密室で何してるんですか?ペロペロしちゃってますが何か?ふざけてるんじゃねえですよ追放させて頂きます   作:すかすかのタキ

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ようやく話の全容が見えてくる回


ねふれんずゲート

 ──そうして話は現在に。

 

 年長妖精四人と、管理者の片割れが会している、妖精倉庫会議室にまで巻き戻る。

 

「つーわけでー。こいつが先日深夜、ちび達が寝静まった頃みょーなテンションでナイグラートを連れて帰って来たと思ったら『皆さん、わたし達は二人でちょっとやることがあるので絶対に入ってこないで下さいね。入ってきたら●しますようふふふふふ☆☆☆』とこれまたヤバキめー笑い方で自室に直行。一時間後、あの大騒ぎなんかすっかり忘れ切った風のほくほく顔で出てきたナイグラートを見送った後、『うっっっああああああああああああああああああああ!!!』と叫びながら浴室に飛び込んで体を洗うことこれまた一時間。以後白目を剥いて昏倒し、何をやっても反応しないおバカなラーンの経緯っすけど、今度こそ理解してくれたっすか―?あ、空白の一時間に二人がナニをやってたのかは各々で想像して下さいね。さすがのあたしもそこまで説明するのははばかられるっすからねーにゃっはははははははははははははは☆☆☆☆」

 

 早朝から突貫で昨夜の事態を調査してくれた上、その後も休む間もなく会議となって訳の分からない報告を二度も繰り返させられているのだ。さすがの情報屋アイセアもテンションがおかしくなってきている。

 

「追放宣言を真に受けて酒に溺れるナイグラートを説得する為だったとはいえ、全身ペロペロを許すことで親愛を確認させるとかどうゆうその場凌ぎかつ体を張ったアイデアを実行に移しちまったんすかねあの子は。おかげでこっちは絶望一歩手前の窮地にまで追い詰められてるんすけどー?」

 

 壊れ気味な表情を浮かべ、けたけたけたけたヤケクソに笑う。

 

 クトリは二度目の説明でもやはり理解できてないらしい、腕を組んで首を傾げ、頭上に大量の『????』を浮かべているノフトのことが心底羨ましかった。そして、今起きている事態を理解できてはいるが、解決策など何一つ思い浮かばない、中途半端な頭脳しか持ちえない自身の無力が憎々しかった。その癖して、心に根付いた『今代最強の妖精兵』『何でもこなせる理想の先輩』という矜持が、投げ出すことを決して許してはくれないのだから。

 

 バリボリベキバキむしゃむしゃごくん。

 

「あ、クッキーもうないじゃん。ヴィレムおかわり」

 

「はいクトリ様、仰せのままに」

 

 どざざざー。小ぶりなクッキーが空いたお皿にまた山盛りに。溜まったストレスは食べ物に向かい、恋人特権で青年はこき使われる。

 

 隣のネフレンがドンマイと、縮こまった彼の背を優しくなでた。

 

 その光景に別種の苛立ちが重なりつつも、見栄張り少女はバリボリメキャとクッキーを噛み砕いて現状の整理に努める。

 

 まずナイグラートの勘違いした愛──、もといペロペロ欲がちび達に向けて暴走し始めた時は『早くも猶予が潰された』『もうどうしようもないわこれ』『詰んだ』と諦めかけたけど、なんかエクルエクラが勝手に追い払ってくれたのでとりあえずは良しとする。

 

 もともと異様なまでにしっかりした五歳児ではあったけど、なんか一夜の内に闇が濃くなったというか深みが増したというか、早くも人として一段上の領域に到達しちゃってるっぽいのが怖いんだけど今は忘れる。飛行能力だって使えるしあの子ならナイグラートを山の奥底まで追撃したって迷子になることもないでしょう二人揃って放置放置!

 

 はい次!屋根やら樹上やらに避難したちび達が下りられなくなってる件について!

