密室で何してるんですか?ペロペロしちゃってますが何か?ふざけてるんじゃねえですよ追放させて頂きます   作:すかすかのタキ

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結末なにしてますか? もう思い出さないでくれますか?

 

 ──さてここからは、語られるべきでない余談の余談。

 

 聞かないほうが良かった、知らない方が幸せだった、余計で蛇足な無駄話。 

 

 

 

 妖精兵達は書類上では兵器扱いなので、いくら戦場で活躍しようとも軍から給金が支払われることはない。

 

 しかし、そこはさすがにナイグラート。将来を嘱望された、元オルランドリ商会のエリート。硬軟巧みな駆け引きにより、整備費という名目で見事軍から彼女らの為の報酬を引き出した。決して倉庫の娘達を『ああ~みんなどうしてそんなに素直でちっちゃくて可愛いの~?? 抱きしめて頬ずりしてペロペロして、あわよくば指の一本くらい食べちゃいたい♡♡♡ じゅばば』などと不埒なことばかり考えている訳ではないのである。

 

 少女達はそれを使い、例えば読みたい本や弾きたい楽譜、新しいおもちゃをオルランドリから取り寄せたり、妹達を連れて町へ映画を見に行ったり、家では見栄張って我慢してるお菓子いっぱい食べたい欲を変装してまで食べ歩きして満たしたりと、それぞれの形で日常を楽しんでいる。

 

 尚、株を買っては資産を増やし『にゅへへへへへ』と怪しい笑いで悦に浸っているネコ耳情報屋は例外とする。

 

 ──で、その件で今、妖精倉庫で問題になってるのは、

 

「うわああ~ん今回一番活躍したのはこのわたしですのに~。この頭脳で、獣達の行動を先読みして、見事クトリ以上の討伐数を上げたのに~。どうしてヒーローたるこのわたしが、ただ働きになってしまうのです~」 

 

 またもや面倒臭さ全開で、わんわん大泣きしているラーントルクである。

 

 つい五分ほど前だ。うふふふふふ、お給金も入りますし、今度はどんな本を注文しましょうか? 歴史、冒険、哲学、戦記、伝記、恋愛、SF、キャラ文、エッセイ、ミステリー。読みたいジャンル、創作の肥やしにしたい書は数えきれないほどあります。レンとはかぶらないように、出来れはお互い交換して楽しめるような物をじっくり選ばなくてはいけませんね。

 

 そんな事を考えながら、彼女はお給金を受け取る為に、ウキウキとした心持ちで管理者室の扉を開けたのだが、

 

「え、お前の給金? それなら今回はゼロだぞ?」

 

「なんで!!?」

 

 執務机で書類を読んでいた、管理者の片割れである青年ヴィレム。ふわふわと浮かれていたメンタルが、彼のあっさりすぎる一言に天から地へと虫のように叩き落された。

 

 いや、実際に身体の方も、べしゃりと床に崩れ落ちていた。

 

「なんでってお前、三十一番島に出立する当日に、魔力を滾らせすぎて食器とか窓とかたくさん割っちまっただろう?」

 

 聞こえているか分からないが、傍にしゃがみ込んで一応説明はしてくれる。

 

「さすがに全額経費で落とすのは無理があったんだよ。だから足りない分は、今回のお前の給金から差し引いてプラマイゼロ。そういう訳だから、しばらく買い物は我慢もらっていいか?」

 

 完全無欠の自業自得であった。更に床にめり込むくらいに落ち込んだ。三十一番島から生還して数日、『うふふふふ、わたしはクトリより強い☆』とか言ってずっと鼻高々で過ごしてた分、テンション落差がめちゃくちゃ酷い。あんまり同情の余地はないが、わんわん泣かれ続くのもまたうざい。

 

「ほらもういい加減に泣きやめよ」 

 

「はいタオル。顔拭きなさいって、涙と鼻水でぐちょぐちょじゃない…」 

 

「そんなんじゃまたちび達に哀れまれちゃうっすよー?」

 

「そうだぞ! みんなの理想の先輩になるんだろ!? 切り替えて元気出せー!」

 

