密室で何してるんですか?ペロペロしちゃってますが何か?ふざけてるんじゃねえですよ追放させて頂きます   作:すかすかのタキ

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機動妖精ラーントルク-天然の魔女-

 暴れ回る衝撃に、積み木の城が豪快に瓦解した。

 

 ああもうラーンはどこで何してるのよ!?

 

 妖精倉庫遊戯室にて。ラーントルクが衝撃の追放宣言を下していたその頃。

クトリはちびっ子達に追い詰められて、むきゃーと奇声を上げる寸前だった。

 

『エクルエクラ、なかなか戻ってきませんね。あの子はしっかりしてるからと、付き添いを付けずに行かせてしまったのは失敗だったでしょうか。あ、もしかしたらしっかりしてるからこそ他の子達に比べて構ってもらえず、寂しくて拗ねているのかもしれません。やはりここは、誰かが迎えに行ってあげるべきでしょう』

 

 そう言って診察室に向かったきり、彼女までもが帰ってこない。

 

 あのドジっ子め。事情は分からないけど、ミイラ取りがミイラになりやがったわね。

 

 早く探しに行くべきだが、長引き続ける待機時間にとうとう何人かの子供達がガマンの限界に達した。

 

 いつまでいいこにしていなくちゃいけないの?もうまつのイヤだ、はやくおそとであそびたい。

 

 びーびーぎゃーぎゃー、動物みたいに喚きだし、ぬいぐるみがバシバシ床に叩き付けられる。クトリも根気よく穏やかに説得するも、乱暴に振り払われ全身で不満を表明される。

 

 ごめんなさい、本当に君達の言う通りね。あと少しで順番が来るから。あとほんの少しだけでいいからいい子にしてて。

 

 やだーやだー!もうまてないー!クトリなんてだいきらいー!

 

 ぐはっ!?

 

 言葉が槍となり、心の柔い部分を貫通する。

 

 わ、わたしのせいじゃないのにどうして愛しいちび達からこんなことを言われなければならないのか。

ラーンのやつめ、これはもう町でパフェ一杯奢ってもらうくらいじゃ済まさないわよ。

最低三杯、あわよくば五杯食べさせてもらうんだかららららら。

 

 更なる追撃を受けるも笑顔だけはどうにかキープ、健気になだめ続けるクトリである。偉い。

 

 しかしラーントルクとナイグラートは、ここから更なる斜め上へ。混沌の極致とも言える、どうしようもない領域へ突入してしまうこととなる。

 

 彼女に救いが差し伸べられるのは、果たしていつになることか──

 

 

 

 

 …は?あれはペロペロじゃなかった?エクルエクラに自分の愛を刻んでいただけ?刻んでいたのはトラウマだってぇんですよトラウマぁ!!わたしは真面目な話をしているんですよいい歳した大人がテヘペロはやめて下さいああーイライラする!!

…失礼、取り乱しました。話を戻します。舐めるのも吸い付くのも許せることではありませんが、今一番問題なのはナイグラート。あなたがあまりに軽い気持ちで熊をホイホイ狩ってくるものですから、子供達が彼らは弱いととんでもない勘違いをしていることなんです。そこから更に、野生生物全般への警戒心も日に日に薄れてきています。いえ、もう完全に舐めきっています。ユーディアは蛇を肩にかけて遊んでるし、ビトゥラは猪の背に乗って運動場を走り回ってるし。一体どうやって手なずけたというのです猪も意外とかわいいじゃないですかちょっと面白そうだったじゃないですかわたしも思わず乗ってみたくなってしまったじゃないですか自分の翼で飛ぶのとはまた別種の気持ちよさがありそうではないですか別に羨ましくなんてないですけど。はっまさか。あの子達、大人ですらも卒倒し、思わず嬌声を上げてしまうほどかわいいと噂の猪の赤ちゃん、うり坊とまでお友達になっているのではないでしょうね!?くっこれは少々やばいですよ、手の平に収まっちゃうくらいにちっちゃい猪なんて反則じゃないですか。縞模様の素朴な毛皮。無邪気で澄んだつぶらな瞳。ちょこちょこ野山を走り回る短い手足。つっついたらプニプニで、背中をなでたらフワフワで、胸にそっと抱き上げたなら、ポカポカすぎて空まで浮き上がっちゃうくらいの幸せが全身に広がっていくんです!ああもう、自分の心から目を逸らし続けるのは何て困難なことなのでしょう!羨ましい羨ましい!こんなことを思ってはいけないのに!先輩として厳しく諫めなければならないのに!自由で怖い物なしの子供達が、羨ましくて仕方がありません!わたしもうり坊さわりたいいいいいいいいいい。

…すいません、また少々取り乱してしまいました。話を戻します。今のは記憶の彼方に忘れ去って下さい。とにかく今のままではナイグラート。子供達はあなたの悪影響で、元々死を理解できないゆえに自身の身を脅かす脅威にも危機意識を持てず、平気で近付いていってしまう傾向がますます強まっています。このままでは遠くない未来、わたし達が消えて、今の子供達が獣との戦場に立たなければならなくなった時。今と変わることなく考えなしに突撃し、早世してしまうケースが激増してしまう可能性が極めて高いです。けれど今ならば、まだきっと矯正は可能です。そのような悲しい未来を回避する為に。あの子達が少しでも長く生き続けられるようにする為に。存在そのものが幼い妖精を歪ませてしまうあなたは、もうここにいるべきではないのです。あの技官は気に入りませんが、これから先もずっと、この家を守る為に尽くしてくれるのは間違いないでしょうから。ですからもう、わたし達のことは忘れて下さい。何処か護翼軍やオルランドリとは関わりのない場所で、居場所のない子供の為に生きていった方がよいのです──

