僕と君と初恋予報   作:京勇樹

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気持ち

翌日、明久は雪を伴って街に繰り出した

 

子犬を散歩に連れて行くことで、飼い主が見つかるかもしれないからだ

 

明久は雪と一緒に歩いていて、雪の表情が若干暗いことに気付いていた

 

やはり、昨日の父親とのことが尾を引いているようだ

 

そのことで、明久は何回か問い掛けようとしたが、口に出せずに口を噤んだ

 

やはり、自分みたいな部外者が口出しすることじゃないかもしれない

 

だが、雪のことが放っておけなかった

 

だから明久は、雪に気づかれないように深呼吸すると

 

「ねえ、椎名さん……」

 

「なんだ?」

 

明久が声を掛けると、雪は視線を明久に向けた

 

「こんなことを聞くのは不躾かもしれないし、部外者の僕が関わるべきじゃないかもしれない……」

 

明久はそこで一旦区切ると、雪を見つめて

 

「椎名さんのお父さん……太一さんと何があったのか、話して……」

 

と言った

 

「それは……」

 

雪が口ごもっていると、明久は真剣な表情を浮かべて

 

「他人の僕が関わる話じゃないのは、重々わかってる……だけどね、放っておけないんだ……だって僕は……」

 

明久はそこで再び区切ると、真剣な表情で雪を見つめて

 

「椎名さんが…………好き……だから」

 

と告げた

 

「なっ……えっ!?」

 

明久の告白を聞いて、雪は顔を真っ赤にした

 

まさか、告白されるとは思っていなかったからだ

 

「うん……僕は椎名さんが好き……だから、椎名さんが悲しんでると、僕も悲しくなる……だからさ、何があったか話して……?」

 

明久の言葉を聞いて、雪は俯いた

 

明久はとりあえず、すぐ近くの自然公園に入り、雪をベンチに座らせると、近くの自販機で二人分のコーヒーを買った

 

「はい……」

 

明久は雪にコーヒーを渡すと、雪の隣に座った

 

どれほど経ったのか……

 

それまで無言だった雪は、ゆっくりと口を開いた

 

ことの発端は、今から四年程前

 

雪の母親が事故にあい、手術を受けたが他界した

 

その母親が運ばれた病院は、太一の働いていた病院だった

 

しかも、事故の当日は太一も病院で働いていたが、別の手術をしていて、母親の手術は出来ず、母親が亡くなったのを知ったのは、手術が終わった後だった

 

雪は太一は悪くないと分かっていたが、太一に八つ当たりしてしまったのだ

 

どうして、母さんを助けてくれなかったのかと

 

太一も太一で、何も言い返さずに雪の八つ当たりを受け止めた

 

そこから少しずつ親子間の距離が開いてしまい、決定的になってしまったのは、今年の頭に太一が再婚するという話が原因だった

 

雪に何の相談も無かったのと、まるで母親を忘れられてしまったような感覚に陥ってしまい、雪は太一と大喧嘩してしまい、それ以来まともに話し合っていないらしい

 

なお、その再婚相手は雪も知っており、太一と母親が勤めていた同じ病院の看護士の一人だ

 

その人物は優しく、母親が他界した後親身になって話し相手になってくれたのもあって、雪は意固地になってしまったのだ

 

今となっては、再婚することも良いと考えていて謝りたいと考えているが、一度大喧嘩してしまったのもあって、なかなか切り出せないでいたらしい

 

「あたしは……どうすれば……」

 

雪がそう言いながら泣いていると、明久は雪の頭を優しく撫でて

 

「そっか……」

 

と頷いた

 

そして、ひとしきり撫でると雪の肩を抱いて

 

「簡単だよ……ちゃんと話し合えばいいんだ……」

 

「だけど……」

 

明久の言葉を聞いて、雪は首を振った

 

「大丈夫だよ……椎名さん……ちゃんと顔を見て話せば、太一さんだって話してくれるよ……お父さんなんだからさ」

 

明久の言葉を聞いて、雪は数瞬無言になると頷いて

 

「わかった……父さんと話してみる……」

 

と言った

 

「うん」

 

雪の言葉を聞いて、明久は満足そうに頷いた

 

その時だった

 

それまで大人しくしていた子犬が、突如頭を上げてある方向を見たら脱兎と駆け出した

 

雪はまさか、子犬が突然走り出すとは思ってなかったので、緩くリードを持っていた

 

そしてそれが災いし、リードは容易く雪の手をすり抜けた

 

「あ、おい! 待て!」

 

「っ!」

 

雪は子犬を追いかけ始めて、明久は雪の後を追った

 

少し走ると、明久の耳に

 

「コロ!」

 

と呼ぶ、女の子の声が聞こえてきた

 

そして気づけば、子犬が走っているのは、その声の方向である

 

まさかと思いつつ、明久は雪の後を追いかけた

 

そして、自然公園を出ると見えたのは

 

「コロ!」

 

と子犬を嬉しそうに抱き締めている小さな女の子と、その光景を嬉しそうに見ている雪の姿だった

 

雪はその女の子に近づくと、視線を合わせるためにしゃがんで

 

「君の子犬か?」

 

と問い掛けた

 

すると、女の子は頷いて

 

「うん! ずっと探してたの!」

 

と答えた

 

「そっか……もう逃がしちゃダメだぞ?」

 

雪はそう言いながら、女の子の頭を優しく撫でた

 

「うん! お姉ちゃん、ありがとう!」

 

女の子がお礼を言うと同時に、子犬ことコロもワンと吠えた

 

明久は良かったと思いつつ、二人に近づいて気づいた

 

二人が居るのは、道路の真ん中だ

 

幸いにも、今は信号は赤で歩行者用の信号は青である

 

だが、道路には先日に降った雪が積もっており、お世辞にも足場が良いとは言えない

 

そのことを不安に思い、明久は二人に戻るように言おうと一歩前に出た

 

正にその時、十字路を曲がってきた車が雪によってスリップして回りながら近づいてきた

 

「椎名さん!」

 

「え?」

 

明久が声を上げると、雪は不思議そうに振り向いた

 

その直後、ドン! という鈍く大きい音が響いた

 

「おい! 少年が引かれたぞ!」

 

「誰か、救急車を呼べ!」

 

周囲で叫び声が響き渡るが、雪の耳には入ってこなかった

 

雪の視界に入っているのは、頭から血を流しながら倒れている明久の姿だった

 

明久はあの土壇場で二人に近づき、入れ替わるような形で二人を歩道に突き飛ばしたのである

 

だが、その代償で明久は引かれてしまった

 

「あ……あ……っ!」

 

雪は涙を滲ませながら、首を振りヨタヨタと立ち上がると

 

「吉井ー!」

 

と明久の名前を呼びながら、明久に駆け寄った

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