密室で何してるんですか?ペロペロしちゃってますが何か?ふざけてるんじゃねえですよ追放させて頂きます   作:すかすかのタキ

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エクラちゃんだけレベルアップな件

 

  ──ずんずんずんずんずん。

 

 可愛らしくも力強い、怒りに満ちた足音が廊下に響く。

 

 同時刻、およそ十数の小さな影が動き出し、同じ一点へふらふらとした足取りで向かい往く。

 

 

 

 

 ──少女の右手が額に触れる。そこに荒れ狂う魔力が集約された。

 

 逃れられない確信。あっけなく、抵抗なく。頭蓋がぐしゃりと、ケーキみたいに潰された未来。残された生は、最早一秒にも満たないその狭間。青年は食堂の中空に、懐かしい故郷へと繋がった光溢れる扉を見た。

 

 左手には、灰髪の小柄な少女。口元には、憂のない安らかな笑み。

 

 ──アルマリア。

 

 ──ありがとな。ずっと待っていてくれて。

 

 何も成し得なかった右腕が、それを潜った先にいる慈母のような微笑みに吸い寄せられて──。

 

 

 

「ラーン先輩いいいいいいいいいい!! 先輩はどうしてそう毎日毎日奇声を上げて騒ぎを起こさなきゃ気が済まないんですかああああああああああ!!」

 

 どっばあーん!!

 

 吸い寄せられきる前に、現実の扉がド派手かつ豪快に開かれた。

 

「うわああああああああああっっ!!?」

 

「きゃああああああああああっっ!!?」

 

 ヴィレムとラーントルク、正気に戻った二名の嬌声が同時に響く。向こうの世界へ続いてた幻の扉を吹き飛ばし、妖精倉庫次代のリーダー候補筆頭、賢すぎて強すぎる、最恐幼女エクルエクラがずんずんずんと食堂の中へと踏み込んできた。

 

「あーもう何なんですかこのぐっちゃくちゃに荒れ果てた食堂は! どうして身体が弱いヴィレムさんに暴力を働いているのです! 弁明があるなら聞きますので、先輩は今すぐわたしの部屋にまで直行です!」

 

「そそ、そんなあ~! 酷いですエクラ、どうしてわたしだけが対象に!? どうしてわたしだけが荒らしたと決めつけているのです!? 元はといえばその男が、浮気と二股をかけていたのが原因で…!」

 

 ラーントルクがたじろいでいる。いくら才気溢れるといえ、九歳下の後輩にあからさまにたじろいでいる。これは痛い。誰もが思わず目を逸らす、見てはいけない感満載の、弱々しくて情けない光景。

 

「はあ!? ヴィレムさんは子供の危機以外で暴走なんかしませんしヘタレで不器用で受け身だからそんな甲斐性ある筈もないでしょう! このわたしを騙すなら、もう少しマシな言い訳を練り上げてからにして下さい!」

 

 だがそれも、仕方のないことだった。見る者が見れば、必ず分かる。ラーン同様必ず慄く。希代の才覚エクルエクラ。彼女は先日の、ナイグラートからのペロペロ被害。それに懲りての自衛の為の、たった一度の実践によって、魔力運用の要諦を完璧に掴みきってしまっていた。

 

「騙してなんかいませんよお! 本当に、本当についさっきまで、技官がレンを抱きしめて甘ったる~い愛の言葉を囁いてたんです~!」

 

 熱く燃え滾りながら静謐。一切無駄な漏出がなく、廻るテンポにも淀みがない。人並外れたドジではあるが、それさえ除けばラーントルクも、攻守共に隙のない非常に優秀な戦士である。そんな彼女だからこそ──強化の倍率、持続力、安定感。全てにおいて敵わないと、一見しただけで理解した。理解したから取り乱した。取り乱したから恐怖してまともな返答が返せなかった。あっさりばっさり切り捨てられて、そのまま手を握られると、

 

「お、覚えていなさいよ技官~。わたしは貴方を許した訳ではないのですからね~。エクラから解放された後、必ず貴方をもう一度~……」 

 

 ずるずるずるずる食堂の外へと引きずられていった。致し方なくも、見ていて哀しい光景である。そして廊下側からは、立ち去る二人と入れ替わるようにして、

 

「ねえ~さっきのすごいおとはなに~?」 

 

「びっくりした! びっくりしたー!」

 

「まだ、おふとんでねててもいい…?」

 

「わー! なにこれなにこれどうしたの!? だいどころがめちゃくちゃだー!」 

 

「ええー!? あさごはんちゃんとたべれそうー!?」 

 