「ん」 

 

 管理者ヴィレム。それからクトリ、アイセア、ノフト、ネフレン。同期ら四人も慰めにきたが、頑固な赤子の如く一向に泣きやまない。ああもう疲れた。やってられない。めんどくさいからみんなで少しずつカンパしようかと、目と目で伺い合っていたその矢先。

 

「───分かりました」 

 

「ん?」

 

 微かな。

 

 彼らが目と目で伺い合い、沈黙してなくては聞きとれなかったであろう、ほんの微かな声が聞こえた。それに気を向けた次の瞬間、

 

「分かりました、わたしバイトを始めます! 次まで新しい本を買えないなんて、そんなの絶対嫌ですから!」

 

 全員思わずのけぞった。

 

 涙と嗚咽から一転。ラーントルクがいきなりがばーと立ち上がり、ギラギラとした活字亡者の目で爆声宣言したからだ。

 

 うわあまた一段とめんどくさそうなことに。ケチってないでさっさとカンパを決断しておけばよかった。五人揃って後悔したが、反転を繰り返し狂ってしまったテンションは今更抑え込むなど不可能だった。

 

「技官! あなた誰にでも人当たりがいいし、何気にコミュの達人でしょう!? あなたのツテで何か紹介して頂けませんか!? なんならラキシュの下でパン職人見習いでも構いません!」

 

「え、ええとその」

 

 顔が引きつる。言葉が上手く出てこない。血走り餓えた、ラーントルクという野獣の瞳。その圧に押され、ヴィレムは思考がこんがらがってしまっている。生粋のおとーさん体質である彼にとって、本来娘に頼られるのは至上の喜びの筈である。筈なのだが、この滑稽なまでの取り乱し方、やはり何事にも例外はあるらしい。

 

「ないのですか!? ならばグリックさん! グリックさんは今何処でどうしているのです!? もしまた地上に行かれるのなら、わたしを護衛として売り込んで! 頭が切れて腕も立ち、獣との実戦経験も超豊富! こんな人材、世界中どれだけ探し回ったっていないでしょう!?」

 

「いやおい、おま、それは」 

 

 妖精達は原則的に、獣との戦い以外では六十八番島の外に出ることは許されていない。万が一人口の多い島で魔力を暴走させてしまったら、どれだけの被害が出るか分からないからだ。以前地上に護衛任務で降りたのは、発見した遺跡が大規模だったので調査が長期間に及ぶことが分かっていたからに過ぎない。それすら失念してしまってるとは、今回の錯乱ぶりもなかなか重症なものである。

 

「ああもうどうして黙ってしまっているのです! そんなにわたしが信用出来ませんか! それともわたしの覚悟を甘く見ているのですか!」

 

 いや何の覚悟だよ。

 

 いやいや覚悟ってなんなのよ。

 

 対応に困り、何か口に出せばまた厄介ごとが増えそうで、五人は心中で同じツッコミを投げかけるのみ。むしろもう半分思考停止して、てきとーに聞き流しモードに入りつつある。

 

「うふふ、みなさん信じていませんね? ならば早速、この場で見せつけてあげようではありませんか」 

 

 暴走しながらも一応周囲の空気は察知しているらしい。不敵な笑みと共に、ラーントルクの左手が動いた。右の袖を捲り上げ、白く細く、瑞々しい二の腕を露わにする。半身になり、それを差し出すように掲げると、彼女は島全域へ響けとばかりに仰々しく呼びかけた。

 

「ナイグラート、聞こえますか! あなたいつも、わたし達の身体をペロペロペロペロ舐め回したいって思ってるでしょう!? 今だけ特別に、金額次第でわたしの腕を、ペロペロしたって構いませんよ!!」

 

 その言葉と、その行為を引き鉄として──彼女の意識は突如として暗転した。

 

 

                    ♦♦♦

 

 

「───はっ!? 今、娘がわたしを求める愛の声がしなかった!?」 

 

 六十八番島の奥深く。時に恵み、時に牙剥く雄大な自然の中。人外の聴覚により、微かながらもそれを聞き取ったナイグラートは、全速で山道を下り始めた。その両肩には、それぞれ撲殺された巨大な熊が担がれている。 

