ハナ「まさか私がチームのことで貴方に迷惑を掛ける日が来るとは思わなかったわ。」
沖野「ま、貸し一つでいいか。」
ハナ「ええ。」
沖野「ってことで、奢ってくれないか。」
ハナ「それとこれとは話が別よ。」
沖野「厳しいな…。」
ハナ「ま、それは兎も角、事態は思ったより深刻よ。生徒会組はおろか、フジキセキやマルゼンスキーまでスペシャルウィークに堕ちているわ。」
沖野「おいおい本当かよ。あの2人ならスペシャルウィークに対して導く存在になれると思ったんだがな。」
ハナ「私もそう思ったのよ。でも、2人とも駄目だったわ。」
~フジキセキの場合~
最初はかわいいポニーちゃんだと思っていた。実際、転校してきたときはそうだった。だけどね、彼女がどんどん成長していくうちに、周りを惹きつける事については、私を超える存在になったんだ。
私のスタイルは、自分から攻めるから、人を選ぶところがある。ポニーちゃん呼びを子供っぽいとして嫌う子だっている。一方のスぺちゃんは、自分から積極的に動くわけじゃないけど、懐は深いから万人受けする。そしてあの日、私は決定的に堕ちてしまったんだ。
その日、私はショーを失敗してしまった。勿論失敗することはあるけど、その日は何度やり直しても上手くいかなかった。仕方なく切り上げようとしたんだけど、スぺちゃんだけは動かなかった。どうしてそこまで拘るのか聞いたら、『フジキセキさんのマジックショーが良いんです。成功するまで帰りません。』って言うんだ。私は根負けして、彼女の為にマジックショーをすることにした。そうしたら、これまでのことが嘘のように成功してね。
翌日、もう一度試してみたら、また上手く行った。その翌日も。もう、彼女のためだけのマジシャンとして生きていくのもありなんじゃないかと考えたんだ。
沖野「自分が攻めている間は強いが、一旦受けに回ると弱いというタイプか。」
ハナ「幾ら大人びていてもそこは学生、仕方ない面はあるわ。」
沖野「それで、マルゼンスキーの方は?」
~マルゼンスキーの場合~
最初は、何か運命を感じたのよ。それだけならチケゾーちゃんやライスちゃんも同じなんだけどね。スペちゃんを見ていると、まるで自分のことのように思えて、放っておけないのよ。ドライブに連れて行ったり、スランプ脱出のためにバブリーランドに招待したり。
だけど、そうやってスペちゃんのためにやっていたことが、いつの間にか自分のためになってきていたのよ。どうしてか考えるうちに、気付いてしまったわ。隙がなさ過ぎるというのは、孤独なんだって。強過ぎるが故に同世代にライバルがいない私と、最高のライバルに囲まれたスペちゃん。ああ、自分もスペちゃんと同じ立場になりたいんだって気付いた時点で、もう駄目だったわ。
沖野「あのマルゼンスキーにそこまで言わせるのかよ。」
ハナ「この話をしていたときのマルゼンスキーは、完全に恋する女だったわ。で、そっちはどうなのよ。」
沖野「マックイーン経由で聞いたところ、メジロ家は全員陥落済だ。特にドーベルは執着していて、恋が叶わないなら駆け落ちまで考えている。」
ハナ「そうなったら大スキャンダルよ。メジロ家の令嬢が揃って日本総大将と駆け落ちなんて、URAとメジロ家の信用が吹っ飛ぶわ。当然、貴方も只では済まないわよ。」
沖野「スキャンダルが怖くてトレーナーは続けられないだろ。そこは覚悟の上だ。分からないのは、なんでここまで簡単に陥落するかという事だ。あいつらのレースに対する情熱は本物だ。勿論ライバルとしての存在は大きいが、仲良くなることはあっても、現役生活中に色恋沙汰の関係にまで発展することは、そう多くはない。」
