「ん、今日は霧吹きみたいな霧雨だね。哨戒任務に支障なーし」
いつものように哨戒で海を駆けているとふわりと頬を撫でるような優しい霧雨が降ってきた。アタシは問題ないから気持ちがいいだけだけれど、癖っ毛が酷い人にとっては髪が爆発してやだなぁ、って天気に湿度だ。
『ハローハロー、愛するリスナーの皆聞こえているかい?おねーさんだよ。今日もいい雨だから雨のラジオをやっていくよ』
こんな雨かも怪しい天候でもやるんだなぁ、と思いながら無線の受信機を音量を上げる方向で調節する。
このラジオについてある艦娘は言う。あの番組はとてもクールだ、と。
またある艦娘は言う。あの番組はクソだ、と。
どっちもその理由は同じ。このラジオが聞こえている間は「敵」に遭遇しないからだ。だから会敵の心配がないから安心して聞けるし、戦いたいヒトには嫌な時間になる。
司令官はそれでも油断するな、って煩いけれど。アタシもこの番組は嫌いじゃないし、何よりも。
「やあ、艦娘さん」
「久しぶりだね、深海棲艦さん」
放送中は敵でしかない深海棲艦も、ラジオは聞こえるらしくて放送中は話し相手になるんだよね。彼女はそんなアタシの雑談仲間だ。
「艦娘さんは髪の毛大丈夫かい?」
「アタシは大丈夫だけど……あはっ、深海棲艦さん大変そうだ」
「うん。見ての通り、癖っ毛なんだ」
深海棲艦さんの髪の毛が申し訳ないけど笑ってしまうぐらいに爆発していた。いつも会う時はもっと雨が強いからこんな愉快な髪型は初めて見たなぁ。
「頬に浴びる分には気持ちがいいんだけどね。お肌しっとりだよ」
「そうだね。私の髪も肌みたいにしっとりしてくれればなぁ」
深海棲艦さんの艦種、名称や個体名があるかも知らない。逆に深海棲艦さんも私の艦種も艦名も知らない。お互いにそんなことは興味ないんだ。無線も役に立たないから見てないフリ、知らんぷり。
『今日のお便りはー、『おねーさんこんにちは』はーい、こんにちは。『最近湿度が高くて、癖っ毛が酷くなっちゃって嫌になっちゃいます。おねーさんはどうですか?』ごめんねぇ、おねーさんはいつもふんわりヘアーなんだ。癖っ気なリスナーの皆、癖っ毛との戦い、頑張ってね!』
「ふふ。深海棲艦さんもしかしてお便り送った?」
「いや?送り先も分からないよ。でも、同じことを考えるヒトがいてなんだかホッとするなぁ」
「このラジオって「アタシもそう思ってた!」ってお話よく取り上げてくれるよね」
「うん、それも好きだし……今日の曲は何かな」
『今日の曲は癖っ毛なリスナーさんに!『癖っ毛ボンバーロード』!』
「あはは、まさにぴったりじゃん!」
「私は特にこういう選曲センスが好きなんだ。癖っ毛で悩んでいる曲なのになんでこんなに楽しい曲になるんだろう」
「ねー」
同じラジオ番組のリスナー同士でわいわいやれるこんな雨の時間が、アタシは好きだ。