ヒトメスさぁ……警戒心薄すぎでしょ……かわいいね♡   作:鐘楼

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第四話 vanishing節操

当然寮長に手を回し、未姫とあの部屋で一夜を過ごした翌日、共に校舎へ向かう道を歩く。

 

「今日は一層皆の熱視線を感じる気がするね」

「ふふ、みんなわたしが羨ましいんだよ〜」

「そうなのかな」

 

未姫と二人で歩くのは初めてではない。しかし、今朝から未姫は随分と積極的で、私の腕を離そうとせず、いつも以上の花が咲いたような笑顔を向けてくれる。もうすごい可愛い……ではなく、こうも密着していれば私に詳しい者は変化に気づくものなのだろう。

 

「そうだよ〜、知ってる? 明日乃ちゃんのファンクラブとかもあるんだよ?」

「それは……知らなかったな」

 

私も、この学園の全てを把握しているわけではない。私を好いてくれる子たちが多くいてくれているのは知っていたが、あの子達が組織的にそういう活動をしているとは知らなかった。

 

知っていたら存分にファンサービスをしていたところだ。まぁ、機会があればその時にファンサービスをするとしよう。あとついでにつまみ食いする。

 

なんてことを考えながら教室に到着し、二人で一緒に扉を開けると、皆の視線が一挙に集中する。……もう既に話が広まっているとは、我ながらとんでもない注目度である。

 

とはいえ、さすがに直接話を聞いてくる勇気がある者はいないのか、教室は不思議な静寂に包まれていた。

 

やがて私と未姫の前後の席に着いたところで、未姫は名残惜しそうにしながらもやっと腕を離す。そのタイミングで、ついに静寂を切り裂く勇気ある者が現れた。

 

「あすのんにみっきー、おはよー!」

「おはよう日向。今日も息災で何よりだよ」

「日向ちゃんおはよ〜」

 

阿須賀日向。ここ聖美原女学園では私と勝負ができるほどの有名人である。一口に有名と言っても、彼女と私では毛色が違い、多くの場合で私が一方的に知られる身なのに対して、彼女は学園のほとんどの生徒と顔見知りという驚異的なコミュニケーション能力を持っているのだ。

 

「あ、写真撮ろーよ写真! あすのんとツーショット撮りたい!」

「またかい? 君は良い写真を撮るからね、期待しているよ」

 

言うや否や、日向は即座にスマホを取り出して私の肩に腕を回して写真を撮った。手際の早さに見合わない写りの良い写真だ。

 

「にしても、こうも頻繁に私と写真を撮る意味があるのかい?」

「ふふん、日向ちゃんは強かだからね。学園の超人気者との仲をアピールすることで発言力を高めているのです」

「相変わらず正直だね。私は好きだが……どこかで反感を買うかもしれない、正直者は私の前くらいにしておくんだよ?」

「んもータラシめ〜」

 

正直者とは言ったものの、彼女の本質はそれとは全く遠い場所にあると感じる。というのも、日向が私に対してぶっちゃけたことを言いがちなのは、『その方が私に好まれる』という計算でやっている節があるのだ。世渡り上手の底知れない娘だが、いつか彼女の真実を覗いてみたい、とも思う。

 

「むー……」

「おや」

 

日向について考えていると、一連のやり取りを見ていた未姫が頬を膨らませて不満げに私たちを見ていた。フォローしようと思ったが、目敏く反応した日向が先に声をかける。

 

「ふふーん……? みっきー、嫉妬ですかな〜?」

「そ、そういうのじゃない……」

「ほ〜ん? へぇ、この感じだとあの噂もほんとなのかにゃ〜?」

「噂とは?」

「それはもう、お二人が寮の最上階のあすのん部屋から一緒に出てきたという噂ですよ。ねーせいな?」

「えっ……!?」

「うん?」

 

日向が唐突に話を振ったのは、先ほどから近くの席で私たちの様子を見ていた少女だった。名は確か、黒津静奈だったか。

 

「ほら、せいなはあすのんのファンクラブ会員だからさ〜、もうソワソワしっぱなしだったんだよー」

「ちょ、ちょっと日向ちゃん! ひどいよ!」

「へぇ」

 

それは知らなかった。シャイな子、という印象の通りなのか昼休みに私を囲む子達の中で彼女を見かけることはなかったから。でも……ファンだというのなら、ファンサービスの練習にはちょうど良いのかも知れない。

 

「嬉しいな、静奈。そんなに私のことを考えてくれていたなんて」

「えっえっいやちょっ……ち、近い……」

「でも、私も万能ではないんだ。伝えてくれないと、こうして応えることもできない……」

「いっいやいやいや私はその見てるだけで充分満たされるっていうかそもそも明日乃様が存在しているだけで我々下民は活力を賜っているといいますかほんと身に余る光栄なのでぇ……!」

「下民なんて言うものじゃないよ、静奈。こんなにかわいいのに……」

 

言いながら、優しく丁寧な手つきで静奈の前髪をかき上げる。すると、普段の彼女の印象とはかけ離れた整った顔立ちが露わになった。

 

「あっか、かお……!? かわ……!?あっあぁぁ……ごめんなさぁい!」

 

耐えきれなくなったのか、静奈は顔を真っ赤にして逃げていってしまった。ふむ、ファンサとしては上出来だったのではないだろうか。

 

「明日乃ちゃん……むー……」

「あすのんわざとやってんの〜?」

 

より一層不満げな態度を見せる未姫と、そんか未姫を見て私に責めるような目線を向ける日向。そうはいっても、可愛らしい拗ね方をする未姫にも問題があると思われる。

 

……と、ちょうど良い。どうしようかと少し悩んでいたことがあったのだが、日向に頼むのが正解だろう。

 

「ところで日向。燐華に……藤村くんに言伝を頼みたいんだが、いいかな?」

「りんりんに? 良いけど、なんで伝言?」

「随分と嫌われてしまってね。私から話そうとすると避けられてばかりなんだ」

 

昼休みには頻繁に突っかかりにくる燐華だが、それ以外の時間に接触することはほぼない。めちゃくちゃ避けられている。もちろん連絡先など持っていないのだから、確実に呼びつけたいなら間に誰かを挟んだ方が良い。

 

「あー、りんりんも頑なだよねぇ。それで、なんて?」

「決着をつけるから放課後生徒会室に、と」

「おっけー任された!」

「……明日乃ちゃん、藤村さんと何するの?」

「え゛」

 

ちょっと本気で堕としに行こうと思ってるんだ。なんて言えるわけがない。さっきのからかいとは違うのだ……よし誤魔化そう。

 

「実は……心配なんだ。聞くところによれば、燐華は重いものを背負っているらしいんだ。それに彼女がいつか押し潰されてしまいそうで……だから私はそれを解消してあげたい。なに、ちょっとしたカウンセリングだよ」

「そっか……楽にしてあげられるといいね」

「うん……必ずやってみせるさ」

 

手段は選ばないけど。過程でやむを得ず心を奪っちゃうかもしれないけど。

 

すまない未姫。こんなに魅力的で愛らしいヒトメスが無警戒で誘惑してくる環境に私は耐えられないんだ。本当にすまない。

 

 

 

 




普通に本気でバー2個行かなかったら書かないつもりだったが、逆に言えば一瞬で達成してしまったからには書かねばならぬということ
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