密室で何してるんですか?ペロペロしちゃってますが何か?ふざけてるんじゃねえですよ追放させて頂きます   作:すかすかのタキ

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モウソウランド

「おいレン~☆ 俺はいつまでだってずっとお前の傍に居続けてやるからな~☆☆ だから早く元気になって、自分の足で歩き回れよ~☆☆☆☆」

 

「ん……」

 

 食堂のドアを開けるとわあびっくり。何という脈絡も伏線もない、溜飲が下がる前に両目がポンと飛び出しそうになる超展開。丸椅子に座った技官が、安らかそうに眠りこけているネフレンを顔と顔とが向き合う形で抱っこして、耳元で優しく愛の言葉を囁いてました。

 

 あらあらまあまあこの方は。普段からレンにベタベタ引っ付かれては迷惑そうに引き剥がしていましたが、見えないところではそんなにも相思相愛だったのですね。真面目で強気、思ったことは何でも口に出しますが、性的なことにはどウブで手を握るのにも苦労するクトリ。片や無口無表情、何考えてるかさっぱり分からないですが、好意は行為が雄弁に語る、密着過多な尽くし系少女ネフレン。男女としてなかなか一歩先へ行けない内に、いつの間にか気持ちが後者へと傾いてしまってた。うんうん、実にありそうな話です。先程のエクルエクラ×ティアットといい何て素晴らしい朝なのでしょう。本を愛する者として、創作意欲がビンビン刺激されてしまいます。これ全て日々の家族達への献身の報い。星神様からのご褒美。さてこのラブコメ技官、これから待ち受ける超難題──、クトリとの関係清算という大イベントをどう乗り越えるつもりでしょう? 起こり得る展開を幾つか想定、もとい脳内プロットを書き上げてみることにします。

 

①ヘタレなので言い出せないままネフレンと二股をかけ続ける。

 

 まあ最低ですねこの技官! 平手、いえむしろ渾身のグーでぶん殴ってやりたい! さすがにネフレンは『ずっとこのままは良くない。わたし達の仲を、ちゃんとクトリに告げなきゃダメ』と事あるごとに忠告します。けどあの子も、なんやかんやで人が善くて甘いから。あからさまな溜め息、氷点下の目を向けつつも、結局その情けなさに絆されて許しを与えてしまうのです。全くもう、重ね重ねこの技官、弱っちすぎるロリコンですね! 同時に不倫を疑い始めた正妻クトリ、娯楽の臭いを嗅ぎつけた情報屋アイセアが、タッグを組んで二人の周囲を探り出す。果たして技官は、愛しいレンとの逢瀬の為に、どんな手段で監視の目を潜るのか!? この危険すぎる関係を、いつまで誤魔化し続けることが叶うのか!? 才女たるわたしだからこそ書ける、毎回ハラハラドキドキの、知的なコンゲームラブコメです!

 

②煮え切らなすぎる技官に痺れを切らし、ネフレンがクトリに宣戦布告する。

 

 ああクトリ、何ということでしょう! うちはまだまだ小さい子だらけだというのに! キレるよりもまず先に、挑発に応えることを! ネフレンから技官を奪い返すことを最優先事項にしてしまいました! さっきはウブとか言いましたが、開き直ったクトリは怖いですよ! 恥も限度も外聞もなく、より過激さを増していく露出密着誘惑合戦! この馬鹿馬鹿しくも際限のない熱量に、同期達も影響を受けずにはいられません。アイセアが、ノフトが、そしてとうとうナイグラートまで。技官を巡るエロコメは、倉庫のメンバー総参戦の、予測不能な六角関係にまで大発展! これを十歳前後の、ちょっとませ始めたティアット組が『はわわわわわ~』『ふおおお…!』って頬を赤らめながら楽しめる、ギリだけど一般向け! ギリだけど健全です! と、胸を張って言えるレベルに制御出来るかが創作者としての腕の見せ所になりそうですねうふふふふふ!