ハナ「そうね、それが分からないと、対策の打ちようがないわ。」
沖野「こうなったら、蹴られるのを承知で聞くしかないか。」
◇
マック「何故こうも簡単に陥落するか、ですか?」
沖野「そうだ。プライベートを踏み荒らす質問なのは分かっている。だが、それが分からないと、対策が打てずに際限なく被害が増える。」
マック「私にも本質は分かりません。ですが、ドーベルは説明出来ると言っていました。」
沖野「じゃあ、メジロドーベルを呼んでくれ。」
マック「分かりましたわ。」
ガチャ
テイオー「なんでドーベルなら説明出来るんだろう?会長でも無理だっていうのに。」
沖野「さあな。」
ガチャ
ドーベル「スペについてのことだというから来たけど、本人に会えるわけじゃないのね。」
沖野「そこについては申し訳ないと思う。だがこのままだと、修羅場からの学園崩壊までありえるんだ。」
ドーベル「分かったわ。端的に言うと、総受けハーレムよ。」
沖野「ハーレムはイメージがつくが、総受けって何だ?」
ドーベル「創作において、恋人関係を扱う場合、主導権を握る方を攻め、握られる方を受け、と表現するわ。一般的なハーレムは総攻めね。一方の総受けハーレムは、ハーレムの主人公が主導権を握られることを意味するの。」
ハナ「成程、それで?」
ドーベル「ハーレムにおいて重要なのは好感度管理よ。これに失敗すると、中心人物を巡って衝突する修羅場が発生する。総攻めの場合、中心人物が圧倒的実力を持ち続ける限り大丈夫だけど、総受けの場合はそうはいかない。」
沖野「そうだな。スペの性格的にも、自分の考えを主張することはあっても、他人を実力で従わせるというのは…。」
ドーベル「それだけじゃない。総受けだから、独占力を発揮したメンバーの誰かが、スペを拉致監禁することだってあり得るわ。そうなったら本人に対抗する手段がない。」
ハナ「嫌だけどあり得る話ね。」
沖野「俺はどうすりゃいいんだ。」
トレーナー2人が頭を抱える。しかし、ドーベルは平然としている。
ドーベル「簡単な話よ。好感度管理が出来る人物をスペに付ければ良い。一人当てがあるわ。」
沖野「本当か!?それで、一体誰だ?」
ドーベル「私の同志、アグネスデジタルよ。」
それを聞いて渋い顔をするトレーナー2人。
沖野「アグネスデジタルか…。あいつは能力は凄いんだが、性格が一癖も二癖もあるからな…。」
テイオー「もっと他にいないの?」
ドーベル「いないわ。今回の問題は、管理能力そのものではなく、スぺへの恋心の有無が問題だから。ただ管理するだけなら、会長が一番。だけどスぺの恋敵が管理している時点で、メンバーは心中穏やかじゃないでしょう?」
テイオー「そ、そうだね…、幾ら会長でもこれは譲れないもん。」
ドーベル「デジタルは、ウマ娘同士のカップリングには自分からは絶対に挟まらないし関わらない。その鉄の意志に対して信用がある。勿論、こちらが要請したら別だけどね。それとも、他にやり方があるの?」
沖野「…、思いつかないな。」
ドーベル「じゃあ、現時点で堕ちた者全員集めて。私はデジタルに話を通してくるから。」
沖野「ああ。」
◇
ドーベル「というわけなの。私は立場上、取り仕切ると反発が大きいから、デジタルの力が必要なの。」
デジタル「分かりました。ウマ娘ちゃんが曇るのは言語道断です!内的要因だって、このデジたんが解決してみせます!」
ドーベル「お願いするわ。」
デジタル「あ、でも、スペシャルウィークさんに相応しいか、試すことをしますね。」
ドーベル「どんなことを?」
デジタル「人前で惚気られるかです。これが出来ないなら関係を続けられないと、デジタルは愚考しています。」
ドーベル「同感よ。」