密室で何してるんですか?ペロペロしちゃってますが何か?ふざけてるんじゃねえですよ追放させて頂きます 作:すかすかのタキ
ネタバレが少々多いので原作を最後まで
読破していない方はご注意願います
ネフレンの『添い寝の前にラーンを全身洗浄するから手伝って』という無茶振り要求からはや一夜。その間一体何があれば、逆に彼女が昏睡しヴィレムがベタベタ甘やかしハグをし始めるという意味不明な事態に陥ってしまうのか。青年の名誉の為にも、ここまでの経緯をざっくり振り返らせて頂こう。
彼が一撃で死亡しない──。もとい、達人ならばギリ受け身を取れる程度の鉄拳で脱衣所から殴り飛ばされた後である。
「みんな何をもたもたしているの? こういうことはちゃっちゃと始めてちゃっちゃと終わらせてしまうべき」
「はい…」
「おう…」
「す…」
クトリ、ノフト、アイセアは、ネフレンの冷徹な指揮の下、罪悪感に打ちひしがれながらラーントルクを全裸にした。
そして浴室で洗う以上、彼女ら四人も全員脱ぐ必要がある。
精神的に大人になり、面倒を見られる側から見る立場になり。
ぱちゃぱちゃお湯をかけ合ったり、互いの背中を流したり。
いつの間にか、そんな風に──。子供らしく、無邪気にじゃれ合うこともなくなっていて。
だから、数年ぶりに互いの裸を見合った同期達は、ある重大な事実にここまで誰も気付けてなどいなかった。
実態はともかくとして、少なくとも見た目に関しては、ラーントルクは五人の中で最も大人びた少女である。
実年齢こそ十四だが、知的な静謐さを放つ鋭い瞳、すらりと伸びた長い脚、気品ある落ち着いた振る舞いからして(激情に駆られたりテンパったりしてさえいなければ)外部の者からは十七、八歳と見られることも珍しくない。あと普段は着やせしていて分からないが、おっぱいもとても大きい。
一方ネフレンは、彼女と同じ十四歳なのに、本好き、知的、ギャンブル好きと、性格的に似通っている面も多いのに、全体的に悲しいまでに細くて小っちゃくてぺったんこである。下手をしたらラーントルクの半分以下、一桁台の年齢とすら見られかねない。そんな哀れなちびっ子が、中身はともかく外面には誰より恵まれた同年代と一晩密着添い寝をしたらどうなるか。
クトリ、ノフト、アイセア。三人の答えは完全に一致した。即ち、互いの体格差がより明確となって、惨めさに耐えきれずネフレンの精神が悶え死ぬ。
「レン! 駄目よ、この作戦は失敗よ! 今からでも遅くないから、みんなで別の策を考えましょう!」
「そうだぞ! バカなあたしでもこれは分かる! お前は絶対、あいつとだけは添い寝しちゃダメだ!」
「あんたは頭いいからちゃんと自覚はあるっすよね! ラーンが起きてもあんたが倒れちゃ本末転倒すぎっすからね! お願いだから『ん』以外は何も言わず、先輩達の忠告を聞き届けてほしいっすー!」