 アルミタ。ユーディア。カーナ。マシャ。ビトゥラ。リンシャ。ジョルゼット。他、妖精倉庫で生活を共にする、十数人のちびっ子達。

 

 一連の騒動で目が覚めたのだろう。みな一様にパジャマ姿、寝癖で髪がぼさぼさのまま大挙して扉の前に集まっていた。

 

「ああ、ちょうどよかったわ! みんなこっちに注目ー!」

 

 はきはきとした掛け声に、ちびっ子達のざわめきがピタリと止んだ。声の主、エクルエクラの目論見通り、目線が一身に注がれる。

 

「みんな! 見ての通りなんだけど、食堂は今ぐちゃぐちゃで、ヴィレムさんもへにゃへにゃで、何だか大変なことになってるでしょう?」

 

 みんなポカンとしながらも、向けられた言葉に対しコクコクうなずきを返していく。本当に、大人以上に遥かに出来た五歳児だ。小さな子達でも間違いなく伝わるよう、簡易な語彙を選び抜き、一つ一つ丁寧に伝えていっている。

 

「それでね、もうすぐここに、ティアット先輩が来てくれるから! わたしはちょっと用があるから、代わりに先輩の指示に従って、お部屋の片づけとヴィレムさんのお世話を、みんなにお願いしても構わない?」

 

 そう言うと、エクルエクラは同期らに、ペコリと大きく頭を下げた。ちびっ子達は、年少組最優の存在である彼女から、頼りにしてるとお願いされた。元より背伸びしたがる年頃で、大人の仕事を真似したり、役に立って褒められたい、意欲旺盛な幼女達である。故に、

 

「やるやるやるやるやるやるやるー!」「がんばるー!」「まかせておいてー!」「ほうきー! ちりとりー!」「ぞうきんきんー!」「ちょ、待って!? みんな、足元が危ないから! スリッパだけはきちんと履いておいてねー!?」

 

 これは珍しく、エクルエクラにとっても想定外だった。忠告なんて届きやしない。眠気は瞬時に吹っ飛んで、あっという間にテンションマックス。食器と花瓶の無数の破片。それらの散らばる食堂内に、ちびっ子達はわーっと無防備に飛び込んでいった。

 

「びれむーおまたせー!」「たせー!」「だきーってしてー、ぴとーってしてー、いっぱいぽかぽかなぐさめてあげるからねー!」「だきだきー!」「ぴとぽかー!」「うわひっど!? ねえエクラ教えて! これは一体どういう状況ー!?」「ああティアット先輩! ようやく来てくれましたね! わたしはかくかくしかじかなので、どうかみんなをお願いします!」「えええ、わたし一人でー!? ラキシュは来てない!? コロンとパニバルはどこにいるのー!?」「はい先輩! パニコロ先輩は朝稽古に行って、ラキシュ先輩は『はわわわわ~』って無理矢理巻き込まれていきました!」「むぎいいこんな時にー!」「らーんせんぱいふるえてるー。えくらちゃんにおこられちゃうの?」「ちゃうのー?」「そそそそそんなことはないですよう!? ちょっと留守中のことをエクラに引き継ぐだけなので、なーんにも心配いりませんが!?」「やっぱりガタガタふるえてる。らーんせんぱいかわいそう…」「かわいそうー!」「いやあああああ憐みの目で見ないで―! わたしは皆さんに、皆さんの理想の先輩として、憧れの目だけを向けていてほしいんですー!」「む、おはようヴィレム……。何だかすごいことになってるけど、これは一体どういう事態? 分からないから説明求む…」

 

 かくして青年の危機は無事去った。去ったがここは子供の巣窟妖精倉庫。みんな自由に好き勝手、騒ぎは全く治まらない。

 

「ははは。今見たのは、ちょっと本気でまずかったかな…」

 

 少しだけ、冷や汗が流れる。調子に乗ったちびっ子達と、周りに便乗することにしたらしい目覚めたばかりのネフレン。

 

「みんな悪いな。やっぱりまだまだそっちには、こいつらが行かせてくれないらしい…」

 

 全身幼女に纏わりつかれた青年は、心地よい温もりと重量感、秩序なき歓声を子守唄にして死んだように眠りについた。

 

 

 

 ──これより数時間の後。当初の予定通り、妖精兵達は五人揃って三十一番島へ出立。道中アイセアが都合のいいストーリーをでっち上げてラーントルクの誤解を解き、獣との戦いを最小限の被害で乗り越えた。

 

 妖精倉庫の日常は、今日も変わらず巡っている。

 

 

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