翌日、昼過ぎに雪は明久の自宅に来た
「おー! ヨシヨシ、いい子にしてたか?」
雪が居間に入ると、子犬は一目散に雪に駆け寄り、雪もそんな子犬を撫で回した
明久はその光景を微笑ましく見ながら、キッチンのカウンターから
「椎名さん、ご飯は?」
と問い掛けた
「え? ああ……まだ食べてないが、流石にそこまでは……」
気まずいらしく、雪は首を振るが明久は微笑みながら
「大丈夫だよ。それに、元々二人分作ったからね」
と言った
「すまない……ありがとう……」
「どういたしまして……っと、出来た」
明久は返事をしながら、フライパンから皿に料理を盛り付けた
すると、香ばしい匂いが雪の鼻を刺激した
「いい匂いだな……」
「ありがとう……はい、焼きそばで大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
明久が机の上に皿を置きながら訪ねると、雪が頷いたので、明久は再びキッチンに戻った
そして、二つのトレイにそれぞれ麦茶を入れたポットとコップ、子犬用の食事を用意して持ってきた
床に子犬用の食事の乗ったトレイを置くと、子犬はすぐに近寄って食べ始めた
二人はそれを微笑みながら見ると、二人揃って手を合わせて
「「いただきます」」
と言ってから、食べ始めた
「おいしい……」
「それは良かった」
雪の呟きを聞いて、明久は嬉しそうに微笑んだ
すると、明久は雪に視線を向けて
「そういえば、椎名さんって何時も半袖だけど、寒くないの?」
と問い掛けた
問い掛けた証拠に、雪は今も半袖の服を着ている
「ん? ああ……私は暑がりでな、むしろこれくらいがちょうどいい」
明久からの問い掛けに、雪はそう答えた
確かに、明久も普通の人より体温が高いので、制服の上にコートなどは着ずに、手袋やマフラーで済ましている
そう考えると、同じかもと明久は思った
「そっか……あ、それと制服のリボンはどうしたの?」
と問い掛けた
「留め具が壊れてしまってな、代わりに赤い紐を結んだんだ」
明久の問い掛けに対して、雪は思い出すように答えた
明久達が通っている学園はもちろんのこと、指定のリボンとネクタイがある
だが、雪は普通の赤い紐をリボン状に結んでいたのだ
雪の答えを聞いて、明久は首を傾げながら
「確か……購買に予備のリボン売ってるよ? 五百円位で」
「なに? 本当か?」
明久の言葉を聞いて、雪は眉をひそめた
「確か売ってたはずだよ、今度聞いてみたら?」
明久がそう言うと、雪は頷いて
「そうしてみる」
と言った
その後二人は食べ終わると、雪が持ってきたデジタルカメラでポスター作りのための写真を撮影した
明久として意外だったのは、雪が子犬の写真撮影にかなり熱中していたからである
(可愛いのか、写真撮影が好きなのかな?)
明久はそう思いながら、微笑んだ
そして、この時の明久の思いの一つは当たりだった
雪は可愛いのが好きで、雪がよく行くミセス・ドーナッツはポイントカードとスタンプカードの両方で景品を配布しているのだ
そして、雪の部屋には両方のポイントによって手に入れた人形等が大量にあり、雪はよくマスコットである熊のぬいぐるみを抱いて寝ているのだ
ひとしきり撮影が終わると、雪は満足そうな表情を浮かべながらデジタルカメラを操作して、撮影した写真を確認した
明久はデジタルカメラをパソコンに接続すると、雪と一緒に確認を始めた
「えっと……これ?」
「いや! それよりもこっちのほうが!」
明久が首を傾げながら問い掛けると、雪は身を乗り出すようにしてパソコンに近づいて、一枚の写真を指差した
この時は気付かなかったが、パソコンに近づくというのは、明久に体を近付けるのと同じである
そして、明久は気付いた
気付いたら、雪の体は明久に密着しており、特に胸に至っては明久の背中に当たっていた
(どうしよう……指摘するべきなのかな……)
明久はそう思いながらも、パソコンを操作し続けた
すると、一枚の写真を見て雪が
「これだ! これがいい!」
と興奮した様子で身を乗り出しながら、明久に顔を向けた
するとどうだろうか
明久と雪の顔は触れ合う寸前の状態で、二人は互いの目に吸い寄せられるような感覚を覚えた
「あ……」
「っ……」
二人の顔は自然と近づき、後少しで唇が触れると思われた
その時、子犬の鳴き声が二人の耳に入り、二人は素早く離れた
「あ、お、お腹が空いたのかな? 僕、餌上げてくるから、椎名さん、写真選んでね!」
というと、明久は足早に部屋から退室した
雪はそれを見送ると、壁際までヨタヨタと歩いてから壁に背中を預けて座り込んだ
そして、顔を真っ赤にしながら膝を抱えて
「私……今、キス……するところだった……」
と呟いた
その頃明久はというと、部屋から出るとドアに背中を預けて廊下に座り込んだ
そして、尻尾を振りながらじゃれついてくる子犬の頭を撫でながら顔を赤くして
「僕……椎名さんとキス……しようとしてた?」
と呟いた
この時、二人は気づいていなかったが、二人は互いのことを強く意識していて、人はそれを
恋愛感情
と呼んだ