クトリ十五歳。ノフトとアイセア十四歳。どちらかといえば細身だが、概ね年齢相応な体型の、全裸の美少女がここに三名。彼女らが、ネフレンという同年代の幼女(全裸)を取り囲んで、目を見開き唾を飛ばし、とにかく必死極まる形相でがっくんがっくん揺さぶっている。傍らには、やはり全裸で横たえられた、一番大人びていて一番アホなラーントルクを放置して。あえてもう一度言うが、ここは脱衣所である。つまり浴室の一つ手前の部屋である。別に全裸でおかしくないし、全裸でいたって構わない。全く以て構わないのだが、それにしたって一人の幼女を寄ってたかってがくがくがくがくがく揺さぶっている全裸美少女三人組というのはなかなか夢が壊れる光景だった。仲良しの美少女達が揃って仲良く入浴し『わあ、おっきいね~』とかイチャイチャしながら互いの身体を洗い合う。そんな桃色の幻想など、ここでは期待できそうにない。
……少々話が逸れていたが、結果として功を急ぎすぎたのだろう。クトリら先輩達の説得は、
「ん、分かった。分かったけど特に問題はないと思う。ちゃんと耐え抜いてみせるから、全身洗浄が終わったら予定通り復活するまで添い寝する」
「なんで!!!?」
ネフレンという少女を見誤った故に、完全なる失敗に終わった。
確かに彼女は──少々無口無表情すぎて、何を考えてるのか掴み辛いものの──、基本的にはやるべき仕事を淡々とこなす、先輩の指示に従順な扱いやすい後輩である。
しかしそれは、あくまで表面的な理解に過ぎない。
クトリが浸食を受けることなく十五番島から生還し、ノフトとラーントルクも大過なく地上捜索任務をやり遂げてヴィレムと一緒にわちゃわちゃな日常を送ってる。
そんなこことは違う──途中で分岐などしていない、正常な世界線でのネフレンは、一言で言えば鋼の意志の怪物だった。
例えば『拉致されて都市の何処かに幽閉されてしまった人物を、どうやって情報無しに見つけるのか?』という問いがあった。それに対し真っ先に思いついた発想が『とりあえず都市ごと焼き払ってみる』だった。あまりに犠牲を厭わな過ぎる。『軍の情報網で捜査してるから、今はしばし待機すべき』そう理を説かれていなければ、多分本気で実行してた。
他、ネタバレに配慮して一部伏せさせて頂くが、
『八年もの間、賢者のサポートもなく単身ぶっつけ本番で■■■■■を維持する■■を支えきる』
『■■■■■との約束を守る為、最初の■の因子に迷うことなく突っこんでいく』
挙句の果ては『世界に居場所のなくなった■■■■の為に■■を強奪する計画を立て、自分もそれにちょっと散歩くらいのノリで着いていく』
…等々、その凄まじい意志と行動力を示すエピソードは、如何な十九巻に及ぶ超大作といえ枚挙に暇がなさすぎる。
そんな彼女が。
その意思を物質化したら、恐らくは真・モウルネンでも切り裂けない究極の盾となるであろうネフレンが。
最終的には支えると誓ったヴィレムの健康に繋がるこの任務を、たかが先輩三名の忠言で考え直す訳ないのである。
そうしてクトリとのすったもんだの大喧嘩と、間に挟まってまあまあと宥めるノフトとイセアとの交渉劇(まだ全裸。妖精は半分死者なのに無駄に健康優良児集団というか、毎日新鮮な猪肉やら熊肉やらお腹いっぱい食べている恩恵というか、誰も風邪を引かなかったのは僥倖すぎるといっていい)の末、導き出された妥協点が、
「あーもー分かったわよそんなに言うなら好きにしなさい! わたしはどうなっても知らないんだからね!」ぷい!
