ヒトメスさぁ……警戒心薄すぎでしょ……かわいいね♡   作:鐘楼

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壊れた日(揺川未姫視点)

わたし、揺川未姫は父と母と兄とで四人家族だった。6年前……わたしが10歳の時までは。

 

転機は、お兄ちゃんが初めての彼女を連れてきた時。緊張した様子でお父さんとお母さんと、ついでにわたしに恋人になったという女の子を紹介してきたのだ。

 

『こ、こちらが……かっ、彼女のエイミーさんです!』

『どうも、エイミーです。お父様にお母様、それに妹ちゃんも、よろしくお願いします♪』

 

最近転校してきて、お兄ちゃんから告白してオッケーをもらったらしい。その人は、お兄ちゃんには悪いけど、どこまでも普通の良い人なお兄ちゃんには不釣り合いなほど綺麗でかわいくて……まるで人間じゃないみたいだった。

 

今思えば、もっと早く気づくべきだったとも、もうこの時点で手遅れだったんだなとも思うけど、ともかくこの時のわたしたち家族はお兄ちゃんを純粋に祝福した。

 

そうして、その彼女さんとわたしたち家族は交流を深め……三回目の訪問で、その人が泊まりにくることになった。その日は、みんなで晩御飯を食べたのを覚えている。でも、ちょうど食べ終わった時だっただろうか、お父さんとお母さんに緊急の用事が入ったのだ。

 

『ごめんなさいねエイミーちゃん、折角お招きしたのに……』

『いえいえ、お気になさらず♪』

『ほんと良い子ねぇ〜、こら優太! 私たちがいないからって変なことするんじゃないわよ! 未姫もいるんだからね!』

『ちょっ!? 母さんやめてってば!』

『未姫、留守番よろしくな』

『うん、お父さん』

 

そう約束したは良いものの、その日のわたしは早々に眠くなってしまって、自分の部屋に戻ろうとしたのを覚えている。

 

『お兄ちゃん、わたしもう寝るね……』

『おう。おやすみな、未姫』

『未姫ちゃんおやすみ〜…………♡』

 

何故覚えているのかと言えば、それがお兄ちゃんと交わした最後の言葉だったからだろう。

 

『ん……あ……えっと…‥今……夜の一時……』

 

この日の深夜、トイレに行きたくなって目覚めてしまったことが良いことなのか悪いことなのか、わたしは未だに分からない。

 

ともかく、トイレを終えて、行きよりは冴えた頭がお兄ちゃんの部屋から漏れ出る音を察知したのだ。不思議に思ったわたしはお兄ちゃんの部屋を覗いた。いや、覗いてしまった。

 

『まっっったく、もう! 優太くんが悪いんだからね……! あんなにアピールしたのに手を出してくれないんだから、生殺しもいいとこっ! こらっ♡反省しろっ♡でもしょうがないよね、優太くんシャイだから♡気づいてないと思った? 隙があってもなくてもチラチラ私のこと見てたの♡あっ、もちろん気づいてないと思い込んでる優太くんもかわいかったよ♡でも恥ずかしがって手は出せなかったんだよね♡だから私からシテあげてるんだからねっ♡合意だもんね♡告白してきたってことはそういうことだもんね♡』

『ぁ……へ……』

『え……?』

 

扉の先では、見たこともないような顔をする裸のお兄ちゃんと、淫魔の角と尻尾を露わにしたお兄ちゃんの“彼女”。

 

『あ……ちょ、ちょっと優太くん! 未姫ちゃんに見られちゃったじゃん♡でもちょうどいいよね♡今日でお別れになっちゃうからね♡ちゃんと見てもらおうね♡み、未姫ちゃんごめんねっ♡エイミーお義姉ちゃん優太くんと結婚するからっ♡向こうで幸せに暮らすからっ♡もう会えないの♡ほんとにごめんねっ♡』

『ぁ……み、みき……? あ……あぁぁ……ごめっ、ごめ……』

 

わたしの姿を見て、半端に正気に戻ったお兄ちゃんが感情と快楽の入り混じった涙を流す。けれど、そんな二人の姿を見たわたしの思いは、悲しみでも絶望でもなかった。

 

『お兄ちゃん……気持ち良さそう』

『……あはっ♡』

 

それからのことは覚えていない。お父さんとお母さんはお兄ちゃんに二度と会えないことを知って怒り悲しんでいたけれど、無駄なのだ。二人が異界へ行ってしまった以上、どうしようもないし、異種族を真にこの国のルールで縛ることなどできはしないのだから。

 

そんなことよりも……ただ『あの時のお兄ちゃんが羨ましい』と、そんな思いだけがわたしに残った。

 

────────── 

 

ひとしきり話し終えると、明日乃ちゃんは感想を言うでもなくわたしに覆い被さってきた。

 

「あ、明日乃ちゃん……?」

「気に入らないな」

「えっ?」

 

手つきは優しげなままだったけど、明日乃ちゃんの気に入らないという言葉には、いつも余裕のある彼女らしくなく確かに苛立ちを感じる。

 

七志明日乃。果てしない余裕と自信があって、いつもみんなに頼られて、優しくてかっこよくて強くて頭もいいわたしの友達。まさか彼女が焦がれた異種族だとは思いもしなかったし、その上彼女が自分を手籠にするつもりだなんて夢みたいだけど……いざこうなってみると、彼女以外考えられないようにも思える。

「それではまるで、私でなくても良いみたいじゃないか」

 

それは……もし明日乃ちゃんが正体を明かさないまま他の異種族に言い寄られていたら……わたしはついていっただろう。否定はできない、けれど。

 

「そうかもしれないけど……明日乃ちゃん、自分で言ったよね。わたしが嫌がっても心を明日乃ちゃんで埋め尽くすって。なら……あの日のお兄ちゃんの顔も忘れるくらい気持ちいいことして、塗り替えてみてよ」

 

この部屋に入ってからの明日乃ちゃんは遠慮というか、わたしを気遣う思いをひしひしと感じた。明日乃ちゃんは優しいし、その優しさも嬉しいけど……どうせなら、思いっきりやってほしくて煽るようなことを言った。

 

「……ふふ」

 

そんなわたしの浅はかな思惑は、見事成功したらしい。

 

「良いだろう、未姫。君の全てを私で塗り替える。その淫魔も、兄君の顔も忘れるくらいに壊して……愛するよ、未姫」

 

嗜虐心が現れた明日乃ちゃんの顔にドキドキしながら、わたしの服に手をかける明日乃ちゃんを感じていた。

 

 

 

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