 

③覚悟を決めた技官が、冒頭からクトリに別れを切り出す。

 

 え、いきなり最終回ですか!? 自分で考えておいて何ですが、あまりに展開早すぎません!? 企画とは長期連載を狙って起こすべきなのにどうして初回からクライマックスなのですか!? てゆうか、いくら創作といえ、あのヘタレ技官がプロセス抜きで! 自分だけで重大な決断を下し! その上修羅場必至の行動を即起こすなんて、そんなことがあり得ますか!? あり得ないでしょう! たかがエンタメ、されどエンタメ! 一定のリアリティは担保しないと、読者からはご都合主義、構成不足だと見放されますよ!  

 

 ──いいえ違います。必要なのは逆転の発想。ヘタレで強がりで心配性。故に一部の母性本能を天然で刺激してやまない。何らかのきっかけで、そんな男がこれまでとは正反対の行動を取り出したらどうでしょう? 女性の前でくすぐるような甘い言葉を堂々語り、将来を誓い合った翌日にはあっさり捨てて。そのまた翌日、違う女にいけしゃあしゃあと愛を囁き、目では次の獲物を探ってる。何て最低! 絵に描いたような人間のカス! この地に堕ち破滅しようと一切心痛まないゴミクズを、被害者達がどう包囲し復讐を果たすのか。ああいいですよ、このアイデア、悪くない! むしろわたしはこれこそ書きたい! 技官の顔が青く染まり、挽回不能な悔いと絶望に滑稽に崩れる。あははははは! その瞬間を想像したら、とても甘美な鳥肌が! 痺れるような快感が、背筋を伝っていきましたねえ! いいですいいですとてもいい! 今のわたしはちょっとモチベーションがやばいです。早急に自室に籠り、執筆だけに専念したい。なのに何故、これから三十一番島にまで遠出して、獣なんかと戦わなくてはならないのか。全く以て腹立たしい。名作を書き上げること以上に、この世界で大事なことってあるんですか? ないですよね? そんなの自明の理ですよね? 承知しました、わたしの才能を待つ全ての人よ! であらば一刻も早く決着を着け、わたしが果たすべきこの使命を情熱が冷めきる前に──

 

「レン~☆☆☆ お前ケーキが大好きだよな? 食欲が戻ってきたら、どんなケーキを作ってほしい? シンプルな王道バターケーキか? クリームとフルーツでたっぷりデコった豪奢なやつか? それともちょっと背伸びして、大人向けのブランデーケーキにでも挑戦か? お前が望んでくれるなら、俺はどんなやつだって作る用意があるからな~~☆☆☆☆☆」

 

「ってわたしはアホですかあ! こんな背徳、ネタの為に見過ごせる訳ないでしょうがああああっっ!!」

 

 食堂の扉を開けてからおよそ三・五七秒。ネフレンが抱き着いてくるのは諦めてるが、クトリを大切にしてるのは誰が見ても明白な事実。だから浮気するのはありえない。ラーントルクは正直なところ、自分が地上にいる内に子供達の心をさらっていったヴィレムのことが嫌いである。認めていないし認めたくない。だがその一点に関しては──。見栄っ張りでめんどくさいけど、何だかんだで愛すべき先輩を幸せにしてくれるだろうという一点にだけは、悔しながらも確かな信頼を置いていた。だからこその想定外。だからこその衝撃に、思わず脳が機能停止。やんごとない愉しい妄想に逃避していた、短くも長い拡張された三・五七秒。その旅を経た彼女は今、正気に戻ってぶち切れた。

 

「わああああ!? ラーン、お前いつからそこにいた!?」

 

「む…?」

 

 青年は驚愕し、ネフレンを抱いたまま椅子から転げ落ちそうになり。

 

 ラーントルクは先輩と後輩を同時に汚された怒りに歯を剥いて絶叫。魔力が急激に立ち昇り、その余波で食堂や廊下の窓ガラス、食器の収められた戸棚が激しく振動。丸椅子、テーブル上の花瓶が次々倒れ花と水をぶち撒けていき、ついでに理性も噴石の如く吹っ飛んだ。

 

 ネフレンの『添い寝の前にラーンを全身洗浄するから手伝って』という無茶振り要求からはや一夜。その間一体何があれば、逆に彼女が昏睡しヴィレムがベタベタ甘やかしハグをし始めるという意味不明な事態に陥ってしまうのか。青年の名誉の為にも、ここまでの経緯をざっくり振り返らせて頂こう。

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