 

 クトリは会議室の窓から屋外へと目を向ける。

 

「はーっはっはっはっはっは!こーはいたちよ、おそれることはなにもないぞ!あたしたちがうけとめてやるから、きあいとこんじょーでそこからとびおりてくるのだー!」

 

「うむ、その通り。わたしが君達くらいの歳の時は、もっとすごい無茶を毎日のようにやっていたぞ?」

 

「みみみみんなー、ストップストップ!真に受けちゃダメだようー!?それは脳筋パニコロコンビだから出来たことであって、普通の子が実践したら絶対普通に転落死しちゃうから―!!」

 

「大人しく待っててよー、今先輩がそこまで助けに行くからねー!んがあああ広がれわたしの魔力の翼!日頃の厳しい訓練は、今この瞬間の為にあったのだー!」

 

 運動場では年中組の四人──ティアット、ラキシュ、パニバル、コロンが協力して、一生懸命救助に勤しんでくれている。

 

 内二名はがさつで適当すぎるし普段一番温厚な常識人が毒舌キレキレになってるし一番まじめにやってる子が絶妙に頼りなくて見ていてハラハラするしで正直不安以外の要素が見つからないんだけどこういう時こそ先輩がドーンと構えて成果を待ってあげなきゃならないわよね大丈夫大丈夫とクトリは後輩達を意識からピシャンと閉め出した。

 

「よし、本題に入りましょう」

 

「うっちゃけちゃってるっすねえ、にゃはははははははは」

 

「うるさいわねそれくらい自覚してるわよ時間さえあるのならもっとまともに対応してるって―の!」

 

「なーあたしもう戻っていい?あたしバカだからどーせろくなアイデアなんて思いつかねーし」

 

「こらあノフトぉバカを言い訳にして責務から逃げ出そうとするんじゃないわよバカって自覚があるんならバカなりに頭を捻って解決策を絞り出しなさい!!」

 

「ちょ、ひでえ!一息にバカって三回も言った!お前それでも最年長かよラーンも口は悪いけどそこまで繰り返しては言わねーぞ!?」

 

「ん」

 

 年長組が揃いも揃って罵り合う醜くぐちゃぐちゃなテンションだが、彼女らがそうなってしまうのも聞けば納得しかない理由がある。

 

 彼女達妖精兵は、三日後に獣との戦いを控えており、明日にはここ六十ⅷ番島から三十一番島まで出立しなければならない。

 

 といっても、今回のティメレは小型の物ばかりで、個々の戦闘能力も大したものではないという。全身ペロペロのショックでラーントルクが戦線離脱してしまったが、他のメンバーはヴィレムの手で身体・遺跡兵装共に万全の状態にまで整えられている。それなら余程油断しない限り、三十一番島は安泰だ──と、普通は楽観するだろう。

 

 今回のティメレは小型の物ばかり。その代償という訳ではなかろうが、来襲する数が異様なまでに多いという。恐らくは三十一番島全域が余す所なく戦場となり、市街地から農耕地まで広範に渡って被害が出る。

 

 それを最小に抑える為にも、この戦いは妖精兵も総力が必要なのである。

 

 そんな大事な時に限って、稀代のドジっ子はまたもややらかしてしまったのだ。

 

 もしこのままラーントルクの意識が戻らず、戦力を欠いた状態で戦いに臨んだらどうなるか。

 

 最悪の場合、駆除が追い付かず取りこぼした獣が近隣の島へと種子を飛ばし、戦力を配置する間もなく被害が更に拡大してしまうことだって十分にあり得るのだ。

 

 浮遊大陸郡、またもや壊滅の危機である。しかもナイグラートのペロペロという、くだらなすぎるセクハラがきっかけで。

 

 クトリがああして荒れるのも、本当に仕方がないことなのである。

 

「んじゃー浮遊大陸を救う為に、どうやってラーンの目を覚まさせるっすかねー。頬を叩いても耳元で大声出しても効果がないし、いっそ腹にガチグーパンでも打ち込んでみるっすか?」

 

「目を覚ましても戦闘不能になってるでしょうが!」

 

「あの子がこそこそ執筆している小説を発掘してきて、耳元で朗読するっつーのは」

 

「鬼畜の発想!確かに効果ありそうだけど、恥辱で部屋に引きこもるだけじゃない!?」

 

「なー、もう諦めて休んだ方がよくね?一番最悪なのは、結局ラーンが起きてこず、あたし達もクタクタでろくに戦えなくなる事じゃん」

 

