授業が終わった。
キンコンカンコンとチャイムが鳴り、休み時間に入る。
窓の外を見上げる。
雲一つない晴天だ。
「よぉ、
バシっと背中を叩く、鳥の巣のようなボサボサ頭の少年が話しかけてくる。
小学校からこの高森高校までずっと同じ学校の幼馴染だ。そして、今年は同じ二年二組にもなっている。
「トイレ行こうぜ」
雄二は男子高校生らしく連れションに誘ってくる。
「気分じゃない」
「いや、いいから来いよ。俺は行きたいんだよ」
「一人で行けよ」
「友達だろ?」
その程度のことで〝友達の頼みは断ったらダメ〟みたいな同町圧力を出すのはやめてほしい。
「……雄二。お前、将来の夢ってなんだ?」
俺は雄二の誘いを無視し、自らの
雄二は
「夢……ねぇ。昔は車造る仕事に就きたいと思ってたけど、俺なんかが就いても、実際こき使われるだけで一生終わりそうだからな……普通にオヤジの床屋を継ぐよ」
「そっか、夢ないんだな」
「みんなそんなもんだろ。夢なんてみんな持ってないよ。なんかいい職業に就こうなんて言ってる奴も、頭がいいやつ、その仕事に就ける奴が目指してる。それはあんまり〝夢〟とは言わねえだろ?」
「だな———俺、SF小説家になりたいんだ」
さらっと、自分の夢を初めて親友に言った。
「ふぅ~ん……」
雄二のこのリアクションは信じていないリアクションだ。
「東京の大学に入って、いろんな知識を付けて今までにないワクワクするSFロボットアクション小説を書くのが夢なんだ」
「やめとけ」
雄二の顔を見る。
半笑いだった。俺が冗談を言っているとまだ思っているんだろう。
「そんな小説、普通のお前が書けるわけねぇって。東京に行くのも金と時間の無駄だって。この街で普通に堅実な仕事に就けよ。お前だったら人に教えるのが上手いから……教師なんかいいんじゃないか?」
「あんまり興味ない……」
俺は雄二の顔を視界に入れたくなくて窓の外に広がる空に目を向けた。
雄二に対して非常に腹立たしい思いを抱えていた。
いいやつなのだ。子供のころから気が合って、こいつといるといつも笑える。だけど、こいつといると俺はいつまでたっても成長できないかもしれない、そう最近思ってしまう。
こいつと縁を切って、無謀な挑戦をしてみたい。身勝手にもそういうふうに最近は思ってしまう。そう思う自分に対しても、腹立たしいと思っていた。
「ほら、来刃。トイレ行こうぜ」
ぐいっと腕を引く雄二……だったが、
「———おい、なんだ……アレ」
俺は体を固まらせて、彼に抵抗する。
空にくぎ付けになっていた。
青い空の中に———、一点赤い光球が見える。
その異常さに、体が固まってしまった。
「アレ……? お⁉」
雄二も窓から外を覗き込み、空の上の赤球を目で捉える。
段々と彼の目が見開かれていく。
それはそうだろう———光球はどんどん大きくなっていっていた。
空から落ちてくるものがどんどん大きくなっていると言うことは———こっちに近づいてきているということだ。
「———こっちに来るぞぉぉぉ‼」
教室はパニックになった。
窓からできるだけ距離を取ろうとクラスメイト達は廊下へと飛び出す。
だが俺は———動けなかった。
ただ、窓際で堕ちて来る隕石を見つめていた。
なぜか。
なぜかはわからない。
だが隕石の赤い光を美しいと思って———
ドォン!
大地が揺れた。
隕石は校舎の少し手前に落ちた。
「う、うぅ……」
パラパラと天井の破片が顔に落ちる。
俺は———死んでなかった。
窓ガラスは全て砕け散り、壁も脆く崩れ去っているが、高森高校二階の床は思ったより頑丈だったみたいでまだ俺を〝教室〟という空間の中に留めてくれていた。
「———あぁ」
窓側の壁は崩れ去り、もはや———ない。
だが、俺の身体には陰が落とされている。
日光が遮られているのだ。
何に?
巨大な物質によって———だ。
校舎よりもはるかに大きな———鋼鉄の人によって、だ。
「ロボット……」
人を模した機械兵器———二つの光る
まるで肘から先に鉄の柱を取り付けたような重々しい両腕———。
「パイルバンカー……」
俺は見るだけでその腕の機能が分かった。
肘の先から伸びる銀色に輝く鉄の棒がある———それは、昔のロボットアニメで見る電磁力で杭を打ち出して敵の装甲を砕く、
なんて重厚なロボットなんだ……。
こんなものが現実に存在するなんて……。
「ん? いや———現実に存在するわけがない‼」
教室でボーっと窓を眺めていただけなのに、急に世界観が激変してしまった。
自分があまりにもロボット好きで見惚れてしまっていたが、冷静に考えるとおかしい全てがおかしい。どうして阿蘇山麓の片田舎に、急にロボットが落ちて来るんだ?
「とにかく……逃げないと……!」
だが、疑問の答えを探す前に身の安全を確保しなければいけないだろう。
このロボットは校舎手前の地面に落下したが、勢い余ってそのまま校舎に上半身をぶつけてしまっていた。
ちょっと軽く胸をぶつけた程度だが、それでも地震の衝撃とはわけが違う。災害に備えてどんなに耐震性を強化した校舎だろうと、巨大ロボットの接触事故など想定外、何がおきるかわからない。
冷静にこのロボットについて考えるのは後でいい。
そう思って背を向けようとした瞬間だった———、
プシュー……!
排気音がする。
振り返る。
ロボットの胸部ハッチが開いていた。
———そこから黄金の水が流れ落ちる。
いや、違う水ではない。
———美しい髪の毛だった。
まるで金の滝のように輝く金髪がロボットの中から流れ出ていた。
少女だ———。
美しい女の子が目を閉じてグッタリともたれかかっている。
彼女がいる場所は恐らくコックピットだろう。少女の座る座席の前にある機器端末の前に覆いかぶさるようにしてもたれかかっていた。
「あ……」
彼女は、この
俺は、固まった———。
メデューサの目を見てしまった男の気持ちがわかる。
想像もできない‶美〟の前では———人は石になってしまうのだ。