

 

我の身に宿る渾身の灼熱を込めて、不遜に笑う眼前の存在を灰燼に帰さんと炎を吐き──

 

 

 

 

そして。

 

数分の後、地に臥し天を仰いでいたのは我の方であった。完敗だった。土をつけられたのは生涯で初めてのことだったが、悔しいとも思えなかった。一族の中には強敵との闘いに生の意味を見出し、敗北を悦ぶ者も多いが、我は2度とこんな思いを味わいたくはないと思う、そんな負け方だった。

 

「じゃあそういうことで……妹分だったかな?」

「もう勝手にするがよい……」

「なら友達で」

 

アスノティフィル・ナナークーシャは、我の腹に乗ったままそんなことを言う。

 

「じゃあ行こうか」

「……何処へだ」

「とりあえず、こんな荒野じゃないところ……となると、その身体じゃ不便だね……小さくなってくれないか」

「むぅ……」

 

龍族に限らず、体躯の大きい種族は多くいるが、その身体は集団生活を送るには不向きであるのは間違いない。そのため、今のアスノティフィルのような身体を人型に押し込んで社会生活を営む同族も多い。また、人型というのは多種多様な異種族が手を取り合う為の共通規格という意味合いもある。

 

しかし、我はあの姿が好きではない。単純に弱くなるし、独りで生きていく分には必要のないものであるのは間違いないからだ。

 

「……分かった」

 

しかし、勝者に命じられては仕方がない。渋々、我は自分の姿を人型に落とし込んだ。

 

「おぉ、かわいいね」

「ふん。こんな弱そうな姿の何処が良いのだ」

「……やっぱりその口調、変えたほうが良いんじゃないかな? 変に威圧的だから友達ができないんじゃ?」

「……いや、作ろうとしなかっただけで、そこに口調は関係ないだろう」

「ほら、私のようにもっと物腰柔らかくだね……」

「会ってからお前は終始誰かを煽っている気がするのだが……?」

 

 

 

これがアスティとアタシの、最初の思い出。

 

 

 

 

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