「合理的に諦める方向に頭を使うな!説得力がありすぎて反論できないでしょうが!」

 

「ああもうしょうがねえな。スウォンに頼るのは気が進まねえが、やつの傀儡操術系ソーマタージをラーンに刻み込んでこの場を戦い抜かせるしか」

 

「ストップストーップ!何よそのあからさまに重篤な後遺症が残りそうなやつは!?そういう一生罪悪感を引きずる羽目になりそうな手段は却下です!」

 

「クトリー。さっきからダメ出ししてばっかでさ。お前だけアイデアを一つも出してないじゃん。自分で言ったんだから、お前こそちょっとは頭使えよなー」

 

「な、何ですってええ!?くうう、ノフトめ!バカを自称しておきながら、どうしてさっきから反論しづらいことばっかり言ってくる訳!?わたしを泣かす気なの!?」

 

「泣け―泣けー。ベロベロバ~」

 

 ──ブチン

 

「ふ、ふふ。ふふふふふふふふふふふふふ!あったまきたー!いいじゃないノフト、表に出なさい!バカはバカらしく、剣で決着を付けようじゃない!」

 

「おおいいぜやったらー!」

 

「むぎゃあー!」

 

「ぎしゃあー!」 

 

「おいお前ら、落ち着け。任務前日に身内で争そってるんじゃねえですょ…?」

 

「にゃはははははははははははははは☆☆☆☆☆技官、仲裁の声が尻すぼみっす!そんなだからちび達から『びれむはやさしーけどなんかヘタレ』って真正面から指差されるんすよー?」

 

 出立までに残された時間は少ない。少ない時間は目に見えて刻々と減っていく。

 

 焦りは募り、思考は阻害され、かけ合う言葉も荒れていく。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

「▲▲▲▲!!●●●●●●●●●!!」

 

 感情豊かで個性的な少女達が、一つ屋根の下で暮らしているのである。この程度のケンカは定期的に勃発しているが、今この場においてのそれは致命的と言えよう。

 

 戦力が足りていないなら、せめて頭脳とチームワークで補わなくてはならない。

 

 なのに、クトリとノフト。主戦力二人の言い争いは治まらず、ひたすら過熱していくばかり。最早協調など成り立ちそうにもない。

 

 しかしその時、理知と合理を愛するラーントルクが、猫が唸り合うような低レベルな争いに耐えかねて突如覚醒。自室から会議室まで大股でドスドス歩き、うるさいですよと飛び込んできた。驚きに目を丸くする間もない。ギャンギャンとお説教が開始され、おバカな二人はごめんなさいと正座で小さく縮こまる。

 

 やれやれ、自分達がテンパってたのは何だったんすかね。結局こいつに振り回されただけかよ。

 

 みんなすっかり力が抜けた。肩を叩いて笑い合い、そうして全ては解決される。

 

 そんなご都合主義の奇跡など、このいつだって終わりかけの小さな世界に、ご親切に舞い降りてくれる訳がない。現実の彼女は、微動だにせず眠り続けるだけ。

 

 そしてこの瞬間、未来を分かつ分岐点は過ぎ去った。

 

 彼女達は戦力を欠いたまま、仲違いをしたまま戦場に臨むこととなり、当然のように連携は乱れ多数の獣の排除が遅れる。

 

 その間に撒き散らされた種子は近隣の島へと辿り着き、止める間もなく更に拡散され、最悪の想定すら超えて遠方の島にまで指数関数的に獣の浸食は広がっていき──

 

 五百十数年の間、薄氷の上に繋がれてきた浮遊大陸の歴史。人種も。文化も。あらゆる物が諸共に。妖精達もまた例外なく地に堕ちて、終わりなき灰色の荒野の一部に帰す。

 

 この瞬間。 

 争いを止められず、知恵を出し合うことも出来なかった彼女達の運命は、そう決定づけられたのだ。

 

 

 

 ────いや。

 

 決定づけられそうになった、その刹那。

 

 ここまで我関せずを貫いてきたある少女が、運命を覆すその右手を、天に向かって小さく掲げた。

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