今回の話はキングの育成イベントを見て思いつきました。で、ネタを寝かせているうちに、話がどんどん大きくなって…。今回は勝負服の話が出てきますが、あくまでこの世界線での設定です。
6人揃ってトレーニングをする黄金世代。そこには、普段のドロドロとした修羅場は微塵も感じない。
エル「それはデスネ、ダービーの後に起きたある出来事が理由デス。あれがあるから、私達はスぺちゃんを中心とする黄金世代として纏まったんデス。」
◇
~回想~
ダービーの日の夜、私はチームの皆から祝福された後、寮に帰宅する途中、トレセン名物の大樹のウロでキングちゃんを見かけました。
キング『もう~!何なのよ~!」
私は最初、負けた悔しさだと思いました。皐月賞で2着と好走したものの、ダービーでは14着。もし私がキングちゃんでも、日本一のウマ娘になる夢が遠のいたと思って、叫んでいた筈。そう思って、立ち去ろうとした時でした。
キング『私より、スペシャルウィークさんの方が良いだなんて!」
それを聞いて、私の中で何かがざわめきました。
スぺ『キングちゃん、ちょっといいかな?」
キング『スペシャルウィークさん…。」
スぺ『今日のダービーは逃げたけど、あれって作戦?これまでは全部先行や差しだったはずだよね?」
キング『あれは、セイウンスカイさんの逃げを封じる為にやった…、と言えば聞こえはいいけれど、実際には焦りから落ち着きをなくして掛かってしまったのが真相ね。セイウンスカイさんは番手追走も出来るから、ハナを奪えばいいわけでもないわ。」
スぺ『それで、キングちゃんより私の方が良いって?」
キング『私の母の事よ。皐月賞でもそうだったし、今日のダービーでもそう。私にレースの世界に居続けるのは無理だから、早く帰ってきなさいっていうのよ。幾らアメリカでGIを7勝しているからって、もう少し言い方というものが…。」
スぺ『…ってる。」
キング『え?」
スぺ『そんなの、親として間違っている!」
自分でも驚くほどに怒りが込み上げてきたんです。
キング『ス、スペシャルウィークさん!?」
スぺ『私のお母ちゃんは、決してそんなこと言わない。皐月賞の時、私は適性体重をオーバーしていたせいで負けた。でも、お母ちゃんは管理ミスや考えの甘さを注意こそしたけど、私を蔑ろにすることは決してなかった。」
キング『スペシャルウィークさん…。貴方は良い母親を持って幸せね。」
スぺ『うん、私にはお母ちゃんが二人いるから。」
キング『え?まさかの再婚?」
スぺ『ううん、私のお母ちゃんは、私の生みの親じゃない。私を生んでくれたお母ちゃんは、私が生まれてすぐ亡くなった。死ぬ直前に、今のお母ちゃんに私を託した。」
キング『…。」
キングちゃんが押し黙りました。私の家庭事情を聞いた人は、皆こういう反応をするから、そこは慣れています。
フジ『おやおや、今日のダービー出走者が揃ってどうしたんだい。」
スぺ『あ、寮長さん、聞いてください。」
私は、キングちゃんのお母さんの事を話しました。
フジ『うーん、これはよく話し合わないとね。今日はもう遅いし、明日君の親友を集めて話し合うのがいいんじゃないかな。」
キング『私もそう思うわ。貴方の家庭事情を聞いて、ちょっと動揺しているから。」
それを聞いて、私は寮に帰ることにしました。
◇
スズカ「あの時は驚いたわ、天真爛漫で基本的に怒らないスぺちゃんが、烈火の如く怒っていたもの。」
フジ「私としては、あの時適切なアドバイスをしていれば、スぺちゃんを独占出来ていたかもしれないと思うと、返す返すも惜しいことをしたよ。」
キング「あら、相談を受けたのは私よ。私がそんな抜け駆けを許すわけないじゃない。」
ウララ「えー、キングちゃん、あの日は部屋に帰ってからずっと『どうして私にそこまで…。」ってブツブツ呟いてたよ~。」
キング「ちょ、ちょっとウララさん!」
それを聞いてニヤつく一同。
◇
~回想~
翌日、私はキングちゃんの事を皆に話しました。
スカイ『それは多分、親心なんじゃないかな~。レースで成功するのってほんの一握りだし、自分がした苦労を、子供にさせたくないんじゃない?」
グラス『ですが、子の挑戦を見守れないなど、親として失格です。」
ツル『そうだよ、私だって病弱なことを心配されたけど、挑戦するな、なんてことは言われなかったよ。」
話し合った結果、親子の関係を変化させるために、一時的に隔離することになりました。
エル『問題は、どこに居を構えるかデース。」
スぺ『言い出しっぺの私が出来れば一番だけど…。」
スカイ『流石に母子家庭に預けるのは色々と無理があるよね~。」
ツル『じゃあ、私に任せて!」
キング『ツルマルさん?」
ツル『私の所属するツルマル家は、メジロ家やシンボリ家に比べれば小さいけど、何とかなると思う。精神的なケアだって出来るよ。後、会長さんに頼んで、色々と便宜を図ってもらえるかも。」