 

  

 

「でっかいこえー」

 

「びっくりしたねー」 

 

「まあいつものことだよねー」 

 

 妖精倉庫の運動場。ボール遊びに興じていたちびっ子達は、その高らかなる呼びかけに数瞬身体が停止した。──が、鳥頭というべきか慣れ切っているというべきか、さらっと割り切りまた遊びに夢中になった。

 

 

 

 そして、それらの発生源である一人の少女。

 

 藍色の髪の妖精兵、ラーントルク・イツリ・ヒストリアはといえば今、

 

「───あれ?」

 

 ほんの一瞬、小さな眩暈がしたと思ったら──彼女は何故か、見知らぬ何処かの鉄扉の前で、一人ぽつんと佇んでいた。

 

「ここは一体…? わたしは管理者室にいた筈では…?」

 

 周囲を見渡しても何もない。何処から入ってきたのかもわからない。明滅する、弱々しい照明に照らされた広大な空間。ただ一つ、無骨な鉄扉だけ備え付けられた、くすんだ灰色の殺風景。

 

「クトリ? 技官? 皆さん隠れてないで出てきてくれません…?」

 

 遠く離れた何処かから、みんなが自分を呼んでいるような気がする。

 

 だけど、この目を瞑っても。いくら耳を澄ましてみても、それが何処から発せられてるのか、一向に掴むことが出来そうにない。

 

 仕方がない。他に出来ることはなさそうなので、彼女はとりあえず目の前の鉄扉を探ってみることにした。

 

 足りない光量の中、手で触れて、目を凝らして、可能な限り詳細を観察する。

 

 その扉は、どう甘く見積もろうとも、厚さにして十センチを下る代物ではなさそうだった。

 

 その扉には、成人男性の指ほどに太い釘により、幾つもの分厚い木板が打ち付けられ。

 

 また同時に、幾つもの大型の南京錠が掛けられ、過剰なまでに重く封がされていた。

 

「──こんな物、わたし達妖精兵であろうとも、遺跡兵装なくしてはこじ開けることは難しい。誰が、何の目的でこんな物を」

 

 この先へ、何物も通さない為の物なのか。

 

 或いは、この先にいる、何者かを閉じ込める為の物なのか。

 

 疑問を呈した彼女はあっという間に集中を深め、この不気味で不可解な状況にいることすら忘れ本格的な考察を始める。

 

「あーもう、本当にわたしは鈍い子ですねえ。ここが何であるか、まだ理解出来ないんですか?」

 

「───!?」

 

 いや、集中を深めきるその直前。

 

 厚く重い鉄扉の内から、隙間を通し声を掛ける者があった。

 

「あなたは…?」 

 

「うふふ、こんにちは本体さん。厳重に鍵をかけてるから、まさかこうして繋がる機会がくるとは思いもしませんでしたけど」

 

 当然ながらその姿は、鉄扉によって遮られ目で見ることは叶わない。

 

 けれどラーントルクには、その舌足らずな口調、木琴を鳴らすような高い声からして、声の主が十にも満たない少女であると瞬時に直感出来ていた。

 

「──酷いです」

 

 低く、小さく、重い声。

 

「ん?」

 

「──酷いです、酷すぎますよ! 誰がどうして、小さな子供をこんな場所に…!」

 

 耐え切れずに、彼女は叫んだ。ラーントルクの胸に、悲哀と戸惑いと怒りが走る。

 

 ここに誰かが閉じ込められているというのは、すぐ想定することが出来ていた。けれどそれが、自分の妹と変わらない、年端もいかない子供であるとは考えられもしなかった。無意識に、拳を強く握りしめる。両の目に涙が浮かぶ。今は自分のことなどどうでもいい。どんな事情があろうとも、何処の誰かも分からなかろうと、今はただただここから少女を助け出してあげたかった。

 

 だがしかし、

 

「──────────ふっ。うふふ。うふふふふふ。

 

あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

 

 少女は突如、高らかに哄笑し始めた。

 