 

 

 

 秒針の音に支配されたその診察室で。

 椅子に座って向かい合う二人は、互いに深くうつむいたまま、一切の言葉をなくしていた。

 

 ナイグラートを妖精倉庫の管理者から解任しなければならない。

 途中で盛大に脱線しつつ、ラーントルクはその理由を。

 凍えるような厳しさで、己の考えを語り切った。

 

『ちょ、危な!?積み木を投げたらいけないからー!』

 

 何処の部屋からであろうか。あわてふためいた誰かの悲鳴が微かに届く。平時ならそれは、皆にちょっと意地悪で、だけど優しく暖かな笑いを誘ったであろう。

 

 しかし今は、二人の間に蟠る重い空気を前にして、儚く霞み認識すらされはしない。

 

 太陽ですら気まずげに、分厚い雲に姿を隠した。

 部屋を照らし暖めていた陽光は、沈黙に倣うように重く閉ざされ。

 静寂がただただ暗い影となり、息を吸い吐くだけのことすら憚られる。

 

 

 …ところでこの少女ラーントルク。実態はともかくとして、子供達の前では常に知的で冷静な、模範的な先輩であるよう努めている。

 

 その反動であろうか。彼女は有能で頼れる、信頼の置ける大人を見つけると、ついついからかって遊びたくなる悪癖がある。

 

 兵士として、姉として、いずれ獣と戦わなくてはならない。

 

 その境遇が妖精達を──、彼女を早くに成熟させたものの、本質的にはまだ14歳の子供なのだ。無理をして、気を張っている面も当然ある。誰かに甘えたり、冗談やいたずらを、軽く笑い飛ばしてもらいたいと思う心もまた、当たり前のようにあるのだ。

 

 つまるところ彼女には、ナイグラートを解任する気などこれっぽっちもありはしなく。

 

 客観的に彼女の態度は(動物の妄想を除けば)悶死級の塩対応。

『ツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツン』以外に見えないのだが、本人的には分かりやすくデレているつもりであり。

 

 面白い反応を引き出したくて。つっこんでもらいたくて。

深くうつむいている陰で、口元がひくつきそうになるのをウキウキしながら抑え込んでいるのである。

 

 が、

 

「ううっ…。ぐすぐす…」

 

「へ?」

 

 当然そんな心の内は、ナイグラートに水一滴分ほども伝わってはおらず、

 

「うわあああああああんっ!あなたのことをきちんと見てたつもりだったのに!あなたをそこまで思い詰めさせていたのに、気付くことすらできていなかったなんて!わたしには本当に管理者の資格なんてありはしなかったのねええええええええええっっ!!」

 

 嵩まし続ける哀しみに、とうとう感情が決壊した。

 

 ここまでの重く冷たい態度は、全て彼女は本気であると勘違いさせる材料にしかなっていない。

 

 加えて根が後ろ向きで、心配性なナイグラートである。

 

 余すことなく全弾メンタルにクリティカルヒット。診察室の壁を体当たりでぶち破り──はせず、普通にドアを開けていったが──、とにかくそのくらいの勢いで、最強のトロールは大泣きしながらいずこかへと走り去っていった。

 

「…え?何なんですかあのリアクションは?想定してたのと全然違う…?」

 

 業深き天然少女は、自身の所業に未だ気付かず。目をパチパチさせて、呆然とそれを見送るのみ。

 

「あ。わたし『食べちゃいたい』も『ペロペロしたい』も、トロール族の中では最上級の誉め言葉であり愛情表現だって分かってますからね?子供達が嫌がらない程度に折り合いを付けられるのなら、禁止する気なんてありませんよ?熊狩りも、猛獣の相手なんて楽勝だって見せつけることがよくないんですから。実は万端の準備をした上で挑んでいて、毎回それなりに苦戦しているんだという体にでもしてくれるなら一向に構いませんから。熊肉とっても美味しいし…」

 

 実はドアの陰に隠れていて、慌てて追いかけてくるのをほくそ笑んで待っている訳など当然なく。

 

 ズズン。どうやら早速八つ当たりされているらしい。裏山の方から、鬼の剛腕によって木々が殴り折られる音が幾度も響く。

メキャメキャバキキキー。さっさと誤解を解かないと、このままでは68番島の生態系がどれだけ破壊されるか計り知れたものではない。

 

 そして診察室の隅。救出されて以降、すっかり忘れ去られていた賢すぎる幼女エクルエクラ。

二人をじっと観察し続け、その聡明な頭脳で大まかな真相に達していた彼女は

『この大人達は、色々とダメだ。自分が早く大人になって、友達みんなを導けるもっとまともなリーダーにならなくては』 と、微妙に闇落ち側の悟りに達していたのであった── 

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