エル『会長さんを動かせるなんて、どんなツテデスカ!?」
ツル『うーん、運命的な何かを感じるんだって。」
こうして、キングちゃんは一時的にツルマル家預かりになりました。勿論、学園側とトレーナーさん達には説明済みです。あまり踏み込んだ対応をすると関係が拗れるのですが、会長さんが動いた結果、事が運びました。
◇
ツル「幾ら学園の生徒だからって、親から引き離すなんて普通は親権侵害だよね。」
ルドルフ「普通はそうだが、あの時のスペシャルウィークの怒り方は半端なかったからな。もし聞き入れなかったら、多分私でも負けるほど暴走していただろう。」
グルーヴ「当代のダービーウマ娘が、自分の能力を正当に評価されなかったと言ってマスコミにたれ流せば、どんなことが起きるか想像するのは容易だ。ましてや発言者がアメリカのGI勝者にして、世界的な勝負服デザイナーのウマ娘だ。」
沖野「あれは理事長以下、スタッフ総出で事態の収拾にかかりきりになったな。」
東条「ええ。うちもエルがダービーを勝った以上、無関係ではいられない。だから、日米のURAは必死になったわ。」
グルーヴ「まあ、それ以上の爆弾発言で、黄金世代全員を怒らせたのだがな。」
◇
~回想~
只ならぬ事態であると感じ取り、急遽日本のトレセン学園に来たキングちゃんのお母さんに会うことになりました。様式美の如く私に謝ったキングちゃんのお母さんですが…。
スぺ『私は、そんな謝罪の言葉を求めていません。キングちゃんの事をきちんと見ていてほしいんです。」
キング母『キングには才能がないわ。走っていても苦しいだけよ。早く引退した方が良いわ。」
この一言が、私達の心に火をつけました。
グラス『そうですか、では、現時点で、怪我でレースに出れていない私とツルマルツヨシさんは、それ以下の存在という訳ですね。」
元々怒らせると怖いグラスちゃんが、その時は阿修羅の如き存在になったのを、今でも覚えています。
エル『日本のウマ娘だって世界に羽ばたけることは、タイキ先輩が証明しました。エルはそれに続きますよ。エルはこれまで凱旋門賞を取る事を目標にしてきましたが、これはBCクラシックも目標に加える必要がありますね。」
エルちゃんが、アメリカの有名なレース、BC(ブリーダーズカップ)も狙うと言い出します。
スカイ『レースってさ、名門だけで成り立つわけじゃないよね~。ま、そっちがその気なら、私は名門出身の相手を全部破っちゃうけど?レースの展開をぶっ壊す、行動が読めない魔物が誕生しちゃうかもね~?」
普段、怒るのは疲れるということでやらないセイちゃんも、カンカンでした。
ツル『貴方は、誰かの憧れとしての存在を、自ら放棄したに等しいですね。今すぐグラウンドに出て、キングさんと勝負してください。それで、無残に負けて、キングさんの幻想を破るための礎になってください。」
真面目で良識のあるツルちゃんが、現役ウマ娘と引退したウマ娘でレースをするという無茶苦茶な提案をしてきました。
キング母『な、何故ここまで…。」
ルドルフ『貴方は、ウマ娘の走欲(注:作者の世界観におけるウマ娘の四大欲求の一つ。他三つは人間と同じ)を
グルーヴ『そもそも、名門に生まれたからといって、走るとは限らないのがウマ娘。結局は個人の才能と努力と周囲の環境です。名門は環境が有利というだけであることを忘れたら、足を掬われますよ。」
◇
スカイ「いやー、痛快だよね~、子供が大人に説教するのって。」
グラス「ですが、これで終わっては、単なる親子断絶です。そうならなかったところに、キングさんの強さがあります。」
キング「ええそうよ。あの後短距離に路線変更して、高松宮記念を勝って、GI勝利を報告したわ。そこで和解したのよ。『貴方には、確かにレースの才能があったわ。私の目が間違っていたわ。」って。」
スぺ「それで、話はそこで終わらなかったんです。日本総大将たる私に相応しい勝負服を作る事になり、キングちゃんのお母さんが、そのデザインを担当したんです。『貴方は成績もふるまいも、日本総大将に相応しいわ。だから、私に担当させて頂戴。」と。キングちゃんのお母さんが精魂込めて作っただけあって、これ以上ない出来です。最初の勝負服も良いですけど、こっちも気に入っていて、状況に応じて使い分けていますよ。」
エル「勝負服といえば、スぺちゃんには水着もありますね~。冬に水着の勝負服で走るのはどうかと思いマスけどね~。」
スぺ「エ、エルちゃん、それは言わないで~。」
マルゼン「あら~、お姉さんの悪口を言う小鳥は誰かしら~?」
エル「ケ!?マ、マルゼン先輩!?」
グラス「エル、腹を切りなさい。」
エル「ノー!お慈悲を、お慈悲を~!」
◇