 牢の中にも関わらず。幽閉されているにも関わらず。

 

 それはそれは痛快そうに、地に転げてお腹を抱え、狂気を孕んだかのようにけらけらけらけら愉しげに笑っていた。

 

「あ、あの。突然どうしてしまったのです? わたし何か、おかしなことを言ってしまいましたか…?」

 

 鉄扉から一歩二歩と後ずさる。悲哀と怒りは消え失せて、困惑だけがラーントルクを支配していく。

 

「おかしい? ええ、さいっこうにおかしいですよ! だってそれを、心の底から怒りを込めて、わたしをここに閉じ込めた張本人が言ってるんですから!」 

 

「────────は?」 

 

 わたしがあなたを閉じ込めた? 六十八番島からは、戦い以外では出られないこのわたしが? 自分でもここが何処だか分からない、こんな不気味な空間へ? 

 

 ありえない。不可能だ。いくら頭を捻ろうと、そんなことをした断片すら、この記憶からは浮かんでこない。

 

「ああ笑った。うっかり消えちゃうくらい笑いました。ほんとにわたしは、頭はいいのに筋金入りのおバカでニブチンな天然娘ですねえ。あ、それとも思い出すのが怖いから、あえて気付かない振りを通してます?」

 

 ──なのに。

 

 突然の頭痛。視界が溶ける。何処からか、カタカタカタと不気味な音が鳴り響き。

 

 少女の言葉は事実であると、脳に直接染み渡ってくる。

 

「まあ思い出さなくても全然構わないんですけどね。『封』はもう、とっくに緩み切ってるし」

 

 カタカタカタカタカタ。音が激しくなっていく。頭痛をこらえ、意識を凝らして前を見る。目の前にある、重厚すぎる無骨な鉄扉。それを封じる木板の釘が。幾つもの大型の南京錠が。カタカタカタと音を立て、誰の手が触れることもなく、ひとりでに外れようとしている。

 

「せっかくだから、愚かな本体に教えてあげましょう。ここはね、あなた自身が生み出した、あなたの中の廃棄場。わたしはそこに追放された、あなたが思い出すこともしたくない、辛い記憶の一部分」 

 

「…………………………!」

 

 膝が落ちる。既にして身体の自由は一切きかない。同時にイメージが強制的に湧き上がる。この広大な空間の中、無数に点在する廃棄場。そこに閉じ込められている何者かが、わたしも出せ、わたしも出せと連鎖的に騒ぎ立てている。

 

「袖を捲り上げるという行動。ペロペロペロペロという言葉。この二つが引き鉄となり、わたし達はこうしてまた、奇跡的にも繋がることができたのです。もっともこうしてコミュニケーションを成立させる為、わたしはわたし達の大元である存在──エルク・ハルクステンの姿を拝借してはいますけど」

 

 極太の釘が緩み切り、打ちつけられていた木板が傾く。無数に掛けられていた南京錠。それらもまた、次々地へと落ちていき、福音の如き硬質な音を奏でる。

 

「ああ! ようやくこの狭苦しくて退屈な、何もない密室から出られます! 待っていて下さいね、追放された同志達! わたしの融合をきっかけとして、あなた達の内何人かも、本体は連鎖的に思い出されることとなるでしょう!」 

 

 喝采が湧く。歌うように軽やかに、開かずの門が開帳する。

 

 歩み出て来たのは、想定通りの幼い少女。

 

 純白のワンピース。地に届くまで伸ばされた、ウェーブを描く赤い髪。

 

 まるで小鳥が飛び立つよう。両の腕を大きく広げ、解放の喜びに浸りながら。

 

 神を模した赤い幼女が、悠然とラーントルクの元へと歩んでくる。

 

 その瞳は、その表情は、伸ばされきった前髪に隠れ、何人たりとも窺い知ることは許されない。

 

「さあ、一つになる時ですよ」 

 

 膝まづき、呆と放心している藍色の少女。

 

 廃棄場から、早く早くと囃し立てる声がする。

 

 白赤の幼女は、彼女の顎をついと持ち上げると、その無防備な唇に自身の唇を重ね合わせ───

 

 

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