突然、空から何かが落ちてきて自分の人生が変わる———みんなそんなことを夢見て生きているんじゃないんだろうか……。
ベランダから見つめる夜空は今日も変わらず満天。
そして———俺の人生は相変らず最悪。
「今日も……誰も読んでくれなかったな……」
【蒼海のノア 作者・仁兎來刃 ジャンル・SF 本日の閲覧数 0PV】
俺は普通の男子高校生、
自分の小説で世界を変えたいと思っている。
だけど、
「……本当に自分が書きたいものを書くと、誰も読んでくれないんだなぁ」
俺が今毎日登校している【蒼海のノア】は近未来SFロボットアクションものだ。
あらすじとしてはこうだ。
『未来に作られた人工惑星・エデンに住んでいる人々は地球の人々に搾取をされていた。不満を募らせたエデンはついに決起し戦争状態に入る。主人公、ロウ・クォーツはエデンに留学に来ていたところ、戦争に巻き込まれエデンのエースパイロットとして専用機・ブレイバーに乗って戦うことになる……』———というかなり本格的なもの。
何のパクリでもない、俺自身が考えたオリジナルで超絶面白い本格SF小説だと思っている。
だけど、誰も読んでくれない。
世の中にあふれている「もしも自分があのゲームの世界に入ったら」とか「生まれ変わったらチートスキルを手に入れることができました」と言ったような異世界ファンタジー小説とは全く違う。今までとは全く違う新しくて新鮮な物語を書いた———つもりだった。
なのに———誰にも読まれない。
誰も読んでくれない。
「俺、やっぱり才能ないのかな……」
満天の星空を見上げる。
———まだ、俺は高校生だ。
これからいくらでも未来を選ぶことができる。
今は特に興味はないけれども、芸能人になってチヤホヤされる未来も、サッカー選手になってチヤホヤされる未来も頑張れば手にできることはできるだろう。
だけど、俺はこの小説を書いてちやほやされたいんだ。
【蒼海のノア】の最後が書きたくて、小説家になりたいと思ったんだ。
全然そこまでたどり着いていないが、【蒼海のノア】のラストはライバルキャラと〝ノア〟と名付けられた〝名目上の移民船〟、だがその実態は地球の人口の口減らしのための〝棄民船〟の上で一騎打ちを行い、一億人を外宇宙に放り出そうとするライバルとそれを止める主人公が激闘を繰り広げ、最後は両者、ノアのワープに巻き込まれて外宇宙の更に先に放り出され、そこで永遠に戦い合うことになると悲劇のラストシーン。
テーマはわからん、メッセージ性もわからん。だけど、書きたい。
きっかけはわからないがある日突然、思いついてしまった。
そのひらめきに囚われるように何年も何年も頭の中で夢想し続け、ただの思い付きがいつしか生きがいになってしまった。
この物語を何とか文章としてこの世界に刻みつけたい。
そう、思い続けている———。
だけど、現実は厳しい。
ネット小説でSFそれもロボットものなんて誰も読んではくれない。原因としてイメージしづらいのがあるのだろう。簡略化して〝鉄の巨人〟だと表現するとぼんやりしすぎていてわからない、かといって、〝関節各部に冷却フィンが内蔵されており、双眼センサーを用いて、口には武装携行用のハードポイントがついている……〟などと詳細に記述してしまうと今度は耳なじみのない言葉が多すぎて、想像するのが面倒になってしまう。
ロボットの良さを文字で表現することなど、所詮は無謀なのかもしれない。ましてや、その特有の〝良さ〟や〝感動〟や〝人生を変えてくれる何か〟などを表現することなど——俺には無理なのかも、いや、この世界にいるどんな人間にも無理なのかも。
「諦める……か? 作家になるの」
一度、やけになって異世界転生ファンタジー小説を書いたことがある。
それはかなり読んでもらえた。ランキングのかなり上位にしばらく残り続けたし、広告収入で小遣い稼ぎもできた。ファンも少しついて嬉しかったが、段々とそれがプレッシャーになっていって、俺は潰れた。
読んでもらえるようにサイトのランキングや売れ筋のラノベを研究し、どうやったらランキングに入るかジャンルやタグを吟味し、その傾向通りに企画を考えて投稿した。
結果は成功した———が、心が追い付かなかった。
常にファンが望む展開を描かなければいけないとプレッシャーがつもりにつもって、その作品を書くことができなくなってしまい、更新しなくなった。いわゆる、エタってしまった。
やっぱり自分が書きたいものを書いて、評価されたい。一念発起してもこのざま……。
結局、無謀な挑戦は所詮無駄だったってことか……?
「あ、流れ星」
午後11時42分。
きらりと輝く流れ星が過ぎ去っていった夜空———俺は両手を合わせて祈る。
「俺に名作SF小説を作れる〝体験〟を下さい……」
サンテグジュペリの名作「星の王子様」。あれは戦闘機パイロットの作者が墜落した体験をもとに描かれている。日本で最も有名なプラモデルブームを起こしたあのアニメの監督だって、第二次世界大戦での戦場に行かなくてもいい技術者の父親の背中を見て、あの作品を作っている。
名作の裏には必ず〝体験〟があるのだ。
だから———俺も、〝体験〟さえあれば世界が変えられる。
そう———思った。
「俺に名作SF小説を作れる〝体験〟を下さい……俺に名作SF小説を作れる〝体験〟を下さい……」
空一面に広がる、踊っているような星々。
こんな綺麗な星々が見える、熊本の阿蘇山
そう信じて祈り続けた。