「ん、好きにする」ぷい。
「ガキすぎんだろ…」
「はいはいどうどう、二人とも落ち着いて―。ところでネフレン、あんた普段から『添い寝は五分以上は無理、どんな事情があろうともそれ以上はやりたくない』って常々言ってるっすよね?」
「ん、言ってる」
「じゃあ大体五分おきに、あたし達はあんたが無事かどうか確認しに来るすから。そこで無理って判断したら、悪いけど無理やりにでも引っぺがさせてもらう。それで納得してもらえるっすか?」
「ん、構わない」という物だった。
合意締結、ようやく全身洗浄を終え、ようやくみんな服を着る。ラーントルクを彼女の自室まで運び込み、そっとベッドに横にする。毛布を掛けて、ネフレンが先輩達に見守られながら同じベッドに潜り込み──。
ここに、添い寝という世界一静かで過酷な戦いが。
クトリら以外誰に知られることもなく、辺境の地の更に奥、妖精倉庫で幕を開けた。
ただ一緒に寝ているだけの、駆け引きもアップダウンも存在しない単調極まりない戦いなので九割九分省略させて頂くが──決着に要した時はおよそ五時間にも及んだ。
「もう無理だって! 離れろ! 顔色がやべえ! お前はよく頑張った! 絶対誰も文句なんて言わねえから! お願いだから死ぬ前に、ラーンのやつから離れてくれよー!?」
「──ん、大丈夫。ノフト、心配せずともわたしはまだまだ戦える」
「レン! ほんとに大丈夫なら、あんたはそんな奇麗な笑顔、人には絶対見せないっす! クトリ、鏡! 鏡をここに持ってきて、自分の現状思い知らせてあげるっすー!」
この時点で時刻十七時四十分。添い寝開始から三時間と二十五分の時点。それは沈みゆく太陽に抗うかの如く。紅に染まる世界の中、先輩達の言う通り、誰の目にもとっくに限界を超えてるのに、それでもネフレンは頑として粘り続け──。遂に四時間と五十五分、夜空の月に呑まれたように、ネフレンの魂は敗北した。「あ、うあ、あ──…!」目を見開き、がくがくがくと全身が激しく痙攣。急性にして重度の魔力中毒を起こした者と同様の症状が出る。そこまで追い詰められて、完全に意識を失いながら尚、少女は全身でラーントルクにしがみついている。先に散々記したが、本当に常軌を逸した意志力である。本人には悪いけど、称賛の域など遥か向こうへ飛び越してドン引き物としか表現しようがなくなっている。しかしさすがにクトリらは『ここが瀬戸際。もう一秒だって引き伸ばせない、本当に限界の限界』と真っ当に判断。この期に及んで抵抗する両腕と両脚を、一本一本必死になって引き剝がす。その傍ら、ネフレンの小さく愛らしい唇からは「どうして…? 同じ年、同じ趣味。同じ食と生活習慣。わたしとラーンはこんなにも共通点が多いのに、どうしておっぱいと身長はこんなにも差があるの…?」と無意識にして想定通りの怨念が漏れ出ていた。改めて強調させてもらうが、ネフレンは浮遊大陸郡に並ぶものなきメンタルの怪物である。本来の世界線では、誰にも真似出来ない偉業、ぶっ飛んだ行動をいくつもさらっと成し遂げてきた。無論相性の悪さもあっただろう。が、それでもそんなネフレンをたった五時間で破壊しつくすとは、ラーントルクの肉体恐るべしと言う他ない。
赤黒い苛烈な魔力が、朝日よ邪魔と言わんばかりに食堂で唸りを上げていた。
「技官! 貴方のことをちょっとは信頼してもいいかなって思い始めていた矢先にこの凶行! もはや許しておけません、二度とこの家に帰りたいなんて思えなくなるようボッコボコにした上で九十番台の島に追放させて頂きます!」
「ちょ、ちょっと待てラーン! 確かに俺は今、浮気とか二股とか誤解を受けてもやむを得ないことをしてる! してるけどこれには深い事情があるんだ、後生だから落ち着いて俺の話を聞いてほしい…!」
