ヒトメスさぁ……警戒心薄すぎでしょ……かわいいね♡   作:鐘楼

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幽囚(ベルル視点・中)

学園の隣、と言っていたものの、実際には学園の一部としか思えない──そんな立派な屋敷が、すみれという人間の住まいらしい。

 

聞けば、彼女はこの学園の理事長の孫であり、一族にとって学園は庭も同然……というか、本当に庭のような扱いをしているらしい。それでいいのだろうか……いや、人間のことで確たることは言えないが、多分ダメなことだろう。ただ、このすみれという人間が無理を通せる力を持っていることはアタシにも分かる。

 

ここの主がすみれだというのは本当らしく、彼女と共にいるというだけで屋敷の侍従達は何も言わずに我ながらかなり怪しいアタシを受け入れ、あっという間に奥の部屋に通された。

 

「どうぞ」

「ありがとう。……下がっていいわ」

 

紅茶や菓子を差し出した従者に一言礼を言って、それから下がらせるすみれからは、生まれながらに人の上に立つ者特有の気風というか、そんなカリスマ性を感じた。まるで……そう、アスティの親のような。アタシも名門の出ではあるが、従者などいなかった。龍は弱者を擁しない、だそうだ。

 

「……この部屋は? 客間には見えないけど」

 

通された部屋は、今使っているテーブルや椅子の他に、私的なものにしか見えない書籍やら書類やらが見え隠れする本棚もあるし、なんなら大きなベッドがある。来客をもてなす為の部屋ではないのは明らかだ。

 

「私の寝室。悪いわね、プライベートな来客である貴女にここの客間を使うのは色々と問題なの」

「……そう……」

 

涼しい顔でここが私室であると告げたすみれに、アタシは訝しむような視線を送る。ここが彼女の部屋であることは間違いないんだろうが、後半の部分……なぜアタシを招いたのかという点をでっちあげの理由で誤魔化している……そんな直感がアタシの中にあった。

 

だとしたら、理由はなんだろうか。目の前の人間がアタシの欺瞞を見破るほどには力のある存在だということは確かだ。その自覚があるならば、傲慢にも人の身で龍に害をなそうと思い上がってもおかしくはない。

 

どうやらアスティを敵視しているようだし、アタシを従わせてけしかける腹積もりなのかもしれない。

 

「聞きたいんだけど」

「……なに?」

「異種族がこちらに来るのは婚活の為というのは、事実?」

「う…………そうね、大半は……いや、アタシの知る限り全員伴侶探しよ……悪い?」

 

何を聞かれるかと思えば、それか。最早アタシたちは全員開き直っているようなものだが、改めて人間に聞かれると恥というものがぶり返してくる。確かに人間の文化や娯楽に熱中する者もいるが、人間界へ来た彼らが伴侶探しをしないかといえば全くそんなことはない。唯一男性から距離をとって建前に徹していたかに見えたアスティすら真意がアレだった今、すみれの言うことを否定できるわけもない。

 

「貴女もそうなの?」

「そ、そうだけど……って、アスティのこと聞きたいんじゃなかったの!?」

「わざわざ淹れさせたのに、お茶を不味くする話をするなんて失礼だと思わない?」

「思ったより溝が深い……」

 

どうやらアスティは相当な恨みを買っているらしく、すみれはアイツが話題に出るだけで不快らしい。自業自得なのはそうだけど、ちょっと複雑だ……って、アタシがアスティに甘くなってどうする! アイツは痛い目を見た方が良いのだ。

 

「で、進捗はどうなの? 貴女の婚活」

「まだその話するの!?」

 

話題が変わったかと思っていたにも関わらず、すみれは何気ない顔で蒸し返してきた。なぜアタシのプライベートばかり聞いてくるのか分からないが、さっさと答えてこの話を終わりにしよう。

 

「……全然よ。というか、もう諦めようと思ってたの。アタシ向いてないみたいだから」

「へぇ?」

「今日こうしてここに来たのだって、どうせ帰るならアスティの悪事を暴いてやろうと思ったからで……真相はくだらないものだったけど」

「私の知る限り、アレのように女性を侍らす人外は初めてだったのだけれど」

「異端も異端よ! 向こうでも見たことないんだから!」

 

まぁ、ライバルが減る……特にあのアスノティフィルと競い合う未来の可能性が万に一つでも消えたことを考えれば、むしろ良かったのかもしれない。

 

……もう慣れたことだが、すっかり自分の中の深いところでアイツには勝てないという認識が定着していることに思わず目を瞑って自嘲し……そして目を開ければ、そこにはすみれの顔がすぐ目の前に広がっていた。

 

「貴女は普通なの?」

「あ、当たり前じゃない……」

「……そう、手間がかかるのね」

 

アタシに向けた風でもなく愚痴を吐くようにそう呟いたすみれは、アタシから離れたかと思えばおもむろに携帯電話を取り出すと、アタシに断りも入れずどこかへ電話をかけ始めた。

 

「もしもし、私です。交流管理局に取次を」

「な……っ!?」

 

交流管理局。すみれが電話口に口にしたその言葉は何を隠そう人間界における異種族の出入りを管理する向こう側の機関であり、一般の人間が知り得るものではない。いや、初めて会った時から一般やら普通やらとはかけ離れた人間だったが。

 

「じゃなくて! なんでアンタが管理局に……!?」

「氷堂の家と協力関係にあるから。それだけよ」

 

そんな少しの会話のうちに、取次が終わったらしくすみれが再び電話をとる。

 

「……尋ねたいのですが、そちらは本当に交流生の教育を徹底しているのですか?」

「っ!」

 

コネクションがあるのは分かった。だとして、この状況で彼女が管理局に話すことなど一つしかない。

 

「私の記憶が正しければ、交流生が用意された立場から逸脱する行動をするのは褒められたものではなかったはずだけれど」

 

即ち、このアタシのこと。

 

「……龍族のベルルイレ・ゼト。姿を消して我々が運営する学園へと忍び込んでいたわ」

「ま、待って! なにが気に障ったのか分からないけどアタシは──」

「──いえ。こちらも問題にしようとは思っていません」

 

アタシの名前と所業が出てきたところで、いよいよ焦って口を挟もうとするが、すみれは意に介さずに問題にする気はないと口にした。では、一体なにを考えているのだ?

 

「ただ、彼女の身柄を我が校で預かりたいのです」

「は……?」

 




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