現在午前六時十三分。潔癖なラーントルクには、創作世界はともかくとして現実に浮気や二股を犯した者を見逃す思考回路など存在しない。まだ熟睡してる妹達を起こさないよう無言で静かに行動する。そんなまともな気遣いはとっくの昔に焼失済み。こめかみにくっきり浮かぶ、今にも破裂せんばかりに膨れ上がった野太い血管。死すら厭わない灼熱の激情は、魔力を極限まで高ぶらせる。その勢いは最早、椅子や花瓶に留まらず戸棚やテーブルまで吹っ飛ばしかねない暴虐と化している。
それの赴くまま存分に拳を振るいたい彼女であるがしかし、ターゲットであるヴィレムは恐怖でへたりこみつつも腕の中のネフレンはしっかと抱えて手放さない。
ええい忌々しくて小賢しい。そうまで密着していては、殴るにしても蹴るにしてもレンを巻き込みかねません。その子がわたしの親友と理解して、簡単には手出し出来ない状況を作り上げましたね。何が人類の為に戦った元勇者。勇者どころか男子の風上にも置けやしない、卑怯でなよっちい弱者そのものの選択ですよ。
──ですが、このままでは埒が明かないのもまた事実。業腹ですが技官、あなたをぶん殴る隙を見出す為、対話に乗ってあげることにします。
思考を切り替えたラーントルクは、熾していた魔力を少しだけ沈めると、
「──いいでしょう。クトリが十五番島から生きて帰る手助けをして頂いたよしみです。クトリという将来を誓い合った恋人がいながらもレンを抱きしめ愛の言葉を囁かざるを得なかった。どういう状況に陥ればそんな真似をせざるを得ないのか聞いてあげますので、わたしを納得させられるならどうぞさせてみて下さい」全く怒りを沈められてない、煮え滾るマグマそのものの目で、青年を見下ろしながら問いかけた。
「お、おう。恩に着る。実はだな、昨日の夜、俺はある女の提案で──……」
「…………どうしてそこで黙るのです。ある女とは一体何処のどなたですか」
「それはだな~、ええとその~」
「何なんですか、もったいぶってないでさっさと答えやがりなさいってば」
「……………………………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………………………」
長い長い、大量の脂汗を流しながらの沈黙に、マグマの如き睥睨の目が永久凍土のブリザードへと変貌してゆく。その落差に耐え切れず──腕の中の温もりを寄る辺にし、口元にどうにも卑屈で情けない笑みを浮かべつつも──、潔白を証明する為に、目だけは絶対逸らさなかった青年がついに一瞬ぶれた刹那、
「やっぱり言い訳のしようがない浮気にして二股じゃねえですか歯ぁくいしばりやがりなさいど腐れ技官ーーーーーーーーーーー!!!」
がしゃんがしゃんがしゃん!
今度こそ戸棚やテーブルどころか食堂全体を破壊する勢いで、ラーントルクから大嵐の如き魔力の波動が吹き荒れた。激しい振動で引き戸が開き、食器が幾つも床に落ちては割れ散らばる。
「わあああ! やめろラーン、落ち着け! こっちに近付いてくるんじゃねえー!!」
うふふふふふ。残念ながらわたしにはもう、先輩と後輩を同時にたぶらかし小さな子達の情操にも多大な悪影響を及ぼすであろうこのゴミクズの存在をこれ以上一秒だって容認し続けることは出来ません。ああネフレン、愛おしくてたまらない、幼少からのわたしの親友。唯一無二の読書仲間にして創作仲間。小さい頃は一緒のベッドに潜り込み、一緒の本を読んで一緒に寝落ちした仲なのに。どうして今は、そんなカスに抱かれたまま安らかに眠りこけてるというのです。悔しい悔しい羨ましい。別にわたしは百合じゃないし最近一緒に寝てくれない腹いせって訳でもないですがもしかしたら技官をボコって引き剥がす過程でちょっぴり痛くするかもしれませんのでどうか大目に見て下さいね☆☆☆☆☆
びしりびしりと罅入る窓。一歩また一歩と、ヴィレムへ向けて優雅とすら言える歩調でラーントルクが歩み寄ってくる。憤怒に煮え滾るマグマから、一切虚偽を許さない豪風雪へ。それらを経た瞳は今、彼の命などこれっぽっちも頓着しない、慈愛にも似た透徹さを放っている。
腰が抜けて、未だ立てないままのヴィレム。彼に許された行動は、無様に腰を捻らせて這いずるように床を後退することだけだった。